更新日:2024年12月3日 (火)
公開日:2024年6月3日 (月)
殺人未遂の刑期とは?懲役の相場や執行猶予の可能性を解説
サマリー
家族や関係者が殺人未遂の容疑をかけられた場合、どの程度の刑期になるのか、執行猶予がつく可能性があるのかなど、今後の見通しに不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
殺人未遂罪は殺人罪と同じ法定刑が規定されている重大な犯罪ですが、未遂減軽の適用や犯行態様、動機などの諸事情によって言い渡される量刑は大きく左右されます。
この記事では、殺人未遂罪の法定刑や実際の懲役刑の相場、執行猶予が検討される条件や傷害罪との判断基準について分かりやすく解説します。
殺人未遂罪の法定刑と刑期の相場

殺人未遂罪は刑法第203条に規定されており、法定刑は既遂の殺人罪(刑法第199条)と同じく「死刑、無期懲役、または5年以上の懲役」と定められています。
有期懲役の上限は原則として20年ですが、他の罪との併合罪加重などが適用される場合は最長30年となります。
ただし、刑法第43条には「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる」と規定されており、未遂減軽が認められる場合があります。
未遂減軽が適用された場合、有期懲役の下限や上限が軽減されるため、事案の情状によっては法定刑の下限である5年を下回る懲役刑が言い渡されることもあります。
最高裁判所の量刑分布統計に見る傾向
実際の裁判において言い渡される量刑は、事件ごとの具体的な事情によって異なりますが、統計上は一定の傾向が見られます。最高裁判所の司法統計資料(量刑分布)によると、殺人未遂罪の判決における刑期の分布は以下のようになっています。
| 言渡刑期・区分 | 裁判官裁判 | 裁判員裁判 | 全体の割合 |
|---|---|---|---|
| 懲役15年超〜21年以下 | 4件 | 1件 | 0.94% |
| 懲役11年超〜15年以下 | 15件 | 9件 | 4.49% |
| 懲役7年超〜11年以下 | 44件 | 25件 | 12.93% |
| 懲役5年超〜7年以下 | 64件 | 45件 | 20.41% |
| 懲役3年超〜5年以下 | 87件 | 38件 | 23.41% |
| 懲役3年以下(実刑) | 24件 | 12件 | 6.74% |
| 懲役3年以下(執行猶予) | 104件 | 62件 | 31.09% |
統計全体をみると、実刑判決となった事案では懲役3年超から7年以下の範囲に多く分布しています。
また、未遂減軽や有利な情状が考慮されて懲役3年以下となり、執行猶予が付された割合も全体の約3割を占めています。
少年法改正に伴う「特定少年」の逆送対象
少年事件においては原則として家庭裁判所で審判が行われますが、重大事件については検察官に送致(逆送)され、成人と同様の刑事裁判を受ける仕組みがあります。
2022年4月の少年法改正により、18歳および19歳の者は「特定少年」と位置づけられました。
特定少年が犯した事件のうち、死刑・無期または短期1年以上の懲役・禁錮にあたる罪については原則として検察官逆送の対象とされています。
殺人未遂罪の法定刑は下限が5年の懲役であるため、短期1年以上の罪に該当し、特定少年が関与した事件では原則逆送の対象となります。
殺人未遂罪で執行猶予がつく条件と判断要素
殺人未遂罪は重大な犯罪ですが、裁判において刑の執行猶予が付されるケースも一定割合で存在します。
執行猶予が認められるためには、法律上の要件を満たした上で、被告人に有利な情状が十分に考慮される必要があります。
刑法第25条が定める執行猶予の法律上の要件
刑法第25条の規定により、執行猶予を付すことができるのは「3年以下の懲役・禁錮、または50万円以下の罰金」を言い渡す場合に限られます。
