更新日:2026年10月7日 (水)
公開日:2024年9月7日 (土)
不貞行為なしで精神的苦痛の慰謝料請求は可能?相場と注意点
サマリー
配偶者が異性と親密な関係にあるものの、肉体関係の決定的な証拠がない場合、精神的苦痛に対して慰謝料を請求できるのか悩む方も少なくありません。
法律上の不貞行為(肉体関係)が立証できない場合であっても、社会通念上の許容範囲を超えて平穏な婚姻生活を侵害したと評価されれば、慰謝料請求が認められるケースがあります。
この記事では、不貞行為がない場合の慰謝料請求の考え方や相場、認められうる具体例、請求時の注意点について解説します。
不貞行為(肉体関係)なしでも慰謝料請求が検討できる理由

法律上の不貞行為の原則と要件
民法上の不法行為に基づく慰謝料請求において、法律上の「不貞行為」とは一般に、配偶者のある者が自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係(肉体関係)を結ぶことを指すと解されています。
そのため、不貞を理由として損害賠償を求める裁判実務では、肉体関係の存在が重要な要件とされることが原則です。
肉体関係を示す証拠が得られない場合には、直ちに法律上の不貞行為と認定することが難しい傾向にあります。
平穏な婚姻生活を維持する権利の保護
もっとも、慰謝料請求の法的根拠は肉体関係の有無のみに限定されるわけではありません。
判例上、夫婦には「平穏な婚姻生活を維持する権利または法的保護に値する利益」が認められています。
明確な肉体関係の証拠が存在しない場合であっても、第三者との親密な関係によって婚姻関係が害され、夫婦関係に深刻な亀裂が生じたときは、平穏な婚姻生活に対する侵害として不法行為が成立する余地があります。
肉体関係の有無にかかわらず、社会通念に反して夫婦の平穏な共同生活を侵害・破綻させる行為は、不法行為に基づく慰謝料請求の対象となり得ます。
社会通念上許容される範囲を逸脱した交際
既婚者が配偶者以外の異性と交流を持つこと自体が、すべて違法と評価されるわけではありません。
友人としての交流や仕事上の付き合いなど、一般的な社会通念に照らして相当と認められる範囲内であれば、不法行為は成立しません。
しかし、二人きりで深夜に反復して密会を重ねるなど、通常の交友関係を著しく超えた親密な交際を続けているような場合は、社会通念上の許容限度を逸脱していると判断される可能性があります。
こうした行き過ぎた交際関係によって配偶者に多大な精神的苦痛を与え、婚姻生活の平穏を害したと評価される場合には、過去の裁判例においても慰謝料の支払いが認められたケースが存在します。
不貞行為がない場合の慰謝料相場と金額を左右する要素
不貞行為の有無による慰謝料相場の違い
配偶者以外の異性と親密な関係にあったものの明確な肉体関係(不貞行為)が認められない場合、請求が認められたとしても慰謝料の相場は数十万円程度にとどまる傾向があります。
肉体関係が立証できる一般的な不貞行為における相場は約50万〜300万円程度とされているため、これと比較すると金額は低めに算定されることが一般的です。
| 不貞行為(肉体関係)の有無 | 慰謝料の一般的な相場 |
|---|---|
| 不貞行為あり | 約50万〜300万円程度 |
| 不貞行為なし(親密な交際等) | 数十万円程度 |
肉体関係を伴わないケースでは、平穏な婚姻生活に対する侵害の程度が不貞行為そのものに比べて軽微であると判断されやすいため、損害賠償額も抑えられる傾向が見られます。
慰謝料額が増額する傾向にある主な要素
不貞行為がない場合であっても、金額が一律に低額となるわけではありません。
被害を受けた側が被った精神的苦痛の大きさや、婚姻生活が脅かされた程度によって金額は変動します。
慰謝料の算定においては、夫婦の婚姻期間の長さや家族構成、相手方の行為態様などが総合的に考慮されます。
主に以下のような事情が存在する場合、増額が考慮されやすい傾向にあります。
- 夫婦の婚姻期間が長い場合や、幼い子どもがいる場合
- 相手方の行為が直接の原因となって別居や離婚(婚姻関係の破綻)に至った場合
- 親密な交際や深夜の密会が長期間にわたって反復・継続していた場合
