親族相盗例とは|相盗例はおかしい?適用罪名や廃止について解説

親族にお金や物を盗まれたとき、 一定の親族間での窃盗などは刑罰を免除できる特例が法律で定められています。

それが親族相盗例(しんぞくそうとうれい)です。親族相盗例は適用範囲が限定されており、同じ親族でも適用されるかどうかがケースによって異なります。

この記事では、親族相盗例について、次の内容をわかりやすく解説します。

  • 親族相盗例の基本的な意味と法律上の仕組み
  • 適用される親族の範囲や対象となる罪名
  • 適用されないケースや訴える手段
  • 廃止に関する議論やよくある質問

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親族相盗例とは

親族相盗例とは、一定の親族関係にある者の間で発生した窃盗や横領などについて、刑を免除したり、告訴がなければ処罰できないとする特例のことです。

家族間でのトラブルがそのまま刑事事件になることで、人間関係や家庭が深刻に壊れるのを防ぐことを目的としています。

以下では、親族相盗例の基本的な意味と、適用対象となる罪名について解説します。

親族間の窃盗は刑が免除される

親族相盗例は、刑法第244条に規定された特例です。

一定の親族関係にある者の間で生じた窃盗や横領などの財産犯について、刑罰を免除したり、起訴のために告訴が必要になると定めています。

  • 刑法244条第1項:直系血族、配偶者又は同居の親族が犯した場合には、その刑を免除する
  • 刑法244条第2項:前項以外の親族が犯した場合には、親告罪とする

同居していない兄弟などに関しては、刑の免除ではなく告訴がなければ起訴できない親告罪扱いになります。

ただし、これはあくまで刑罰に関する特例であり、民事上の損害賠償請求などができないわけではありません。

親族相盗例が適用される罪名

親族相盗例は、財産に関する犯罪(財産犯)のうち、刑法第244条に定められた範囲に限って適用されます。代表的なものは窃盗罪ですが、他にも以下のような罪が対象とされています。

暴行罪や傷害罪といった身体に対する犯罪、脅迫・強要などの精神的圧力を伴う犯罪には一切適用されません。

適用の可否は罪名だけでなく、当事者の関係性や居住状況によっても変わるため、具体的な状況ごとに判断する必要があります。

親族相盗例が適用される親族の範囲

親族相盗例は、すべての親族に対して一律に適用されるわけではありません。

刑法244条により、適用される対象が限定されており、それ以外の親族との間で起きた財産トラブルには適用されないことがあります。

適用範囲によって、刑が免除されるのか(非処罰)、あるいは告訴がなければ起訴できないのか(親告罪)も異なります。

具体的にどのような親族が対象になるのか解説します。

配偶者

配偶者間での窃盗や横領などについては、親族相盗例が適用され、刑が免除される扱いになります(刑法244条1項)。

ここでの配偶者は、法律上の婚姻関係にある者を指し、事実婚や内縁関係の相手は含まれません(※内縁は後述)。

別居中であっても、法律上の婚姻関係が継続していれば、配偶者とみなされ、相盗例が適用される可能性があります。

ただし、民事上の損害賠償を求めることは可能なため、金銭的な返還を望む場合は民事手続きによる対応が考えられます。

直系血族

直系血族とは、親・子・孫のように、上下に直接つながっている血のつながりのある親族を指します。たとえば、次のような関係が該当します。

  • 両親・祖父母(上の世代)
  • 子ども・孫(下の世代)

