不同意性交等罪とは|構成要件や法改正のポイントをわかりやすく解説
2023年6月23日、刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律が公布され、一部を除き同年7月13日に施行されました。
今回の改正では、性犯罪に関する規定が大幅に見直され、従来の強制性交等罪と準強制性交等罪を統合して、不同意性交等罪と名称が変更され、処罰対象となる8つの具体的な行為や状況が例示されました。
この記事では、不同意性交等罪の構成要件や改正の概要を解説します。
目次
不同意性交等罪とは
ここでは、不同意性交等罪の構成要件や施行日について解説します。
不同意性交等罪の構成要件
不同意性交等罪は、下表のいずれかを原因として、性的行為に同意しない意思を形成したり、表明したり、全うすることが困難な状態にさせ(あるいはその状態に乗じて)、性交等をした場合に成立します。
性的行為に同意しない意思を形成したり、表明したり、全うすることが困難な状態とは、「No」と思うこと、「No」ということ、「No」をつらぬくことが難しい状態です。
行為・事由 | 詳細 | |
① | 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと | 人の身体に向けられた不法な有形力の行使、他人を畏怖させるような害悪の告知など |
② | 心身の障害を生じさせること又はそれがあること | 心身の障害とは、身体障害、知的障害、発達障害及び精神障害であり、一時的なものを含む |
③ | アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること | 飲酒、薬物の投与・服用 |
④ | 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること | その他の意識が明瞭でない状態とは、例えば、意識がもうろうとしているような、睡眠以外の原因で意識がはっきりしない状態など |
⑤ | 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと | いわゆる不意打ちなど、性的行為がされようとしていることに気付いてから、性的行為がされるまでの間に、その性的行為について自由な意思決定をするための時間のゆとりがないこと |
⑥ | 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること | いわゆるフリーズの状態、つまり、予想外・予想を超える事態に直面したことから、自分の身に危害が加わると考え、極度に不安になったり、強く動揺して平静を失ったりした状態など |
⑦ | 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること | 虐待による、無気力感や、虐待を目の当たりにしたことによる、恐怖心を抱いている状態など |
⑧ | 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること | 金銭その他の財産に関する関係や、家庭・会社・学校など社会生活における関係において、弱い立場にある者が要求を拒否することで、自らやその親族等に不利益が及ぶことを不安に思うこと |
上記に当たらなくても、次のような手段で性交等をした場合も、不同意性交等罪が成立します。
- 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせる
- 行為をする者について人違いをさせる
- それらの誤信・人違いをしていることに乗じる
すなわち、性的行為への無知に乗じたり、人違いをさせて性的行為をさせたりした場合も処罰の対象となります。
性交等の相手が13歳未満の子どもである場合、あるいは13歳以上16歳未満の子どもで、行為者が5歳以上年上である場合は、その同意の有無を問わず不同意性交等罪が成立します。
参照:法務省:性犯罪関係の法改正等 Q&A (moj.go.jp)
不同意性交等罪はいつから施行される?
刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律は、2023年6月23日に公布され、同年7月13日に施行されました。
そのため、2023年7月13日以降に発生した性犯罪については、改正刑法が適用されます。
不同意性交等罪は強制性交等罪と比べて何が変わった?|改正のポイント
ここでは、従来の強制性交等罪および準強制性交等罪との変更点について解説します。
構成要件等の見直し
従来の強制性交等罪は、暴行・脅迫を要件とし、準強制性交等罪は、被害者の心身喪失・抗拒不能(抵抗が著しく困難な状態)を要件としていました。
暴行・脅迫要件は、被害者の抗拒不能を総合考慮する際の一要素として位置づけられていたため、暴行・脅迫があっても、外形的に抵抗困難だったことを認定できる要素がないと、加害者の故意の認定が難しくなり、強制性交罪が成立しないと解釈されるケースもありました。
