被疑者ノートとは? 不当な取り調べを避けるために必要な知識を解説
被疑者として逮捕・勾留されると、警察官あるいは検察官から事件についての取り調べを受けます。
取り調べの時の状況を被疑者本人に記録してもらうノートのことを被疑者ノートといいます。
取り調べノートに記録をすることで、不当な取り調べから身を守ることができます。
ここでは被疑者ノートの概要や使い方等を解説します。
目次
被疑者ノートの概要
被疑者ノートは取り調べの可視化に向けた日本弁護士連合会(日弁連)の活動の一環で、日弁連が作成し各地の弁護士会に配布しています。
日本語版には、誰でも読めるように漢字にフリガナが振ってあります。日本語がわからない被疑者のためには、外国語版(英語・韓国語・中国語簡体字・ポルトガル語・ロシア語等)もあります。
被疑者ノートは被疑者が警察や検察から不当な取り調べを受けることのないようにと弁護士たちが知恵を寄せ合い、作成されました。
ここでは、被疑者ノートの概要について解説します。
被疑者ノートとは何か?
被疑者ノートとは、逮捕・勾留された被疑者本人が自分で取り調べの状況を記録するノートです。
取り調べは密室で行われるため、仮に違法な取り調べがなされたとしても、それを証明することは困難です。
被疑者ノートに取り調べについて詳細な記録をしておくと、のちの刑事裁判で、取り調べ時に暴行されたり脅迫を受けたりといった「不当な取り調べがあった事実」を立証できるケースがあります。
不当な取り調べがあった事実が立証できると、それによって作成された不利な内容の供述調書の証拠能力が否定され、証拠として用いることができなくなるなど、被疑者にメリットがあります。
どうやって手に入れるのか?
被疑者ノートは通常、被疑者あるいはその家族から依頼を受けた弁護士が差し入れますが、
ベテランの弁護士の中には被疑者ノートの存在を知らない人もいます。
弁護士には被疑者ノートを差し入れる義務はないので、もしも弁護士が差し入れてくれない場合には、被疑者の方から差し入れてくれるよう頼むといいでしょう。
被疑者ノートには、今後の手続きの流れや、取り調べに対する心構えなども記載されているので、弁護士から差し入れてもらったらすぐに一通り目を通しましょう。
被疑者ノートのメリット4つ
被疑者ノートには、被疑者本人がどのような取り調べがされたかを記載するので、それを見た弁護士にも取り調べの状況がわかります。
ここでは、被疑者ノートを作成するメリットを解説します。
- 取り調べに対する助言をしてもらえる
- 違法・不当な捜査の抑制
- 被疑者自身の供述の記録
- 弁護士が現状を把握できる
取り調べに対する助言をしてもらえる
被疑者ノートに取調官の言ったことが記載されていれば、警察官や検察官がどのような取り調べをしているかが分かります。それに対してどのように供述すると良いか助言をしてもらえます。
取調官からの質問に対する回答は後の裁判で証拠になるので、取り調べの内容を被疑者ノートに記録し、弁護士に助言をもらうことは重要です。
違法・不当な捜査の抑制
被疑者ノートの記載から違法・不当な捜査が行われていることが明らかになった時には、弁護士が警察署長や捜査を指揮している検察官、その上司に対して抗議します。
取り調べの状況を弁護士がチェックしていることがわかると、取調官の対応がソフトになることもあります。
被疑者自身の供述の記録
被疑者がノートに取り調べの内容を細かく記載しておくと、取り調べの際にどのような主張をしていたのか証明できます。
また、取り調べを何度も受けると、細かい部分で自分がどう答えたかわからなくなることもあります。それにより裁判で供述の矛盾を指摘されてしまうことがありますが、被疑者ノートに取り調べの内容を日々記載し、記憶を整理しておけば、そのようなこともなくなります。
弁護士が現状を把握できる
被疑者ノートに取調官の発言が細かく記載されていると、その発言から、捜査機関がどのようなことに関心を示しているのか、どのような対応を考えているのかを把握できます。
被疑者の主張内容も細かく記載されていると、被疑者の主張や言い分も把握でき、捜査機関と被疑者がどこで対立しているか等の状況がわかります。短い接見時間を有効に使うためにも、取り調べの内容を被疑者ノートに記録しておきましょう。
被疑者ノートへの記載内容と効果的な使い方
被疑者ノートにどのようなことを記載しておくと良いのか、また、被疑者ノートの効果的な使い方について解説していきます。
被疑者ノートには何を記載すれば良いのか
被疑者ノートには記載すべきことがあらかじめ印刷されています。チェックを入れればよいだけの部分もあり、記載しやすいようにできています。
被疑者ノートには以下の内容を記載するようになっています。
- 取り調べ日および天候
- 取り調べの時間(何時~何時まで)
- 取り調べの場所
- 取調官の氏名
