触法少年とは|処罰されない?虞犯少年との違いや少年事件の流れ
触法少年とは、罪を犯した14歳未満の少年少女のことを指します。
読み方は、しょくほうしょうねんと読みます。
2023年には、触法少年が親を殺害したとしてニュースになりました。
触法少年が罪を犯した場合は、どういった処分になるのでしょうか。
この記事では次の点について解説します。
- 触法少年とは?犯罪少年や虞犯少年との違い
- 触法少年が罪を犯した場合どうなるのか
- 触法少年の家族ができること
自分の子どもが犯罪に関与してしまったと悩んでいるご家族の方は、弁護士にご相談ください。
目次
触法少年とは
ここでは、触法少年の概要と、犯罪少年、虞犯少年との違いなどを解説します。
罪を犯した14歳未満のこと
触法少年とは、罪を犯した14歳未満の子どもを指します。
少年とされていますが、対象は少年だけではなく、少女も含まれます。
この記事では、少女も含め、便宜上少年と呼びます。
成人年齢は2022年から18歳に引き下げられましたが、少年法の対象となるのは引き続き、20歳未満の少年です。
刑法上では、14歳に満たない者の行為は、罰しないと定められています(刑法第41条)。
これは、精神的に未熟な子どもが犯した罪は、責任能力がないため、罪に問えないからです。
また、こうした未成熟な子どもには、懲役などの刑事処分よりも、保護や矯正が必要だと考えられています。
そのため、触法少年が罪を犯した場合は、逮捕されたり、懲役が科されたりすることはありません。
必要に応じて施設に送られるなど、再び罪を犯さないように、環境が改善されることになります。
虞犯少年との違い
似た言葉に虞犯(ぐはん)少年というものがあります。
虞犯少年とは、罪を犯してはいないものの、将来的に罪を犯すおそれのある少年のことを言います。
虞犯少年の定義は次のとおりです。
- 保護者の監督に従わない(家庭内暴力、深夜の徘徊や無断外泊など)
- 正当な理由もなく自宅に帰らない(家出など)
- 犯罪性や不道徳な人と交際していかがわしい場所に出入りする(暴走族などに所属、風俗店へ出入りなど)
- 自分で倫理に反する行為をする、他人にさせる(援助交際や売春)
罪を犯していない虞犯少年でも、年齢に関係なく、少年審判(非公開の裁判のようなもの)で、犯罪に関与しないように施設に送られるなどの決定がされていました。
しかし、2022年の少年法改正に伴い、18歳、19歳は特定少年と定義され、非行があっても少年審判に付されることはなくなりました。
犯罪少年との違い
同じく、よく似た言葉に犯罪少年というものがあります。
犯罪少年とは14歳以上で罪を犯した少年のことです。
14歳以上で罪を犯した場合は、逮捕や刑事処分を受けるおそれがあります。
例えば、被害者が亡くなった場合や、放火などの重い犯罪の場合に、成人と同様に、刑事裁判で裁かれる可能性があります(少年法第20条)。
このように少年の年齢により、少年法の手続きは次のとおり異なります。
年齢 | 呼び方 | 処分 |
14歳未満 | 触法少年 | 審判で保護処分(更正を目的とした処分) |
14歳以上、17歳以下 | 犯罪少年 | 原則として保護処分、犯罪によっては成人と同様の手続き |
18歳、19歳 | 特定少年 | 原則として保護処分、犯罪によっては成人と同様の手続き
犯罪少年と比較して、成人と同じ手続きになる犯罪が多い |
20歳以上 | 少年法の対象外 |
触法行為とは
触法少年と一緒によく出てくる言葉が、触法行為(しょくほうこうい)です。
触法行為とは、一般的には犯罪行為ですが、触法少年が行うことで、罪に問われない行為のことを言います。
参考:第3章 相談種別ごとの対応における留意事項 – 厚生労働省
触法少年が罪を犯したらどうなる?
