更新日:2026年9月8日 (火)
公開日:2026年9月8日 (火)
代償分割とは?メリットや代償金の決め方・相続税の注意点を解説
サマリー
遺産の中に不動産や自社株など分けにくい財産がある場合、特定の相続人が現物を取得し、代わりに他の相続人へ金銭などを支払う「代償分割」が有効な選択肢となります。しかし、代償金の計算方法や支払原資の確保、相続税や贈与税などの税務上の扱いに不安を感じる方も少なくありません。
この記事では、代償分割の基本的な仕組みやメリット・デメリットをはじめ、代償金の決め方や相続税の計算方法、遺産分割協議書を作成する際の注意点についてわかりやすく解説します。
代償分割とは?他の遺産分割方法との違い
代償分割は、分けにくい遺産を特定の相続人が取得する際に広く用いられる遺産分割の手法です。ここでは、代償分割の基本的な仕組みや他の分割方法との違い、不動産や自社株で選ばれる理由について解説します。
代償分割の基本的な仕組み
代償分割とは、特定の相続人が不動産や自社株などの特定の遺産をそのまま現物で取得する代わりに、他の相続人に対して自己の固有財産(主に金銭など)を支払って清算する遺産分割の方法です。
例えば、遺産が自宅不動産のみで相続人が兄弟2名の場合、兄が自宅を単独で取得し、その代わりに弟へ法定相続分に見合う金銭(代償金)を支払うといったケースが挙げられます。
特定の相続人が遺産を現物のまま取得しつつ、金銭の支払いによって相続人間の実質的な公平を図れる点が代償分割の大きな特徴です。
4つの遺産分割方法の比較と使い分け
遺産分割の手法には、代償分割のほかに「現物分割」「換価分割」「共有分割」があり、それぞれ特徴や適した状況が異なります。各手法の違いを理解し、遺産の性質や相続人の希望に応じて適切に選択することが重要です。
| 分割方法 | 概要 | 適している主なケース |
|---|---|---|
| 現物分割 | 遺産そのものを形を変えずにそのまま各相続人に分配する方法 | 預貯金や複数の不動産など、分けやすい財産が十分にある場合 |
| 換価分割 | 遺産を売却して現金化し、その代金を相続人間で分配する方法 | 誰も財産の取得を希望しない場合や、金銭できれいに分けたい場合 |
| 共有分割 | 1つの財産を複数の相続人が持分を決めて共同で所有する方法 | 売却や単独取得の合意がまとまらない場合の暫定的な措置など |
| 代償分割 | 特定の相続人が現物を取得し、他の相続人に金銭などを支払う方法 | 自宅や自社株など、物理的に分割しにくい財産を手元に残したい場合 |
不動産や自社株の相続で代償分割が選ばれる理由
居住用の不動産や事業用の自社株などは、物理的に分割してしまうと価値が著しく損なわれたり、その後の利用や会社経営に支障をきたしたりすることがあります。
また、換価分割を選択すると住み慣れた自宅を手放すことになり、共有名義で相続すると将来的な売却や管理・修繕の判断でトラブルが生じるリスクが懸念されます。
代償分割を活用すれば、特定の相続人が生活基盤や事業を守りながら財産を引き継ぎつつ、他の相続人に対しても金銭で公平な分配を行えるため、分けにくい財産がある場合に広く用いられています。
代償分割のメリットとデメリット
代償分割は、分けにくい財産を特定の相続人が取得しながら公平性を保てる有用な手法ですが、特有の注意点も存在します。選択を検討する際は、メリットとデメリットの双方を把握しておくことが大切です。
代償分割の主なメリット
最大のメリットは、自宅や事業用不動産、自社株式などの現物をそのまま維持・承継できる点です。売却して金銭を分ける換価分割とは異なり、被相続人と同居していた相続人が住み続けたり、後継者が事業基盤を維持したりすることが可能になります。
また、遺産に占める不動産の割合が高く現物分割では法定相続分に沿った配分が難しい場合でも、代償金を支払うことで各相続人の取得割合を実質的に公平に調整できます。
不動産を複数人の共有名義にせずに単独所有にできるため、将来的な売却や建て替えの際に生じがちな意見対立のリスクを未然に防ぐことにもつながります。
代償分割の主なデメリットと留意点
デメリットとしてまず挙げられるのは、現物を取得する相続人に十分な資金力(資力)が求められる点です。取得する財産の価値が大きいほど代償金の額も高額になりやすく、自己資金や融資で用意できない場合には代償分割そのものが成り立たなくなります。
代償金の原資を確保できないまま無理な合意を結ぶと、将来的に支払いが滞り、新たな親族間トラブルへ発展する恐れがあります。
さらに、遺産の評価額をめぐって相続人間で意見が対立しやすい点も課題です。不動産の評価方法には時価(実勢価格)、路線価、固定資産税評価額など複数の基準があり、支払う側は低く、受け取る側は高く評価したいという思惑が働きやすいため、価格の合意形成に時間がかかるケースが見られます。
代償金の決め方と相続税・譲渡所得税の計算
代償分割を円滑に進めるためには、適正な代償金の決め方や税務上の取り扱いを正しく理解しておく必要があります。ここでは、遺産の評価方法や相続税の計算、代償財産を現物で交付する際の税金について解説します。
代償金の算定基準と遺産の評価方法
