時効とは|刑法民法の時効や時効撤廃・公訴時効の一覧を解説
時効と聞くと、罪を犯してから一定期間経つと訴えができなくなる公訴時効を思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、時効には刑事事件における時効と、民事事件における時効があります。
この記事では、時効と刑事事件における時効について、次の点をわかりやすく解説します。
- 刑事事件における時効や公訴時効一覧
- 民法における時効とは
- 公訴時効の撤廃
目次
時効とは
時効とは、ある状態が一定期間続いていることを尊重して、その状態の権利を認める制度のことです。
一定期間が経過すると、権利を失う消滅時効や、権利を得られる取得時効があります。
例えば、他人の土地でも一定期間住み続けると、住み続けた人が土地の所有権を取得できる場合があります。
時効が存在する理由は、①時間の経過と共に証拠が失われるから、②違法行為があれば本来は訴えるべきで、その権利を行使しないのであれば権利者を保護しないなどの考え方があるからです。
時効には、それぞれ種類があります。
刑事事件における時効 | 公訴時効 | 犯罪を訴えることができる期限 |
刑の消滅時効 | 刑を執行できる期限 | |
民法における時効 | 消滅時効 | 一定期間の経過で権利が消滅する |
取得時効 | 一定期間の経過で権利が取得できる |
刑事事件の公訴時効とは
刑事事件の公訴時効とは、検挙された人物を、刑事裁判に訴えることができる期限のことです(刑事訴訟法第250条)。
刑事事件の流れをわかりやすく説明すると、逮捕された人は、その後検察が刑事裁判で裁くよう国に訴えて(起訴)、刑事裁判で有罪か無罪か、罰が確定します。
この検察が起訴できる期限が公訴時効です。
公訴時効がは逃げ得を許すのではないかとの批判もありますが、公訴時効は次の理由から設けられています。
- 時間の経過と共に、証拠が失われ、目撃者の記憶も曖昧になるなど冤罪のリスクがあるから
- 捜査に割ける捜査機関のリソースにも限界があるから
- 時間の経過により、犯罪の社会的影響や、被害者の処罰感情も小さくなるから など
刑事事件の公訴時効一覧
刑事事件の公訴時効は、犯罪によって異なり、次のとおり定められています(刑事訴訟法第250条)。
①人を死亡させた罪で禁錮以上の刑に当たるもの
犯罪 | 法定刑の上限 | 公訴時効 |
殺人罪、強盗殺人罪、強盗致死罪、強盗・不同意性交等致死罪 | 死刑 | なし |
不同意性交等致死罪、不同意わいせつ致死罪 | 無期懲役・禁錮 | 30年 |
傷害致死罪、危険運転致死罪 | 長期20年の有期懲役・禁錮 | 20年 |
業務上過失致死罪、重過失致死罪、過失運転致死罪、 | 禁固以上の刑 | 10年 |
②人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪
犯罪 | 法定刑の上限 | 公訴時効 |
現住建造物等放火罪、殺人未遂罪、外患誘致罪 | 死刑 | 25年 |
強盗致傷罪 | 無期懲役・禁錮 | 15年 |
傷害罪、強盗罪、危険運転致傷罪など | 長期15年以上の懲役・禁錮 | 10年 |
窃盗罪、詐欺罪、恐喝罪、業務上横領罪、特別背任罪など | 長期15年未満の懲役・禁錮 | 7年 |
業務上過失致傷罪、過失運転致傷罪、監禁罪、保護責任者遺棄罪、未成年略取・誘拐罪、背任罪、建造物等破壊罪、収賄罪など | 長期10年未満の懲役・禁錮 | 5年 |
暴行罪、脅迫罪、名誉毀損罪、器物損壊罪、侮辱罪、公然わいせつ罪、過失傷害罪、過失致死罪、住居侵入罪、建造物侵入罪、失火罪、強要罪、信書開封罪 など | 長期5年未満の懲役・禁錮・または罰金 | 3年 |
軽犯罪法違反 など | 拘留・科料 | 1年 |
③性犯罪に関する公訴時効の特則
犯罪 | 公訴時効 |
不同意性交等致傷罪、監護者性交等致傷罪、強盗・不同意性交等致傷罪、不同意わいせつ致傷罪、監護者わいせつ致傷罪 | 20年 |
不同意性交等罪、監護者性交等罪 | 15年 |
不同意わいせつ罪、監護者わいせつ罪、児童福祉法違反 | 12年 |
2023年の法改正により、上記性犯罪については公訴時効を5年延長する特則が設けられました(刑事訴訟法第250条第3項)。
例えば、不同意わいせつ罪の法定刑の上限は10年以下の拘禁刑です。
公訴時効は7年となりますが、5年延長され12年となります。
公訴時効は被害が発生した時から進行しますが、被害者が18歳未満の場合は、被害者が18歳になってから公訴時効が進行します。
