更新日:2026年10月20日 (火)
公開日:2026年10月20日 (火)
石綿健康被害救済制度とは?対象疾患や給付内容・申請の流れを解説
サマリー
かつてアスベスト(石綿)を取り扱う環境にいた経験があり、体調の悪化や中皮腫・肺がんなどの診断を受けて今後の生活や治療費に不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
石綿健康被害救済制度は、労災補償の対象とならない周辺住民や自営業者、そのご遺族なども幅広く救済することを目的とした公的制度です。
認定を受けることで、医療費や手当などの支給を受けられる可能性があります。
この記事では、救済給付の対象となる指定疾病や受け取れる給付の種類、労災保険など他の制度との違い、申請手続きの流れについて分かりやすく解説します。
石綿健康被害救済制度とは|制度の趣旨と背景

石綿健康被害救済制度は、「石綿による健康被害の救済に関する法律(石綿救済法)」に基づき、2006年に創設された国の公的救済制度です。
過去にアスベストを吸い込んだことによって発症した方やそのご遺族に対して、迅速な救済を行うことを目的としています。
アスベストによる健康被害は、吸い込んでから発症するまでの潜伏期間が数十年に及ぶことが知られています。
そのため、被害に気づいた時点では事業主の責任追及が困難であったり、勤務先がすでに倒産・解散していたりするケースが少なくありません。
こうしたアスベスト被害特有の事情に配慮し、訴訟などを経ずとも行政手続きを通じて一定の給付を行う仕組みとして設けられたのが本制度です。
労災補償を受けられない方まで幅広くカバーする仕組み
一般的な労働災害の場合、雇用関係にある労働者が業務上で被災したときに労働者災害補償保険(労災保険)から給付が行われます。
しかし、アスベスト被害は労働者にとどまらず、多岐にわたる生活環境で発生してきました。
石綿健康被害救済制度では、労災保険の対象とならないアスベスト工場の周辺住民、作業者の衣服に付着した粉じんを吸い込んだ家族、一人親方や自営業者なども広く救済対象とされています。
業務上・業務外を問わず、日本国内で石綿を吸い込んだことによる指定疾病にかかった方であれば、幅広く申請が認められています。
制度の運営主体と財源の仕組み
この救済制度の窓口運営や認定業務、給付の支給を行っているのは、環境省所管の「独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)」です。国や地方自治体、保健所などと連携しながら、被害者からの相談や申請受付を進めています。
また、救済給付に充てられる財源は、国からの交付金だけでなく、過去に石綿を製造・使用してきた産業界全体からの拠出金(一般拠出金・特別拠出金)によって賄われている点も特徴です。
社会全体で負担を分かち合い、被害者救済を図る構造となっています。
救済給付の対象となる指定疾病と認定要件
石綿健康被害救済制度における給付を受けるためには、法律で定められた特定の疾病に罹患していることが前提となります。
この対象疾患は「指定疾病」と呼ばれ、石綿(アスベスト)を吸入したことにより発症することが医学的に認められている病態が明確に規定されています。
救済給付の対象となる4つの指定疾病
現在、本制度において指定疾病とされているのは「中皮腫」「気管支肺がん」「著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚」「石綿肺」の4種類です。
いずれも石綿へのばく露が主な原因と考えられていますが、認定を受けるためにはそれぞれ個別の医学的基準を満たす必要があります。
| 指定疾病名 | 概要および主な医学的要件 |
|---|---|
| 中皮腫 | 胸膜、腹膜、心膜などに発生する悪性腫瘍。病理組織検査や画像所見等により中皮腫と医学的に判断されることが要件となります。 |
| 気管支肺がん | 肺組織に発生する悪性腫瘍。肺内の石綿小体・石綿繊維の存在や、胸膜プラークの併発など、石綿ばく露を示す所見が求められます。 |
| 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚 | 胸膜が広範囲に厚くなり呼吸機能が低下する病変。胸膜の厚さや広がりの画像所見に加え、所定の呼吸機能検査基準を満たす必要があります。 |
| 石綿肺 | 石綿を吸入したことで肺が線維化するじん肺の一種。一定以上のじん肺エックス線写真像や自覚症状・身体所見などが確認されることが要件です。 |
医学的判定の仕組みとばく露歴の考え方
救済制度の認定は、申請者から提出された診断書や胸部エックス線写真、CT画像などの検査結果をもとに、国の医学的判定部会(専門の医師等)による厳格な審査を経て行われます。
本制度の大きな特徴として、指定疾病に罹患していることが医学的に証明されれば、石綿にさらされた具体的な場所や原因作業を特定・証明できなくても申請が可能です。
そのため、過去の勤務先の倒産により就労証明書が入手できない場合や、周辺環境からの吸入等で詳細なばく露経緯が分からない場合であっても、医学的要件に合致していれば救済の対象となる可能性があります。
受け取れる主な救済給付の種類と内容
