更新日:2026年3月11日 (水)
公開日:2023年10月26日 (木)
自分が浮気相手だった?慰謝料請求の可否と法的リスクを解説
サマリー
独身と信じて交際していた相手が実は既婚者だったと判明した場合、深い精神的苦痛とともに、相手の配偶者から慰謝料を請求されるのではないかという不安を抱く方も少なくありません。
既婚者と知らずに関係を持っていた場合の法的責任や、独身と偽られたことに対する損害賠償請求の可否などを適切に把握しておくことが大切です。
この記事では、自身が浮気相手だったと分かった際に生じる法的リスクや、交際相手に対する貞操権侵害に基づく慰謝料請求の要件、相手配偶者から請求を受けた際の対応などを分かりやすく解説します。
自分が浮気相手だったと判明した場合の法的リスク

交際相手が既婚者であることを知らずに関係を持っていた場合でも、相手の配偶者から見れば不貞行為と受け取られることがあります。
しかし、民法上の不法行為(不貞行為)が成立するためには、故意または過失が必要とされています。
既婚者と知らなかった場合の「故意・過失」の考え方
故意とは、相手が既婚者であると知りながら肉体関係を持つことを指します。
相手から「独身である」と偽られており、既婚者であることを全く知らなかった場合、法律上の故意は原則として認められません。
一方で、注意を払っていれば既婚者であると気づけた可能性がある場合には、過失が認められることがあります。
例えば、休日に連絡が一切取れない、自宅への訪問を頑なに拒まれるなど、不自然な状況が重なっていたかどうかが考慮されます。
過失がないと判断されれば慰謝料の支払義務は生じないと解されますが、過失が認められた場合でも、故意に不倫を行っていたケースに比べると慰謝料額が抑えられる傾向にあります。
既婚者と知った後も交際を継続した場合の責任
交際開始当初は騙されていたとしても、相手が既婚者である事実を知った後に肉体関係を伴う交際を続けた場合、その後の行為については「故意」があったと判断されます。
既婚者と知った後も肉体関係を継続すると、相手配偶者からの慰謝料請求を法的に拒絶することが極めて難しくなります。
事実を知りながら交際を継続していた期間が長くなるほど、相手配偶者の婚姻生活に与えた影響が大きいと判断され、請求される慰謝料額も高額になる傾向が見られます。
| 状況・認識 | 故意・過失の評価 | 想定される慰謝料の目安 |
|---|---|---|
| 既婚と知らず、疑う余地もなかった(過失なし) | 故意・過失ともに否定 | 0円(支払義務なし) |
| 既婚と知らなかったが、不審な点を見落としていた(過失あり) | 過失あり | 数十万円程度 |
| 既婚者と判明した後も交際・肉体関係を継続した | 故意あり | 数十万円〜300万円程度 |
このように、既婚者である事実を知った時点ですぐに関係を解消するかどうかによって、法律上の責任や負うべきリスクの度合いは大きく変化します。
交際相手への仕返しや暴露行為が招く法的トラブル
交際相手が既婚者であることを隠していたと判明した際、強い怒りや裏切られたショックから、相手に対して何らかの仕返しをしたいと考える方も少なくありません。
しかし、感情に任せて私的な制裁を加える行為は、かえって自身が法的責任を追及される原因となるおそれがあります。
感情的な報復行為は、自らを不利な立場に追い込む法的リスクを伴うため注意が必要です。
相手の配偶者に事実を暴露するリスク
相手を困らせたい、あるいは夫婦関係を破綻させたいといった意図で、交際相手の配偶者に不倫の事実を直接伝える行為には大きなリスクが伴います。
配偶者に交際の事実を知らせることで、相手配偶者から不法行為に基づく慰謝料を請求される契機を自ら作ってしまう可能性があります。
匿名や非通知で連絡した場合であっても、通信記録やその後の事実調査などを通じて発信元が特定されるケースは珍しくありません。
結果として自身が紛争に巻き込まれ、精神的・経済的な負担を背負うことになりかねません。
SNSへの投稿や晒し行為による名誉毀損・プライバシー侵害
インターネットやSNS上に相手の氏名、写真、勤務先、不貞行為の事実などを書き込む行為は、名誉毀損やプライバシー侵害に該当する可能性があります。
