強要罪とは|強要罪になる言葉や事例・時効をわかりやすく解説
近年、店員に土下座を強要したなどとして逮捕されるケースがあるため、強要罪という罪名を聞いたことがある人もいるかもしれません。
相手に義務のないことを強いれば、強要罪が成立し、逮捕や懲役刑となることが考えられます。
日常生活でも起こる可能性がある犯罪ですが、どういう行為をすると強要罪となり得るのでしょうか。
この記事では、強要罪について次の点を解説します。
- 強要罪とは?強要罪の刑罰や時効
- 強要罪の事例
- 強要罪になる言葉
強要罪とは
強要罪とは、暴行や脅迫を用いて、人に義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨害したりする犯罪です。
法律では意思決定に基づく行動の自由を守るために、強要罪という罪を定めています。
ここでは、強要罪の刑罰や時効、強要未遂について解説します。
強要罪の刑罰
強要罪の刑罰は、3年以下の懲役です。強要罪には罰金刑は定められておらず、懲役のみなので重い罪だと言えます。
(強要)
第二百二十三条生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。
2親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
強要罪の時効
強要罪の時効は3年です。この時効とは、検察が強要罪を刑事裁判で訴えることができる期限(公訴時効)のことです。
強要行為に対しては、民事事件として、損害賠償請求を行うことも可能です。損害賠償請求の時効は次のとおりです。
- 被害者が損害及び加害者を知った時から3年
- 被害を受けた日から20年
強要未遂罪も処罰対象
強要罪には、強要未遂罪もあります。
強要罪は、脅迫や暴力を用いて、人に義務のないことを行わせる犯罪ですが、脅迫や暴力の結果、被害者が要求に応じなかった場合に、強要未遂罪が成立します。
強要未遂罪も、強要罪と同じ刑罰が科されます。
(強要)
第二百二十三条生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。
3前二項の罪の未遂は、罰する。
強要罪の事例
強要罪は、日常生活でも起こる可能性のある犯罪です。ここでは、強要罪がどのような犯罪なのか、具体例を紹介します。
土下座での謝罪の要求
強要罪の一例が、飲食店などの店員に対して、土下座での謝罪を要求するようなケースです。
店員に土下座を強要して、写真や動画をネットに公開した人が逮捕された事例も多数あります。
店員が利用客に対して失礼な態度をとったのなら、クレームを入れてもいいのではないかと考える人もいるかもしれません。
店員に対して謝罪を求めること自体は、法的に問題ありません。しかし、謝罪の方法は自由であるため、土下座を強要するのは強要罪に該当します。
さらに、土下座の強要以外で、次の行為があれば、別の犯罪が成立する可能性があります。
- 店員に暴力をふるえば暴行罪や傷害罪
- 店員に対して暴言や脅迫を行えば、侮辱罪や脅迫罪
- 店舗に居座り退去しない場合は不退去罪
- 長時間の電話によるクレームや執拗な要求などで業務を妨害すれば業務妨害罪
飲酒の要求
会社や大学サークルの飲み会などで、飲酒を強要すると、強要罪が成立することがあります。
飲酒により、被害者が急性アルコール中毒で倒れたり死亡したりした場合は、過失傷害罪や過失致死罪、場合によっては傷害罪などが成立するおそれもあるでしょう。
さらに、急性アルコール中毒で倒れた人を放置すれば、保護責任者遺棄致死罪などが成立する可能性があります。
2023年には、大学のサークルの飲み会で、男性が飲酒後に急死した事故で、約4,200万円の賠償が命じられています。
立場を利用した要求
会社で立場を利用して相手に要求することも、強要罪に該当する可能性があります。
例えば、次のケースが挙げられます。
- 命令に従わなければ解雇するなどと脅して業務上不要なことを強制するパワハラ
- 交際しなければ昇進に響くなどと脅して性的な関係を強いるセクハラなど
相手の同意なく身体に触れたり、性的行為に及んだりした場合は、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪が成立します。
不倫相手に対する要求
不倫相手に対して、土下座での謝罪や退職を要求する行為も、強要罪に該当する可能性があります。