あわせて、過去に禁錮以上の刑に処されたことがないこと、または刑の執行終了から5年以上が経過していることなどの前科に関する要件を満たす必要があります。
殺人未遂罪の本来の法定刑は5年以上の懲役であるため、法律上の減軽や情状酌量によって言渡刑が懲役3年以下まで減刑されることが執行猶予を得るための必須条件となります。
執行猶予の判断において有利に働く主な情状
減軽が検討され、執行猶予が認められるか否かの判断では、犯行自体の悪質性(犯情)と被告人の個人的な事情(一般情状)の双方が慎重に審査されます。
- 被害者の負傷の程度が比較的軽微で、生命への危険性が低かったこと
- 被害者への真摯な謝罪や被害弁償が行われ、示談が成立していること
- 犯行が計画的ではなく、突発的または偶発的なものであったこと
- 被告人が深く反省しており、家族などによる監督体制が整っていること
- 同種の前科や前歴がなく、再犯の可能性が極めて低いと見込まれること
裁判例に見る執行猶予判断の具体的事情
実際の刑事裁判では、犯行態様が危険であっても、関与の度合いや犯行動機、家族関係などを総合的に評価して執行猶予付き判決が言い渡されることがあります。
例えば、共犯者と知人に危害を加えた事案において、行為自体の危険性を指摘しつつも、主犯の計画に従った従属的な立場であったことや被害者の怪我が命に関わるものではなかった点などを考慮し、懲役3年・執行猶予5年が言い渡された事例があります。
また、家庭内での介護や育児の行き詰まりから親族を害しようとした事案では、行為自体の重大性を認めつつも、精神的に追い詰められた経緯への同情の余地や、被害者を含む親族が処罰を望んでいない宥恕の意向を示していることなどが重視され、執行猶予付きの判決が下された裁判例も見られます。
殺人未遂事件で刑期・量刑が決まる基準
殺人未遂事件の量刑は、個々の事案における具体的な事情を総合的に考慮して判断されます。同じ殺人未遂罪であっても、数年の懲役刑から20年を超える長期の実刑まで幅広く分かれます。
裁判官や裁判員が刑期を決定する際には、犯行そのものの悪質性(犯情)と、犯行前後の事情や被告人の境遇などの一般情状が精査されます。
殺意の強さと犯行態様
犯行態様においては、どのような凶器を用い、どのように攻撃を加えたかが重視されます。
殺傷能力の高い刃物や鈍器を用い、急所を狙って執拗に複数回攻撃を加えたような場合は、確定的な強い殺意があったと判断され、量刑が重くなる要因となります。
一方で、凶器の殺傷能力が低い場合や、とっさに手元にあった物を用いたような場合、あるいは攻撃が単発で終わっている場合などは、犯行態様の危険性が比較的低いと評価されることがあります。
犯行の計画性および残虐性
犯行が周到に準備された計画的なものか、それとも突発的なものかも重要な判断基準です。
事前に凶器を準備したり、逃走経路を確保したりするなど計画性が認められる場合は悪質性が高いと評価されます。
また、被害者を長時間にわたって苦しめるような残虐な方法がとられた場合や、無関係な一般人を巻き込む無差別犯行などのケースでは、特に厳しい刑罰が科される傾向にあります。
被害結果の重大性と被害者の処罰感情
被害者が負った負傷の程度や、一命を取り留めた後の後遺症の有無なども量刑に直結します。
後遺障害が残り日常生活に重大な支障が生じている場合や、強い精神的ショックによるPTSDなどを負った場合は、結果の重大性が考慮されて刑期が長くなる傾向があります。
これに加え、被害者やその遺族が厳しい処罰を求めているか、あるいは示談や謝罪の受け入れによって処罰感情が緩和されているかも、量刑 판단において重要な考慮要素となります。
犯行に至る動機や経緯
犯行に至る経緯や動機に酌むべき事情があるかどうかも精査されます。
例えば、長年にわたるDVや虐待、深刻な介護疲れなどに追い詰められた末の犯行であれば、情状酌量の余地が認められることがあります。
