痴漢で解雇される?解雇を防ぐために知っておきたい3つのポイント
電車内や路上で痴漢をし、逮捕された場合、「解雇されるのではないか?」と不安を感じる方が多いでしょう。
痴漢で逮捕されても、必ず解雇されるわけではありません。
しかし、その後起訴されたり、拘禁刑に処されたりすることで、解雇されるリスクが高くなります。
痴漢で解雇されるのを防ぐためには、早い段階で弁護士に依頼し、早期釈放や被害者との示談、不起訴などに向けたサポートをしてもらうことが重要です。
この記事では、主に次のことについて解説します。
- 痴漢で解雇が認められやすいケース
- 痴漢で解雇されないために重要な3つのポイント
- 痴漢で解雇されないために弁護士への早期相談が大切な理由
ぜひ参考にしてください。
目次
痴漢で逮捕されたら解雇される?
痴漢で逮捕されても、必ず解雇されるわけではありません。
労働基準法の適用を受ける事業所において、従業員(労働者)を解雇するには、次の2つの条件が必要です。
- 就業規則で懲戒事由を定めている
- 客観的に合理的理由があり社会通念上相当である
あらかじめ就業規則で懲戒事由が定められている必要があります(労働基準法第89条)。
ただし、懲戒事由として[痴漢で逮捕された場合]などと詳細に記載されている必要はなく、一般的には、[犯罪行為により、著しく会社の名誉または信用を失墜させた場合]などと記載されていることが多いです。
さらに、就業規則に記載されている懲戒事由に該当する場合でも、必ず解雇が認められるわけではありません。
解雇は、従業員に不利益を与える重大な処分のため、客観的に合理的な理由と社会通念上相当なことが必要です(労働契約法第16条)。
解雇は、あくまで職場の秩序を乱した場合や勤務先(使用者)の社会的信用に影響を与えた場合になされるものであり、従業員の私生活上すべての行為が解雇の対象となるわけではありません。
従業員の私生活上の痴漢行為が、職場の風紀や秩序を乱し、勤務先の社会的信用の失墜につながるかどうかは、痴漢の態様や被害状況等により厳格に判断されます。
痴漢で逮捕された場合には、身柄拘束の期間が長引くことで、解雇される可能性もあります。
長期の無断欠勤となれば、解雇される可能性が高くなるでしょう。
痴漢で解雇が社会通念上相当と認められやすいケース
痴漢で解雇されることが、社会通念上相当と認められやすいケースは、次の4つです。
- 痴漢行為の悪質性が高く実刑判決を受けた
- 常習的に痴漢を行っていた
- 痴漢事件が勤務先名を含めて報道された
- 業務中に痴漢をした
以下、詳しく説明します。
痴漢行為の悪質性が高く実刑判決を受けた
痴漢行為の悪質性が高く実刑判決を受けたケースです。
例えば、痴漢の態様の悪質性が高く、不同意わいせつ罪で実刑判決を受けた場合には、長期の身柄拘束によって、勤務先の業務に支障を与えることになるでしょう。
痴漢行為の悪質性が高く実刑判決を受けた場合には、勤務先に影響が生じることから、解雇が相当と認められる可能性があります。
常習的に痴漢を行っていた
常習的に痴漢を行っていたケースです。
例えば、迷惑防止条例違反などの同種前科がある場合です。
痴漢の態様は悪質とまではいえない場合でも、常習的に痴漢行為を行っていたケースでは、執行猶予付き判決を得ていても、解雇が相当と認められる可能性があります。
痴漢事件が勤務先名を含めて報道された
痴漢事件が勤務先名を含めて報道されたケースです。
痴漢事件が勤務先名を含めて報道された場合には、勤務先への影響が大きく、社会的信用が低下する可能性も高いため、解雇が相当と認められる可能性があります。
業務中に痴漢をした
業務中に痴漢をしたケースです。
例えば、職場内で他の従業員に対して痴漢行為をした場合は、職場の風紀や秩序を乱したと考えられるため、解雇が相当と認められる可能性があります。
取引先の従業員に痴漢行為をした場合には、勤務先の社会的信用を損ない、取引停止などの重大な損害につながるおそれもあります。
