刑事事件の身元引受人になるタイミング、やるべきことなどについて解説
刑事事件では、弁護士から身元引受人となることを求められる場合があります。
今回は、どんなタイミングで求められるのか、どんなことをやればいいのか、などについて解説します。
目次
身元引受人とは
身元引受人とは、被疑者(起訴される前の人)や被告人(起訴された人)が逃亡や罪証隠滅行為をしないよう、弁護士から頼まれて引き受けた人のことです。
身元引受人は身柄引受人と呼ばれることもありますが、意味は同じです。
身元引受人は、あくまで、被疑者・被告人が逃亡しないこと、罪証隠滅行為に出ないことを担保するための存在にすぎません。
つまり、弁護士から「最低限、これだけはやってくださいね。」ということは求められるものの、求められたことをやらなかった、守らなかったからといって何らかの法的責任に問われるわけではありません。
ただし、「警察や裁判所に出頭させます。」などと約束した場合は、約束どおり出頭させた方がよいでしょう。
仮に、出頭させない場合、直接的な不利益を被ることになります。
身元引受人についても「身元引受人として適格なのか?」などと疑いの目で見られてしまい、それが巡り巡って本人の不利益(逮捕など)につながる可能性もあります。
また、保釈中に被告人が遵守事項を守らなかった場合は、保釈保証金を没収され、被告人は再び、留置所などに収容されます。
身元引受人になる人
身元引受人になる人は、被疑者・被告人のことをきちんと監督できる人です。
したがって、通常は、同居しているご家族(被疑者・被告人の親など)が身元引受人になる場合が多いです。
もっとも、家族といっても、被疑者・被告人とほとんどコミュニケーションが取れない場合や、そもそも被疑者・被告人が家族に身元引受人となることを拒否している場合などは身元引受人として適格とはいえません。
そのため、家族以外の会社の上司、雇用先の雇用主(社長)、あるいは知人・友人、彼氏・彼女・恋人などが、弁護士から身柄引受人となってくれないか頼まれることがあります。
なお、身柄引受人がいないという場合は、弁護士自らが身元引受人となる場合もあります。
身元引受人が必要となるタイミング
身元引受人が必要となるタイミングは主に以下のとおりです。
なお、弁護士からではなく、警察官からも身元引受人となってくれないか頼まれることがあります。
警察官から頼まれるのは、警察官が在宅事件として捜査を進める場合や逮捕後、送検する前の48時間以内に被疑者を釈放しようとする場合です。
本人が逮捕されたとき
本人が逮捕された際に、接見した弁護士に刑事弁護を依頼し(私選弁護人を選任し)、その弁護士が捜査機関や裁判所に、身柄拘束を継続しないで欲しいという意見書を提出する場合に、身元引受人になることを頼まれます。
身元引受人になることを頼まれる場合は、通常、あとで解説する「身元引受書」にサインを求められます。
そして、弁護士が自ら作成した意見書と身元引受書などの添付資料を捜査機関や裁判所に提出することで、勾留決定前(逮捕から約3日以内)の釈放の可能性を高めることができます。
弁護士が勾留決定に対して不服申し立てをするとき
本人が勾留され、弁護士がその勾留決定に対して不服(準抗告)を申し立てる場合は、身元引受人になることを頼まれます。
勾留決定前から頼まれていた場合は継続して身元引受人になることを頼まれるでしょう。
弁護士は自ら作成した準抗告申立書に身元引受書などの添付書類を裁判所に提出します。
そして、準抗告が認められ、検察官がその判断に対する不服を申し立てない限り、本人は釈放されます。
弁護士が保釈請求するとき
勾留期間中に釈放されない場合でも、起訴後に、弁護士が保釈請求する場合に身元引受人になることを頼まれます。
ここでも、勾留時から頼まれていた場合は継続して身元引受人になることを頼まれるでしょう。
弁護士は自ら作成した保釈請求書に身元引受書などの添付書類を裁判所に提出します。
そして、裁判所から保釈許可決定を受けたうえで、保釈金を納付すれば無事釈放となります。
ただし、検察官から保釈許可決定に対する不服申し立てがなされた場合は、それに対する裁判所の判断を待ち、不服申し立て棄却の判断を待って保釈金を納付します。
身元引受人がやるべきこと
身元引受人がやるべきことは、まず、弁護士から渡された身元引受書に署名・捺印することです。
この身元引受書には、「私が責任を持って被疑者・被告人を監督します。」、「捜査機関(警察、検察)から呼出しを受けた場合は、私が責任を持って本人を出頭させます。」という定型の文章があらかじめ書類に記載されています。
身元引受人になる方は、その書類の内容を確認の上、署名・捺印をします。
署名・捺印した身元引受書は、前述のとおり、弁護人の釈放活動のための資料に使われます。
また、弁護人から釈放された後の生活などについて聴かれる場合もありますので、できることを回答してください。
弁護人が聴取した内容は「上申書」という書類にまとめられ、身元引受書などと一緒に関係機関に提出されます。
仮に、被疑者・被告人が釈放された場合は、約束したとおり被疑者・被告人が逃亡、罪証隠滅行為を行わないように、被疑者・被告人を監督しましょう。
もっとも、監督といっても、四六時中、被疑者・被告人の行動を監視することは不可能ですから、できる限りのことを行えばよいです。
その他、弁護人からやって欲しいことなどを言われることがあると思います。
弁護人は、少しでも被疑者・被告人にとって有利になってほしいとの思いで身元引受人に協力を求めていますので、弁護人から言われたことは可能な限り実践することが、本人の利益にもなります。
身元引受人になることを断りたい場合
身元引受人を立てるかどうか、立てるとして誰を立てるかは、弁護士の判断によります。
弁護士から適任だろうと判断された場合は、弁護士から引き受けてくれないか依頼がくるでしょう。
もっとも、前述のとおり、身元引受人には法的な責任は問われないとはいえ、「身元引受人になることは荷が重たい」という場合は、はっきり断っていただいて構いません。
「荷が重たいな~」、「身元引受人になりたくないな~」という気持ちの中、身元引受人となることを引き受けても本人のためにもなりません。
また、一度、身元引受人になることを引き受けたものの、その後、辞退したいという場合にも弁護人にその旨を明確に伝えましょう。
まとめ
身元引受人は本人の早期釈放や更生にとって大切な存在です。
無理に引き受ける必要はありませんが、引き受けた以上は、責任をもって本人の監督に努めましょう。