不同意わいせつ罪とは|改正の概要や該当する行為をわかりやすく解説
2023年7月13日、性犯罪に関する規定を見直した改正刑法が施行されました。
今回の改正により、従来の強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪が統合され、不同意わいせつ罪が新設されました。
この記事では、不同意わいせつ罪の構成要件や改正の概要を解説します。
不同意わいせつ罪とは
ここでは、不同意わいせつ罪の概要について解説します。
不同意わいせつ罪の構成要件
不同意わいせつ罪は、1⃣または2⃣によって、わいせつな行為をした場合に成立します。
- 同意しない意思の形成、表明、全うが困難な状態にさせること(あるいはその状態に乗じること)
- わいせつな行為ではないと誤信させたり、人違いをさせたりすること(またはその状態に乗じること)
上記1⃣または2⃣に当たらない場合でも、次の場合には、不同意わいせつ罪が成立します。
- 相手が13歳未満の子どもである場合
- 相手が13歳以上16歳未満で、行為者が5歳以上年長である場合
以下で詳しく説明します。
同意しない意思の形成、表明、全うが困難な状態にさせること
同意しない意思の形成、表明、全うが困難な状態とは、性的行為をするかどうかを考えたり、決めたりするきっかけや能力が不足していて、性的行為をしない、したくないという意思を持つこと自体が難しい状態を指します。
つまり、「嫌」と思えない、「嫌」と言えない、「嫌」を貫き通せない状態です。
この状態を引き起こす原因として、次の8類型の行為・事由が例示されています(刑法176条1項)。
- 暴行又は脅迫
- 心身の障害
- アルコール又は薬物の影響
- 睡眠その他の意識不明瞭
- 同意しない意思を形成、表明又は全うするいとまの不存在
- 予想と異なる事態との直面に起因する恐怖又は驚愕
- 虐待に起因する心理的反応
- 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮
上記1⃣の同意しない意思を形成、表明又は全うするいとまの不存在とは、いわゆる不意打ちの状態で、女性のスカートの中をいきなり触ることや、女性の胸をいきなりつかむ場合などが想定されます。
2⃣の予想と異なる事態との直面に起因する恐怖又は驚愕とは、いわゆるフリーズの状態です。予想外の又は予想を超える事態に直面したことで、自分の身に危害が加わると考え、極度に不安になったり、強く動揺して平静を失ったりするなど、「頭が真っ白になって、身動きが取れなかった」状態が想定されます。
3⃣の経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮とは、雇用主と従業員、上司と部下、指導者とスポーツ選手など、弱い立場にある人が、性的行為を拒むことで自らやその親族等に不利益が及ぶことを不安に思うことなどが想定されます。
わいせつな行為と誤信させたり、人違いをさせたりすること
わいせつな行為と誤信させたり、人違いをさせたりすることとは、性的行為への無知に乗じたり、暗闇やアイマスク着用などで人違いをさせて性的行為をさせたりするケースです。
相手が16歳未満の子どもである場合
性的行為について有効に自由な意思決定をするためには、次の能力が必要だと考えられています。
- 行為の性的意味を認識する能力
- 行為の相手との関係で、その行為が自分に与える影響について自律的に考えて理解し、その結果に基づいて相手に対処する能力
13歳未満には、上記1⃣の能力が備わっておらず、13歳以上16歳未満は、1⃣の能力が一律にないとは言えないものの、2⃣の能力が十分に備わっているとは言えないと考えられます。
これにより、16歳未満の者に対して、わいせつな行為をすれば、その同意の有無を問わず、不同意性交罪が成立することになりました。
ただし、同世代間の自由な意思決定による性的行為を処罰の対象から除外するため、13歳以上16歳未満の者との性的行為については、行為者が5歳以上年長である場合に限って、処罰の対象となります。
しかし、行為者と相手の年齢差が5歳未満であれば常に処罰の対象とならないわけではありません。例えば、18歳の成年と15歳の者との間で性的行為が行われた場合でも、暴行又は脅迫、障害、不意打ち、フリーズ、虐待、立場による影響力などにより、同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にさせ(あるいはその状態に乗じて)、わいせつな行為をした場合は、不同意わいせつ罪として処罰の対象となり得ます。
わいせつな行為とは?
