刑事事件の示談交渉を自分でやる手順と注意点
刑事事件を起こしてしまった場合、弁護士に依頼せずに自分で被害者と示談をしたいと思われる方もいらっしゃると思います。
この記事では、自分で示談交渉をする手順と、自分で示談をする際の注意点等について解説します。
示談交渉を自分でやる手順
示談交渉を自分でやる手順について解説します。
被害者と連絡を取る
示談交渉するためには、被害者と連絡を取らなければなりません。
しかし、以下の場合には自分で示談交渉はできません。
- 被害者が連絡を取ることを拒否した場合
- 自分が逮捕・勾留されている場合 など
また、たとえ被害者が友人・知人だとしても、連絡を取ることを拒否されることもあります。被害者が店舗等会社である場合も拒否されることがあります。
このような場合には弁護士に相談することをお勧めします。
被害者に謝罪をし、示談をしたい旨を伝える
被害者の方と連絡が取れた場合には、まずは謝罪します。示談交渉を始める前提として、被害者への心からの謝罪が必要です。
例えば被害者も悪いと思っている場合、被害者に心から謝罪することは難しいかもしれません。被害者も悪いという態度で示談交渉をしようとすると、被害者の感情を逆なでし、示談の成立が困難になることもあります。
被害者に心から謝罪することが難しいと思った場合には、自分で示談交渉することは避けて、弁護士に相談することをお勧めします。
被害状況を確認する
被害者に謝罪するとともに、被害者が被った損害を弁償する必要があります。店舗から物を盗んだり物を壊したりした場合は、被害額の算定は比較的容易ですが、身体に対する侵害や、精神的な被害の場合には、被害額の算定は困難です。
被害者が考える被害額と、加害者が考える被害額との間に乖離がある場合、被害額をいくらにするかの合意は困難となります。
示談金の交渉でもめる場合には、刑事事件を多数取り扱い、相場をよく知る弁護士に相談することをお勧めします。
示談書作成の意向を伝える
被害者が謝罪を受け入れ、被害弁償ができるようであれば、示談書を作成したい旨を伝えて被害者の了承を得ます。
示談書を作成する
示談書には主に以下のことを記載します。
- 事件の具体的な内容(日時・場所等)
- 示談金額
- 支払方法
- 被害者が加害者を許す文言(宥恕文言)
- 守秘義務
- 清算条項 など
清算条項とは、その事件に関しては示談書に記載してある権利・義務以外には何もないということを明記し、後々トラブルになることを防ぐための条項です。
示談書は、解釈に疑義が生じないように適切な文言で記載しなければなりません。示談書の解釈に疑義が生じるような記載がされていると、せっかく示談が成立したのに後々トラブルが生じる可能性もあります。
示談書の記載事項に不安があるときには自分で作成せずに弁護士に相談することをお勧めします。
示談交渉を自分でやるべき?判断する基準
示談交渉を自分でやるか、弁護士に依頼すべきか迷う時もあると思います。迷った時に何を基準に判断すると良いか、解説します。
示談交渉を自分でできるかもしれないケース
示談交渉を自分でできるかもしれないケースとしては、以下の3つがあります。それぞれ解説します。
被害者の連絡先が分かる場合
被害者の連絡先が分かる場合には、自分で示談交渉が可能です。加害者がきちんと反省して謝罪し、示談をお願いした場合には、示談に応じてくれることもあります。
加害者自身が逮捕・勾留されていない場合
加害者が逮捕・勾留されていると外部との接触は一切できません。逮捕・勾留されていない場合には自分で被害者と示談交渉が可能です。
被害者のゆるしを得られそうな場合
被害者と加害者が長年顔見知りで関係が良好であった場合や、今後も何らかの関係が続いていく場合等では、加害者が真摯に反省し謝罪をすれば被害者のゆるしが得られそうな場合があります。そのような場合には自分で示談交渉が可能です。
被害が比較的軽微であり、今後また加害者になるおそれが非常に低い場合も、真摯に反省の態度を示すことによりゆるしを得られる可能性があるといえるので、自分で示談交渉が可能です。
示談交渉を自分でやらない方がいいケース
示談交渉を自分でやらない方がいい3つのケースについて解説します。
被害者の連絡先が不明な場合
自分で示談交渉をしたくても、相手の連絡先が不明であれば示談交渉はできません。
無理に被害者の連絡先等の情報を得ようとすると、捜査機関に証拠隠滅や威迫のおそれがあると受け止められる可能性があるため、無理やり情報を得ようとしないほうが良いでしょう。
被害者が警察に被害届を提出していた場合、加害者に依頼された弁護士は、捜査機関に被害者の情報を教えてくれるよう働きかけます。
捜査機関が被害者に確認し、被害者が弁護士になら連絡先を教えても良いと言ってくれた場合には弁護士が示談交渉を進められます。
加害者自身が逮捕・勾留されている場合
加害者自身が逮捕・勾留されている場合は、自分が依頼した弁護士を除き、外部の人との連絡はとれません。当然、被害者の方に示談について連絡もできません。
逮捕・勾留されている場合には、加害者自身での示談は不可能なので、示談したい場合には弁護士に依頼しましょう。
被害者の被害感情が大きい場合
被害者の被害感情が大きい時や、被害者と加害者の認識が大きく異なる場合に自分で示談交渉を行うと、被害者を更に怒らせてしまうことがあるので、自分でやらない方が良いでしょう。
示談交渉を自分で進める場合の注意点
示談交渉を自分で進める場合の注意点について解説します。
刑事事件の示談には時間制限がある
刑事事件では、示談はできるだけ早く行うのが望ましいです。
