保護責任者遺棄罪とは|保護責任がある人や罪になる行為とは

保護責任者遺棄罪とは、扶助が必要な人に対して、生存に必要な保護を怠った場合に成立する犯罪です。

この罪は、特に育児や介護の場面で問題になることが多く、保護する責任を持つ人が処罰の対象となります。

具体例としては、ネグレクトによる子どもの放置や、車内に子どもを残したまま長時間外出したケースなどが挙げられます。

この記事では、保護責任者遺棄罪について以下の内容を詳しく解説します。

  • 保護責任者遺棄罪の保護対象とは
  • 保護責任者遺棄罪の保護責任がある人とは
  • 保護責任者遺棄罪に問われた事例

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保護責任者遺棄罪とは

保護責任者遺棄罪とは、保護する責任のある人が、高齢者、子ども、身体障がい者、病者などを遺棄したり、生存に必要な保護を怠ったりした場合に成立する犯罪です。

ここでは、保護責任者遺棄罪の概要について解説します。

保護責任者遺棄罪の構成要件

保護責任者遺棄罪が成立する条件は以下のとおりです。

  1. 老年者、幼年者、身体障がい者、病者に対して
  2. 保護する責任のある人が
  3. これらの者を遺棄、または生存に必要な保護を怠った

(保護責任者遺棄等)

第二百十八条老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、三月以上五年以下の懲役に処する。

引用:刑法第218条 – e-Gov

特に問題となるのは、保護する責任を負う者の範囲です。それぞれの定義については、わかりやすく後述します。

保護責任者遺棄罪の罰則と時効

保護責任者遺棄罪の罰則は、3か月以上5年以下の懲役で、時効は5年です。

保護責任者遺棄罪の保護の対象者とは

保護責任者遺棄罪の保護の対象となるのは、老年者、幼年者、身体障がい者、病者であることです。

老年者や幼年者

保護責任者遺棄罪での保護対象には、高齢者や子どもが含まれます。

ただし、年齢で一律に決められるわけではなく、扶助の必要性が判断基準となります。

昔の判例によると、扶助の必要性がある人は、老年者や幼年者、疾病がある人、精神や身体の病気があり、他人の援助がなければ日常生活を営むことができない状態だとされています(大審院判決大正4年5月21日)。

高齢者は、介助が必要な場合、扶助が必要とする対象とされます。

子どもについては、一般的に7~8歳未満は扶助を必要とする幼年者と判断され、14歳でも少年者と認められた事例があります。

身体障がい者や病者

身体障がい者や病人も扶助が必要な人に含まれます。病人とは、身体的な病気だけでなく、精神疾患も含まれます。

障がい者や病人ではありませんが、泥酔者や覚せい剤の使用により錯乱状態にある人も、扶助が必要であると認める判例があります。

 高度の酩酊により身体の自由を失い、他人の扶助を要する状態にある者は、刑法第二一八条第一項の「病者」にあたる。(被告人と情交関係にある被害者が駅前で酔いつぶれているのを見つけ、同人宅に連れ帰える途中、酔をさまさせるため全裸にして田圃中に放置したため、凍死させたという事案)引用:最高裁決定昭和43年11月7日 – 裁判所

ただし、扶助が必要な状態にある場合に限り、この罪が成立します。病人や障がい者であっても、現に他人の援助を必要としていない場合は保護対象にはなりません。

保護責任者遺棄罪の保護責任とは

扶助が必要な人に対する保護責任が生じるケースは、以下に分類されます。

  • 法令による保護責任
  • 契約による保護責任
  • 事務管理による保護責任
  • 条理による保護責任

ただし、これらの責任がある場合でも、それだけで保護責任者遺棄罪が直ちに成立するわけではありません。

刑法上の保護責任の有無は、被害者が保護を必要とする経緯や状況、加害者と被害者の関係などを総合的に考慮して判断されます。

以下、それぞれの保護責任について詳しく解説します。

法令による保護責任

法令にもとづき保護責任が発生する人は以下のとおりです。

  • 子どもに対する監護義務を負う親権者(民法第820条)
  • 扶養義務を負う夫婦や兄弟(民法第877条)
  • 事故の被害者に対する救護義務を負う車の運転者(道交法第72条1項)

例えば、交通事故で加害者が被害者を救護せずに逃走した場合、通常は救護義務違反が成立します。

ただし、被害者を助けるために一旦車に乗せた後、気が変わって途中で車から降ろして別の場所に放置した事件では、保護責任者遺棄罪が成立しています(最高裁判決昭和34年7月24日)。

一方で、交通事故を目撃しただけの第三者には救護義務は課されないため、罪に問われることはありません。救護義務を負うのは事故の当事者に限られます。

契約による保護責任

業務上の契約により保護責任が生じるケースもあります。

例えば、医師、介護士、ベビーシッター、保育士などは、業務の契約以外でも、業務の性質上、対象者の生命や身体の安全を保護する義務を負うと考えられます。

ただし、具体的な事故や問題が発生した場合でも、ただちに保護責任者遺棄罪が成立するわけではありません。

例えば、医療ミスや不注意が原因の場合、保護責任者遺棄罪ではなく、業務上過失として扱われることがあります。

事務管理による保護責任

事務管理とは、義務がないのに関わりを持つことで生じる責任です。

(事務管理)

