更新日:2023年7月2日 (日)
公開日:2021年12月1日 (水)
自己破産を決断すべきタイミングとは|重要な時期や注意点を解説
サマリー
借金の返済が行き詰まり、どのタイミングで自己破産を決断すべきか、あるいは離婚や任意売却など他の手続きとどちらを先に行うべきか悩む方は少なくありません。手続きを先延ばしにすると、督促や財産の差し押さえといったリスクが高まるおそれもあります。この記事では、自己破産を検討すべき具体的な状況や申立てにあたり慎重な判断が必要なケース、関連する各種手続きとの前後関係や注意点について解説します。
自己破産を検討すべき主なタイミング・状況
借金問題の解決に向けた手続きにはいくつかの種類がありますが、状況によっては自己破産の手続きを進めることが適している場合があります。どのような状況に直面した際に自己破産が検討対象となるのか、代表的なケースを解説します。
返済が滞り督促や差し押さえのリスクが生じている場合
借金の返済が滞り始め、債権者からの督促が続いている状況は、債務整理を検討する大きな契機となります。滞納をそのまま放置すると、残債務の一括請求を受けたり、裁判所を通じた支払督促や訴訟を起こされたりするリスクが高まります。
さらに手続きが進むと、給与や預貯金などの財産が差し押さえられるおそれがあります。なお、すでに差し押さえが開始されている場合であっても、破産手続開始決定が下りることで強制執行の手続きを中止させることが可能です。
元本が減らず利息の支払いのみを繰り返している場合
毎月欠かさず返済を続けているにもかかわらず、返済金の多くが利息の支払いに充当され、借入元本がほとんど減らない状態が続いている場合も検討の目安となります。
元本を効率的に減らすためには返済額を増やす必要がありますが、家計に余裕がなく増額が難しい場合、長期にわたって完済の見込みが立たなくなる傾向にあります。このような悪循環に陥っているときは、抜本的な解決を図る判断が求められます。
病気や失職等で収入がなく今後の返済見込みが立たない場合
病気や怪我による長期療養、勤務先の解雇や倒産などによって収入が途絶え、将来的な収入の回復も見込めない場合は、返済を継続することを前提とした任意整理や個人再生の利用が困難になります。
処分して返済に充てられる資産がなく、親族等からの金銭的支援も得られない状況であれば、すべての債務についての支払義務免除を目指す自己破産が有力な選択肢となります。
生活保護を受給している場合
生活保護を受給している方で借金が残っている場合も、速やかに自己破産を検討する必要があります。
生活保護費は健康で文化的な最低限度の生活を維持するための公的資金であり、借金の返済に充てることは原則として認められていません。
受給費から返済を続けていると不正受給とみなされるおそれがあるため、借金自体を解消する手続きが必要です。生活保護受給中に自己破産を申し立てる場合、法テラスの民事法律扶助制度を利用することで費用の立替えを受けられることがあり、手続き終了時も受給中であれば立替金の返還が免除される仕組みが用意されています。
自己破産申立てにあたり慎重な検討が必要なタイミング
借金の返済が困難な状況であっても、申立てを行うタイミングによっては免責の判断や財産の処分に大きな影響が生じることがあります。状況によっては申立ての時期を慎重に見極める必要があります。
過去7年以内に免責許可やハードシップ免責を受けている場合
過去に自己破産で免責許可決定を受けた、あるいは個人再生でハードシップ免責の決定を受けたことがある場合、その確定日から7年間は免責不許可事由に該当します。
7年が経過していない段階での申立ては、原則として免責が認められにくい点に注意が必要です。
ただし、破産法には裁判所の裁量によって免責を認める「裁量免責」の制度も存在します。前回の免責から7年以内であっても事情により認められるケースはありますが、審査は通常よりも厳格に行われる傾向があります。
退職を控えている、または退職金を受け取った直後の場合
自己破産の手続きでは、将来受け取る予定の退職金や既に受領した退職金も財産として評価され、一部または全部が処分の対象となる場合があります。
