更新日:2026年9月17日 (木)
公開日:2026年9月17日 (木)
ミシュラン店運営会社の自己破産に学ぶ、飲食店の法人破産と負債・経営者責任の考え方
サマリー
ミシュラン一つ星フレンチ運営会社の自己破産報道から、飲食店の急拡大に伴う資金繰り悪化と法人破産のタイミング、経営者の法的責任を弁護士が解説します。
多店舗展開を進めていた有名飲食店の運営会社が破産に至ったというニュースが報じられました。
ミシュラン一つ星フレンチ「LIAISON」の運営会社が自己破産 約30店を展開
出典:産経ニュース
2026年9月16日に配信された産経ニュースの報道によれば、ミシュラン一つ星を獲得したフレンチレストラン「LIAISON」を展開していた運営会社が自己破産したとされています。約30店舗という規模まで急拡大していた飲食店が経営破綻に至った背景には、飲食業界特有の資金繰りの難しさがあると考えられます。本コラムでは、この報道を手がかりに、飲食店が法人破産を検討すべきタイミングや、負債を抱えた経営者が負う可能性のある法的責任について解説します。
急拡大する飲食店が陥りやすい資金繰り悪化の構造
飲食店経営は、他業種と比較しても資金繰りが逼迫しやすい構造的な特徴を持っています。出店には内装工事費や保証金など多額の初期投資が必要となる一方、食材費・人件費・家賃といった固定費・変動費の負担は開店直後から発生します。多店舗展開のスピードが速い場合、新規出店の投資回収が終わらないうちに次の出店資金を借入で賄うという自転車操業的な財務構造に陥りやすく、既存店の利益では新規出店の借入返済を賄いきれなくなるケースが少なくありません。
また、ミシュラン星付き店のような高付加価値業態であっても、客単価の高さが必ずしも高い利益率に直結するとは限りません。良質な食材の仕入れコストや熟練したスタッフの人件費など、ブランド価値を維持するためのコストは他業態より高くなる傾向があり、売上規模の拡大が必ずしも資金繰りの改善につながらない点が、飲食業の破産事例に共通する落とし穴です。
法人破産の手続きと申立てのタイミング
法人破産は、破産法15条に定める「支払不能」、または法人特有の要件である破産法16条の「債務超過」(負債総額が資産総額を上回る状態)に該当する場合に申し立てることができます。支払不能とは、弁済期にある債務を「継続的に弁済することができない状態」(破産法2条11項)を指し、単に一時的な資金繰り難ではなく、継続的・一般的に支払能力を欠く状態であることが要件とされています。
経営者が破産を躊躇する理由として、従業員や取引先への影響、資金繰りが好転する可能性への期待などが挙げられますが、資金繰りが悪化してから対応を先延ばしにするほど、従業員給与や取引先への買掛金の未払いが積み重なり、関係者への被害が拡大してしまいます。複数店舗を展開する飲食店の場合、閉店・原状回復費用、リース契約の解約精算など、店舗数に比例して整理すべき契約関係も増えるため、資金がまだ一定程度残っている早い段階で弁護士に相談し、法的整理の要否とタイミングを検討することが重要です。
法人破産の申立て後は、裁判所が選任する破産管財人が会社財産の換価・配当を行います(破産法74条以下)。代表者個人が会社の債務について連帯保証をしている場合には、法人の破産と同時に代表者個人の破産も検討する必要があり、この点も早期相談が望ましい理由の一つです。
経営者が負い得る法的責任
法人が破産しても、代表者が当然に個人責任を免れるわけではありません。まず、金融機関からの借入について代表者が連帯保証をしている場合、法人の破産手続とは別に、保証人としての個人債務が残ります(民法446条)。この場合、代表者自身も自己破産や個人再生といった債務整理を検討する必要が生じます。
また、経営判断の内容によっては、会社法423条に基づく役員等の損害賠償責任や、破産手続における否認権行使(破産法160条以下)の対象となる可能性もあります。たとえば、支払不能であることを認識しながら特定の債権者にのみ弁済を行った場合(偏頗弁済)や、財産を不当に処分した場合には、破産管財人からその行為の効力を否定され、財産の返還を求められることがあります。さらに、悪質な財産隠しや帳簿の隠滅などが認められれば、詐欺破産罪(破産法265条)に問われる可能性もあり、経営者の対応次第で刑事責任にまで発展しかねない点には注意が必要です。
なお、今回報じられた運営会社の自己破産について、経営判断の適否や役員の法的責任の有無は現時点の報道からは明らかではなく、あくまで一般論として、多店舗展開型の飲食店が破産に至った場合に生じ得る法的論点を整理したものである点にご留意ください。
まとめ
有名店であっても急拡大の裏側で資金繰りが悪化し、法人破産に至るケースは珍しくありません。重要なのは、支払不能や債務超過の兆候が見え始めた段階で早期に専門家に相談し、従業員・取引先への影響を最小限に抑えながら計画的に手続きを進めることです。連帯保証を伴う代表者個人の債務整理や、否認権行使・役員責任のリスクについても、破産法・会社法・民法の各規定を踏まえた見通しを持って対応する必要があります。
飲食店の資金繰り悪化や負債の増加、法人破産のタイミング・手続きでお困りの場合は、弁護士法人ネクスパート法律事務所までご相談ください。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。