上司の立場を使って、常習的にセクハラをした場合には、行為の悪質性が高く、常習性も認められるため、被害者の供述に信用性があり、加害者側に弁明の機会も与えられていれば、解雇が相当と判断される可能性もあります。
業務中の痴漢は、私生活上の痴漢に比べて解雇される可能性が高いでしょう。
痴漢で解雇が不当解雇にあたるケース
痴漢により解雇されることが、不当解雇にあたる主なケースは、次の2つです。
- 犯罪の悪質性と処分内容が相当性を欠く
- 解雇手続きに不備がある
以下、詳しく解説します。
犯罪の悪質性と処分内容が相当性を欠く
犯罪の悪質性と処分内容が相当性を欠くケースです。
例えば、痴漢行為で逮捕されたものの、早期に釈放され、被害者とも示談が成立し、不起訴で終わったケースが挙げられます。
この場合には、会社への影響は限定的であり、解雇は相当でないと判断される可能性があります。
解雇手続きに不備がある
解雇手続きに不備があるケースです。
従業員を解雇する場合、勤務先(使用者)は、一定の手続きをとらなければなりません。
例えば、少なくとも30日前に解雇予告をしなければなりません(労働基準法第20条)。
解雇予告日が30日前に満たない場合は、不足日数分の賃金を従業員に支払う必要があります。
労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合は、予告なしの即時解雇が認められることもありますが、解雇予告の適用除外を受けるためには労働基準監督署長の認定を受けなければなりません。
さらに、勤務先(使用者)は、従業員に対し、弁明の機会を与える必要があります。
こうした解雇手続きをとらなかった場合、解雇は無効と判断される可能性があります。
公務員が痴漢した場合は解雇される可能性が高い
公務員が痴漢した場合は、解雇される可能性が高いです。
国家公務員が、拘禁刑以上の刑に処せられた場合は、人事院規則で定める場合を除くほか、当然失職します(国家公務員法第76条、同第38条)。
これは、実刑判決、執行猶予付き判決を問いません。
地方公務員についても、同様の規定が定められており、拘禁刑以上の刑に処された場合は、職を失います。(地方公務員法第28条、同第16条)。
不起訴や罰金刑の場合なら解雇されないわけではありません。
国家公務員法第82条は、国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合、免職、処分ができると定めています。
地方公務員法第29条にも、同様に免職の処分ができる旨を定めています。
したがって、公務員が痴漢行為をした場合には、民間企業の会社員よりも、解雇される可能性が高いでしょう。
痴漢事件で解雇が有効とされた裁判例
鉄道会社に勤務する従業員が、職務外に、電車内において痴漢行為をした事案です。
従業員は、迷惑防止条例違反で逮捕され、その後懲役4月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡されました。
裁判所は、以下の事情から、本件の懲戒解雇は、その手続に瑕疵がなく、処分の内容としても相当な範囲を逸脱したものといえず、有効としました。
- 電車内における乗客の迷惑や被害を防止すべき電鉄会社の社員であり、そのような行為を決して行ってはならない立場にある
- 本件行為の半年前に同種の痴漢行為で罰金刑に処せられ、その際、同じような不祥事を起こしたときは、いかなる処分にも従う旨の始末書を提出した
これらの事情から、社内における処分が懲戒解雇という最も厳しいものとなったとしても、それはやむを得ないものというべきであるとしています。
痴漢事件で解雇が無効とされた裁判例
鉄道機会社に勤務する従業員が、職務外に、電車内において痴漢行為をした事案です。
従業員は、迷惑防止条例違反で逮捕され、罰金20万円の略式命令を受けました。