処分の対象となる範囲は、退職の予定時期や受取状況によって以下のように取り扱いが異なります。
| 退職の状況 | 財産としての主な扱い・処分対象の目安 |
|---|---|
| 退職する予定がない場合 | 支給見込額の8分の1相当額 |
| 近々退職する予定がある場合 | 支給見込額の4分の1相当額 |
| すでに退職し未受取の場合 | 支給見込額の4分の1相当額 |
| すでに退職金を受領した場合 | 現金(99万円超)または預貯金(残高20万円超)として評価 |
退職金を受領した後に破産を申し立てた場合、手元にある現金や口座の預貯金として扱われます。現金の場合は99万円を超える部分、預貯金の場合は一定額を超える残高が原則として処分の対象となります。
退職の時期が近い場合や退職金を受け取った直後は、破産手続きにおける財産評価が大きく変わるため、申立てのタイミングについて慎重な確認が求められます。
離婚・任意売却・生活保護申請と自己破産のタイミング
借金問題を抱えている状況で、離婚や不動産の処分、生活保護の受給といった別の手続きが重なるケースは少なくありません。どの手続きを先行させるかによって、財産の処分範囲や手続きの負担、家族への影響が大きく変わる場合があります。
離婚と自己破産の前後関係と影響
離婚を先行する場合、離婚に伴う慰謝料や財産分与の額が過大であると、自己破産の手続きにおいて財産隠しを疑われ、管財事件として扱われたり免責許可に影響が出たりするおそれがあります。財産分与は夫婦共有財産の2分の1相当など、妥当な範囲にとどめることが重要です。
自己破産を行っても養育費の支払い義務は免除されません。また、配偶者が借金の連帯保証人になっている場合、離婚しても連帯保証契約は自動的に解消されないため、主債務者の破産に伴い保証人へ一括請求がなされる点に注意が必要です。
自己破産を先行する場合は、破産者の名義財産が換価・処分されるため、その後の離婚時に十分な財産分与を行えない可能性があります。また、破産前に発生した不貞行為に基づく慰謝料請求権などは免責の対象となり得る点も留意しておく必要があります。
生活保護申請と自己破産のタイミング
生活保護の申請を先行する場合、申請や決定のみでは債権者からの督促は停止しません。また、受給した生活保護費を借金の返済に充てることは制度上認められておらず、不正受給とみなされるリスクがあります。
生活保護費を借金の返済に充てることはできないため、借金がある状態での生活保護受給には注意が必要です。
自己破産では税金や社会保険料などの公租公課は免責されませんが、生活保護の受給決定を受けることで滞納分の執行停止や免除などの措置が取られる場合があります。そのため、生活再建に向けた手順の調整が求められます。
自宅の任意売却・競売と自己破産の順序
自宅を所有したまま自己破産を申し立てると、管財事件として処理され、破産管財人の引継予納金などの費用負担が生じる傾向にあります。一方で、申立て前に任意売却を完了させ、手元に換価価値のある財産が残らない状態になっていれば、同時廃止事件として手続きが進む可能性があります。
住宅ローンを滞納し続けた場合、自己破産の申立て前であっても債権者によって競売手続きが進められます。一般的な滞納から競売までの進行目安は以下のとおりです。
| 滞納期間の目安 | 主な状況・手続きの流れ |
|---|---|
| 1〜3ヶ月程度 | 金融機関(債権者)からの督促 |
| 3〜6ヶ月程度 | 期限の利益の喪失(一括請求の発生) |
| 6〜7ヶ月程度 | 保証会社による代位弁済 |
| 7〜10ヶ月程度 | 裁判所への競売申立て・競売開始決定 |
| 1年〜1年半程度 | 入札・落札を経て立ち退き・強制執行 |
手続きの進行に伴い影響が生じる各種タイミング
自己破産の手続きを進めると、所有している車両の引き上げや公的記録への掲載、信用情報への登録など、生活や取引にさまざまな影響が生じます。これらがどの段階で発生するのかを把握しておくことが大切です。
車が引き上げ・処分されるタイミング