代償金の金額を決定するためには、まず分割の対象となる遺産の価値を正確に評価する必要があります。特に不動産は一物四価とも呼ばれ、複数の評価基準が存在するため、どの基準を採用するかで代償金の額が大きく変動します。
遺産分割協議においては、実際の市場取引価格に近い「時価(実勢価格)」を基準に話し合われるのが一般的です。ただし、相続人間で合意が得られれば、固定資産税評価額や路線価を基準に代償金額を決めることも可能です。
| 評価方法 | 主な特徴 | 代償金算定での使われ方 |
|---|---|---|
| 実勢価格(時価) | 市場で実際に売買される価格水準 | 公平性を保ちやすく、協議や調停で広く用いられる |
| 相続税評価額(路線価等) | 相続税の申告時に使用する基準(時価の約8割) | 税務申告と平仄を合わせたい場合に協議で用いられることがある |
| 固定資産税評価額 | 固定資産税の課税基準となる価格(時価の約7割) | 算定が容易なため、相続人全員の合意があれば採用される |
代償分割における相続税の課税価格の計算
代償分割を行った場合、各相続人の相続税の課税価格は、実際に受け取った経済的利益に応じて調整されます。遺産そのものを取得した相続人と、代償金を受け取った相続人の双方が課税価格の再計算を行います。
遺産を取得して代償金を支払った相続人は「取得した遺産の相続税評価額 − 支払った代償金額」が課税価格となります。反対に、代償金を受け取った相続人は「取得した他の遺産の相続税評価額 + 受け取った代償金額」を課税価格として申告します。
代償金の授受を税務上の課税価格に反映させることで、実際の遺産取得割合に応じた公平な納税額が算出されます。
現物財産で代償を交付する場合の譲渡所得税
代償分割の対価は現金で支払うのが原則ですが、現金が不足している場合には、代償金を支払う側が所有する別の不動産や有価証券などの現物を代償財産として交付することも認められています。
ただし、現物財産を交付した場合は、税務上「その財産を時価で譲渡して代償金の支払いに充てた」とみなされる点に注意が必要です。
交付した現物財産の時価が取得費と譲渡費用の合計を上回っている場合、代償財産を交付した側に譲渡所得税が課税される可能性があります。
代償分割をスムーズに進めるための注意点と遺産分割協議書の書き方
代償分割を円滑かつ確実に行うためには、遺産分割協議書の正確な作成や不払いリスクへの対策が欠かせません。ここでは、贈与税リスクを避ける書き方や支払条件の設定、合意が難しい場合の対処法を解説します。
遺産分割協議書への明記と贈与税リスクの回避
代償分割を行う際には、作成する遺産分割協議書へ「代償分割である旨」と「具体的な支払条件」を正確に記載することが重要です。代償金であることを明記しないまま金銭の授受を行うと、税務署から通常の贈与とみなされる可能性があります。
協議書に代償金である旨を明記しない場合、税務署から相続人間の贈与と判断されて贈与税が課されるリスクがあります。
記載内容としては、「誰がどの遺産を取得するのか」に加えて、「その代償として誰が誰に対して、いつまでに、どのような方法で金銭を交付するのか」を具体的に定めます。振込手数料の負担や振込先口座なども明確にしておくことで、後の認識齟齬を防ぎやすくなります。
代償金の不払いを防ぐ資力確認と支払条件の設定
代償金を支払う側の相続人に十分な資力がない場合、合意後に支払いが滞りトラブルに発展するおそれがあります。協議を進める段階で、預貯金の残高や融資の利用可否など、確実な支払原資があるかを確認しておくことが大切です。
一括払いが困難な場合は、分割払いや支払期日の設定を検討します。不払いリスクを軽減するため、取得する不動産への抵当権設定や連帯保証人の設定などを条件として盛り込むことも方法の一つです。
また、遺産分割協議書を公正証書で作成し、支払いが滞った場合には直ちに強制執行に服する旨の「強制執行認諾文言」を入れておくことで、万が一の未払い時にも裁判を経ずに差押えなどの手続きを取りやすくなります。
合意形成が難しい場合の調停・審判手続き
遺産の評価額や代償金の金額、支払方法について当事者間での合意が困難な場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる方法があります。調停では調停委員が間に入り、公平な解決に向けて話し合いが行われます。
調停でも合意に至らない場合は審判手続きへ移行し、裁判官が遺産の種類や各相続人の資力・希望などを考慮したうえで、代償分割を含めた分割方法を指定します。ただし、審判で代償分割が命じられるには、支払義務者に代償金を支払うだけの資力があることが求められます。
まとめ
代償分割は、分けにくい不動産や株式を手放さずに公平な遺産分割を目指す上で有用な手法です。一方で、代償金の支払い能力や財産の適正な評価、遺産分割協議書の正確な記載など、慎重な検討が求められます。
適切な手続きを行わないと、後々の支払トラブルや予期せぬ税負担につながる恐れがあります。
代償金の算定基準や遺産分割協議書の作成などに疑問や不安がある場合は、弁護士や税理士への相談を検討するとよいでしょう。代償分割を伴う遺産分割についてお困りの際は、弁護士法人ネクスパート法律事務所へご相談ください。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。