裁判所は、以下の事情から、本件の諭旨解雇処分は相当性を欠いており無効としました。
- 罰金20万円の略式命令にとどまっている
- 悪質性の比較的低い行為である
- 本件に関してマスコミによる報道がされていない
- その他本件が社会的に周知されることはなかった
これらの事情から、本件行為が企業秩序に対して与えた具体的な悪影響の程度は、大きなものではなかったというべきであるとしています。
さらに、本件行為について、会社は従業員に対し、弁明の機会を与えなかったことから、手続き上にも看過できない問題があるとしました。
痴漢で解雇されないために重要な3つのポイント
痴漢で解雇されないために重要なポイントは、次の3つです。
- 勤務先に知られるのを防ぐ
- 被害者との早期示談を目指す
- 弁護士に相談する
以下、詳しく解説します。
勤務先に知られるのを防ぐ
勤務先に知られるのを防ぐことです。
痴漢で逮捕された事実が勤務先に知られなければ、解雇に至る可能性は低くなります。
基本的に、逮捕されても、業務に関連した犯行の場合など特別な事情がなければ、警察から勤務先に直接連絡が行くことは少ないです。
しかし、身柄拘束が長くなれば長くなるほど、勤務先に知られるリスクは高くなります。
したがって、勤務先に知られるのを防ぐためには、早期釈放が重要です。
逮捕後、勾留が認められると、勾留期間は原則10日間、延長が認められると最長で20日間にも及びます。
つまり、身柄拘束を長引かせないためには、逮捕後に勾留されないことが重要です。
勾留請求するかどうかは、逮捕後72時間以内に決まるため、逮捕後は、迅速に釈放に向けた対応をとる必要があります。
弁護士に依頼すれば、弁護士が、勾留回避のために、検察官に勾留請求しないよう働きかけたり、検察官が勾留請求をした場合には、裁判官に勾留請求を却下するよう求めたりします。
したがって、早期釈放の可能性が高まります。
早期に釈放されることで、勤務先に知られるのを防げる可能性が高いでしょう。
被害者との早期示談を目指す
被害者との早期示談を目指すことです。
被害者と早期に示談ができれば、不起訴処分になる可能性が高くなります。
検察官の起訴・不起訴の判断には、被害者の処罰感情も考慮されるからです。
既に被害者と示談ができた場合には、被害者の処罰感情も弱いと判断されやすく、不起訴になりやすい傾向があります。
不起訴処分になることで、解雇される可能性は低くなるでしょう。
弁護士に相談する
弁護士に相談することです。
刑事事件は、事件から逮捕、勾留、起訴など、スピーディーに進みます。
早い段階で弁護士に相談し、早期釈放・被害者との示談・不起訴獲得に向けて、サポートしてもらうことが大切です。
痴漢で解雇されないために弁護士への早期相談が大切な理由
痴漢で解雇されないためには、できるだけ早く弁護士に相談することが大切です。
以下、その理由について説明します。
早期釈放を目指せる
弁護士に依頼することで、早期釈放を目指せるからです。
弁護士は、早期釈放のために、次のような働きかけを行います。
- 検察官や裁判所に対して身柄拘束が必要でない旨の意見書を提出する
- 裁判官に対して勾留請求を却下するよう意見書を提出する
- 勾留が認められた場合には勾留決定の取り消しを求める準抗告を行う
勾留前に釈放されれば、勤務先に知られるリスクを抑えられます。
弁護士に依頼し、早期に釈放されることで、解雇される可能性を低くできるでしょう。
被害者との示談交渉を任せられる
弁護士に依頼することで、被害者との示談交渉を任せられるからです。
早期釈放や不起訴獲得には、被害者との示談が重要です。
示談交渉をするためには、当然、被害者との接触が必要ですが、通常、警察や検察官は、被疑者やその家族に対しては、被害者の情報を教えません。
弁護士であれば、被害者の連絡先を秘匿扱いをすることを前提として、被害弁償や示談交渉のために、連絡先を開示してもらえる可能性があります。