一方で、兄弟姉妹やおじ・おば・いとこといった横の関係にある親族は直系血族には含まれません。

親族相盗例では、この直系血族の間で行われた財産犯(窃盗・横領など)については、刑が免除されると刑法244条1項で定められています。

たとえば、親が子どもの通帳から勝手にお金を引き出した、子が祖父母の財布から現金を持ち出したといった場合も、刑事罰の対象にはなりません。

直系血族に対する相盗例の適用は広く、処罰を避ける保護対象として位置づけられています。

養子

養子も、親族相盗例においては直系血族と同様に扱われます。

民法において、養子縁組によって生じた親子関係は法律上の直系血族とされるため、実の親子でなくても、養親と養子の間には親族相盗例が適用されます。

たとえば、養父が養子の貯金から無断で現金を引き出した場合や、養子が養親の金品を持ち出した場合でも、刑法244条1項に基づき刑が免除される可能性があります。

ただし、養子と養親が同居していない親族として関係性が曖昧な場合や、既に縁組が解消されている場合などには、適用の可否が分かれることもあるため注意が必要です。

同居親族

親族相盗例は、直系血族や配偶者だけでなく、同居している親族にも適用されます。

刑法244条1項では、同居の親族が刑の免除対象とされており、たとえ兄弟や叔父・叔母などでも同居していれば非処罰となる可能性があるのです。

親等とは、親族関係の近さを示す単位で、1親等が最も近く、数字が大きいほど遠縁になります。たとえば、以下のように分類されます。

  • 1親等:親、子
  • 2親等:兄弟姉妹、祖父母、孫
  • 3親等:おじ・おば、甥・姪、曾祖父母、曾孫
  • 4親等:いとこ、大おじ・大おば、はとこ など