対照的に、自己中心的な欲求を満たすためであったり、一方的な怨恨や社会への不満を晴らすためであったりするなど、動機に同情の余地が一切ない場合には、情状酌量は認められず重い判決が下される可能性が高まります。
殺人未遂の成立要件と傷害罪との違い
殺人未遂罪が成立する基本的な構成要件
殺人未遂罪が成立するためには、「相手を殺害する意思(殺意)」が存在することと、「人の生命を奪う現実的な危険性がある行為(実行行為)」に着手したことの双方が必要とされます。
例えば、刃物で人を刺す行為や首を強く絞める行為などは、生命に直接の危険を及ぼす実行行為とみなされます。
一方、殺害の意思があったとしても、客観的に生命を害する危険がない方法による行為であれば、実行の着手とは認められず殺人未遂罪は成立しません。
殺意の有無を認定するための客観的要素
殺意は加害者の内面に関わる問題であるため、単に本人の供述だけで判断されるわけではありません。
捜査や裁判においては、事件当時の状況や客観的な証拠を総合的に考慮して殺意の有無が判断されます。
- 使用された凶器の種類や形状、その殺傷能力の高さ
- 攻撃が向けられた身体の部位(頭部や頸部、胸部など生命維持に直結する急所か否か)
- 創傷の深さ、攻撃の回数、力加減などの犯行態様
- 犯行前後の言動や、犯行後に被害者に対して救護措置を行ったかどうか
- 加害者と被害者との人間関係やトラブルの経緯、動機の有無
例えば、殺傷能力の高い刃物で急所を執拗に刺した場合は殺意が強く推認される傾向があります。
一方で、急所ではない手足を浅く傷つけたに留まるような場合は、殺意が認められない可能性もあります。
殺意が認められない場合の傷害罪への変更とその影響
他人に危害を加えて負傷させたものの、殺害する意思(確定的な殺意や未必の殺意)が否定された場合には、殺人未遂罪ではなく傷害罪(刑法第204条)が適用されることになります。
被害者が重いケガを負った事案であっても、攻撃態様や当時の状況から死の危険性を認識していなかったと判断され、殺人未遂罪から傷害罪へと変更された裁判例も存在します。
傷害罪の法定刑は15年以下の懲役または50万円以下の罰金と定められており、殺人未遂罪とは適用される量刑の枠組みや判断基準が大きく異なります。
殺人未遂事件における弁護士への相談

殺人未遂罪の容疑をかけられた場合、捜査の初期段階から法的な観点に基づいた適切な対応をとることが重要となります。
取り調べでの供述内容や証拠の収集状況は、起訴・不起訴の判断や裁判での量刑に影響を与える可能性があります。
客観的証拠の収集と法的主張の重要性
殺人未遂事件では、殺意の有無や犯行に至る経緯、当時の状況について客観的な証拠をもとに正確に主張することが求められます。
捜査機関が作成する供述調書は後の裁判で重要な証拠となるため、自身の認識と異なる内容が記載されないよう慎重な対応が必要です。
凶器の性質や創傷の程度、犯行に至る経緯などを精査し、殺意がなかった場合には傷害罪にとどまる旨を法的に主張する活動が行われます。
示談交渉や情状立証に向けた弁護活動
重大な被害が生じている事件では、加害者側が直接被害者やその家族に接触することは極めて困難であり、二次被害防止の観点からも適切ではありません。
弁護士が間に入ることで、被害者の心情に配慮しながら謝罪の意思を伝え、被害弁償や示談交渉を進めることが可能になります。
示談の成立や被害弁償の有無、被害者の処罰感情の緩和などは、検察官の起訴判断や裁判官による量刑判断において考慮される情状要素となります。
また、家族による監督体制の整備や再犯防止策の構築など、被告人に有利に働く情状事実を整理して裁判所に提出する活動も行われます。
殺人未遂事件の手続きや量刑の見通しに不安がある場合は、刑事弁護の一般的な手続きや対応方針について弁護士に相談することが選択肢の一つとなります。
コラム監修者
Shunsuke Teragaki
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。