職場不倫の場合は、配偶者と不倫相手が接触する機会があるため、不倫相手を退職させたいと思うかもしれません。
しかし、退職するかどうかは、不倫相手と会社の雇用契約の問題であるため、退職を強いることは強要罪が成立するおそれがあります。
強要罪の構成要件
ここでは、どういう行為をした場合に、強要罪が成立するのか、成立する条件を解説します。
強要の手段として脅迫や暴行を用いる
強要罪が成立する条件の一つが、生命、身体、自由、名誉、もしくは財産に対して害を加えると告知して脅迫すること(害悪の告知)、または暴行を用いることです。
強要罪を構成する脅迫行為は、脅迫罪が成立する条件と同じです。
この脅迫行為は、脅迫相手だけでなく、その親族の生命などに対しての害悪の告知も含まれます。
この脅迫は、告知した者が実現可能な害であることや、一般的に人を恐怖させるもので足ります。
例えば、殺すといった直接的な言葉から、隠していることを他人にバラすといった名誉に対するもの、場合によっては通報するや訴えるといった言葉も脅迫に当たる可能性があります。
暴行とは、殴る、蹴るなどの直接的な暴力だけでなく、相手に直接接触しないような物に当たる行為も暴行だと考えられます。
義務のない行為をさせる・権利行使の妨害をする
脅迫や暴行を用いて、相手に対して義務のない行為や、権利行使の妨害をした場合に、強要罪が成立します。
義務のない行為とは、加害者が被害者にその行為をさせる権利がなく、被害者にその行為をする義務がないことです。
前述したとおり、土下座での謝罪や、一気飲みなどです。
過去の事例では、相手に謝罪文を書かせる行為や、医師を脅迫して医療行為をさせた事例、生徒指導で全裸で走らせた事例などがあります。
権利行使の妨害とは、相手にある権利を妨害することです。例えば、次の行為が挙げられます。
- 従業員を退職させる
- 退職を希望する従業員を引き止める
- 被害者を脅迫して被害届を提出させないようにする など
なお、相手が強要行為に従わない場合は、強要未遂罪が成立します。
脅迫罪や恐喝罪との違い
強要罪とよく似た犯罪に、脅迫罪や恐喝罪があります。強要罪、脅迫罪、恐喝罪の違いについて解説します。
脅迫罪との違い
脅迫罪は、人の生命、身体、自由、名誉、または財産に対して害を加える旨を告知して人を脅迫した場合に成立する犯罪です(刑法第222条)。
親族に対する害悪の告知も脅迫罪となる点は、強要罪と同じです。
脅迫罪と強要罪の違いは次のとおりです。
脅迫罪 | 強要罪 | |
内容 | 害悪の告知を行い恐怖させる | 害悪の告知を行い、脅迫後に義務のない行為をさせている、権利の行使を妨害している |
刑罰 | 2年以下の懲役または30万円以下の罰金 | 3年以下の懲役 |
未遂罪 | なし | あり |
強要罪は、脅迫行為だけでなく、相手に対して義務のないことをさせたり、権利の行使を妨害したりしているという点で、脅迫罪よりも重い刑罰が科されます。
恐喝罪との違い
恐喝罪は、人を恐喝して、金品を支払わせたり、金銭的な利益を要求したりする犯罪です(刑法第249条)。
恐喝とは、脅迫や暴行を用いて、人を恐怖させることです。脅迫や暴行を用いる点は、強要罪と同じですが、要求の内容に違いがあります。
例えば、飲食店で脅迫などを行い、土下座を強いれば強要罪となりますが、代金を無料にさせるなどすれば、恐喝罪が成立する可能性があります。
恐喝罪 | 強要罪 | |
手段 | 脅迫や暴行などの恐喝行為 | 脅迫や暴行 |
要求内容 | 金品を支払わせる、金銭的な利益を得る | 義務のない行為をさせる、権利の行使を妨害する |
刑罰 | 10年以下の懲役 | 3年以下の懲役 |
未遂罪 | あり | あり |
恐喝罪は、金銭的な損害を生じさせる点が悪質として、強要罪よりも重い刑事罰が定められています。
強要罪になる言葉とならない言葉
前述のとおり、強要罪が成立するには、脅迫や暴行+義務のない行為をさせる、権利の行使を妨害することが必要です。
相手が従わなくても、強要未遂罪や脅迫罪が成立する可能性があるため、注意が必要です。
ここでは、強要罪になる言葉とならない言葉を解説します。
強要罪になる言葉
強要罪になる脅迫の言葉の具体例は次のとおりです。
脅迫対象 | 言葉の具体例 |
生命に対する脅迫 | 殺されたくなければ言うことを聞け
妻子に危害を加えられたくなければ、命令に従え など |
身体に対する脅迫 | 痛い目に遭いたくなければ、土下座して謝罪しろ など |
自由に対する脅迫 | ここから出たければ、言うとおりにしろ など |