- 関係が発覚した後も交際を継続するなど、反省や謝罪の態度が見られない場合
特に、異性との過度な交際が引き金となって婚姻関係が修復不可能な状態まで破綻し、離婚に至ったようなケースでは、夫婦関係に生じさせた損害が大きいと評価され、慰謝料が増額される主な要因となります。
このように、肉体関係の有無そのものだけでなく、交際の発覚から別居・離婚に至るまでの具体的な経緯や相手方の対応も、最終的な損害額の判断に影響を与えます。
不貞行為なしでも慰謝料請求が認められうる主なケース
配偶者と第三者の間に明確な肉体関係が立証できない場合であっても、交際の態様が社会通念上の許容範囲を超えており、夫婦の平穏な婚姻生活を侵害したと判断されるケースでは慰謝料請求が認められることがあります。
実際の裁判例においても、行為の態様に応じた判断が示されています。
密接な身体接触や親密なメッセージのやり取り
キスやハグといった行為は、原則として法律上の不貞行為そのものには該当しないと扱われることが一般的です。
しかし、その頻度や態様が友人関係としての範囲を明らかに逸脱している場合には、不法行為が成立する可能性があります。
裁判例(東京地裁平成28年9月16日判決)においても、肉体関係の存在自体は認められなかったものの、キスやハグなどの密接な身体接触があったことを理由に慰謝料請求が認められた事例が存在します。
また、日常会話や業務連絡にとどまらず、互いに愛情を伝え合うようなメッセージを頻繁に送り合っている場合も問題視されます。
裁判例(東京地裁平成24年11月28日判決)では、肉体関係が認められない状況でも、親密なメールを継続的に交わしていた事実を重視して慰謝料の支払いが命じられました。
深夜の反復した密会や将来を約束した交際
配偶者以外の異性と二人きりで深夜に何度も会うなど、時間帯や場所から見て一般的な交友関係を逸脱している場合、夫婦の平穏な共同生活を侵害したと評価される余地があります。
裁判例(東京地裁平成25年4月19日判決)では、肉体関係の存在までは認定されなかったものの、かつて親密な関係にあった相手と深夜に密会を繰り返していた行為について、共同生活を害するものとして慰謝料請求が肯定されました。
さらに、相手が既婚者であると知りながら将来の結婚を約束して交際したり、配偶者への離婚要求を促したりする行為も重大な侵害とみなされやすい事情です。
裁判例(東京地裁平成20年12月5日判決)では、結婚を前提とした親密な交際関係の継続自体が不法行為にあたると判断されています。
二人きりの旅行やラブホテルの利用状況
友人同士の儀礼的な範囲を大幅に超えるような高額なプレゼントを贈り合ったり、宿泊を伴う二人きりの旅行に出かけたりする行為は、社会的妥当性を欠く関係と判断されやすい傾向があります。
裁判例(東京簡裁平成15年3月25日判決)でも、高額な贈り物のやり取りや旅行の事実が考慮され、損害賠償請求が認められました。
二人きりでラブホテルに出入りした事実がある場合は、客観的な状況から肉体関係の存在が強く推認されることが一般的です。
明確な性交渉の証明に至らない場合であっても、既婚者が異性とラブホテルを利用する行為そのものが婚姻生活の平穏を侵害したとみなされ、慰謝料請求が認められるケースがあります。
| 主な交際・接触の態様 | 考慮される主な事情 | 裁判例等の傾向 |
|---|---|---|
| 密接な身体接触 | キスやハグなど友人関係を逸脱したスキンシップ | 肉体関係がなくても不法行為の成立が認められた事例がある
(東京地裁平28.9.16など) |
| 親密なメッセージ | 好意や愛情を伝え合う頻繁な連絡のやり取り | 夫婦関係に重大な亀裂を生じさせる原因として考慮された事例がある
(東京地裁平24.11.28など) |
| 深夜の反復した密会 | 二人きりでの深夜の面会や継続的な接触 | 時間帯や頻度から共同生活を害する行為と評価された事例がある
(東京地裁平25.4.19など) |
| 結婚前提の交際 | 既婚と知った上での将来の約束や離婚の要求 | 関係の継続自体が婚姻生活の平穏を害すると判断された事例がある
(東京地裁平20.12.5など) |