石綿健康被害救済制度では、認定を受けた患者ご本人に対する支援だけでなく、申請を行わずにお亡くなりになられた方のご遺族に対する給付も用意されています。対象者の状況に応じて支給される給付項目が分かれています。
現在療養中の方へ支給される主な給付
指定疾病にかかっている旨の認定を受けた方には、指定疾病の治療にかかる医療費のうち、公的医療保険適用後の自己負担分が支給されます。
原則として自己負担なしで治療を受けられる仕組みとなっています。
あわせて、入通院や療養に伴う経済的負担を軽減することを目的として、月額の「療養手当」が支給されます。
このほか、通院等に必要な費用等の負担を考慮した枠組みや、亡くなられた際の特別葬祭料・救済給付調整金などの制度も整えられています。
お亡くなりになられた方のご遺族へ支給される主な給付
指定疾病により亡くなられた方で、生前に救済制度の認定を受けていなかった場合でも、一定の要件を満たす遺族からの請求により「特別遺族弔慰金」および「特別葬祭料」が支給される場合があります。
また、生前に認定を受けていた患者が亡くなられた際には、未支給の医療費や療養手当のほか、葬祭を行った方に対する「葬祭料」が支給対象となります。
救済給付の種類と請求期限
救済給付にはいくつかの種類があり、それぞれ対象者や請求期限が法律で定められています。主な給付の概要は以下のとおりです。
| 給付の種類 | 対象者 | 主な内容 | 請求期限の目安 |
|---|---|---|---|
| 医療費 | 認定を受けた患者本人 | 指定疾病の治療にかかる自己負担分 | 医療費の支払いを行った日の翌日から2年以内 |
| 療養手当 | 認定を受けた患者本人 | 療養に伴う諸費用
(月額支給) |
請求できる日の翌日から2年以内 |
| 葬祭料 | 認定患者の葬祭を行った方 | 葬祭費用の支援
(定額) |
患者が亡くなられた日の翌日から2年以内 |
| 特別遺族弔慰金 | 生前未申請で死亡した患者の遺族 | ご遺族への弔慰金
(定額) |
死亡日等から原則25年以内
(※疾病による) |
| 特別葬祭料 | 生前未申請で死亡した患者の遺族等 | 葬祭費用の支援
(定額) |
死亡日等から原則25年以内
(※疾病による) |
特に患者がお亡くなりになられた後の特別遺族弔慰金や特別葬祭料の請求については、法律上の期限が設けられているため、該当する可能性がある場合は期限の確認が必要です。
労災保険や「建設アスベスト給付金」との違い
石綿による健康被害に対する公的な経済支援には、石綿健康被害救済制度のほかに「労災保険制度」や「建設アスベスト給付金制度」などが存在します。
これらは目的や対象となる要件、給付内容が異なるため、自身が置かれた状況に応じてどの制度に該当するかを確認することが重要です。
労災保険との関係と優先順位
会社などの事業所に雇用されて労働者として働き、その業務が原因で石綿を吸入して発症した場合は、原則として労働者災害補償保険(労災保険)の請求が優先されます。
労災保険は業務上の災害を補償する制度であり、療養補償給付や休業補償給付、遺族補償年金など比較的幅広く手厚い補償が用意されています。
石綿健康被害救済法による救済給付は、労災保険の時効が成立した方や、そもそも労災保険の対象とならない方を救済するためのセーフティネットとしての役割を持っています。
そのため、労災補償を受けられる状況にある場合には、まず労災保険の手続きを行うことが基本とされています。
労働者として石綿ばく露作業に従事していた場合は、原則として労災保険給付の請求が優先されます。
建設アスベスト給付金制度との位置づけの違い
建設アスベスト給付金制度は、特定の期間に建築現場等の石綿ばく露作業に従事した結果、一定の健康被害を被った労働者や一人親方、中小事業主などを救済するために創設された制度です。
国に対する責任追及に基づく和解的な給付金としての性質を持ち、最高裁判決の判断枠組みに沿って一定の要件を満たす場合にまとまった額の給付金が支給されます。
これに対して石綿健康被害救済制度は、建設業に限らず製造業や工場周辺の住民、家族の作業着の洗濯によるばく露など、就業形態や原因となった場所を問わず広く対象としている点に違いがあります。
一人親方などで労災保険の特別加入をしていなかった方でも、建設現場での作業歴があれば建設アスベスト給付金の対象となり得ます。
主な制度の比較と併給調整の考え方
| 制度名 | 主な対象者 | 制度の趣旨・位置づけ | 支給される給付の例 |
|---|---|---|---|
| 石綿健康被害救済制度 | 労災対象外の周辺住民、自営業者、時効後の労働者等 | 原因追及を伴わない迅速な救済 | 医療費自己負担分、療養手当、特別遺族弔慰金等 |
| 労災保険 | 雇用されて石綿作業に従事した労働者(特別加入者含む) | 業務に起因する健康被害に対する労働者保護 | 療養補償給付、休業補償給付、遺族補償等 |
| 建設アスベスト給付金 | 特定期間に建設現場等で従事した労働者、一人親方等 | 国の責任に基づく損害賠償に代わる給付 | 疾病区分に応じた給付金
(最大1,300万円程度) |
複数の制度に該当する可能性がある場合、公的な補償や賠償の重複受給を防ぐため、法律に基づいて併給調整が行われます。
