拘禁刑とは|いつから?懲役と禁錮の一本化で刑罰はどう変わる?

拘禁刑は、懲役刑と禁錮刑を一本化し、受刑者に応じた必要な作業や指導を行うことで、更正や社会復帰に重点を置いた新しい刑罰です。

刑法の改正に伴い、2025年6月からの施行に向け、一部の刑務所では試験的に導入されるなどしています。拘禁刑の導入により、更正や再犯防止が期待されています。

この記事では、拘禁刑について以下の点をわかりやすく解説します。

  • 拘禁刑の概要と拘禁刑が導入される背景
  • 拘禁刑と懲役刑の違い
  • 拘禁刑で行われる具体的な内容

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拘禁刑とは

拘禁刑(こうきんけい)とは、懲役刑と禁錮刑を一本化し、受刑者に必要な作業や指導を行うことで、更正をうながし、再犯防止を目的とした新しい刑罰です。

(拘禁刑)

第十二条拘禁刑は、無期及び有期とし、有期拘禁刑は、一月以上二十年以下とする。

2拘禁刑は、刑事施設に拘置する。

3拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる

参考:刑法等の一部を改正する法律案 – 法務省

ここでは、拘禁刑についてわかりやすく解説します。

拘禁刑の施行日は2025年6月

拘禁刑が盛り込まれた刑法改正案は、2022年6月13日に国会で可決・成立し、2025年6月1日から施行されます。

拘禁刑の刑期

拘禁刑には、刑期に定めのある有期拘禁刑と、刑期の定めがなく生涯刑が執行される無期拘禁刑があります。

有期拘禁の刑期は、1か月以上20年以下です。ただし、他の刑が加重された場合は最長で30年が上限となります。

拘禁刑が導入される背景

拘禁刑という新しい刑罰が創設されるのは、明治40年の刑法制定以来、115年ぶりのことです。

なぜこのタイミングで新しい刑罰が導入されることになったのか、その背景を以下に解説します。

懲役刑と禁錮刑の違いがないため

刑務所に収容される刑罰には、刑務作業が義務付けられる懲役刑と、義務付けられない禁錮刑があります。

しかし、禁錮刑では、刑務作業が義務付けられていないため、受刑者は1日中居室で過ごし、監視されるだけという状況になります。

何もやることがない状態が苦痛であることから、禁錮刑の受刑者の約8割は自ら志願して刑務作業を行っています。

さらに、2022年において禁錮刑の判決が下された割合はわずか6%に過ぎません。

懲役刑と禁錮刑の違いが実質的にほとんどないことも指摘されていました。

これらの理由から、両者を一本化し、拘禁刑が新たに定められることとなりました。

参考:令和5年版 犯罪白書 第3章 裁判 第2節 確定裁判|法務省

刑務所の高齢化率が増加しているため

法務省によると、2022年における刑務所の70歳以上の高齢受刑者の割合は14%に達しました。

この数字は2003年の4.3%から約3倍に増加しており、刑務所の高齢化が顕著になっています。

体力や認知機能が衰えた高齢受刑者に対して、若い受刑者と同じような刑務作業を一律に科すことが難しくなったことも、拘禁刑が導入された理由です。

参考:令和5年版 犯罪白書 第8章 高齢者犯罪 第2節 処遇 2矯正|法務省

刑務作業で更生指導が受けられないため

ほとんどの受刑者が刑務作業を行っていますが、その一方で、更生のために必要な指導を十分に受けられないという課題も指摘されてきました。

懲役刑では、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせると定められており、刑務作業をなくすことはできません。

刑務作業に割かれる時間は1日約8時間です。そのため、更正に必要なプログラムや指導の時間を確保するのが難しい状況でした。

法務省が行った受刑者の刑務所に関する意識調査では、刑務作業がある方がよいと回答した受刑者の割合は77.5%でした。

しかし、理由としてもっとも多かったのは、時間が早く過ぎる(45.9%)で、勤労の習慣や意欲に繋がると回答した割合はわずか9.8%。

喜びや充足感があると回答したのは5.8%と少なく、刑務作業の意義を疑問視する声もありました。

刑務作業は、受刑者の社会生活に向けた訓練として重要な一方で、再犯を防止するために、より個別化された指導が必要とされています。

再犯者率が増加しているため

拘禁刑の導入には、再犯者率の増加も大きな要因とされています。再犯者率は2003年の35.6%から2022年には47.9%まで上昇しました。

再犯者率引用:令和5年版 犯罪白書 第5章 再犯・再非行 第1章 検挙 2 刑法犯により検挙された再犯者|法務省

刑務作業だけではなく、更生プログラムや指導など、受刑者の処遇を充実させる必要性があるとする議論もありました。

拘禁刑以外の刑罰の種類と内容

拘禁刑について解説する前に、現状の拘禁刑以外の刑罰の種類とその内容について解説します。

刑罰とは、有罪判決を受けた人に対し、命や自由、財産を強制的に制限またははく奪するものです。

刑罰の目的は、犯罪を抑止するとともに、処罰を通じて犯人の更正を図ることにあります。

刑罰の重さは、死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料の順で、死刑がもっとも重い罰となります。