わいせつな行為とは、性欲を刺激、興奮または満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為です。
具体的には、無理やりキスをする、抱き着く、乳房に触るなどの行為が典型的です。
性交等もわいせつな行為に当たりますが、同意なく性交等をした場合は、不同意性交等罪が成立し、不同意わいせつ罪は成立しません。
不同意わいせつ罪の施行はいつから?
不同意わいせつ罪を含む性犯罪の規定は、2023年7月13日から施行されます。
よって、同日以降に発生した性犯罪は、改正刑法が適用されます。
不同意わいせつ罪では、強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪と何が変わった?
ここでは、不同意わいせつ罪と、従来の強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪との変更点を解説します。
暴行・脅迫、心神喪失・抗拒不能の要件が見直された
従来の強制わいせつ罪は、暴行・脅迫を要件とし、暴行・脅迫以外の手段を用いた場合に適用が問題となる準強制わいせつ罪は、被害者の心身喪失・抗拒不能を要件としていました。
つまり、被害者において抵抗が著しく困難な状態だったと認められることが必要でした。
そのため、被害者が抵抗困難とは客観的に認められない事例や、被害者の内心においては不同意であったとしても、外形上そのことを行為者が認識する契機がなかった場合には、処罰の対象から除外されることもありました。
そこで、これらの要件を見直し、性的行為に同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にさせた(あるいはその状態に乗じた)ことを、中核とした要件に改められました。
配偶者間の行為への適用が明文化された
改正前の強制わいせつ罪においても、行為者と相手方との間に婚姻関係があっても成立すると解されていましたが、これを明確にするため、不同意わいせつ罪の条文に「婚姻関係の有無にかかわらず」との文言が加えられました。
よって、不同意わいせつ罪は、要件に該当すれば配偶者やパートナーの間でも成立します。
性交同意年齢が引き上げられた
改正前の強制性交等罪は、相手方が13歳未満の場合は、その同意の有無に問わず成立するとされていました。
改正後の不同意わいせつ罪では、性交同意年齢(有効な同意をなし得る年齢)を16歳に引き上げました。
公訴時効期間が延長された|不同意わいせつ罪の公訴時効
従来の強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪の公訴時効期間は、7年でした。
しかし、性犯罪は、その性質上、次の理由からほかの犯罪に比べて、被害が表に出にくいという特性があります。
- 羞恥心や自責の念などにより被害申告が難しいこと
- 被害者の周りの人たちも被害に気付きにくいこと
そのため、刑事訴追が事実上可能になる前に公訴時効が完成してしまい、犯人を処罰できなくなるという不当な事態が生じる場合があると考えられます。
そこで、今回の改正法では、性犯罪について訴追の可能性を適切に確保するため、性犯罪についての公訴時効期間を5年延長することとされました。
不同意わいせつ罪の公訴時効期間は、12年となりました。
なお、心身ともに未熟な子どもや若年者は、行為の意味を理解したり、犯罪被害と認識したりするために長期間を要する場合が多く、特に被害を申告することが難しいと考えられます。
そのため、性犯罪の被害者が18歳未満である場合には、犯罪が終わったときから被害者が18歳になる日までの期間を加えることにより、公訴時効期間を更に延長することとされました。
不同意わいせつ罪の罰則
ここでは、不同意わいせつ罪の罰則について解説します。
不同意わいせつ罪の法定刑は、6か月以上10年以下の拘禁刑です。
拘禁刑とは、2022年6月17日公布の改正刑法により、従来の懲役と禁固を一本化したものとして創設された刑で、2025年6月16日まで(公布から3年以内)に施行される予定になっています。
施行日より前にした不同意わいせつに対しては、懲役刑が適用されます。
不同意わいせつ事件における主な弁護活動
ここでは、不同意わいせつ事件における主な弁護活動を解説します。
取り調べに対する助言