例えば、被害者が17歳の場合、不同意わいせつ罪の公訴時効は12年です。
しかし、被害者が18歳になってから時効が進むため、公訴時効までの期間は計13年となります。
未成年者は、自分の受けた被害が性犯罪だと後から理解した場合でも、被害を訴えることができるように、公訴時効が延長されました。
公訴時効の起算点
時効のカウントが始まる段階のことを起算点と言います。公訴時効の起算点は、犯罪行為が終わった日からカウントします。
例えば、2020年1月1日に窃盗行為をした場合、窃盗罪の公訴時効を迎えるのは、2027年1月1日です。
公訴時効の停止
時効は、特定の行為によって停止することがあります。
公訴時効の停止とは、犯罪行為が終わった後から進行していた公訴時効のカウントが一時的に停止することです。
容疑者(被疑者)が海外逃亡をしていたから、時効が進行せずに、帰国後に逮捕されたなどドラマで見かけることがあります。そのようなケースが公訴時効の停止に該当します。
公訴時効が停止するケースは次のとおりです。
- 被疑者を起訴した場合
- 共犯者が起訴された場合
- 被疑者が国外にいる場合
- 被疑者が逃亡しているため、本人に起訴状や略式命令の告知ができない場合
停止した公訴時効は、例えば起訴されても、申し立てた裁判所が管轄外であった場合や、手続きミスにより裁判が打ち切られれば(棄却)、公訴時効の進行が再開されます。
刑事事件の刑の時効と消滅とは
刑事事件には、公訴時効以外にも、刑の時効や刑の消滅があります。
刑の消滅時効
刑の消滅時効とは、裁判で確定した刑罰を執行できる期限のことです(刑法第32条)。
裁判で懲役の実刑判決が下されると、いつでも刑務所に収容できます。
しかし、この刑の消滅時効が完成すると、懲役刑の執行ができなくなります。
刑事裁判で実刑判決が確定すると、そのまま刑務所に収容されるのだから、刑が執行できないことなんてあるのかと思うかもしれません。
刑の消滅時効が成立する可能性があるのは、在宅起訴された場合です。
刑事事件では、逃亡や証拠隠滅のおそれがなければ、逮捕が行われません。このようなケースを在宅事件と言います。
被告人は自宅から裁判に出席し、実刑判決が下されても、ただちに身柄拘束されるわけではありません。
刑務所に収容されるまで時間があるため、このタイミングで逃亡すれば、刑の消滅時効が完成することもあり得ます。
ただし、実刑後に検察の呼び出しに応じないと、収容状が発せられ、強制的に身柄を拘束されることになります(刑事訴訟法第484条)。極めてレアケースだと言えるでしょう。
刑の消滅
刑の消滅とは、刑の言い渡しの効力が消滅することです(刑法第27条)。
刑の言い渡しの効力が消滅すると、制限を受けていた資格を取得できるようになります。
例えば、医師は罰金以上の刑に処された時、医師免許の取り消し処分を受けたり、医師免許が与えられなかったりすることがあります。
このように一定の刑に処されてしまうと、特定の資格取得ができなくなります。
しかし、懲役や禁錮の場合は、刑期終了から10年以上、罰金は納付から5年経過し、罰金刑以上の刑罰が確定しなければ、言い渡された刑の効力が消滅します。
刑の効力が消滅すれば、再び資格取得を行い、制限されていた仕事に就くことができます。
公訴時効と告訴期間の違い
刑事事件の公訴時効とは別に、被害者が被害を訴えられる期限も存在します。
ここでは、告訴についてわかりやすく解説します。
告訴とは
刑事告訴とは、犯罪の被害者などが、警察などの捜査機関に対して、犯罪被害の申告と加害者の処罰を求める意思表示のことです。
被害届と似ていますが、違いは次のとおりです。
被害届 | 被害届は犯罪被害の申告に過ぎず、被害届を受理したからといって、捜査を行うことは義務付けられていない |
刑事告訴 | 捜査を尽くす義務を負い、被害者に起訴や不起訴の通知などを行う |
殺人事件などが起きた場合、警察は被害者の刑事告訴がなくても、捜査を行います。
これは、殺人罪が非親告罪であり、被害者の告訴がなくても起訴できる犯罪だからです。
一方、起訴するにあたり、被害者の刑事告訴が必要な犯罪を親告罪といいます。
公開の刑事裁判が行われることで、被害者のプライバシーが侵害されるおそれがある犯罪に対して、親告罪が定められています。
例えば、名誉毀損罪や侮辱罪などが挙げられます。この親告罪を刑事告訴するにも、時効が存在します。
親告罪の告訴期間
親告罪の告訴期間は、犯人を知った日から6か月です(刑事訴訟法第235条)。
6か月経過すると、犯人を処罰するように検察に求めることができなくなります。