第六百九十七条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。

引用:民法第697条 – e-Gov

つまり、一度他人のために行動を起こした場合、その後も保護責任が生じることがあります

条理にもとづく保護責任

条理による保護責任とは、法令や契約、事務管理といった明確な根拠がなくても、状況的、常識的に考えて保護責任が認められるケースです。

判例では、覚せい剤を注射して錯乱状態となった少女を置き去りにした加害者に保護責任者遺棄遺棄罪が認められています。

 被告人らによつて注射された覚せい剤により被害者の女性が錯乱状態に陥つた時点において、直ちに被告人が救急医療を要請していれば、同女の救命が合理的な疑いを超える程度に確実であつたと認められる本件事案の下では、このような措置をとらなかつた被告人の不作為と同女の死亡との間には因果関係がある。

引用:最高裁平成元年12月15日 – 裁判所

このように、条理にもとづく保護責任は、状況下で判断されるため、法律や契約の枠を超えて保護責任者遺棄罪が成立する場合があります

保護責任者遺棄罪に該当する行為

保護責任者遺棄罪が成立するのは、以下のケースです。

  1. 被害者の生存に必要な保護をしないこと
  2. 被害者を遺棄すること

ここでは、保護責任者遺棄罪に該当する行為を解説します。

被害者の生存に必要な保護をしないこと

保護責任者遺棄罪に該当する行為は、被害者の生存に必要な保護を怠ること(不保護)とされています。

老年者,幼年者,身体障害者又は病者」につきその生存のために特定の保護行為を必要とする状況(要保護状況)が存在することを前提として,その者の「生存に必要な保護」行為として行うことが刑法上期待される特定の行為をしなかったことを意味すると解すべき

引用:平成30年3月19日最高裁 – 裁判所

たとえば、ネグレクトにより子どもに食事を与えず生命の危険を招く行為などが該当します。

一方で、赤ちゃんへの授乳を一度さぼった場合、それがすぐに命の危険を引き起こすとは言えないため、保護責任者遺棄罪には該当しないと考えられます。

被害者を遺棄すること

保護責任者遺棄罪に該当する行為は、被害者を遺棄することです。遺棄とは、以下の2つの種類があります。

被害者の身体を物理的に移動させること(移置) 保護対象者を危険な場所に連れて行くこと
被害者を置き去りにすること 危険な場所に保護対象を放置して自分だけ立ち去ること

保護責任者遺棄罪に問われた事例

高温の車内に子どもを放置・死亡させた事例

保護責任者遺棄罪でよくあるケースが、高温の車内に子どもを放置し、死亡させるケースです。

1歳の男児と3歳の女児を約10時間半車内に放置し、男児を死亡させた事件では、子どもの母親、母親と性的関係のあった男性が起訴されました。

本来子どもの保護責任を負うのは親ですが、この事件では、男性が母親に支配的であったことから、子どもの生活を左右できる立場にあったと認定されました。

参考:高温車内に1歳男児を放置、死亡させた男女の不可思議な関係…判決後男は驚きの行動 – 産経新聞

要介護の母親を公園に放置した事例

要介護状態にあった母親を公園のベンチに置き去りにした男性に、懲役2年・執行猶予4年の判決が下されました。

男性は、意識不明の母親を午前3時半から5時頃まで公園のベンチに放置。その後、母親は病院に搬送されましたが、死亡しました。

参考:意識不明の母親を公園に置き去り 58歳の男に有罪 仙台地裁 – 産経新聞

泥酔者を死亡させた事例

大学のサークルで泥酔者を死亡させた学生が書類送検されました。

被害者は、ショットグラスでウォッカを2回一気飲みし、反応がなくなりましたが、介抱役の学生たちは救急車を呼ばず、被害者を同級生の自宅に連れて行きました。

その翌朝、被害者は呼吸が止まっており、緊急搬送後に亡くなりました。その後介抱をした学生9人が、過失致死罪で罰金刑となりました。

さらに、被害者の両親が、必要な措置を取らなかったとして、参加した学生18人に約1億500万円の損害賠償を求めて提訴。

大阪地裁は16人が救護を怠ったとして、約4200万円の賠償を命じました。

参考:近大一気飲み死で賠償命令 テニスサークル、元学生に – 日本経済新聞

保護責任者遺棄罪に関連する罪

保護責任者遺棄罪は、被害者の死亡や状況によって、適用される罪が異なる場合があります。以下に関連する罪を解説します。

遺棄罪

遺棄罪(単純遺棄罪)とは、保護責任者遺棄罪と同様に、老年、幼年、身体障がい者や病者など扶助を必要とする人を遺棄した場合に成立します。

(遺棄)