| 旅行・ホテル利用 | 宿泊を伴う旅行やラブホテルへの出入り | 肉体関係の推認、または単独の侵害行為として責任が肯定されうる
(東京簡裁平15.3.25など) |
不貞行為なしで慰謝料請求を進める際の注意点

客観的な証拠を幅広く収集する必要性
肉体関係を伴わない交際を理由として精神的苦痛の慰謝料を請求する場合、どのような行為によって婚姻生活の平穏が侵害されたのかを具体的に示す必要があります。
明確な肉体関係の証拠がある事案と比較すると、不法行為としての違法性を立証するハードルが高くなる傾向があります。
そのため、配偶者と相手方の関係性や接触の態様を裏付ける客観的な資料を幅広く確保しておくことが大切です。
婚姻生活の平穏を害した事実を裏付ける主な証拠としては、以下のようなものが挙げられます。
- 親密さや好意が確認できるメールやメッセージアプリ(LINE等)のやり取り履歴
- ドライブレコーダーに記録された映像や車内での会話音声データ
- 二人きりで密会している様子や宿泊施設・ホテル等に出入りしている写真・動画
- 高額なプレゼントの購入レシートや複数回の飲食代などのクレジットカード利用明細
- 探偵や興信所が作成した行動調査報告書
単一のやり取りだけでは「単なる友人関係」と言い逃れされるおそれがあるため、複数の客観的記録を継続的に積み重ねておくことが重要です。
立証の難易度を踏まえた協議(示談交渉)の検討
裁判手続きによって請求を進める場合、厳格な証拠に基づいて不法行為の成立を証明しなければならず、請求が認められるまでの立証ハードルは決して低くありません。
証拠が不十分なまま訴訟に至ると、相手方が関係性を否定した場合に請求が棄却されてしまうリスクも伴います。
これに対して、当事者同士の話し合いである協議(示談交渉)であれば、双方が合意に至ることで柔軟な解決を図ることが可能です。
示談交渉の場においては、裁判で要求されるような厳格な立証が揃っていなくとも、相手方が配慮を欠いた行動や交際の事実を認めて支払いに応じる例も少なくありません。
裁判の長期化や費用の負担を避ける観点からも、一括払いが難しい場合に分割払いでの合意を受け入れるなど、話し合いによる合意形成を目指すことが現実的な選択肢となります。
不貞行為なしの慰謝料問題について弁護士に相談する意義
明確な肉体関係が確認できない事案では、問題となっている交際や接触が婚姻生活の平穏を害する不法行為に該当するかどうかという法的評価が極めて重要な争点となります。
過去の裁判例に照らし合わせながら、手元にあるメッセージ履歴や写真などの資料が客観的な証拠としてどの程度通用するのか、請求が法的に認められる見込みや妥当な金額の目安を慎重に見極める必要があります。
事前に法的な観点から証拠の価値や見通しを精査しておくことで、無理な主張による無用なトラブルや見込み違いを避けることにつながります。
感情的な直接対立を回避した冷静な代理交渉
肉体関係の証拠がない状況で当事者同士が直接話し合おうとすると、相手方が親密な交際を否定したり単なる友人関係に過ぎないと反論したりして、感情的な口論に発展しがちです。
当事者間の対立が深刻化してしまうと冷静な協議が難しくなり、示談によって柔軟な合意形成を目指す機会を逃してしまうリスクも生じます。
弁護士が代理人となって交渉窓口を務めることで、当事者同士の直接の接触を避け、感情論を排した法的な根拠に基づく話し合いを進めやすくなります。
相手方に代理人弁護士が就いている場合でも、法的な論点を的確に整理しながら条件面での合意を目指して協議を進めることが可能です。
立証の難易度や交渉の負担を踏まえ、自身の状況に即した対応方針を整理するためにも、まずは弁護士への相談を検討してみるとよいでしょう。
コラム監修者
SHIZU ISHIDA
所属:東京オフィス
広島県広島市出身。青山学院大学心理学科、東海大学法科大学院卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、刑事、民事、法人案件等幅広い分野の専門知識を習得。弁護士登録10年目にしてネクスパート法律事務所に入所し、現在は主に離婚事件に注力している。