- 取り調べ事項
- 具体的にどのようなことを聞かれたのか
- 取調官の具体的な関心事項
- 取り調べ方法
- 黙秘権は告知されたか
- 録画は行われたか
- 暴行・脅迫は行われなかったか
- 自白した方が有利になるなど言われなかったか
- 取調官の態度や言葉
- 取り調べに対する被疑者の対応
- 黙秘したのか、否認したのか、自供したのか
- 具体的な供述内容
- 供述調書について
- 供述調書の作成がされたか
- 内容の読み聞かせがあったか
- 読み聞かせられた内容が理解できたか
- 事実と異なる点の訂正を求めたか
- 訂正に応じてくれたか
- 訂正されなかった点はあるか
- 供述調書に署名捺印をしたか
- 取り調べ時の健康状態
- 弁護人について話題になったか
- その他(雑談内容など)
どんな方でも簡単に記録できるようになっています。
被疑者ノートをうまく活用する方法
被疑者ノートをうまく活用するためには、まず被疑者ノートを一通り読んでおくのが良いでしょう。今後の取り調べの流れや、取り調べに応じる時の心構えなどが記載されているので、あらかじめ取り調べに対する準備ができます。
取り調べが終わった後にどのようなことをノートに記載するか事前に頭に入れておくと、取り調べの時の取調官の言葉などが記憶に残りやすくなり、どんなことを言われたか等、記載しやすくなります。
被疑者ノートは弁護士との意思疎通を図りやすくする手段でもあります。被疑者の言い分を接見時に聞き取るだけでは時間に限りがあり、十分に聞き取りが出来ない場合もあります。
被疑者の言い分、主張内容を被疑者ノートに記載し、弁護士と今後の対応方法等について相談しましょう。
被疑者ノートに記入するコツ
被疑者ノートに記入をする際のコツをお伝えします。
取調べ後すぐに記入する
被疑者ノートは毎日、取り調べが終わった後すぐに記入することが重要です。記憶が鮮明なうちに、例えば以下のようなことを覚えている範囲で記入しましょう。
- 取調官に言われたこと
- 取調官から聞かれたこと
- 取調官の態度 など
その他、どんなに些細なことでも記入しましょう。
なるべく具体的に記入する
被疑者ノートには、取調官の言葉や態度等を、なるべく具体的に記入します。自分の言った言葉も思い出せる限り書き留めておきます。そうすることで、のちに裁判になった際に、「不当な取り調べがあった」ことを主張できる場合があります。
被疑者ノートに記入する際の注意点
被疑者ノートに記入をする際の注意点をお伝えします。
嘘を書かない
被疑者ノートには嘘を書いてはいけません。脚色してもいけません。あったことを、ありのままに記載します。記憶が曖昧な場合には、覚えている範囲で書くだけにし、勝手に創作をしないようにします。
裁判になったときに証拠として認めてもらうためには、被疑者ノートの記載内容に信用性があることが必須です。
1か所でも嘘を記載してしまうと、被疑者ノートの全体の信用性がなくなってしまうため、真実の部分も信用してもらえなくなってしまいます。
また、嘘を書く被疑者が現れると、正直に書いている他の被疑者にも迷惑がかかるので、嘘を書いてはいけません。
わからないことは弁護士に聞く
そもそも被疑者ノートに書かれている内容がわからない場合や、定型的に記載されている内容とは違うことを書きたいときなど、被疑者ノートについて不明点がある場合には、遠慮せずに弁護士に確認しましょう。
なくなったら次のノートを持ってきてもらう
被疑者ノートには毎日記載することが大事です。身柄拘束が長くなったり書きたいことがたくさんあったりすると書く場所がなくなります。なくなる前に弁護士に依頼して、持ってきてもらいましょう。
被疑者ノートは日弁連から無償で配布されています。遠慮する必要は全くありません。取り調べの際に気づいたことがあればどんどんノートに書き入れて、状況を詳細に弁護士に伝えるようにしましょう。
まとめ|被疑者ノートの差し入れは弁護士にお任せください
被疑者ノートは日弁連が発行しているため、被疑者が被疑者ノートを入手するのは、通常は弁護士が接見に来たときです。
ご家族が日弁連のホームページからダウンロードして被疑者に差し入れも可能ですが、被疑者に接見禁止命令が出されている場合には家族でも被疑者と面会できません。弁護士であればいつでも接見できるので、すぐに被疑者ノートを差し入れできます。
弁護士に被疑者ノートの差し入れを依頼すると、弁護士が接見に来てその場で取り調べに対する対処方法のアドバイスももらえ、今後の流れについての確認等もできます。
早くから弁護士に依頼すると、示談に向けた交渉の開始や、身柄解放をめざした活動の開始が早くなり、不起訴処分獲得の可能性が高くなります。
不起訴処分になれば前科はつきません。刑事事件でお困りの方は、被疑者ノートの差入れとともに、刑事事件の対応を早急に弁護士に依頼しましょう。