名誉に対する脅迫 | 言うとおりにしないと、お前の秘密を会社にバラすぞ
不倫をバラされたくなければ、退職しろ など |
財産に対する脅迫 | 言うとおりにしないのなら、家に火を放つぞ など |
相手に対する要求が、相手に義務のないことや、相手の権利を妨害する内容であれば、強要罪となる可能性があります。
強要罪とならない言葉
脅迫に感じられる発言があっても、友人同士ふざけている時や、バラエティー番組などでお笑い芸人同士が発言する場面などでは、強要罪が成立しないと考えられます。
一方で、信頼関係が築かれていない者同士で、揉めている状況で同様の発言がなされた場合は、相手が恐怖を覚えて要求に応じれば、強要罪に当たる可能性があります。
このように、強要罪は、相手との信頼関係や、その場の状況なども関係します。
他にも、相手に対して通報する、訴えるなどと発言することは、正当な権利の行使だと考えられますが、通報や訴える意思がないにも関わらず、通報や訴えるといった主張を盾に、相手に義務のないことを強いるなどすれば、強要罪が成立する可能性があります。
強要罪にならないケース
日常生活の中でも、これは強要罪になるのではないかと思うこともあるでしょう。
ここでは、強要罪にならないケースをいくつか紹介します。
借金の取り立て
人から借金をしていて、返済する義務がある場合、借金を返すように要求されても、それは強要罪とはなりません。
ただし、脅迫や暴行を用いて、借りていないお金を返せと要求する行為は、恐喝罪が成立する可能性があります。
労働契約にある残業
会社が従業員との間で労使協定を結び、行政官庁に届け出をしており、労働契約や就業規則に、36協定の範囲内で残業を命じる旨が定められている場合は、会社は従業員に残業を命じることができます。
会社が法律を守って、残業を命じる場合は、強要罪は成立しません。
ただし、会社もいつでも制限なく残業を強いることができるわけではありません。従業員は体調不良など正当な理由があれば、断ることができます。
入店時のマスク着用などのお願い
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、飲食店など店舗によっては、入店時にマスクの着用をお願いすることがあります。
マスクの着用をお願いすることは、強要罪は成立しません。
その店を利用するかどうかは客側の自由であり、マスクの着用もお願いに過ぎないからです。
強要罪でよくある質問
強要罪で訴えることはできる?
他人からの強要行為に対して、民事事件として損害賠償の請求(精神的苦痛に対する慰謝料)が可能です。
実際に、学校側から頭髪を黒く染めるよう指導を受けた生徒が、精神的苦痛を受けたとして、大阪府を相手取った裁判では、大阪府に33万円の賠償が命じられています。
ただし、強要された行為のために、精神的な損害を受けたという因果関係の証明が必要となります。
なお、民事裁判と刑事裁判は別の手続きです。刑事事件となれば、犯罪として刑罰が科される可能性があります。
参考:地毛を黒染め「校則」強要訴訟、府に賠償命令 大阪地裁|朝日新聞デジタル
脅迫や暴行がない要求は強要罪になる?
脅迫や暴行を用いず、単に相手に○○してほしいと要求する行為は、強要罪になりません。
こちらの要求に相手が応じるかどうかは、相手の自由だからです。
相手の意思決定の自由を、脅迫や暴行により従わせると、強要罪が成立することになります。
家族間の強要は罪になる?
家族間であっても、脅迫や暴行を用いて、義務のないことを強いるなどすれば、強要罪が成立する可能性があります。
ただし、家族間のトラブルを警察に訴えても、暴力が伴う事件でない場合や、証拠がない場合は、残念ながら警察が動いてくれない場合もあります。
実際に家族から強要されていることで、暴行を受けるなど身に危険が迫った場合は、迷わず110番通報をして、身を守るようにしてください。
まとめ
強要罪は、脅迫や暴行を用いて、相手に義務のない行為をさせたり、相手の権利行使を妨害したりした場合に成立します。
日常生活でも、相手のとらえ方や、関係性によっては、加害者となる可能性のある犯罪です。場合によっては、逮捕されることもあります。
強要罪以外でも、内容によっては恐喝罪や業務妨害罪などが成立するおそれがあり、重い処分が科されることも考えられます。
もし強要罪で家族が逮捕されたり、警察から呼び出しを受けたりしている場合は、弁護士に相談して、適切なサポートを受けましょう。