特殊詐欺の受け子とは|知らなかったら?捕まる確率は?半数が懲役?
特殊詐欺の受け子とは、詐欺行為において、現金やカード類を受け取る役のことです。
受け子や出し子は、詐欺グループの指示で、被害者と接触する役割を担っているゆえに、逮捕されやすい傾向があります。
受け子や出し子の検挙率や、懲役刑が科される割合は高く、誰でも逮捕されたり、重い処分を受けたりする可能性があります。
この記事では、特殊詐欺の受け子について以下の点を解説します。
- 受け子の刑罰や検挙率、懲役になる割合
- 受け子で逮捕されるリスク
- 闇バイトや受け子から抜け出す方法
お金がないからという理由で加担してしまうと、抜け出すことは困難です。
取り返しのつかない事態になる前に、親や警察、弁護士などに相談してください。
目次
特殊詐欺(オレオレ詐欺)の受け子とは
特殊詐欺(オレオレ詐欺)の受け子とは、人の家を訪ねて、現金やカード類を受け取ったり、宅急便で送られてきた荷物(中身は現金)を受け取ったりする役割の人のことです。
例えば、公的機関の職員や警察官などを名乗り、被害者を信じ込ませて、現金やキャッシュカードを騙し取る場合に、被害者と直接会って受け取る役割が受け子です。
他にも、被害者が振り込んだお金を引き出す役割が出し子、被害者に親族や職員などのふりをして電話をかけるのがかけ子と呼ばれています。
受け子や出し子は、SNSで高額報酬のバイト(闇バイト)として募集されることがあります。以下のような流れで募集が行われます。
- 人から紙袋やキャッシュカードを受け取って担当者に届けるだけの簡単な仕事などSNSで募集が行われる
- バイトに応募すると、匿名性が高いメッセージを消せるアプリに誘導される
- バイトをするにあたって身分証明書を提示してほしいと言われ、自分や家族などの個人情報を求められる
個人情報を把握されてしまうと、今度は自分の情報や家族を盾に脅迫をされて、犯罪行為に加担せざるを得ない状況に追い込まれてしまうのです。
特殊詐欺の受け子をするリスク
特殊詐欺の受け子をすれば、当然逮捕されたり、罪に問われたりすることが想像できるでしょう。
後述しますが、それ以外にも、以下のようなリスクが生じることになります。
- 長期間身柄を拘束されて、出勤や登校ができなくなる
- 懲役刑が科されるおそれがある
- 解雇や退学となる可能性がある
これはあくまでも逮捕された場合です。受け子をしても以下のようなリスクを負う可能性があります。
- 犯罪行為に加担したのに報酬をもらえなかった
- 犯行を指示したグループに通報されて、逮捕されてしまった
高額報酬の闇バイトで募集をしているのは詐欺グループの人間です。
そのため、報酬を与えない、犯行後に警察に通報して裏切るなど、受け子を騙す可能性も十分にあります。
特殊詐欺の受け子をした場合に問われる罪や、刑事処分の傾向、抜け出す方法などを後述します。
特殊詐欺の受け子の罪と刑罰
特殊詐欺の受け子は、行為の内容によって問われる罪が異なります。
ここでは、特殊詐欺の受け子をした場合に、問われる罪や刑罰について解説します。
詐欺罪は10年以下の懲役
受け子として、職員や警察官のふりをして、被害者を騙し、現金やキャッシュカードを受け取ると、詐欺罪が成立します。
詐欺罪の罰則は、10年以下の懲役です。
(詐欺)
第二百四十六条人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
また、詐欺グループの詐欺行為に加担すれば、たとえ組織の末端である受け子でも、組織的詐欺罪に問われる可能性があります。
罰則は1年以上の有期拘禁刑(懲役のような身柄拘束刑)と定められており、最長で20年、他の罪が加重されると、上限は30年となります(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第3条)。
窃盗罪は10年以下の懲役か50万円以下の罰金
一方で、受け取ったキャッシュカードを利用してATMから現金を引き出したり、被害者の自宅に行き、キャッシュカードをすり替えたりすれば、窃盗罪が成立することになります。
窃盗罪の罰則は、10年以下の懲役か50万円以下の罰金です。
(窃盗)
第二百三十五条他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
出し子の場合は、相手を騙して金銭を支払わせるのではなく、ATMからお金を盗む、相手のキャッシュカードをすり替えて盗むため、窃盗罪に問われることになります。
窃盗罪とだけ聞くと、万引きと同じ罪だし軽いのではないかと思うかもしれません。
しかし、特殊詐欺に関与して窃盗を行えば、悪質だと判断され、被害額の大きさなどによっては、罰金ではなく懲役が科されることもあるでしょう。
受け子だと知らなかった場合でも罪に問われる?