刑罰

生命刑|死刑

死刑は、日本でもっとも重い刑罰であり、命を奪うことで執行される生命刑です。

(死刑)

第十一条死刑は、刑事施設内において、絞首して執行する。

2死刑の言渡しを受けた者は、その執行に至るまで刑事施設に拘置する。

引用:刑法第11条 – e-Gov

例えば、死刑が定められている犯罪は以下のものが挙げられます。

  • 殺人罪
  • 強盗致死罪
  • 強盗・不同意性交等致死罪
  • 現住建造物等放火罪 など

自由刑|懲役・禁錮

懲役刑や禁錮刑は、刑務所に収容し自由を奪う自由刑に分類されます。懲役刑や禁錮刑の他にも、拘留があります。

それぞれの違いは以下のとおりです。

懲役刑 刑務所に収容して刑務作業が義務付けられる
禁錮刑 刑務所に拘置されるが、刑務作業は義務付けられない
拘留 1日以上30日未満、刑務所に拘置される

懲役刑と禁錮刑は、拘禁刑と同様に有期刑と無期刑があります。

有期刑の期間も拘禁刑と同様に、1か月以上20年以下、他の罪が加重されて上限は30年です。

無期懲役や無期禁錮は、生涯にわたり刑が執行される刑罰です。仮釈放の制度もありますが、仮釈放される割合は低い状況です。

(懲役)

第十二条懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。

2懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。

(禁錮)

第十三条禁錮は、無期及び有期とし、有期禁錮は、一月以上二十年以下とする。

2禁錮は、刑事施設に拘置する。

引用:刑法第12条、13条 – e-Gov

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財産刑|罰金

罰金刑は、罰金を支払わせることで財産を奪う財産刑です。罰金刑の他にも、科料があります。違いは以下のとおりです。

罰金刑 1万円以上の罰金
科料 1,000円以上1万円未満の罰金

罰金刑は原則として一括払いです。支払いができない場合は労役場留置となり、強制労働を強いられます。

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その他

刑罰には、その他没収というものがあります。没収とは、裁判所の裁量で犯罪に関するものの所有権を奪い、国庫に帰属させる刑罰です。

没収は付加刑とされ、単独で科されることはありません。

没収の対象となるのは、覚せい剤などの薬物や、収賄罪で得た賄賂、殺人で使用した凶器、犯罪による報酬などが挙げられます。

(没収)

第十九条次に掲げる物は、没収することができる。

一犯罪行為を組成した物

二犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物

三犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物

四前号に掲げる物の対価として得た物

引用:刑法第19条 – e-Gov

拘禁刑と懲役刑との違い

懲役刑では刑務作業が科される

前述のとおり、懲役刑では以下のような刑務作業が義務付けられています。

自営作業 刑務所の炊事、洗濯、建物の修復、経理などの刑務所の運営に必要な作業
生産作業 木工、印刷、洋裁、金属などで物品を制作や労務の提供
社会貢献作業 除雪や除草、医療ガウンの制作など社会に貢献する作業
職業訓練 美容師、介護、情報処理、自動車整備、溶接などの職業訓練

参考:刑務作業 – 法務省

拘禁刑は受刑者に応じた処遇になる

拘禁刑では、刑務作業に加えて受刑者の状況に応じた指導が行われる予定です。具体例として以下のようなプログラムが挙げられます。

  • 高齢受刑者への運動トレーニング
  • 若年受刑者への教育指導
  • 薬物依存や性犯罪に対する更生プログラム など

これらの指導の割合についてはわかりませんが、刑務作業と並行して実施される予定です。具体的な内容については詳しく後述します。

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拘禁刑の内容|刑罰はどう変わる?