同一の疾病に関して労災保険の給付や建設アスベスト給付金、民事上の損害賠償等を受給した場合は、石綿健康被害救済給付の一部または全部が支給されない取り決めになっています。
どの制度を選択すべきかは、従事していた職種や雇用形態、石綿にさらされた年代や場所によって細かく分かれます。
制度ごとの要件を適切に見極めることが、適正な給付を受け取るための判断材料となります。
石綿健康被害救済制度の申請窓口と手続きの流れ

石綿健康被害救済制度の申請は、全国の保健所または運営主体である独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)の窓口で行うことができます。
保健所へ直接持参して提出できるほか、機構へ郵送で申請書類一式を提出することも可能です。
療養中の方ご本人が窓口へ出向くのが困難な場合には、郵送手続きを活用することが一般的です。
申請時に必要となる主な書類
申請にあたっては、指定疾病に罹患していることや申請者との身分関係を客観的に証明するための各種資料を揃える必要があります。
具体的には、所定の申請書に加えて主治医が作成した診断書、胸部エックス線写真やCT画像などの画像データ(フィルムやCD-Rなど)、病理組織検査結果のコピーなどが求められます。
また、亡くなられた方の遺族が特別遺族弔慰金などを請求する場合には、死亡の事実や死亡日、請求者との続柄を証明するための戸籍謄本や除籍謄本、死亡診断書の写しなども提出が必要です。
申請から判定・支給決定までの流れ
書類を提出した後は、機構において医学的判定や審査が進められます。大まかな手続きの流れは以下の表のようになります。
| 段階 | 手続き内容 | 留意点・目安期間 |
|---|---|---|
| 1. 書類準備と提出 | 申請書・医師の診断書・画像データ等を保健所窓口または機構へ提出 | 医療機関へ画像データの提供を依頼する期間を見込んでおく |
| 2. 書類確認・調査 | 機構による提出書類の不備確認、必要に応じた医療機関への照会 | 書類に不備がある場合は補正の連絡が入る |
| 3. 医学的判定 | 国の専門家で構成される医学的判定委員会による審査 | 疾病の種類や提出画像の状態によって審査期間が変動する |
| 4. 認定および支給決定 | 機構から申請者へ認定結果通知書の送付、給付金の振込手続き | 申請から決定までの期間は数か月程度かかるケースが一般的 |
医学的判定は専門の医師等によって慎重に行われるため、申請から認定結果の通知が届くまでには一定の時間を要します。
提出書類や画像データに不足があると追加提出を求められて審査が長期化することがあるため、事前に保健所や機構の相談窓口で必要資料をよく確認してから準備を進めることが大切です。
まとめ
石綿健康被害救済制度は、労災補償の枠組みに入らない方やそのご遺族も含め、迅速な支援を行うための公的な制度です。
指定疾病の診断を受けていれば、ばく露の状況を細かく特定できない場合でも申請が検討できます。
一部の給付には請求期限が定められており、労災保険や建設アスベスト給付金など他の制度との優先関係や調整への配慮も欠かせません。
給付の機会を逃さないためにも、対象となる制度や申請の時期について早めに確認を進めることが重要です。
申請手続きや他制度との兼ね合いでお悩みの際は、保健所などの関係窓口のほか、弁護士法人ネクスパート法律事務所までお気軽にご相談ください。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
東京都杉並区出身。明治大学付属中野高校、明治大学法学部を経て、明治大学法科大学院を修了。2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2012年12月に弁護士登録(東京弁護士会)し、都内の法律事務所での勤務を経て、2016年1月に寺垣俊介とともにネクスパート法律事務所を創業。代表弁護士として一般民事から企業法務まで幅広い分野を手がけるとともに、全国に拠点を持つ事務所の経営にあたる。
早くからテクノロジーと法務の融合に取り組み、2021年にはAIを利用した法律文書作成サービスを開発するLegal AI株式会社の代表取締役に就任(現在は退任)。当時はAI技術が発展途上で技術的な壁に直面したが、この挑戦を通じて「法務業務こそAIの力を借りれば飛躍的に変わる」という確信を得る。以来そのビジョンを持ち続け、生成AIが広く普及した現在は事務所の業務全体でAIの活用を進めている。2026年には日本弁護士連合会「弁護士業務改革シンポジウム」にパネリストとして登壇した。ブロックチェーン・Web3分野の法務や海外法人の設立支援にも取り組み、公益法人主催のセミナー等で講師を務める。
公正取引委員会・中小企業庁「適正取引推進講習会」講師、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員を歴任。弁護士業務のかたわら、2014年に東京青年会議所に入会して以来、10年以上にわたりボランティア活動に取り組む。2017年からは国際的な社会奉仕団体であるライオンズクラブに所属し、2022年には東京数寄屋橋ライオンズクラブ第57代会長を務めた。献血の呼びかけ、障がい者スポーツ大会の支援、保護犬活動のほか、弁護士として小中学生への法教育や薬物乱用防止教育にも携わっている。