窃盗未遂で逮捕された場合の刑罰や弁護活動について解説
窃盗未遂とは何か、逮捕された場合にはどうすればよいのか、弁護士に依頼してもしなくても結果は同じではないのか、等のご質問をよくいただきます。この記事ではこれらの疑問について解説します。
窃盗の未遂とは
どのような行為を窃盗の未遂というのでしょうか?窃盗の既遂との違い等について解説します。
窃盗罪(刑法第235条)・未遂罪(刑法第243条)について
刑法に窃盗罪および窃盗の未遂罪の規定があります。
刑法第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
引用:e-GOV法令検索
刑法第243条 第235条から第236条まで、第238条から第240条まで及び第241条第3項の罪の未遂は、罰する。
引用:e-GOV法令検索
刑法第43条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
引用:e-GOV法令検索
窃盗罪が成立するためには以下2つの要件に該当する必要があります。
- 財物が他人のものであること
- 窃取(密かに盗る)すること
窃盗の未遂罪は、他人の財物を窃取する行為に着手したが窃取に失敗した、となります。
窃盗の態様(3つ)
令和2年版犯罪白書によると、窃盗の態様は大きく分けて以下の3つとされています。
窃盗の態様 |
具体的な内容 |
侵入窃盗 | 空き巣
忍込み 出店荒し 事務所荒し など |
非侵入窃盗 | 万引き
車上・部品狙い 置き引き 払出盗 色情ねらい 自動販売機ねらい ひったくり すり 仮睡者ねらい など |
乗り物盗 | 自転車盗
自動車盗 オートバイ盗 など |
中止犯とは
刑法第43条には、自己の意思により犯罪を中止した、中止犯について規定されています。
自らの意思で犯罪を中止した場合には、必ず刑を減軽するか、免除することになっています。
例えば窃盗の目的でタンスの引き出しを開けてそこにあった現金を取ろうとしたが、やっぱりやめて何も取らなかった場合には、中止犯となります。
自己の意思により犯罪を中止したわけではない未遂犯の場合には、刑を減軽するかどうかは裁判官の判断によります。未遂犯は、必ず減軽されるわけではありません。
上記のタンスの例では、ちょうどそこに住人が戻ってきて捕まったため何も取れなかった場合には、未遂犯となります。
窃盗が既遂になるのはいつ?
犯罪成立過程は、以下のようになります。
犯行を決意➡実行に着手➡実行を終了➡結果の発生 |
未遂犯とは、犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者(刑法第43条)のことです。
犯罪の実行に着手してこれを遂げた者が既遂犯です。
犯罪の実行に着手とは、どういう状況をいうのでしょうか?
犯罪の実行に着手とは、犯罪の実行行為の開始を指す概念で、犯罪の結果が発生する具体的な危険性が生じたと評価されるとき、と言われています。
窃盗罪の結果が発生するとは、他人の財物の占有を取得したことです。窃盗罪は他人の財物を盗む結果が発生する現実的な危険性が生じた時点で窃盗罪の着手が認められ、実際に他人の財物を盗む結果が発生したときに窃盗罪が既遂になります。
窃盗未遂で逮捕された場合の刑罰
窃盗罪未遂で逮捕された場合の刑罰はどうなるでしょうか?
窃盗罪未遂の刑罰
窃盗罪既遂の場合の刑罰は10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。未遂の場合は、減軽されることもあります。
窃盗罪は1か月以上10年以下の範囲で、罰金は1万円以上50万円以下の範囲内で科されます。
刑法第12条 懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は1月以上20年以下とする。
引用:e-GOV法令検索
刑法第15条 罰金は、1万円以上とする。
引用:e-GOV法令検索
減軽は、長期と短期が2分の1になるため、未遂の場合には15日以上5年以下の懲役または5,000円以上25万円以下の罰金となります。
中止犯が成立する場合
窃盗未遂の中止犯が成立する場合には、必ず刑を減軽または免除しなければなりません。窃盗の中止犯の場合には、自分が中止犯であることを主張し、減軽または免除を目指すべきです。
窃盗未遂になるのはどこから?具体的をご紹介
窃盗の未遂が成立するためには、窃盗行為の着手があり、その後未遂に終わったことが必要です。窃盗の未遂が成立するのはどのような行為からか?について、事例で解説します。
窃盗の未遂が成立するとされた事例
窃盗の態様別に具体例をもちいて解説します。
侵入窃盗の場合
住居等に侵入しただけでは窃盗行為の着手は認められません。金品の物色をするため、タンスに近寄った時点等で、着手が認められています。
非侵入窃盗の場合
スリなどの場合には、当たり行為と言われる財布確認のためポケットを叩く行為や、酔って寝ている人の財布をスルため大丈夫ですか?と肩や胸ポケット等をポンポン叩く行為ではまだ着手は認められません。実際に財布等を盗るためポケットやカバンに手を触れた時点で窃盗行為の着手が認められます。
預金をだまし取る目的でキャッシュカードを受け取る役割の人が被害者宅の近くまで行き、途中で犯行を中止した事件で、カード窃取の危険性は明らかなため、被害者宅付近まで被告が赴いた時点で窃盗の実行の着手があったと認めた判例があります。