自動車ローンが残っており、契約上「所有権留保」が設定されている場合、自己破産の手続きを弁護士に依頼して受任通知が送付された後に、信販会社やディーラーによって車が引き上げられます。
引き上げの時期は債権者によって異なりますが、受任通知の受領後に日程調整を行い、引き渡し期日を決める流れが一般的です。
一方、すでにローンを完済している場合や現金一括で購入した車、所有権留保のないローンの場合で、車の時価が20万円を超えるときは、破産手続きの中で破産管財人による換価処分の対象となります。管財業務の進行により処分時期は前後しますが、破産手続開始決定後は原則として車の利用ができなくなります。
官報に掲載されるタイミング
自己破産を行うと、国の機関紙である「官報」に破産者の住所や氏名が掲載されます。掲載されるタイミングは手続き中に合計2回あります。
1回目は裁判所による「破産手続開始決定」が出されたタイミングで、決定日から概ね1週間後に掲載されます。2回目は「免責許可決定」が出されたタイミングとなり、決定日から概ね2週間後に掲載されるのが一般的な流れです。
信用情報機関に事故情報が登録される時期と期間
自己破産を申し立てると、信用情報機関に事故情報(いわゆるブラックリスト)が登録され、一定期間は新たな借入れやクレジットカードの作成が制限されます。
なお、破産申立てを行う前であっても、借金の返済を滞納している段階で延滞情報が登録される点に留意が必要です。
| 信用情報機関 | 主な加盟機関 | 登録されるタイミング・保有期間の目安 |
|---|---|---|
| CIC(シー・アイ・シー) | 信販会社・クレジットカード会社等 | 返済遅延の発生から約5年間 |
| JICC(日本信用情報機構) | 消費者金融・信販会社等 | 返済遅延の発生から約5年間 |
| KSC(全国銀行個人信用情報センター) | 銀行・信用金庫・信用組合等 | 破産手続開始決定(官報公告)から約7年間 |
自己破産の適切なタイミングに迷ったら弁護士へ相談
借金の返済に行き詰まった際、どのタイミングで自己破産を申し立てるべきかは、債務の総額や毎月の収支だけでなく、保有している財産や家族関係などによっても異なります。
退職や離婚、自宅の売却といった出来事が重なっている場合、手続きを進める順序によって財産の取り扱いや手続き費用が大きく変動することもあります。そのため、ご自身の状況に応じた適切な進め方を慎重に見極めることが大切です。
判断を先延ばしにして滞納が続くと、督促の激化や財産の差し押さえが進み、選べる解決策の幅が狭まるおそれがあります。
弁護士に相談することで、現在の借入状況や収入、財産関係を客観的に整理し、自己破産を申し立てるべき適切な時期や、他の手続きとの前後関係について具体的な見通しを立てやすくなります。
また、状況によっては自己破産に限らず、任意整理や個人再生など別の債務整理手続きが適しているケースもあります。個々の生活状況や再スタートに向けた希望に合わせた解決方法の検討が可能です。
借金の返済が困難になり、自己破産の決断やタイミングに不安を感じたときは、早い段階で弁護士への相談を検討するとよいでしょう。
まとめ
自己破産を検討する適切なタイミングは、借金の返済状況や今後の収入見込み、保有財産の状況などによって異なります。
特に離婚や退職金の受取、不動産の売却、生活保護の受給といった事情が重なる場合、手続きを行う順序が結果に影響を与えることがあります。また、滞納を放置すると差し押さえなどの手続きが進んでしまうため注意が必要です。
判断に迷う場合や手続きの進め方に不安があるときは、早めに弁護士などの専門家に相談し、状況に応じた適切な解決方法を検討することが大切です。
コラム監修者
YUKA SAITO
所属:札幌オフィス 支店長
埼玉県出身。青山学院大学法学部、獨協大学法科大学院を卒業後、司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了。都内法律事務所勤務を経て、ネクスパート法律事務所に入所し、一般民事全般の業務に取り組む。大宮オフィス所長就任を経て、現在の札幌オフィスを開設、所長に就任。法人破産、個人破産、離婚・慰謝料等の男女問題に関する紛争が注力分野である。