淫行条例とは?違反にあたる行為・逮捕後の対応
淫行条例(いんこうじょうれい)とは、青少年保護育成条例の中の青少年との淫行を禁止する規定の通称です。淫行とは、性交や性交類似行為のことです。
この記事では、淫行条例の全体像について以下の点を解説します。
- 淫行条例の概要
- 児童買春罪との違い
- 淫行条例違反で逮捕された場合の対応
淫行条例とは
淫行条例の概要を説明します。
青少年保護育成条例の一部
淫行条例は都道府県が定める青少年保護育成条例の規定の一部です。淫行条例という名前の条例があるわけではなく、青少年保護育成条例の中の青少年との淫行を禁止する規定を、通称で淫行条例と呼んでいます。
青少年保護育成条例は地域によっては名称が異なり、青少年健全育成条例と呼ぶ自治体もあれば、子ども総合条例と呼んでいる自治体もあります。
青少年は何歳まで?
何歳までを青少年と定義しているかは全国共通で、18歳未満です。18歳に達していれば、高校3年生でも青少年には該当しません。
禁止事項
青少年との淫行を禁止している点は全国共通ですが、条例の書きぶりは自治体によって多少異なります。以下、禁止されている内容を確認します。
淫行・みだらな性交
東京都は、青少年の健全な育成に関する条例第18条で、何人も、青少年とみだらな性交または性交類似行為を行ってはならないと定めています。
一方、北海道青少年健全育成条例第38条は、何人も、青少年に対し、淫行またはわいせつな行為をしてはならないと定めています。
みだらな性交および淫行が指している内容は同じものと考えられ、最高裁判所は昭和60年に以下の淫行の解釈を示しました。
- 青少年を誘惑し、威迫し、欺罔しまたは困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交または性交類似行為
- 青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交または性交類似行為
この判例は、淫行を広く青少年に対する性行為一般と解すべきではないと指摘しており、青少年との性交渉すべてが処罰対象というわけではありません。判例は、婚約中の青少年またはこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等は、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いとの認識を示しています。
わいせつな行為・性交類似行為
どのような行為がわいせつな行為または性交類似行為に該当するのか、条例は明示していません。
性交類似行為は、性交と同視し得る態様における性的な行為、性交を模して行われる手淫・口淫行為などと考えられています。
また、淫行条例に近い児童買春・児童ポルノ禁止法は、自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門または乳首)を触り、もしくは児童に自己の性器等を触らせることを禁止しています。
淫行条例でも、こうした行為が禁止されていると考えてよいでしょう。
罰則
淫行条例は都道府県が制定しているため、自治体によって罰則に若干の違いはありますが、多くは2年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
時効
淫行条例違反の公訴時効は3年です。犯罪が終わった時点から3年が経過すると、淫行条例違反罪で処罰されなくなります。
淫行条例違反と児童買春罪との違い
児童買春罪は、児童買春・児童ポルノ禁止法によって規定されています。この法律が定める児童も18歳に満たない者を指し、淫行条例の青少年と同様です。
淫行条例違反罪と児童買春罪は何が違うのでしょうか。
対価の支払い
淫行条例違反罪と児童買春罪の大きな違いは、対価の支払いがあるかどうかです。
児童買春・児童ポルノ禁止法第2条は、以下の者に対し、対償を供与し、またはその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等をすることを児童買春と定義しています。
- 児童
- 児童に対する性交等の周旋をした者
- 児童の保護者または児童をその支配下に置いている者
対償の供与については、金銭に限らず物品や食事の提供でも成立する場合があります。
罰則
児童買春罪の法定刑は、5年以下の懲役または300万円以下の罰金と淫行条例違反罪より重いです。
金銭などの提供の見返りに児童と性交等をする点が、淫行条例違反より悪質と考えられているためです。
相手と恋愛関係でも淫行条例で逮捕される?
相手が18歳未満だと、恋愛関係にあっても淫行条例違反で逮捕されるのでしょうか。
恋愛関係でも逮捕される可能性はある
判例は、婚約中の青少年またはこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為は処罰の対象として考え難いと指摘しており、真剣に交際している青少年との性行為で逮捕されることは原則、ありません。
ただし、相手と恋愛関係にあり、同意を得て行った性行為でも、場合によっては逮捕される可能性があります。
相手の親が通報した場合
例えば、交際関係にある青少年の親が警察に通報した場合、淫行条例違反が適用される可能性は高まります。相手の親が交際していることを知らなかったり認めていなかったりするケースでは、逮捕される可能性があります。
年齢差や交際期間次第では逮捕されることも
その他、交際相手との年齢差や交際期間も淫行条例違反を適用する上での判断材料になります。年齢がかけ離れていたり、出会ってすぐに性行為をしたりしているケースは、逮捕されやすいです。
青少年同士の性交は合法?