たとえ投稿内容が真実であったとしても、公然と人の社会的評価を低下させる行為は民事上の不法行為となり得ます。
相手から損害賠償(慰謝料)を請求された場合、自身が被害者側であったとしても賠償金の支払いを命じられるリスクがあります。
さらに、悪質なケースでは刑事上の名誉毀損罪や侮辱罪に問われる可能性も否定できません。
執拗な連絡や金銭要求が招く脅迫・恐喝のリスク
裏切られた怒りから交際相手に対して過度に電話やメッセージを送り続けたり、職場や自宅に押しかけたりする行為は、迷惑防止条例違反やストーカー規制法違反に該当するおそれがあります。
また、「配偶者や職場にばらされたくなければお金を払え」といった金銭の要求や、「別れるなら周囲にすべて言いふらす」といった告知を行うと、刑法上の脅迫罪や恐喝罪に問われる危険が生じます。
交際相手への責任追及は、私的な制裁ではなく、法に則った適切な手続きを通じて行うことが重要です。
交際相手に対する貞操権侵害に基づく慰謝料請求
交際相手から独身であると偽られて肉体関係を持った場合、自身の性的な意思決定を行う権利(貞操権)を侵害されたとして、交際相手に対して不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)を請求できる場合があります。
貞操権は性的な自由に関する権利であるため、原則として肉体関係が存在することが請求の前提となります。
好意を持って交際していたとしても、肉体関係がないプラトニックな関係にとどまる場合は、貞操権侵害を理由とする慰謝料請求は認められにくい傾向があります。
慰謝料請求が認められやすい傾向と裁判例
交際相手が積極的に独身であると嘘をつき、結婚をほのめかして肉体関係を迫ったようなケースでは、行為の違法性が高いと判断されやすいとされています。
独身者限定の婚活アプリなどを利用し、一貫して独身と偽られていた場合などは、騙された側に落ち度がないと判断されやすく、請求が認められる傾向があります。
| 裁判例 | 事案の概要 | 認容額 |
|---|---|---|
| 東京地判令和2年3月2日 | 独身限定アプリで独身を装い、結婚をほのめかして複数回の性交渉に及んだ事案 | 50万円 |
| 東京地判令和2年6月25日 | 結婚前提でない交際は拒否する意向を知りながら、一貫して独身と偽り交際した事案 | 100万円 |
| 東京地判平成19年8月29日 | 約12年にわたり結婚を信じ込ませ、複数回の中絶に至らせた悪質性の高い事案 | 500万円 |
裁判例における慰謝料の金額は十数万円から200万円程度を中心に幅があり、騙した手段の悪質性や交際期間、妊娠や中絶といった重大な結果が生じているか否かなどによって金額が考慮されます。
慰謝料請求が認められにくい傾向と裁判例
一方で、相手が既婚者であると容易に気づける客観的な状況があったにもかかわらず安易に信じ込んでいた場合や、結婚を前提としない一時的な交際であった場合は、法的な保護に値する期待がなかったとして請求が認められにくくなります。
交際相手が既婚者であると判明した後に肉体関係を伴う交際を継続していた場合、自らの意思による関係とみなされ、貞操権侵害が否定される可能性が高くなります。
- 既婚者と承知しながら「妻と離婚する」という言葉を信じて交際を継続した事案(東京地判平成25年2月6日:請求棄却)
- 出会ってから数日間・2回会ったのみで、婚姻への具体的な期待が形成されていないと判断された事案(東京地判令和3年11月25日:請求棄却)
- 離婚の合意書が偽造であると知った後も性交渉や交際関係を継続していた事案(東京地判令和3年7月20日:請求棄却)
このように、貞操権侵害に基づく請求では、交際相手の欺罔行為の悪質性だけでなく、交際に至った経緯や真剣さ、真実を知った後の対応などが総合的に判断されます。
慰謝料請求や配偶者からの請求への対応に有効な証拠

交際相手が既婚者であった場合、交際相手に対する貞操権侵害の主張や、相手の配偶者から慰謝料請求を受けた際の抗弁において、客観的な証拠の有無が重要な判断材料となります。