逮捕された方は、社会から隔離され誰とも会えない状況の中で捜査機関の厳しい取り調べを受けます。逮捕されない場合でも、任意同行下の取り調べにおいて、警察官や検察官からの圧力に負け、自分の意に反した供述をしたり、不利な供述調書を作成されたりするおそれがあります。
弁護士であれば、不用意な発言で後の処分や裁判で不利な立場に立たされぬよう、取り調べへの対応方法をアドバイスできます。
取調べの際、暴行・脅迫・利益誘導はなかったかを確認し、違法な取り調べがあった場合は、弁護士が厳重に抗議し、取り調べ官を交代させるなどの措置を講じます。
身柄拘束からの解放に向けた活動
逮捕された場合は、被疑者本人やご家族の日常生活への影響を最小限に抑えるため、弁護士は捜査機関や裁判官に身柄拘束の必要性がないことを主張し、早期身柄解放を目指します。
逮捕後72時間以内は、捜査機関との交渉・背景事情や家族環境に関する意見交換を行い、検察官が勾留請求をしないよう意見書等を提出して働きかけます。
勾留請求された場合も、裁判官が勾留決定をしないよう、家族の身元引受書・上申書・意見書を提出して働きかけたり、勾留決定を取り消してもらうために準抗告を申立てたりして、身柄拘束からの早期解放のために尽力します。
被害者との示談交渉
被害者のいる性犯罪事件では、被害者との示談交渉の結果がその後の処分を左右することも少なくありません。被害者との示談が成立し、被害者の許しを得られれば、早期釈放や不起訴・減刑を目指しやすくなります。
弁護士は、警察または検察官を介して、被害者に示談の申し入れを行います。
被害者が示談を受け入れる意向を示せば、警察または検察官から被害者の連絡先を教えてもらい、被害者に謝罪したうえで、被害弁償のための示談交渉を開始します。
被害の程度や被害者の処罰感情を踏まえて、過去の事例や判例から適切な金額の示談金を提示して交渉を進めることにより、謝罪や示談を受け入れてもらえる可能性が高まります。
被害者が加害者を許し処罰を求めない旨の条項(宥恕条項)が設けた示談書を取り交わせられれば、加害者にとってその後の処分に有利に働きます。
被害者が謝罪や被害弁償を受け入れる意向を示さない場合には、贖罪(しょくざい)寄付等により、不起訴処分や執行猶予付き判決などの結果に繋げるための弁護活動を行います。
不起訴処分や執行猶予獲得を目指した活動
不起訴処分を得るためには、逮捕後23日以内の弁護活動が重要です。
弁護士は、限られた時間内(逮捕後23日以内)で、不起訴処分を獲得するために以下のような弁護活動を行います。
- 被害者との示談交渉
- 捜査機関への示談書・嘆願書の提出
- 監督体制の整備・身元引受人の確保
- 捜査機関との交渉・面談・意見書の提出
起訴された場合、自白事件(罪を認める場合)では、被害者との示談成立や本人の反省状況、再犯可能性がないことを示して、執行猶予を獲得するにあたって有利な情報を裁判官にアピールします。
否認事件(無罪を主張する場合)では、検察官が有罪を証明するために提出した証拠が信用できないこと、不十分であること主張します。
円滑な社会復帰や再犯防止のための各種サポート
弁護士は、逮捕等の事実を職場に知られないようにするために、1日でも早く職場復帰するために全力を尽くします。
長期間の身柄拘束が予想される場合には、ご本人の希望に応じて勤務先に対し復帰に向けた折衝等の支援を行います。弁護士の適切な交渉により、職場の方に情状証人として公判に出廷してもらえたり、勤務の継続を約束してもらえたりすることもあります。
再犯防止ための対策や常習的な性犯罪等における専門医療機関や福祉施設の紹介等、個々のご事情に合わせた最適な更生支援・環境調整を行って真の事件解決を目指します。
まとめ
ネクスパート法律事務所では、刑事事件の初回法律相談を無料で承っております。
逮捕前にご相談いただければ、今後の見通しや任意の事情聴取や取調べで不利な状況を作らないために必要な情報をお伝えできます。ご依頼を受けた弁護士が逮捕の必要性がないことを捜査機関に訴えることで、逮捕を回避できる可能性もあります。
身近な方が逮捕された場合は、ご家族からも弁護士にご相談・ご依頼いただけます。ご不安を解消する助けになるよう、今後の見通しや弁護人の役割についても詳しくご説明させていただきます。
不同意わいせつ罪にあたる行為をしてしまった方、ご自身の行為が不同意わいせつ罪に当たるのか不安な方、既に逮捕された方のご家族の方は、性犯罪事件の解決実績が豊富なネクスパート法律事務所にご相談ください。