青少年同士の性交は双方の同意がある限り、原則として処罰の対象にはならないでしょう。
性交の様子を撮影していたり、相手の同意を得ず無理やり性交したりした場合は、別の罪に問われる可能性があります。
相手が13歳未満の場合
相手が13歳未満の場合は、合意があったとしても、あるいは交際関係にあったとしても、強制わいせつ罪か強制性交罪に問われる可能性があります。
強制わいせつ罪
強制わいせつ罪は刑法第176条の規定で、13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をすることを禁止しています。これに違反した場合は6月以上10年以下の懲役が科されます。
同条は、13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も同様とすると定めており、13歳未満の者に対するわいせつな行為に関しては、暴行または脅迫の有無を強制わいせつ罪の成立要件にしていません。
つまり、13歳未満の者にわいせつ行為をすれば、暴行または脅迫の有無にかかわらず、強制わいせつ罪に問われる可能性があるということです。
強制性交罪
強制性交罪の規定も、強制わいせつ罪と同様です。
刑法第177条は、13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いて性交、肛門性交または口腔性交(性交等)をした者は強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処すると定めています。
その上で、13歳未満の者に対し、性交等をした者も同様とすると規定しており、13歳未満の児童と性交すれば、暴行または脅迫の有無にかかわらず、強制性交罪に問われる可能性があります。

相手が18歳未満だと知らなかった場合は?
相手が18歳未満だと知らなかった場合は、淫行条例違反で逮捕されないのでしょうか。
18歳未満と知らなくても逮捕される可能性あり
相手が18歳未満だと知らなかったとしても、逮捕される可能性はあります。
もっとも、相手が18歳未満であることを隠し、18歳以上と嘘をつくなど、18歳未満であることを知り得なかったと認められる場合は、淫行条例違反罪に問われません。
淫行条例違反罪が成立するには、相手が18歳未満と知りながら行為に及んだ故意が認められなければなりません。
問題になるのは、明示的に相手が18歳未満だとわからなくても、「18歳未満かもしれない」と相手が青少年である可能性を予見できた場合です。
未必の故意
外見などから、相手が「18歳未満かもしれない」と思いつつ、「それでもかまわない」と行為に及んだ場合、故意が認められて淫行条例違反で逮捕される可能性があります。
このような確定的とまではいえない程度の故意を未必の故意といい、未必の故意が認められれば淫行条例違反罪は成立します。
淫行で逮捕された事例
淫行で逮捕された事例を紹介します。
女子高校生と淫行 青少年健全育成条例違反で逮捕
男性警察官は、女子高校生(17歳)が18歳未満と知りながらいかがわしい行為をしたとして、青少年健全育成条例違反(淫行)の疑いで逮捕されました。
男性は女子高校生と飲食店で知り合い、警察に匿名の情報提供があったことから、逮捕に至ったということです。
参考:生活安全課の警官、17歳女子高校生に淫行疑い 広島県警が逮捕 | 中国新聞デジタル
「少女に特別な感情」も高校1年女子生徒が警察に被害相談
25歳の男性は高校1年の女子生徒に自宅でみだらな行為をしたとして、青少年保護育成条例違反の疑いで逮捕されました。
男性は児童相談所の職員だったときに、一時保護されていた女子生徒と知り合い、私的に会うようになりました。男性は「少女に特別な感情を持っていた」ということですが、女子生徒が警察に被害相談し、逮捕に至りました。
参考:高1少女に淫行、罰金命令受けたのは…一時保護時に知り合った児相元職員「特別な感情持った」 : 社会
淫行条例違反で逮捕された場合の対応
淫行条例違反で逮捕された場合は、すぐに弁護士に刑事弁護を依頼しましょう。
弁護士に刑事弁護を依頼
弁護士に刑事弁護を依頼すれば、以下のことが期待できます。
接見
1点目は、弁護士による接見です。
淫行条例違反罪は、相手が18歳未満だと知らなくても、未必の故意が認められれば成立します。
取調べで「18歳未満とは知らなかった」と供述しても、「18歳未満かもしれないとは思った」などと話せば、被疑者は不利になります。
取調べに際しては弁護士に相談し、何を供述すべきか助言を得た方がよいでしょう。
早期釈放
弁護士に刑事弁護を依頼すれば、早期の釈放が期待できます。
早期釈放を実現するには、逮捕後に勾留(こうりゅう)されないことが重要です。勾留は被疑者の身柄拘束を継続する刑事手続きで、勾留が認められると身柄拘束は原則10日間、最長で20日間続きます。
勾留は、検察官が裁判所に請求し、裁判官がそれを認めてはじめて可能になるため、弁護士は検察官に勾留請求しないよう働きかけたり、裁判官に勾留請求を却下するよう求めたりします。

不起訴の獲得
不起訴の獲得も重要な弁護目標の1つです。
不起訴を獲得するためには、被害者と示談を成立させることが肝要で、弁護士は被疑者に代わり被害者側と示談交渉を進められます。
検察官は、被疑者を起訴するか不起訴にするかの判断に際して、被害者の処罰感情を考慮します。示談によって、被害者が加害者を許す意思を示していれば、不起訴獲得の可能性は高まります。
まとめ
淫行条例は青少年とのみだらな性交を禁じるもので、相手の同意があっても処罰される可能性があります。相手が18歳未満と知らなくても淫行条例違反罪は成立するおそれがあり、逮捕された場合は早急に弁護士に刑事弁護を依頼した方がよいでしょう。
淫行に関して弁護士にご相談したいことがある方は、ネクスパート法律事務所にお問い合わせください。