乗り物盗の場合
鍵がかかっていない自転車がないか駐輪場内を見て回っている時点では窃盗行為の着手は認められません。鍵が付いていない自転車を発見し、実際に盗ろうとして自転車に手を触れた時点で着手が認められます。自動車については、車内の物色をする前のドアを開ける段階で、窃盗の実行の着手があったと認めた裁判例があります。
窃盗の未遂が成立しないとされた事例
窃盗行為の着手が無い場合には、窃盗の未遂も成立しません。例えば侵入窃盗をしようとして侵入の為の道具を準備しただけ、何か万引きしようと思って店内に入っただけではまだ、窃盗行為の着手は認められません。
何か万引きしようと思って店内に入ったけれども人が多かったため商品を一つも手に取ることなく諦めて店の外に出た場合には、実行の着手が認められず、中止犯にも該当しません。
窃盗未遂事件の流れ
窃盗未遂事件の流れについて解説します。
逮捕
窃盗未遂事件では、現行犯逮捕されることが多いですが、例えばひったくりの未遂で現場から逃げた後に防犯カメラの映像等により犯人が特定され、通常逮捕されることもあります。
現行犯逮捕
侵入窃盗などの現場で財物を盗ろうとしてタンスに手を掛けたときに住人に見つかって逮捕される等が現行犯逮捕となります。
現行犯逮捕されると警察による取り調べがおこなわれ、逮捕後48時間以内に検察庁に送検されます。
勾留
警察から事件が送検されると、検察官は24時間以内に被疑者を勾留するか釈放するか決めます。検察官が被疑者を勾留すべきと判断すると、裁判所に勾留請求をします。
裁判官は検察官の勾留請求を認めると勾留決定をだしますが、勾留すべきでないと判断すると勾留請求を却下します。
勾留請求が認められると原則10日間、延長が認められると更に10日間、最大で20日間勾留が続きます。
起訴
勾留期間満了前に、検察官は被疑者を起訴するか、不起訴にするか決定します。不起訴になると事件は終了しますが、起訴されると刑事裁判が開かれます。略式起訴になった場合には罰金を支払い、釈放されます。通常起訴されると公開の刑事裁判が開かれます。日本の刑事裁判では、起訴されると99.9%が有罪判決を言い渡されます。
窃盗未遂の弁護活動
窃盗未遂事件で逮捕された場合に弁護士が行う弁護活動について解説します。
逮捕後すぐに接見に行く
窃盗未遂事件で逮捕された場合には、逮捕後すぐに弁護士への依頼がその後の刑事事件の流れに影響を及ぼします。逮捕された場合にはすぐに接見に行ける弁護士を探してください。依頼を受けた弁護士は、できる限り迅速に接見に行きます。
接見での弁護活動
窃盗の未遂で逮捕された場合には、実行の着手が認められるか否かの確認をします。実行の着手が認められない場合には、そもそも罪を犯していないため、即時釈放を求めます。
実行の着手が認められる場合には、中止犯の主張ができるか確認します。中止犯であれば、被疑者にとって良い情状なので、捜査機関に積極的に主張をします。場合によっては勾留前に釈放されたり、不起訴で終了したりする可能性があります。
早期の身柄解放を目指す
窃盗の未遂の場合、事案によっては金銭的な被害が全く発生しないこともあります。侵入窃盗未遂の場合には例えばドアや窓の鍵を壊す等の被害が発生している可能性があります。
共犯者がいない場合で、被害もそれほど大きくない、あるいは実際に被害が全く無い場合には、早期に身柄が解放される可能性があります。弁護士は被疑者の家族等に身元引受人を引き受けてもらう等の準備をして、早期の身柄解放を目指します。
被害者への謝罪・被害弁償をする
窃盗の未遂の場合には、被害者に謝罪し、被害弁償や場合によっては慰謝料等を支払います。実際に被害が無かった場合でも、被疑者が真摯に謝罪し反省をすることが重要です。
被害者に謝罪・被害弁償をし、被害者との間で示談が成立すると不起訴になる可能性が高くなります。被疑者が直接被害者と示談交渉をすることは困難なため、弁護士が間に入って示談交渉をおこないます。
反省文の作成
窃盗の未遂の場合には、もう二度とやらないと反省することも大事です。被疑者本人が心から反省していることを証明するために反省文を作成してもらい、捜査機関に提出します。窃盗の未遂の場合には、今後は二度と行わないとの決意を示すことで不起訴になる可能性が高くなります。
未遂軽減を主張する
起訴されてしまった場合には、未遂による刑の減軽を主張します。中止犯ではない場合には、刑の減軽は裁判官の裁量に委ねられます。
中止犯ではない場合には、被告人が反省していること、今後二度と罪を犯さないと決意していること等をアピールし、刑の減軽を求めていきます。
中止犯の場合には自己の意思により窃盗を中止したことを積極的にアピールし、刑の減軽または免除の獲得を目指します。
不起訴処分や、より軽い処分を目指す
窃盗の未遂の場合には、被害者に謝罪および被害弁償等をし、被害者から赦しを得られれば不起訴処分の獲得の可能性や、起訴された場合でも刑の減軽を得られる可能性が高くなります。
弁護士は不起訴処分の獲得やより軽い処分を目指して、被疑者にしっかりと反省させ、被害者との間で示談を成立させる活動をします。
まとめ
窃盗の未遂とは、どのような時に認められるのか、窃盗の未遂で逮捕された場合の弁護士活動の内容等について解説しました。
窃盗の未遂で逮捕された場合には、どれだけ早期に弁護士に依頼するかにより事件の結果が大きく変わります。
窃盗の未遂で逮捕された場合には、すぐに弁護士にご相談ください。