民法上の定義に従えば、姻族(配偶者の血族)も親族に含まれ、通常4親等以内の姻族も対象になります。

とはいえ、親等がいくら近くても、同居していなければ相盗例は原則適用されません。

4親等以内であっても、日常生活をともにする同居実態があれば、相盗例が適用される可能性があります。

重要なのは形式的な続柄や住所よりも、実際に生活をともにしているかどうかです。

親族相盗例が適用されないケース

親族相盗例は、すべての親族関係に適用されるわけではありません。

親族に近い関係性であっても、法律上の要件を満たさなければ、相盗例の適用対象とはならず、通常の窃盗罪や横領罪として処罰される可能性があります。

親族相盗例が適用されない典型的なパターンについて順に解説していきます。

内縁・事実婚の相手

法律上の婚姻関係がない内縁関係や事実婚のパートナーには、親族相盗例は適用されません。

刑法244条では配偶者と明記されており、これは戸籍上の婚姻届が提出されている法的配偶者のみを意味します。

長年同居して生活を共にしている内縁の夫婦間で財産トラブルが起きた場合でも、刑の免除や親告罪扱いにはならず、通常どおり処罰の対象となるおそれがあります。

内縁関係で金品の持ち出しがあった場合は、親族間トラブルではなく通常の窃盗事件として扱われるリスクがあることを理解しておく必要があります。

同居していない親族

親族相盗例では、同居していない親族には刑の免除は適用されず、原則として親告罪扱いとなります(刑法244条2項)。

これは、直系血族や配偶者、同居親族以外の親族による財産犯が対象です。

別々に暮らす祖父母、兄弟姉妹、叔父・叔母などが金品を無断で持ち出した場合、刑は免除されないが、被害者からの告訴がなければ起訴されないという扱いになります。

処罰するには被害者の意思表示(告訴)が必要ということです。あくまで、告訴の有無が前提となるため、告訴さえされれば通常の窃盗罪として立件される可能性があります。

同居の有無は、刑の免除が認められるかどうかに直結する重要な要素です。

いとこ

いとこ(従兄弟姉妹)との間に生じた財産トラブルには、親族相盗例は適用されません

いとこは民法上4親等の傍系血族にあたりますが、刑法244条が定める直系血族や同居の親族には該当しないためです。

たとえば、親戚づきあいのあるいとこ同士で金銭を盗まれたとしても、通常の窃盗罪として扱われ、刑の免除も親告罪扱いもされません。

同居していても親等の関係が適用範囲外である以上、親族相盗例は適用されないため、いとこによる窃盗は原則、刑事罰の対象になります。

親族でない共犯者

親族相盗例が適用されるのは、あくまで被害者と一定の親族関係にある加害者のみです。

親族ではない第三者(友人・交際相手など)が共犯として関与していた場合、その共犯者には一切適用されません。

たとえば、兄が友人と共謀して実家の財産を盗んだ場合、兄には親族相盗例が適用される可能性があるものの、友人については通常の窃盗罪として処罰されます。

共犯者に親族相盗例の効果が及ぶことはなく、共犯者の身分や関係性に応じて個別に処罰が判断されるという点に注意が必要です。

兄弟姉妹は同居の有無による

兄弟姉妹に対する親族相盗例の適用は、同居しているかどうかで大きく異なります。

  • 同居している兄弟姉妹:刑法244条1項により刑が免除される可能性あり
  • 別居している兄弟姉妹:刑法244条2項により親告罪扱い(告訴がなければ起訴できない)

たとえば、一緒に住んでいる兄弟が財布から現金を抜き取った場合、相盗例により処罰されない可能性があります。

一方で、別々に暮らしている兄弟であれば、被害者が告訴すれば窃盗罪として立件される可能性が高いということです。

兄弟姉妹は血縁が近い存在ですが、同居の有無によって刑事処分に大きく影響するため、事実関係の整理が重要になります。

親族の窃盗を訴えることはできるか

刑法上は一定の親族間における財産犯について刑が免除されると定められていますが、すべての親族が対象となるわけではなく、告訴によって刑事事件になるケースもあります。

加えて、たとえ刑事処罰の対象とならなくても、民事上の損害賠償請求は可能な場合があります。

以下では、親族による財産トラブルを法的に訴える方法について整理して解説します。

適用されない親族は刑事告訴が必要

親族相盗例が適用されない親族による窃盗や横領などの財産犯については、刑事事件として処罰してもらうには刑事告訴が必要です。

一定の親族による財産犯は、刑法244条2項により、親告罪とされているためです。

親告罪とは、被害者が明確に訴え出なければ検察が起訴できない犯罪類型であり、たとえば次のようなケースでは刑事告訴が不可欠です。

  • 別居している兄弟姉妹が金品を持ち出した
  • 叔父や甥など傍系血族が財産を盗んだ
  • 親族ではあるが直系や同居に該当しない

刑事告訴が必要とされる理由は、家族間のトラブルをすべて国家が介入して処罰するのは適切でないとする法の考え方によるものです。

そのため被害者自身が処罰を求める意思を明確にしなければ、事件として扱われません。

刑事告訴には原則6か月以内という告訴期間の制限があるため、トラブル発覚後はなるべく早く動く必要があります。

警察への相談だけでなく、確実に法的手続きを進めるには、早めに弁護士へ相談し、告訴状の作成や証拠収集を行うのが安全です。

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親族でも民事訴訟で訴えることは可能

たとえ親族相盗例が適用されて刑事罰が免除された場合でも、民事上の責任まで免除されるわけではありません。

加害者が親族であっても、被害者は民事訴訟によって損害賠償や返還請求を求めることが可能です。

刑事事件と異なり、民事訴訟はあくまでお金を返してほしい・損害を補償してほしいという目的で行われるものであり、加害者に刑罰が科されることはありません。

そのため、親族間の金銭トラブルでは、刑事告訴を選ばず、民事訴訟によって解決を図るケースも多く見られます。

ただし、証拠の有無や金額、加害者の資力によっては、訴訟を起こしても実質的な回収が困難となるリスクもあるため、慎重な判断が必要です。

親族相盗例はおかしい?

