飲食店の経営に際して、遅刻・欠勤を繰り返し、指導するも改善が見られないなどの勤務態度の不良を理由に従業員を普通解雇することが必要な場合もあるでしょう。
では、企業側はそのような理由で従業員をいつでも解雇できるのでしょうか。
本稿では普通解雇の際の注意点をまとめます。

普通解雇について
従業員の普通解雇は、使用者(企業側)による労働契約を解約する意思表示のことです。これに対し、使用者が労働者を懲戒する目的で行う解雇を懲戒解雇といいますが、懲戒解雇については別稿で詳しく説明することとし、本稿では主に普通解雇について記載します。
民法第628条によれば、期間の定めがあれば当該期間の到来により、またはやむを得ない事由があればそれ以前でも解雇ができると定められています。また、同法第627条によれば、期間の定めがない場合には、いつでも解約の申入れをすることができ、その雇用は、解約の申入れの日から2週間の経過により終了すると定められています。
解雇に関する法規制
一方で、従業員の権利の保護という見地から、民法の原則から更に進んで解雇を制限する法規制があります。例えば、民法上は2週間と定められていた解約申入れに対して、労働基準法20条1項本文は以下のように定めています。
「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」
労働基準法20条1項
(以下,脚注)
下線部は筆者による。
民法上の解約の申入れは2週間で足りるところ、労働基準法では、少なくとも30日前に解雇の予告をしなければならないとされているのです。
その他にも、主に以下のような法律による解雇制限があります。
- 労働基準法
-
- 業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇
- 産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇
- 労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇
- 労働組合法
-
- 労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇
- 男女雇用機会均等法
-
- 労働者の性別を理由とする解雇
- 女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由とする解雇
- 育児・介護休業法
-
- 労働者が育児・介護休業などを申し出たこと、又は育児・介護休業などをしたことを理由とする解雇
解雇の有効性
労働者は、使用者との雇用契約により、使用者の指揮監督に従って労務を提供すべき義務がありますので、就業規則等で定められた勤務時間において、労働を行う義務を負います。それにもかかわらず、遅刻や欠勤を繰り返す場合には、雇用契約において定められている労働者としての義務を怠ったといえ、債務不履行になり、就業規則上の普通解雇事由に該当する可能性があります。
しかし、単に数回の遅刻や欠勤をしただけでは、解雇に相当するだけの債務不履行状態にあると認められないこともあり得ます。解雇は従業員にとって極めて重要な事態を招じることになるため、解雇に相当するかどうかといった点は、社労士や弁護士といった専門家に相談し、慎重に判断することをお勧めします。
解雇の妥当性は、勤務態度の不良の回数だけではなく、その程度、期間、態様、理由、当該勤務態度の不良が及ぼした影響、注意指導の内容、注意指導の回数、改善の見込み、過去の勤務成績等、様々な事情を総合的に見て判断されることになります。
そこで、解雇の有効性が争われた場合に備えて、勤怠を証明するタイムカードや注意指導の具体的内容を記録した資料等を常に準備しておくべきでしょう。
万一、解雇した後に当該解雇の有効性を争われ、裁判で解雇が無効だと判断された場合、普通解雇を行った後も当該従業員との労働契約が継続していたことになります。
そのため、使用者は、普通解雇を行ったときからの賃金相当額という高額の支払を行わなければならなくなりますので、その意味でも解雇の判断、資料の収集は慎重に行う必要があるでしょう。
おわりに
本稿では普通解雇を行う場合の注意点をまとめてきました。
解雇は従業員の権利にも大きな影響を及ぼすものであるため、法規制が厳しく、使用者側の恣意的判断が禁止されています。
更に争われた場合無効と判断された場合には、時間的・金銭的に大きな損失を招じ兼ねませんので、法規制や判断の妥当性といった点は慎重に確認すべきでしょう。
ネクスパート法律事務所では、飲食店の経営サポートに特化したチームが、従業員との労務問題の相談や解雇を行う際の妥当性判断に関するアドバイス等をさせていただいております。初回相談は無料でお受けしておりますので、従業員との間でトラブルが生じ、もしくは生じるおそれが生じたときは、是非ネクスパート法律事務所にお問い合わせください。