実名報道を避けるにはどうすればいい?プライバシー侵害との関係は?
刑事事件の被疑者が逮捕されると、各報道機関は事件の概要を報道します。
この場合、被疑者の名前が実名報道される場合とそうでない場合があります。被疑者の知名度や置かれている立場、そして社会的関心の高い事件や殺人などの凶悪な犯罪は、実名報道されることが多いです。反対に被疑者が未成年者であったり精神障害者であったりする場合や、軽微な犯罪の時は実名報道されないケースが多いです。
今回は、実名報道を避けるにはどうすればよいか、プライバシー侵害との関係について解説します。
目次
実名報道されたことで受けるデメリットは何か?
ここでは、実名報道されたことで受けるデメリットについて解説します。
犯罪行為を広く知られてしまう
実名報道をされることで、日本全国に加害者が犯した犯罪が広く知れ渡ってしまいます。それによって加害者の実名のみならず住んでいる場所、勤務先といった個人情報が不特定多数の人に知られることになります。
刑事事件では、無罪推定原則の下、刑事裁判が終了して有罪が確定するまでは犯罪者として扱われませんが、一般的に逮捕時に実名報道されることが多いため、逮捕=犯罪者というイメージがついてしまいます。実名報道された時点で犯罪者扱いされてしまう点が、大きなデメリットといえます。
仕事を失う可能性が高い
被疑者の実名だけでなく勤務先の会社名も併せて報道された場合には、以下を理由として勤務先から解雇される可能性があります。
- 会社の円滑な運営に支障を及ぼすおそれがあること
- 会社の信用や名誉を毀損したこと
再就職が難しくなる可能性もあります。企業では採用の際にインターネット上で名前を検索して調査することがありますので、実名報道をされれば人事担当者が実名入りの記事を目にする可能性が高くなります。
嫌がらせを受ける可能性がある
実名報道をされることで、不特定多数の人から嫌がらせを受ける可能性があります。
加害者のみならず家族にも迷惑がかかり、子どもがいる場合は学校でいじめに遭う可能性も否定できません。
ネットニュースに永続的に残ってしまう
現在は事件が起きると、いち早くインターネットを通して報道されますが、ネットニュースは永続的に残ってしまうことが多いです。記事の削除を依頼できても、完璧に消すことは難しいといわれています。
特定少年(18歳、19歳)は実名報道される?
ここでは、特定少年(18歳、19歳)の実名報道について解説します。
特定少年とは
犯罪行為をした18歳、19歳のことを特定少年と呼びます。
民法改正により成人年齢は18歳となりましたが、刑事事件においては引き続き少年法が適用され、原則として20歳以上と同様の刑事手続きは適用されません。
しかし、成人年齢が18歳になったことで、選挙権が与えられるなど社会的に責任のある立場が与えられます。このため少年法の適用年齢を18歳に引き下げるべきだという議論がなされました。
このことに鑑み18歳以上の少年は、2022年4月に施行された改正少年法で特定少年と位置づけられ、17歳以下の少年とは異なる特例が定められました。
特定少年が起訴された場合は実名報道の禁止が解除される
改正前の少年法では、罪を犯した時点で少年であれば、その後成人になっても実名報道は禁止されていました。しかし、改正少年法では、特定少年が起訴された場合は、実名報道の禁止が解除されることになりました。
これによって18歳、19歳の少年の氏名、年齢、職業、住所、容姿が報道される可能性があります。
実名報道は被疑者の人権やプライバシー権を侵害しないの?
ここでは、実名報道と被疑者の人権やプライバシー権侵害について解説します。
最高裁は実名報道自体は違法とならないと判断している
日本では、プライバシーと表現の自由のどちらを優先するか考えた場合、表現の自由が優先されているのが実情です。国民には知る権利があり、実名で報道することは社会的意義があるものと判断されているからです。
2010年に愛知県警によって逮捕され、不起訴になった男性が実名報道をされたことで名誉を傷つけられたと訴えた件で、最高裁判所は、実名報道自体はプライバシーの侵害にあたらないとしています(最高裁平成28年9月13日決定)。
被疑者の地位や属性などの具体的事情によっては違法となる場合がある
先述の最高裁判所の判例では、実名報道自体はプライバシーの侵害にあたらないとしつつも、実名報道のすべてがプライバシー侵害にあたらないわけではないとしています。つまり、被疑者の地位や属性、具体的な事情によっては、実名報道が名誉棄損やプライバシーの侵害にあたりうるということです。
これは、事件が実名報道によって公表されるにあたっての利益(国民への周知や予防)と公表されない利益(実名報道された人のプライバシー保護)を比較して判断されるといわれています。
実名報道を避けるにはどうすればよいのか?
ここでは、実名報道を避けるにはどうすればよいかについて解説します。
逮捕を避けるために被害者と示談する
実名報道がなされるタイミングは、被疑者が逮捕された時が多いです。つまり逮捕されることを避けるのが、実名報道を避けるための近道だといえます。
そのためには、被害者との示談を成立させることが重要です。当事者同士で話し合いが終わっていれば、報道することへの公益性は低いと判断されるため、実名報道の可能性が低くなります。
報道機関に実名報道を控えるよう求める意見書を提出する
警察、検察、報道機関に対して実名報道をしないように意見書を提出することで、実名報道を避けられる可能性があります。
実名報道をするか否かの判断は、各報道機関に委ねられているため、意見書を提出すれば必ずしも実名報道を回避できるわけではありませんが、報道機関の理解を得るために積極的に働きかけることが、一定の抑止力となることもあります。
刑事事件を起こしたら、できるだけ早く弁護士に依頼する
刑事事件を起こしたら、できるだけ早く弁護士に対応を依頼することが有効です。
実名報道を避けるためには、まずは逮捕されることを避けなければいけません。その場合、被害者との示談が必須となりますが、当事者同士で示談を成立させるのは、かなり難しいです。弁護士が間に入れば、被害者の加害者に対する感情も緩和される可能性がありますし、警察が捜査に入る前に示談を成立させられることもあります。
警察が捜査に入った後でも、弁護士に対応を依頼すれば意見書の提出をするなど、実名報道がされることがないように適切な対応をとってもらえます。万が一、実名報道をされた場合でも、弁護士に依頼することで記事の削除請求をするなどの対策を検討できます。
刑事事件で逮捕されると、自分一人の力で解決しようとするのは困難です。弁護士に依頼するのはハードルが高いと思わずに、なるべく早く弁護士に相談をして解決の道を探ることが大切です。
まとめ
刑事事件の被疑者として逮捕されると、実名報道をされてしまう可能性があります。
実名で報道するか否かは報道機関に基準が委ねられているため、実名報道を確実に避ける方法は残念ながらありません。弁護士が、報道による不利益が報道に得られる利益より大きいことを示し、捜査機関に対して報道発表を控えてほしい旨上申することで、実名報道を避けられることもあります。
捜査機関が事件の発生を把握する前に被害者と示談ができていれば、刑事事件化やそれにともなう実名報道のリスクを下げられます。実名報道を回避するためには、早期に示談交渉を開始する必要がありますので、できるだけ早く刑事事件に強い弁護士に相談・依頼することをおすすめします。