弁護士に依頼することで、早い段階から被害者との示談交渉が可能となり、示談が成立すれば、解雇される可能性を低くできるでしょう。
不起訴を獲得できる可能性が高い
弁護士に依頼することで、不起訴を獲得できる可能性が高いからです。
不起訴獲得のために重要なのが、被害者との示談成立です。
弁護士に依頼することで、被害者との示談が成立しやすく、それによって不起訴を獲得できれば、解雇される可能性を低くできるでしょう。
勤務先に対する報告や説明の対応を任せられる
弁護士に依頼することで、勤務先に対する報告や説明の対応を任せられるからです。
逮捕のみで、勾留されない場合は、72時間の身柄拘束を受けます(48時間は警察による拘束・24時間は検察による拘束)。
この間であれば、何らかの理由による欠勤もできるかもしれません。
しかし、勾留されると更に10日間拘束され、延長されれば最大で20日間拘束されます。
この場合には、勤務先に報告せざるを得ません。
弁護士に依頼することで、勤務先に対する報告や説明の対応を任せられます。
法的な説明はもちろん、勤務先に対し、刑事弁護に必要な範囲で真摯に説明を行います。
弁護士に依頼することで、勤務先に対する報告や説明の対応を任せられるでしょう。
解雇された場合はその処分が相当かどうかを判断してもらえる
弁護士に依頼することで、解雇された場合はその処分が相当かどうかを判断してもらえるからです。
解雇された場合には、解雇が相当であるか、適正な解雇手続きが取られたか等を精査する必要があります。
さらに、解雇が不当な場合には、別途、解雇の撤回を求める民事訴訟の代理人の依頼をすることで、民事訴訟のサポートもしてもらえるでしょう。
痴漢と解雇に関するよくあるQ&A4選
痴漢と解雇に関するよくある疑問にお答えします。
痴漢で解雇されたら退職金は支給されない?
痴漢で解雇された場合でも、退職金が支給される可能性はあります。
裁判例においても、退職金全額を不支給とするには、それまでの勤続の功を抹消するほどの重大な不信行為が必要とされています。
したがって、痴漢で解雇された場合でも、退職金全額が不支給になる可能性は低いでしょう。
痴漢で解雇されなくても何らかの処分がされることはある?
痴漢で解雇されなくても、次のような処分がされることがあります。
- 降格
- 出勤停止
- 減給
- 戒告
- 譴責
さらに、これらの懲戒処分がなされなくでも、異動や転勤などの配置転換がなされる可能性があるでしょう。
その場を逃げた!痴漢で解雇を避けるためには自首すべき?
自首すべきかどうかは、一度弁護士に相談することをおすすめします。
自首には、メリットだけでなくデメリットもあります。
さらに、自首するタイミングも重要です。
事案の内容によっては、自首する前に被害者との示談交渉を優先すべきケースもあります。
しかし、そのままでいると、後日逮捕される可能性もあるでしょう。
したがって、早めに弁護士に相談しましょう。
痴漢の冤罪で解雇されそうな場合は?
痴漢の冤罪で解雇されそうな場合は、早急に弁護士に依頼しましょう。
痴漢を疑われ逮捕された以上、痴漢をしていないことを証明する必要があります。
痴漢をしていない証拠を収集したり、証拠が不十分であることを主張したりする必要がありますが、これらは基本的に弁護士でなければ困難です。
したがって、すぐに弁護士に依頼しましょう。
痴漢冤罪で逮捕されたらすぐに弁護士を呼びましょう。

まとめ|痴漢で逮捕されたら早めに弁護士にご相談を!
痴漢で逮捕されても、必ず解雇されるわけではありません。
解雇されないためには、弁護士に依頼し、早期釈放・被害者との示談・不起訴の獲得を目指す必要があります。
ネクスパート法律事務所には、痴漢事件に強い弁護士が多数在籍しています。
特に、被害者との示談においては、経験豊富な弁護士が迅速丁寧に示談成立を目指します。
スピーディーな対応で、家族や勤務先にバレるリスクも最小限に抑えます。ぜひ一度ご相談ください。