この犯人を知った日からというのは、犯人の氏名や住所など詳細を知らなくても、この人が犯人だと識別できる程度であれば、犯人を知っていると判断されます。
繰り返し誹謗中傷が行われるなど、犯罪が継続されている場合は、犯罪行為の終了から告訴期間が進行することになります。
民事事件の時効
ここまでは刑事事件の時効について解説しましたが、民事事件にも時効が存在します。
ここでは、民法における消滅時効と取得時効についてわかりやすく解説します。
消滅時効
消滅時効とは、権利を持つ人が、一定期間その権利を行使しない場合に、権利が消滅することです(民法第166条)。
犯罪や刑事罰を定めたのが刑法であるのに対し、民法は契約や金銭の貸し借り、離婚、相続など日常生活に関わる法律を定めています。
消滅時効が適用されるものとして、わかりやすいのが借金や賠償金、慰謝料などです。
簡単に説明すると、金融機関などからの借り入れについては、最後に支払った時から5年以上経過すると、金融機関はお金を貸した人に対して返済を求める権利を失います。
刑事事件と関連するのは、不法行為による損害賠償です。
例えば、犯人から殴られてケガをした場合、刑法では犯人に刑罰を科しますが、民法ではケガに対して損害賠償請求を行うことができます。
犯罪被害に対する損害賠償請求の時効は次のとおりです。
- 損害及び加害者を知った時から5年
- 不法行為の時から20年
加害者を知っている場合、相手を訴えられる期限は5年です。
犯罪被害であることに気づかなくても、犯罪被害から20年以内であれば、訴えることができます。
取得時効
取得時効とは、一定期間他人のものを所有し続けることで、自分のものとして権利が認められることです。
例えば、親から相続したと思って住み続けていた家が、実は借家だった場合でも、一定期間住み続けると、その家の所有権が認められるようなケースが挙げられます。
一定期間その家に住み続けるだけで、その家の所有が認められるなんておかしいという声もあります。
その家の本来の所有者は、借家として貸していた大家さんです。出て行ってほしいと思ったら、早めに出ていくように訴えなさいというのが法律の考え方となります。
なお、土地の取得時効は、他人の所有する土地だと知らなかった場合は10年です。
他人の所有する土地だと知っていた場合は20年間住み続けることで、その土地の所有権を取得できる可能性があります。
ただし、土地の取得時効には他にも条件があるため、簡単に他人の土地の所有権を得られるわけではありません。
時効の更新と猶予
民法における消滅時効、取得時効には、時効の進行がストップするケースがあります。
内容 | 説明 | 具体的な行動 |
時効の更新 | 一定の行動があると、時効のカウントが最初から数え直しになる | 裁判で訴えられて判決が下される
差し押さえが行われる など |
時効の完成猶予 | 一定の行動があると、時効の完成が一時的にストップする | 内容証明郵便が送られる
裁判で訴えられる |
したがって、時効の期間が経過したと思っていても、裁判で訴えられていると、時効は進行しません。
殺人事件などの公訴時効は撤廃
殺人事件などの凶悪犯罪の公訴時効は、2005年に15年から25年に延長されました。
しかし、公訴時効が短すぎることや、DNA鑑定など科学捜査の進歩、被害者の処罰感情が薄れることはないとの指摘がなされていました。
そのため、2010年には、人を死亡させた罪で、法定刑が死刑である犯罪の公訴時効が撤廃されました。
2010年4月27日以降に起きた事件は、改正後の法律が適用されるため、殺人罪や強盗殺人罪には、時効がありません。
2010年4月27日までに公訴時効が完成していない事件にも、法改正後の時効撤廃が適用されます。
時効についてよくある質問
時効廃止はいつから?
人を死亡させた罪で、法定刑に死刑がある殺人罪などの公訴時効は、2010年4月27日に撤廃されました。
時効がない罪はある?
公訴時効がない罪は、人を死亡させたもので、法定刑が死刑である犯罪です。
例えば、殺人罪、強盗殺人罪、強盗致死罪、強盗・不同意性交等致死罪が挙げられます。
まとめ
時効には、刑事事件上の公訴時効、民法上の消滅時効、取得時効などがあります。
時効が定められていることに対して、逃げ得だとする意見もあります。
しかし、時間の経過と共に証拠が失われ、目撃者の記憶も曖昧となることから、冤罪防止のために公訴時効が設けられていました。
近年、科学捜査の発達により、人が死亡した凶悪事件に限って公訴時効が撤廃され、時代に合わせた変化が起きています。
時効があっても、犯罪被害に遭った人の無念が消えることはありませんし、罪から完全に逃れることはできないことを覚えておきましょう。