受け子で逮捕された場合に、よく見られるのが犯罪行為だと知らなかったという主張です。
結論から言えば、詐欺だと知らなくても、常識的に考えて詐欺行為に加担している可能性を認識できる状況であれば、詐欺罪が成立する可能性があります。
実際に、被害者を騙す行為は別の人物が行い、騙された被害者が指定されたマンションに送った現金を受け取る役割をしていた受け子に対して、詐欺行為は成立するかどうかが争われた裁判がありました。
詐欺罪が成立するには、犯罪であると認識しながら、①人を欺くこと、②相手がそれにより誤解をすること、③被害者が金銭を支払うことが必要です。
この事件では、加害者が関与したのは騙した後の現金の受け取りだけで、本人はそもそも受け取るのが現金だと認識していないと主張していました。
裁判の二審では、詐欺の認識がなかったと無罪となりましたが、最高裁では、以下の点から詐欺の認識があり共犯だとして有罪判決が下されています。
- 1か月の間に約20回も異なるマンションの一室で他者を装って荷物を受け取る行為は、常識で考えれば、違法であると認識できる
- 被告人が行った方法は、詐欺の手口として広く報道されていて、知っていた可能性がある
特殊詐欺の手口として世の中に広く知られており、犯罪行為だと認識できる状況であれば、現金を受け取っただけだとしても、知らなかったという主張は通らないでしょう。
参考:特殊詐欺「受け子」に逆転有罪 「中身知らず」認めず|産経新聞
受け子で捕まる確率や刑事処分の傾向
受け子はどのくらいの確率で逮捕され、有罪となるのでしょうか?
ここでは、受け子で捕まる確率や刑事処分の傾向を解説します。
受け子や出し子の検挙人員は75.6%
警視庁によると、2023年にオレオレ詐欺含む特殊詐欺の検挙(加害者を特定)した人員は2,455人です。
そのうちの75.6%が受け子、出し子、見張り役でした。
またオレオレ詐欺の認知件数は3,955件、そのうち検挙件数は2,126件で、検挙率は約53.7%と半数は加害者の特定に至ることが考えられます。
刑事事件では、逮捕されるケースと、逮捕されずに捜査が継続して最終的に刑事裁判で裁かれる在宅事件となるケースがあります。
法務省によると、2022年に詐欺(オレオレ詐欺以外も含む)で逮捕された割合は47.7%でした。
特に受け子は、被害者と直接接触をするため、逮捕のリスクが高く、詐欺グループからも使い捨てにされやすい立場です。
近年では、被害者が騙されたふりをして、キャッシュカードや現金を受け取りに来た受け子が逮捕されるケースも増えています。
参考:令和5年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版)|警視庁
受け子と出し子が懲役となった割合
法務省によると、2020年に受け子や出し子が懲役となった割合は以下のとおりです。
受け子と出し子が実刑となった割合は54.9%と半数以上に懲役刑が下されていることがわかります。
この統計では、実刑となった人が初犯かどうかはわかりません。
しかし、オレオレ詐欺の場合は、初犯であっても悪質だと判断されやすく、懲役刑が科されることも珍しくありません。
オレオレ詐欺の動機のうち78.4%は金欲しさだと回答していますが、お金がほしいからと関与すれば、人生を棒に振るおそれがあるでしょう。
参考:令和3年版 犯罪白書 第5章 第3節 2 特殊詐欺事犯者(確定記録調査対象者)の特徴|法務省
受け子で逮捕された場合はどうなる?