施行時点で懲役刑などを受けている場合は、引き続き、その刑が執行されます。

拘禁刑の導入で、刑罰はどのように変化するのでしょうか。

受刑者の特性に応じた処遇が可能となるため、再犯防止や更生が期待されています。

高齢者のための機能向上作業

刑務所における高齢者の増加は深刻な課題となっています。

このため、一部の刑務所では既に介護福祉士や作業療法士の指導のもと、機能向上作業として認知機能トレーニングを導入しています。

具体例として、医師や介護福祉士の指導のもと、マシンを使ったトレーニングや手先を使うリハビリ作業を行う受刑者がいます。

拘禁刑の施行後は、こうした高齢受刑者向けプログラムがさらに拡充されると考えられます。

社会復帰のための福祉支援課程

課題となっているのは刑務所の高齢化率だけではありません。

矯正局によると、受刑者の精神障害の割合は2013年の8.6%から、2022年には10.7%に増加しています。

知的障害や精神疾患を抱えている受刑者には、社会復帰のための福祉支援が行われると考えられます。

具体的には以下の支援内容が挙げられます。

  • 脳を活性化させ認知機能を高めるトレーニング
  • 精神状態を安定させるためのトレーニング
  • 刑務所の職員と会話をし、自分の考えを相手に伝える対人コミュニケーショントレーニング

鳥取刑務所や長崎刑務所では既に試験導入されており、2025年6月から全国で実施される予定です。

参考:被収容者生活関連業務の維持 – 矯正局
知的障害受刑者集め支援 法務省、再犯防止へモデル事業 – 日本経済新聞
「拘禁刑」知的障害などの受刑者社会復帰支援プログラム公開 – NHK

就労のための学力向上・技術習得支援

26歳未満で犯罪傾向が進んでいない若年受刑者に対しては、スムーズな社会復帰をうながす学力向上・技術習得支援が行われるとされています。

少年院で培われた矯正教育の知見を活用し、以下の支援が計画されています。

  • 継続的な個別面接や日記指導
  • 基礎学力向上のための勉強や高卒認定試験の指導
  • 被害者の感情を理解するための指導
  • 行動的成果指導、対人関係円滑化指導など

参考:若年受刑者ユニット型施設の矯正処遇 – 法務省

対人スキル向上のための刑務作業

刑務作業においても、対人スキルを育成する取り組みが進められています。

例えば、高松刑務所では洋服の裁縫作業を通じて受刑者同士が意見を交換しながら作業を進める形式が導入され、作業後のミーティングで自発的な意見が増えたという成果が報告されています。

法務省が2019年に行った協力雇用主に対するアンケート調査では、出所後の就職者の約40%が半年から1年以内に仕事をやめている実態が明らかになっています。

その理由には、意欲の乏しさ(34.9%)や円滑な人間関係が築けない(34.4%)などが挙げられます。

今後は、刑務作業を通じて勤労意欲や対人スキルを育成し、更生をうながすことが期待されています。

参考:受刑者にコミュ力訓練や筋トレ・脳トレ、社会復帰重視の取り組み進む…来年6月の「拘禁刑」導入を前に – 読売新聞オンライン

依存症のための更正プログラム

薬物犯罪やギャンブル依存などが原因で犯罪を行った人や、性犯罪者などに対しては、依存症への更正プログラムが実施されることが予定されています。

現在の刑務所でも、NPOと連携するなどした依存症回復プログラムが行われています。拘禁刑の導入により、十分な時間を確保してより効果的なプログラムの実施が期待されます。

拘禁刑のデメリットや課題

拘禁刑の施行にあたっては、以下のような課題が指摘されています。

  • 受刑者の特性に合わせた柔軟な指導を行うには、医療、介護、福祉、心理学などの専門スキルを持った人材確保が必要
  • 既存の刑務官も専門家の職員と連携して、受刑者に対する対応を大きく変化させる必要がある
  • 刑務作業と指導の割合をどの程度にするのか
  • 出所後の生活に困らないように、刑務作業の報奨金の金額をいくらに設定するのか など

さらに、刑期満了で釈放される出所者の47.9%は帰る場所がなく、再犯を繰り返して刑務所に戻る現状があります。

そのため、刑務所内での処遇改善に加え、出所後の家や就職のサポート、受刑者の雇用に意欲的な企業とのマッチングなどの課題もあります。

拘禁刑は2025年6月から施行されるため、これからさまざまな課題が出てくるかもしれません。

参考:刑務所出所者等の居住支援の必要性について – 関東地方更正保護委員会

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まとめ

一般社会で生活する多くの人々は、犯罪に手を染めず、真面目に生きています。

そのため、中には、刑務作業が減り、犯罪者が楽な処遇となるのは納得できないと感じる人もいるかもしれません。

しかし、受刑者の特性に合わせた指導を行わなければ、社会から脱落した人々が再犯を繰り返す悪循環を断ち切ることはできません。

刑務所内の処遇改善だけでなく、犯罪に走らないセーフティーネットの強化、出所後に社会復帰できるような支援も併せて取り組む必要があります。

そして、社会全体がやり直そうとしている人を受け入れる姿勢を持つことが、再犯防止のために何より重要です。

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