親族間のトラブルであっても、悪質な窃盗や金銭トラブルが存在することは事実です。

しかし、親族相盗例は単なる身内びいきの制度ではなく、家庭内の刑事事件化を抑え、家族関係を守るための法的配慮として設けられています。

以下では、親族相盗例が定められている背景やその意義について解説します。

親族相盗例が定められている理由

親族相盗例は、親族間で起きた財産トラブルについて、国家が安易に刑事罰を科すことを避けるために設けられた制度です。

この背景には、親族間の紛争に、国家が必要以上に介入すべきでないという法の考え方があります。

家族の中で起こる財産の貸し借りや持ち出しなどは、あえて刑事事件化しなくても、家庭内で解決されるべきとの価値観が前提になっているのです。

親族間の行為すべてを刑事事件として扱えば、家庭の秩序や人間関係が破綻するおそれもあり、社会的にも望ましい結果をもたらさないことが考えられます。

このように、親族相盗例は単なる身内びいきではなく、家庭と司法のバランスを保つための制度的な配慮として位置づけられています。

現状親族相盗例の廃止は議論されていない

悪質な金銭トラブルが刑罰の対象にならないことに納得できないという意見は根強くあります。しかし、現時点では親族相盗例を廃止する法改正の動きはありません。

刑法の規定は長年にわたり維持されており、家庭内の紛争への国家介入をできるだけ控えるという基本方針が、今なお重視されているためです。

親族相盗例があることで、軽微なトラブルまでもが刑事事件化され、家族関係がさらに悪化する事態を防げるという実務上の利点も指摘されています。

制度の是非はさておき、自身のケースで相盗例が適用されるかどうかを見極めるには、法律の専門家に相談して個別の事情を整理することが重要です。

親族相盗例に関するよくある質問

配偶者との別居中に親族相盗例は適用される?

法律上の婚姻関係が継続している限り、別居中であっても配偶者とみなされ、親族相盗例は適用されます

刑法244条では、適用対象として配偶者と明記されており、同居しているかどうかは要件に含まれていません。

別居中の夫婦で一方が他方の財産を持ち出した場合でも、離婚届が提出されていなければ、配偶者としての法的地位が継続しており、刑の免除対象となる可能性があります。

ただし、実務上はすでに離婚を前提とした別居状態である場合など、トラブルの性質によっては親族相盗例の適用可否が争点になることもあります。

事実関係や生活実態が複雑なケースでは、早めに弁護士に相談して判断を仰ぐことが重要です。

親族相盗例の告訴期間は?

親族相盗例が適用されないケースでは、財産犯が親告罪として扱われるため、告訴期間に注意が必要です。

刑事訴訟法では、告訴できる期限が以下のとおり、法律で明確に定められています。

(告訴の期間)
第二百三十五条 親告罪については、犯人を知った日から六箇月を経過したときは、告訴をすることができない。
引用:刑事訴訟法第235条 – e-Gov

つまり、被害者が窃盗の加害者を知った時点から6か月以内に告訴を行う必要があります。

この期間を過ぎると、たとえ事実関係に争いがなくても、告訴そのものが認められず、刑事事件として扱えなくなるため注意が必要です。

親族相盗例は被害届の提出が必要?

親族相盗例が適用されない親族との間で起きた財産トラブルについては、単に被害届を出すだけでは不十分で、刑事告訴が必要となる場合があります。

被害届は、あくまで犯罪の事実を警察に知らせるためのものであり、必ずしも処罰を希望する意思表示とはみなされません。

親告罪に該当する場合には、被害者が処罰してほしいと意思表示する正式な告訴手続きがなければ、検察官は起訴できません。

親族相盗例が適用されないケース(例:別居中の兄弟やいとこ)では、告訴状を提出しない限り刑事手続きは進まず、加害者が処罰されることもあります。

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まとめ

親族相盗例は、一定の親族間で発生した窃盗や横領などの財産犯について、刑を免除したり、告訴がなければ起訴できないとする特例です。

すべての親族に無条件で適用されるわけではなく、直系血族・配偶者・同居親族以外には適用されない場合があります。

相盗例が適用されない親族に対しては、告訴期間内に正式な刑事告訴を行わなければ処罰されません。

しかし、損害賠償請求を受ける可能性があり、個々の事案によっては刑事事件に発展する可能性もあるため、不安な場合は弁護士に相談しましょう。

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