ここでは、受け子で逮捕された場合に、刑事手続きがどうなるのかについて解説します。
20歳未満でも成人と同様の手続きとなる可能性がある
先述した統計によると、受け子や出し子の61.5%が30歳未満とされています。
刑事事件では20歳未満が罪を犯した場合、基本的には少年法によって刑事手続きが進行します。
少年事件として扱われた場合は、刑罰ではなく保護や矯正が必要とされ、刑事処分ではなく、少年院に送致されて矯正教育が行われるのが一般的です。
成人の場合は地方裁判所で裁判が行われますが、少年の場合は家庭裁判所が少年の処遇を決定します。
ただし、家庭裁判所が成人と同様に刑事処分を科すべきだと判断した場合は、成人と同様の手続きで公開の刑事裁判で裁かれる可能性があります(逆送)。
10~20日間勾留される可能性がある
逮捕された場合は以下の流れで手続きが進行します。
- 逮捕
- 逮捕から48時間以内に検察に身柄が引き継がれる
- 検察は24時間以内に勾留の要否を判断
- 勾留が認められると10~20日間警察の留置場に身柄を拘束される
- 勾留満期までに検察が起訴(刑事裁判になること)か不起訴(事件終了)か判断する
逮捕されると、高確率で10~20日間身柄拘束を受けるおそれがあり、出勤や登校もできなくなります。
少年事件として扱われた場合は、警察の留置場ではなく少年鑑別所に10日間収容されることがあります。
なお、オレオレ詐欺で逮捕された場合は、以下のような傾向があります。
- 法務省によると、2022年に詐欺(オレオレ詐欺含む)で勾留された割合は98.9%
- 共犯者がいるような犯罪は、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるとして、勾留が認められやすい
- 詐欺の場合は共犯者との接触や証拠隠滅の可能性があるとして、弁護士以外の接見(面会)が禁止される可能性がある
勾留された場合、通常は家族との接見が許されていますが、共犯者がいるような犯罪では、勾留期間中家族との接見もできないことがあります。
参考:罪名別 既済となった事件の被疑者の逮捕及び逮捕後の措置別人員|e-Stat 政府統計の総合窓口
裁判で有罪となると懲役や前科となるリスクがある
上記統計によると、2022年の詐欺全体の起訴率は48%と、おおよそ半数が刑事裁判で処分が決定されています。
起訴された半分以上は懲役刑が科され、それ以外には執行猶予がついています。
執行猶予とは、言い渡された一定期間、罪を犯さなければ、刑を執行しないというものです。
ただし、裁判で有罪となれば、執行猶予がついても前科となります。
解雇や退学となるおそれがある
解雇や退学は、就業規則や校則、刑事処分によって総合的に判断されます。
しかし、有罪判決が下されれば、仕事を解雇されたり、学校を退学となるおそれもあるでしょう。
受け子や闇バイトをやめるには?