いずれの罪でも焦点になる抗拒不能という基準は曖昧で、加害者からみて明らかにわかるような形で抵抗を示せていないなどという理由で処罰されないケースが相次ぎ、拒絶意思を示せなかった、抵抗できなかた被害者の心理状態に対する理解不足が指摘されていました。
そこで、これらの要件を見直し、前述のとおり、性的行為に同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にさせた(あるいはその状態に乗じた)ことを中核とした要件に改められました。
性交等の定義の拡大
改正前の強制性交等罪における性交等は、性交、肛門性交、口腔性交を意味していましたが、改正後の不同意性交罪における性交等は、これに、膣・肛門に陰茎を除くからの一部又は物を挿入する行為であってわいせつなものを含むこととされました。
改正前 | 改正後 |
① 性交
② 肛門性交 ③ 口腔性交 |
① 性交
② 肛門性交 ③ 口腔性交 ④ 膣・肛門に陰茎を除く体の一部又は物を挿入する行為でわいせつなもの |
改正前の強制性交等罪においても、行為者と相手方との間に婚姻関係があっても成立すると解されていましたが、これを明確にするため、不同意性交等罪の条文に「婚姻関係の有無にかかわらず」との文言が加えられました。
よって、不同意性交等罪は、要件に該当すれば配偶者やパートナーの間でも成立します。
性交同意年齢の引き上げ
改正前の強制性交等罪は、相手方が13歳未満の場合は、その同意の有無に問わず成立するとされていました。
改正後の不同意性交等罪では、性交同意年齢(有効な同意をなし得る年齢)を16歳に引き上げました。これにより、16歳未満の者と性交等をすると、その同意の有無を問わず、不同意性交等罪が成立することになりました。
ただし、同世代間での自由な意思決定による性的行為を処罰の対象から除外するため、13歳以上16歳未満の者との性交等については、行為者が5歳以上年上である場合に限り、処罰の対象とされています。
公訴時効期間の延長
性犯罪は、被害を認識していても、恐怖心や羞恥心、自責感等から被害を訴えるまで相当の年月を要する場合も少なくありません。幼いころに性被害を受けた場合は、行為の意味を理解したり、犯罪被害と認識したりするまでに、長い期間を要することもあります。
このような観点から、従来の公訴時効期間は短すぎると指摘がなされていたため、刑事訴訟法を改正し、性犯罪にかかる公訴時効期間をそれぞれ5年延長しました。
改正前 | 改正後 | ||
罪名 | 公訴時効
期間 |
罪名 | 公訴時効
期間 |
・強制わいせつ等致傷罪
・強盗・強制性交等罪 等 |
15年 | ・不同意わいせつ等致傷罪
・強盗・不同意性交等罪 等 |
20年 |
・強制性交等罪
・準強制性交等罪 ・監護者性交等罪 |
10年 | ・不同意性交等罪
・監護者性交等罪 |
15年 |
・強制わいせつ罪
・準強制わいせつ罪 ・監護者わいせつ罪 等 |
7年 | ・不同意わいせつ罪
・監護者わいせつ罪 等 |
12年 |
なお、18歳未満で性被害を受けた場合は、被害者が18歳に達する日までの年月を加算した期間が公訴時効期間となります。
例えば、13歳の時に不同意性交等の被害に遭った場合、時効完成は20年後(15年+5年)となります。
不同意性交等罪の法定刑は懲役刑ではなく拘禁刑?
ここでは、不同意性交等罪の法定刑について解説します。
不同意性交等罪の法定刑
不同意性交等罪の法定刑は、5年以上の有期拘禁刑です。拘禁刑は、2022年6月17日公布の改正刑法により、従来の懲役と禁錮を一本化したものとして創設された刑で、2025年6月16日まで(公布から3年以内)に施行される予定になっています。
施行日より前にした不同意性交等に対しては、懲役刑が適用されます。
懲役刑と拘禁刑の違い
拘禁刑は、受刑者を刑事施設に入所させた上で、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、または必要な指導を行うことができる刑罰です。
従前の懲役刑とは異なり、受刑者は、必ずしも刑務作業を義務付けられることなく、改善更生のために何が必要かという観点から、受刑者それぞれの特性に合わせた指導や教育プログラム処遇などが実施されるようになります。
拘禁刑の施行後は、刑務作業を義務化している懲役刑と、義務づけていない禁錮刑はいずれも廃止されます。
不同意性交等罪の弁護活動
ここでは、不同意性交等事件における弁護活動を解説します。
捜査段階(起訴前)の弁護活動
不同意性交等罪で逮捕された場合は、勾留される可能性が高いです。勾留されると、少なくとも10日間(延長された場合は20日間)は警察署に留め置かれ、身柄を拘束されます。
この間、会社を欠勤することになり、解雇の可能性も生じます。弁護士を通して、被害者との示談交渉を行い、示談が成立して、被害届や告訴状を取り下げてもらえれば、身柄拘束から解放される可能性があります。早期に釈放されれば、勤務先などに逮捕されたことを知られないまま、職場への復帰を望めます。