「独身だと信じていた」「既婚者とは知らなかった」という事情は、口頭の主張のみでは認められにくいため、当時のやり取りや客観的な資料を漏れなく保全しておくことが求められます。
独身と偽られていたことや真剣交際を示す証拠
相手が独身であると説明していた事実や、結婚を前提とした真剣な交際であったことを示す証拠は、騙されていた側の落ち度の有無や精神的苦痛の程度を測るうえで重要です。
- 独身であると明言しているLINEやメール、メッセージのやり取り
- 独身者限定の婚活アプリやマッチングアプリに登録していた画面のスクリーンショット
- 結婚観や将来についての具体的な会話の記録、プロポーズや婚約の事実を示すメッセージ
- 婚約指輪や記念の贈り物、手紙、婚前旅行の写真など
「独身です」と直接言っていなくても、一人暮らしを前提とした日常のやり取りや、実家の家族に関する虚偽の説明など、独身と信じるのが自然である文脈が残されていれば有力な資料となり得ます。
肉体関係の存在を示す資料
貞操権侵害に基づく慰謝料請求を行う場合、性交渉やそれに類する行為があったことの証明が必要とされます。
交際の事実そのものを相手が否定するリスクに備え、客観的な記録を残すことが大切です。
具体的な資料としては、ホテルや宿泊施設の領収書、クレジットカードの利用明細、親密な関係がうかがえるツーショット写真などが挙げられます。
また、妊娠や中絶、出産などの事情があった場合は、産婦人科の診療録や診断書、手術の同意書なども損害の重大性を示す証拠として位置づけられます。
証拠を保全・保管する際の注意点
相手が既婚者だと分かった直後は、ショックや怒りからメッセージ履歴を消去したり、思い出の品を処分したりしたくなることも少なくありません。
しかし、証拠を失ってしまうと、後から自身の正当性を主張したり、配偶者からの請求に対して故意や過失がなかったと証明したりすることが極めて困難になります。
メッセージアプリのやり取りは、特定の一言だけでなく前後の文脈が分かるように画面全体を保存し、可能であればテキストデータのバックアップやクラウドへの保存を行っておくことが推奨されます。
既婚者と判明した後の対応と弁護士への相談
既婚者と判明した直後の初期対応
交際相手が既婚者であると判明した場合は、直ちに関係を解消することが法的リスクの拡大を防ぐ上で重要です。
既婚者であることを認識した後に肉体関係を伴う交際を継続すると、その後の行為については故意による不貞行為とみなされ、相手配偶者に対する損害賠償義務が生じる可能性が高くなります。
相手の配偶者やその代理人から突然慰謝料の請求を受けた場合であっても、動揺してその場で支払いに応じたり、過大な要求を全面的に受け入れたりすることは避ける必要があります。
独身と信じていたことに落ち度がない事情があれば慰謝料の支払いを免れたり減額できたりする可能性があるため、まずは冷静に事実関係を整理することが大切です。
トラブル解決に向けた弁護士相談の意義
既婚の事実を隠されていたトラブルでは、相手配偶者から責任を追及される立場と、独身と偽られた被害者として交際相手に慰謝料を請求する立場の双方が生じ得ます。
法的な判断が複雑に絡み合うため、法的な観点から事実関係を正確に見極める必要があります。
弁護士に相談することで、交際の経緯や手元にある証拠をもとに故意や過失の有無を検証し、配偶者からの請求に対する妥当な反論や、交際相手に対する貞操権侵害の請求可能性について見通しを立てることができます。
また、当事者間での直接の連絡は感情的な対立を生みやすく、不用意な発言から恐喝や名誉毀損などの二次トラブルに発展する危険もあります。
弁護士を通じて交渉を行うことで冷静な対話を進めやすくなり、将来の紛争を防ぐための示談書作成などを適切に進めることが期待できます。
コラム監修者
SHIZU ISHIDA
所属:東京オフィス
広島県広島市出身。青山学院大学心理学科、東海大学法科大学院卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、刑事、民事、法人案件等幅広い分野の専門知識を習得。弁護士登録10年目にしてネクスパート法律事務所に入所し、現在は主に離婚事件に注力している。