逮捕されると捜査機関による取り調べが行われ、逮捕後48時間以内に検察庁に身柄が送致されます。検察官は身柄を受け取ってから24時間以内に、勾留するかどうかを決定します。
勾留決定がされてしまうと最長20日間、身柄が拘束されてしまう可能性があります。
上述のように、刑事事件では段階ごとに時間制限があります。逮捕後すぐに示談が成立すれば検察官送致前に身柄を解放してもらえる可能性があります。
検察官送致後であっても勾留決定前に示談が成立すれば、最長20日間の身柄拘束を受けずに済む可能性があります。
勾留期間中に示談が成立すれば、勾留期間満了時に不起訴処分を獲得できる可能性があります。
勾留期間が満了すると、検察官は起訴するか不起訴にするか判断します。示談成立は起訴不起訴の判断に大きな影響を及ぼします。
起訴されてしまうと、日本では約99%が有罪になります。刑事事件の示談には時間制限があるので、できるだけ早く示談を成立させましょう。
そもそも交渉を始められない場合もある
示談交渉を自分で進めようと思っても、そもそも交渉を始められない場合があります。以下、解説します。
連絡先を教えてもらえない
そもそも被害者の連絡先がわからなければ示談交渉は始められません。
捜査機関に被害者の情報を教えてもらおうとしても、捜査機関は加害者本人に情報を教えません。
加害者が弁護士に依頼すると、依頼された弁護士は捜査機関に示談したい旨を伝えます。捜査機関は示談交渉のために連絡先を加害者の弁護士に伝えてよいかどうか、被害者に確認します。
被害者が弁護士になら連絡先を伝えても良いと言ってくれれば、示談交渉を始められます。
交渉に応じてもらえない
示談交渉をするため被害者に連絡しても、交渉を拒否されてしまうことがあります。交渉を拒否されたにもかかわらず、交渉に応じるよう被害者を脅してしまったりすると、捜査機関から証人威迫や罪証隠滅のおそれがあると見なされることもあります。
高額な示談金を請求されることがある
被害者は示談に応じる義務はありません。示談に応じることを条件に、高額な示談金を提示してくることがあります。
被害者は被害届の取下げや、刑事告訴しないこと等を約束する代わりに、少しくらい高額請求しても支払うだろうと考えて高額な示談金を提示してくることがあります。
加害者は被害者に対して強く交渉することが難しい立場にあるため、実際には支払えないほど高額な示談金を請求されても、その条件を飲んでしまうこともあります。
示談書の内容が不十分だと期待した結果にならない
自分で作成した示談書に、記載すべき内容を全て記載していなかった場合には、後に以下のようなトラブルにつながります。
- 示談後に被害届を提出された
- 被害届を取り下げてもらえなかった
- 民事裁判を起こされた など
示談交渉を弁護士に任せるべき理由
示談交渉は、自分でもできる場合があります。自分でできる場合であっても弁護士に任せた方がよい理由を解説します。
示談交渉に応じてもらいやすい
加害者本人が被害者と直接会って自分で示談交渉をしたいと思っても、様々な理由で被害者との直接交渉が難しいことがあります。
捜査機関が被害者の連絡を開示してくれる
被害者が見知らぬ他人である場合、被害者の連絡先はわかりません。捜査機関に聞いても加害者には教えてくれません。
加害者から依頼を受けた弁護士が被害者の連絡先を教えてもらえるか捜査機関に確認すると、捜査機関は加害者の弁護士に連絡先を教えてよいかを被害者に確認します。被害者が、弁護士になら連絡先を教えても良いと言ってくれれば、被害者の連絡先が判明し、示談交渉が可能になります。
被害者が示談交渉に応じてくれやすい
被害者は加害者に対し怒りや恐怖心を持っていることが多く、加害者が直接会って示談交渉をしたいと言っても、会うこと自体を拒否される可能性があります。
加害者が被害者に直接会って謝罪したいと言っても、その目的は実は被害届を取り下げてもらうことであったり、刑事処罰を求めないという書面に署名してもらうことであったりします。
加害者が謝罪をおろそかにして示談書の作成や被害届の取り下げを求めた場合、加害者の真摯な謝罪を期待していた被害者は態度を硬化させ、示談に応じることを拒否する可能性があります。
弁護士が間に入り、加害者からの謝罪を伝えることで示談交渉に応じてくれる被害者は多く、また加害者本人が交渉相手ではないので比較的冷静に話し合いに応じてくれます。
適正な示談金で示談できる
被害者は、被害感情の大きさで法外な示談金を請求してくることもあります。弁護士が過去の事例から適正な示談金の金額を被害者に示し、減額を検討してもらうことにより、適正な金額での示談成立を目指せます。
早期釈放・前科回避を期待できる
弁護士が間に入って示談交渉をすることにより、冷静に話し合いができ、早期に和解を得られるため、その後の刑事事件の流れが大きく変わります。
具体的には、示談書には宥恕文言が記載されているため、被害者が加害者を許し、当事者間で事件が解決したことを捜査機関に示すことができ、身柄を解放してもらえる可能性が高くなります。
事案によっては被害届の取下げや、告訴の取下げをしてもらうことにより、不起訴処分になる可能性が高くなります。
起訴された後に示談が成立した場合であっても、執行猶予が期待できます。
まとめ
示談は自分ですることもできますが、以下のようなトラブルが想定されるため、実際には自分ですることはお勧めできません。
- 被害者の感情を逆なでしてしまった
- 法外な金額で示談してしまった
- 適切な文言を入れなかったために後々民事裁判を起こされてしまった など
事件を起こしてしまい、被害者と示談交渉することを検討されている方は、早急に弁護士に相談することをお勧めします。