同意を得て性交等をしたのに、後になって、相手が「同意していなかった」と主張する場合には、相手の証言の信用性を争うとともに、被疑者の主張を裏付ける証拠を収集し、検察官に働きかけるなどして、不起訴処分を目指します。
公判段階(起訴後)の弁護活動
起訴された場合、罪を認めているケースでは執行猶予付きの判決が得られるように弁護活動をします。
不同意性交等罪で執行猶予付きの判決を得るためには、被害者から示談書や嘆願書を取り付けたり、贖罪寄付したりするとともに、生活環境の改善、性犯罪再犯防止のクリニックでの通院治療、家族の監督等の再犯防止の意欲と反省状況を裁判官に伝え、情状酌量をしてもらう必要があります。
罪を認めない場合は、無罪判決の獲得を目指し、検察官の立証を崩す証拠や、可能であれば無実を裏付ける証拠(同意の存在を示すやり取り、直前・直後の防犯カメラの様子等)を提出します。
公判では、被害者の証人尋問も行われ、無罪判決に目指して全力を尽くします。
不同意性交等罪に問題点として残る課題
ここでは、不同意性交等罪に残る課題について解説します。
構成要件が不明確である
今回の改正では、様々な理由で被害者が抵抗できないことがあるという実態を踏まえ、その原因となる行為・事由として8類型(構成要件に記載した8つの行為・事由)が例示されました。
しかし、この8類型の行為・事由の中には、一律に判断できない主観的要件が含まれているため、いかなる場合に犯罪が成立するのか、解釈・適用にばらつきが生じるのではないかという問題点が指摘されています。
例えば、アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること(刑法176条1項3号)とは、どの程度の飲酒量で同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態になるのかが不明確です。
そもそも、酔いの程度も人の体質等にもよるため、飲酒量がどの程度になると、性交等に同意できなくなるかの基準を示すことは難しい側面があります。ほろ酔いの状態で気分がよいと、性交等の同意がしやすくなるという人もいるかもしれません。
どの程度酔ったら、「No」と思えない、「No」と言えない、「No」を貫き通せない状態だったと判断されるのか、その判断は何をもってなされるのかが不明であるため、個々の裁判所ないし捜査機関の判断が恣意的に行われるおそれがあると指摘されています。
この曖昧さによって、処罰されるべきでない行為が処罰されるという危険につながるのみならず、被害者にとっても処罰されるべき行為が処罰されないという事態につながりかねません。
冤罪のリスクが高まる
改正法の下でも、行為者が「相手が同意していると思っていた」といった弁解が示すことや、あとになって相手が「同意はなかった」と主張されることも考えられます。
例えば、お酒を飲んで性交等に及んだ相手から、後から被害届を出されて逮捕されたとします。
逮捕された人が「相手は同意していると思っていた」と主張する場合、捜査機関には、性行為の相手が、飲酒、睡眠その他意識不明瞭な状態、不意打ち、フリーズ、立場による影響力等などによって、「No」と思えない・言えない・それをつらぬけない状況ではなかったことを認めてもらわなければなりません。
このような場合、性行為の相手から明確な、あるいは、推断的な同意を得たケース以外は、客観的な証明が難しくなり、冤罪を生み出すリスクがあるのでないかと指摘されています。
同意の存在を証明するのは難しい
日本では、性行為そのものをあからさまに口に出すことが遠慮される社会的風潮がいまだにあると考えます。例えば、恋人同士や夫婦・パートナーが性交をする前に、明示の同意を取り合うことはほとんどなく、暗黙の了解で行われるのが通常ではないでしょうか。
「同意を証明するために、性行為の前に都度同意書を得なければいけないのか」との声も上がっていますが、現実的ではないでしょう。仮に、同意書を得ていたとしても、そこに暴行や脅迫、障害、アルコール・薬物、不意打ち、フリーズ、立場による影響力等が介在していたら、真の同意とは言えません。
行為者と相手しか存在しない密室での性交等では、同意の存在を証明するのは困難なケースも想定できます。
処罰されるべきでない行為が処罰されるというリスクを回避するためには、信用できない相手とは関係をもたないとか、信用できる相手でも何段階もの同意のステップを踏むなど、性的行為に関する根本的な意識改革や行動変容が求められるでしょう。
まとめ
2023年7月施行の改正によって、刑法の強制性交等罪と準強制性交等罪は統合され、不同意性交等罪へと名称も変更されました。
不同意性交等罪では、構成要件が拡大され、公訴時効期間も延長されたことで、従来は処罰の対象にならなかったケースも、今後は処罰を受けるおそれがあります。
自分の行為が不同意性交等罪にあたるのか不安に感じている、性交等をした相手から「同意していない」と主張されてトラブルになっているなど、お困りの場合は、ネクスパート法律事務所にご相談ください。
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