ここでは、触法少年が罪を犯した場合どうなるのか、流れを解説します。
警察による補導や触法調査
触法少年が罪を犯した場合、警察に逮捕されることはありませんが、補導されたり、触法調査(行政調査とも)をされたりすることになります。
触法調査では、次の内容が調査されます。
- 事件の事実や原因、動機
- 少年の性格
- 経歴や教育、環境、家庭の状況
- 交友関係 など
要するに、今後少年がどういう環境となれば、触法行為と縁を切れるのか考えるために、調査が行われるのです。
触法調査では、少年や保護者、関係者の呼び出しから、捜索、証拠の押収、鑑定などが行われます。
警察が児童相談所に通告
一般的な少年事件では、家庭裁判所で少年審判を行い、犯罪に関与してしまった少年の更正や矯正を目的として、施設への送致などが決定されます。
触法少年の場合は、警察が触法調査を終えると、家庭裁判所の前に児童相談所に事件が通告、もしくは送致されることになります(児童福祉法第25条、少年法第6条)。
児童相談所は、子どもの状況に応じた効果的な援助を行うために、児童福祉法に基づいて設置された行政機関です。
触法少年をいきなり家庭裁判所へ送るよりも、まずは福祉的な観点から少年の状況を調査するために児童相談所に通告や送致されます。
次項で詳しく解説しますが、少年の身柄を保護する必要がある場合も、児童相談所で一時保護が行われます。
触法少年が児童相談所へ送致された場合
犯罪少年の場合、警察の調査ののち、家庭裁判所や検察に事件が引き継がれます。
一方、触法少年の場合は、児童相談所を介して、家庭裁判所へ送致するのか、福祉的な措置が必要なのか決定されます。
児童相談所で調査後に必要な措置が行われる
児童相談所に事件が引き継がれた場合、児童相談所は児童福祉的な観点から少年を調査して、次の処遇を検討します。
- 児童相談所で福祉的な措置をとる
- 家庭裁判所へ送致する
上記の処分を判断するために、児童福祉士や児童心理士が少年の状況を調査します。
- 少年の家庭環境、住居環境、生育歴
- 学校の状況 など
少年審判よりも、児童福祉法にもとづいた福祉的な措置が必要だと判断されれば、次のような措置を受けることになります。
- 少年や保護者に訓戒を行い、誓約書を提出させる
- 児童福祉士等から保護者に指導を行う
- 少年を里親に委託する
- 児童養護施設、児童自立支援施設などに入所させる
ただし、里親や施設への入所は、親権者の意に反して行うことはできません。
一時保護等により身柄拘束を受けるケースもある
児童相談所に通告や送致された場合、一時保護により身柄拘束を受けるケースがあります(児童福祉法第33条)。
一時保護とは、触法少年を児童相談所が管理する一時保護所に一定期間入れることです。
例えば、次のような場合は、一時保護が行われる可能性があります。
- 児童相談所の所長が必要だと判断した場合
- 児童に適切な支援をするために行動観察や生活指導が必要だと判断された場合
- 重大な触法行為があった場合
- 児童の身に危険がある場合
- 子どもが自己や他人に危害を及ぼすおそれがある場合 など
児童の処遇を判断する調査のためや、再犯防止のために一時保護されることが考えられます。
一時保護される期間は、原則2か月と定められていますが、必要だと判断されれば、延長も可能です。
成人の場合、逮捕後の身柄拘束は最長20日間と区切られていますが、一時保護の場合はいつまで保護されるのか予測が立てにくいという特徴があります。
この一次保護の期間に、前述した福祉的な措置か、後述する家庭裁判所への送致が決定されます。
家庭裁判所に送致される
児童相談所に送致後、福祉的な措置よりも家庭裁判所の少年審判で、処分を決定した方がよいと判断されれば、家庭裁判所に引き継がれることになります。
触法行為が次に当てはまる場合は、原則家庭裁判所に送致すると定められています。
- 少年が故意に被害者を死亡させた
- 少年が死刑、無期、短期2年以上の懲役または禁固にあたる罪を犯した
触法少年が家庭裁判所に送致された場合
事件が家庭裁判所に引き継がれた場合、家庭裁判所でも少年の調査を行い、少年審判で処分を決定することになります。
少年審判で処分が決定されると、少年が今の環境から抜け出せるよう支援するために、施設への入所や、保護観察、少年院送致などが判断されます。
審判か観護措置か判断される
事件が家庭裁判所に送致された場合、家庭裁判所は少年審判を行うか、観護措置を行うか判断します。
観護措置とは、少年に対する処分を判断するのが難しい場合に、少年の行動を観察した上で審判の要否を決定することです。
実務上では、次の要件を満たすと観護措置が行われます。
- 少年が非行を犯したと疑うに足りる事情がある
- 審判を行う可能性がある
- 観護措置の必要性がある
逃亡や証拠隠滅のおそれ、自殺や自傷のおそれ、鑑別所で鑑定する必要がある場合に、観護措置の必要性があると判断されます。
少年鑑別所で2~8週間調査が行われる
観護措置が決定すると、少年は少年鑑別所に入れられて必要な調査が行われることになります。
鑑別所と聞くと、少年院や少年刑務所と同じだと思っている方もいますが、全く別の施設です。
少年鑑別所とは、少年と非行環境を切り離し保護を行いながら、審判の要否を判断するための施設です。
法務技官や法務教官という専門家が、面接や行動観察、心理検査などを行います。