第二百十七条老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者を遺棄した者は、一年以下の懲役に処する。

引用:刑法第217条 – e-Gov

遺棄罪は、被害者を遺棄した場合に問われることになります。

わかりやすい事例で言えば、老婆を山に運んで捨てる、いわゆる姥捨て山のようなケースが該当します。

なお、保護責任のない人が被害者を遺棄した場合に適用されます。

しかし、保護対象を遺棄する事件では、親やその交際相手が子どもを置き去りにするなど、保護責任者遺棄罪が成立することがほとんどです。

保護責任者遺棄致死・致傷罪

保護責任者遺棄致死罪は、保護責任者遺棄罪により、結果的に被害者が死傷した場合に適用される罪です。

意図を超えて重い結果が発生した場合は、基本となる罪よりも重い刑罰が科される結果的加重犯となります。

(遺棄等致死傷)

第二百十九条前二条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

引用:刑法第219条 – e-Gov

罰則は、保護責任者遺棄罪と傷害致死罪の刑罰の上限・下限と比較して、重い方の刑罰が適用されます。

保護責任者遺棄罪の罰則は、3か月以上5年以下の懲役ですが、傷害致死罪の罰則は3年以上20年以下の懲役です。

適用される罰則は、より重い傷害致死罪となります。

(傷害致死)

第二百五条身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。

引用:刑法205条 – e-Gov

殺人罪

殺人罪は、人を殺した場合に適用される罪で、罰則は死刑、無期懲役、もしくは5年以上の懲役です(刑法第199条)。

保護責任者遺棄で被害者が死亡しても、殺人罪が適用されない場合があります。これは殺意の有無によるものです。

被害者を殺すという意図を持って人を死亡させなければ、殺人罪は適用されません。

扶助を必要とするものに対して、殺す意図や死亡しても構わないとする未必の故意があれば、殺人罪が成立すると考えられます。

実際に、2歳の子どもに対して、死んでもよいと考えて暴行を加え、脱水症状で死亡させた事件では、殺人罪が適用されています(さいたま地裁平成15年3月12日)。

救護義務違反

救護義務違反とは、いわゆるひき逃げのことです。人身事故を起こした場合に、運転者が負傷者を救護せず立ち去る行為を指します(道交法第117条)。

負傷者を放置して立ち去る行為は救護義務違反に該当します。しかし、救護の途中で被害者を放置したり、遺棄したりすれば、保護責任者遺棄罪が適用されることがあります。

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保護責任者遺棄罪でよくある質問

保護責任者遺棄罪は何歳の子どもまで親が責任を負う?

保護責任者遺棄罪が成立する、扶助が必要な子どもの年齢に明確な基準はありません。

過去の判例では、14歳の子どもが幼年者と判断された例があります。

一般的には、7~8歳までの子どもを放置した場合、保護責任者遺棄罪が成立する可能性があります。

ただし、年齢だけでなく、子どもの健康状態や障害の有無、放置の経緯や時間、当時の状況なども考慮されます。

酔った人を放置したら保護責任者遺棄罪になる?

泥酔者を放置することで、保護責任者遺棄罪に問われる可能性があります。

泥酔者は扶助を必要とする人と判断されるため、適切な介抱が必要です。

泥酔者を放置すると、吐しゃ物による窒息死、交通事故などでの死亡といった危険性があります。

動けない泥酔者がいれば、速やかに救急車を呼んで対応してください。

保護責任者遺棄罪の保護責任者とはどこまで?

保護責任者遺棄罪が成立する保護責任者とは、以下の保護義務がある人が対象です。

法令による保護責任 法律上保護責任を負う人のこと、親、夫婦や兄弟、家族など
契約による保護責任 契約上や業務の性質上保護責任を負う人のこと

医師や介護士、保育士など

事務管理による保護責任 対象者と関りを持つことで保護責任が生じること
条理による保護責任 常識的に考えて保護責任が生じること

被害者との関係性やその時の状況などから判断される

ただし、保護責任がある人が常に責任を追及されるわけではありません。

例えば、親が仕事中に子どもを保育園に預ける場合は責任を負いません。保護責任の範囲は、その時の状況や関係性によって判断されます。

親と別居して介護しなかったら保護責任者遺棄罪になる?

親と同居して介護している場合、必要な保護を怠ると保護責任者遺棄罪が成立する可能性があります。

一方、親と別居している場合、途中で介護を放棄すると、保護責任者遺棄罪に該当することが考えられます。

親の介護が難しい場合は、行政サービスを利用するなど負担を軽減する方法を検討してください。

まとめ

保護責任は法律上だけでなく、その時の状況や行為者の判断次第で生じることがあります。

保護責任者遺棄罪や保護責任者遺棄致死罪に問われた場合、責任の有無や結果との因果関係が争点となります。

もし逮捕されたり警察から連絡を受けたりした場合は、早急に弁護士に相談し、適切なサポートを受けてください。

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