受け子となり、犯罪に加担してしまった場合、辞めたいと思っても、以下のようなリスクがあり、なかなか踏み出すことができないでしょう。
- 警察に事情を話したら逮捕されるのではないか
- 闇バイトを辞めるといったら、家族や友人に危害を加えると脅迫された
- 自分の個人情報をネットにばらまくと脅された
確かに警察に事情を伝えれば、自分も詐欺に加担したとして責任を問われる可能性があります。
しかし、何度も罪を重ねれば、逮捕されるリスクは高まり、罪も重くなってしまいます。
ここでは、受け子や闇バイトをやめるにはどうしたらいいのか、対処法を解説します。
勇気を持って相談する
闇バイトに参加してしまうと、詐欺グループから脅迫をされるなどして、自力で抜け出すのは難しいでしょう。
そのため、犯罪行為に加担してしまったとしても、勇気を持って誰かに相談することが非常に重要です。
警視庁によると、検挙された少年たちは、家族や警察に相談すればよかったと話しています。
実際に犯罪行為を強要されそうになった女子大生は、ヤングテレホンという窓口に相談したことで、警察に保護してもらうことができました。
もし犯罪行為を強要されたり、加担してしまったりしたら、以下の窓口に相談してください。
- 警察相談ダイヤル:#9110
- 少年相談専用電話ヤングテレホン:0120-786714
- 各都道府県の少年相談窓口
親や弁護士に相談をして出頭をする
他にも、犯罪に加担してしまった場合は、親や弁護士に相談して、出頭を検討しましょう。
出頭とは、捜査が行われている場合に、警察に出向くことです。
特殊詐欺の場合は、詐欺グループの関与や容疑者(被疑者)が共犯者と接触するおそれがあるため、逮捕されるおそれがあります。
しかし、自ら犯罪への関与を絶とうとしたことは、刑事処分の際に考慮してもらえる可能性があります。
ただし、出頭後は逮捕などのリスクがあるため、まず弁護士に相談して、どのような準備が必要か、今後の見通しも確認してから行うようにしてください。
被害者に謝罪をして示談をする
同様に、被害者のいる犯罪では、被害者と示談をすることで、刑事処分が軽くなる可能性があります。
これは、被害者に与えた損害を自ら回復したと評価されるためです。
示談金を支払って謝罪をした後に、被害者から寛大な処分を望むとする嘆願書を書いてもらえる可能性もあります。
被害者3人からキャッシュカードを盗み、AMTから現金を引き落とした窃盗事件では、被告人が反省の態度を示し、ATMから盗んだ金額に相当する示談を行ったこと、前科前歴がないことなどを汲んで、懲役3年、執行猶予が5年の判決が下されています。
参考:判例|裁判所
詐欺事件の示談金の相場は、被害金額+数十万円ほどと言われています。
しかし、示談金は個々の事情や、被害者の処罰感情によっても左右されますし、被害者数が多く、被害金額が高額な場合は、示談金の負担も大きくなるでしょう。
なお、加害者側が直接被害者と接触しようとしても、連絡先を知らない、被害者から拒否されるケースがほとんどです。
そのため、被害者と示談をする際は弁護士に依頼してください。
具体的な再犯防止策を示す
刑事処分では、今後再犯のおそれはないか、更生する可能性があるのか、といった点も非常に重視されます。
そのため、以下のような再犯防止策を示して、実行に移すことが重要です。
- 詐欺グループの関係者や誘ってきた知人との関係を断ち切る
- 定職について、金銭的な問題を解決する
- 家族と同居をして、行動を監視してもらう など
具体的な再犯防止策についても弁護士に相談することができます。
まとめ
特殊詐欺の受け子とは、騙した人から直接キャッシュカードや現金を受け取る人のことです。
役割的に、逮捕されるリスクが高く、詐欺グループから使い捨てにされやすいのが実情です。
受け子が検挙される割合は75.6%、つまり約7割に及び、そのうち54.9%に懲役刑が科されています。
お金がないから、借金があるからといった理由で闇バイトや受け子をすると、辞めたいと思っても抜け出せなくなってしまいます。
罪を重ねるほど逮捕や懲役のリスク、人生への影響が大きくなってしまうのです。
2024年8月時点の日本の最低賃金が約800~1,100円であることを考えると、破格の報酬や美味しい話には裏があります。
もし闇バイトや受け子など犯罪行為に加担してしまったら、抜け出すために勇気を出して相談してください。きっと親や警察、弁護士があなたの力となってくれるでしょう。