この結果を踏まえて、審判で適切な処分を決定することになります。
鑑別所に入れられる期間は、原則2週間ですが、1度限り更新が認められており、更新されるとさらに2週間入ることになります(少年法第17条)。
また、次のケースに当てはまると、さらに2回更新が可能となり、最長8週間入れられるケースもあります。
- 触法行為が死刑や懲役や禁固にあたる重大な事件の場合
- 非行の認定を巡り、証人尋問や鑑定や検証などを行う必要がある場合
- 鑑別所に収容しなければ審判に著しい支障が生じるおそれがあると判断された場合
司法統計によると、2020年に鑑別所に入れられたのは、家庭裁判所に送致された1万8,871人のうち1,483人で、全体の22.1%でした(交通事件を除く)。
参考:第25表 一般保護事件の終局総人員―観護措置 – 司法統計
少年審判で決まる処分の種類
鑑別所での調査が終わると、少年審判が開始されて、少年の処分が決定します。
少年審判とは、非行の原因を明らかにして、少年が更正できるような支援を決定する手続きです。
家庭裁判所で行われると聞くと裁判を連想するかもしれませんが、少年審判は会議室のような場所で裁判官や書記官など限られた人数で非公開で行われます。
14歳以上の場合は、刑事罰を科す必要があると判断されると、成人と同様に刑事裁判が行われるケースもあります。
触法少年に関しては、刑事罰よりも更正が必要であるため、刑事裁判にはなりません。
少年審判で決まる処分の種類は次のとおりです。
- 保護処分(少年院送致など)
- 審判不開始や不処分
- 試験観察
- 再度児童相談所に送致
保護処分
保護処分とは、少年を更正させるために下される処分のことです(少年法第24条)。
保護処分には次のような種類があります。
①保護観察 | 施設に入所せずに自宅に戻り、保護司の指導監督のもと日常生活を送りながら更正を目指す |
②児童自立支援施設や児童養護施設送致 | 施設への入所、あるいは自宅から通い、指導を受けながら更正を目指す |
③少年院送致 | 矯正教育が必要だと判断されると少年院に収容されて更正を目指す |
①の保護観察は想像しやすいかと思います。
②の児童自立支援施設や児童養護施設送致は、家庭環境などの事情から継続的に生活指導などが必要な場合にとられる措置です。
児童養護施設は、保護者による養育が困難な場合に、保護や養育を行う施設です。
触法少年のように非行性があるケースでは、非行や問題を抱える児童の自立を支援する児童自立支援施設が選択されるケースが多いです。
少年院送致
保護処分の1種が少年院送致です。
少年院は、非行に走ってしまった少年の健全な育成や矯正、社会復帰を目的とした施設です。
刑罰として強制労働などを科す刑務所とは異なります。
少年院では、生活だけでなく学習、職業の指導などを受けることができます。
ただし、14歳未満の触法少年については、まだ幼いために福祉的な対応が必要だと判断され、児童自立支援施設に送致されることが多いです。
少年院への送致も可能ですが、触法少年の場合は、特に必要と認める場合に限られます(少年法第24条)。
審判不開始や不処分
審判不開始や、審判の結果不処分となれば、事件は終了し、特に処分は下されません。
審判不開始となるケース | 非行の事実がない
事案が軽微である 少年が十分い反省している など |
不処分となるケース | 非行の事実がない
審判までに少年が更正して処分が不要になった など |
少年審判に至るまでの過程で、少年が反省などを深めていれば、審判不開始や不処分となることも考えられるでしょう。
試験観察
審判を行ったものの、少年の処分の決定が困難な場合は、試験観察が採られることがあります(少年法第25条)。
試験観察とは、家庭裁判所の調査官が、一定期間少年の生活態度を観察して、どの程度更正に向けて努力しているのか様子を見ることです。
試験観察には次の2種類があります。
①在宅試験観察 | 自宅に帰り、定期的に家庭裁判所の調査官と面接をする |
②補導員委託試験観察 | お寺や農家などの補導委託先で生活をして、調査官が定期的に訪問する |
都市部では、委託先が減少し、②が取られないケースも増えています。
試験観察の期間はおおよそ3~6か月程度で、その後再度審判が行われて、処分が決定します。
再度児童相談所に送致
審判の結果、18歳未満の少年について、児童福祉機関の指導にゆだねるのが相当だと判断された場合、再度児童相談所に送致(都道府県知事や児童相談所所長送致)されるケースもあります(少年法第18条)。
これは、非行の程度は深刻ではないが、家庭環境の問題から、継続的な指導が必要な場合にとられる措置です。
児童相談所に送致されると、児童相談所の判断にもとづき、児童自立支援施設や里親などへの委託などが決定されます。
児童自立支援施設に送致されるなら、保護観察と一緒ではと考える人もいるでしょう。
違いは、親権者の同意が必要かどうかです。
保護観察の場合は、親権者の同意関係なく、自立支援施設などに送致されることになります。
一方児童相談所に送致されてから、児童自立支援施設に入所する場合は、親権者の同意のもと入所することになるため、柔軟な対応が可能です。
もっとも、実務上は審判後に児童相談所に送致されるケースは多くありません。
触法少年の家族ができること
もし自分の子どもが触法行為に及んでしまったら、家族には何ができるのでしょうか?
弁護士に相談する
子どもが触法行為に関与してしまった場合は、弁護士(少年付添人)に相談しましょう。
弁護士に相談や依頼することで、次のようなサポートが受けられます。
- 冤罪の防止
- 少年の意見を家族や裁判官などに伝える
- 立ち直るために、家族関係の調整や居場所を作れる環境を整備する
- 鑑別所などへの面会や差し入れ
- 被害者への謝罪や示談 など
特に少年と家族の間に溝がある場合は、関係修復に協力してくれます。
被害者がいるような場合は、被害者に謝罪を申し入れてくれるでしょう。
更生のための環境を整える
触法行為をしてしまった場合、早い段階で更正のための環境を整えることが最重要です。
非行に走ってしまい、抜け出す方法がわからなくなると、そのまま常習的に犯罪行為に手を染めてしまうおそれがあります。
こうした状態から抜け出すためにも、手続きの中で専門家や弁護士と相談をして、お子さんの更正を手助けできる環境を整えていきましょう。
触法少年でよくある質問
ここでは、触法少年によくある質問に回答します。
触法調査とはどんな調査ですか?
先述したとおり、少年が触法行為をした場合、警察では触法調査と言って、次の内容が調査されます。
- 事件の事実や原因、動機
- 少年の性格
- 経歴や教育、環境、家庭の状況
- 交友関係 など
警察は必要に応じて次の調査を行うことも可能です。
- 少年や保護者や関係者を呼び出して質問をする
- 証拠の押収や捜索、鑑定 など
触法調査とは呼ばれますが、実質的には取り調べや捜査が行われるおそれがあるのです。
触法少年になったら前科や今後に影響しますか?
触法少年になり、少年審判で処分を受けても、前科前歴がつくことはありません。
前科は、刑事裁判で有罪となった場合に、前歴は警察に逮捕された場合に記録されるものです。
ただし、触法少年になると、次のようなリスクがあります。
- 一時保護などの身柄拘束により、学校に通えなくなる
- 被害者から保護者に対して、損害賠償請求をされる
特に、触法行為により被害者がいるような場合は、被害者から損害賠償請求を受ける可能性もあります。
お子さんは未成年で法律行為はできないため、賠償義務は保護者が負うことになります。
触法少年時代の犯罪はどんな処分を受けますか?
14歳未満で罪を犯したとしても、懲役が科されるなどの処分を受けることはありません。
14歳未満の罪は処罰の対象とならないからです。
ただし、非行原因などの調査が行われ、少年審判で施設への送致など、更正に必要な措置が行われることが考えられます。
まとめ
14歳未満の少年が罪を犯すと、触法少年と呼ばれ、警察の調査を受ける可能性があります。
その後、児童相談所や家庭裁判所、少年鑑別所などで心身や生活環境などの調査が行われます。
少年審判の結果、少年の更正を考えて、生活環境を変える必要があると判断されれば、施設への送致などが決定されることになります。
お子さんが非行に走ってしまった場合、親御さんもショックを受けて、大変な状況かと思います。
どうしたらいいのかわからない場合は、迷わず弁護士に相談してください。
弁護士はこうした状況の中で、先を見通しお子さんやあなたの味方となってくれるでしょう。