サマリー
20年に及ぶ不倫が発覚した場合でも慰謝料請求は可能か。不貞慰謝料の消滅時効の起算点と期間、早期対処の重要性を弁護士が解説します。
長期間にわたって配偶者の不倫が続いていた場合、被害を受けた期間すべてについて慰謝料を請求できるのか、疑問に思う方は少なくありません。2026年9月25日にYahoo!ニュースで配信された記事では、20年にも及ぶ夫の不倫が発覚したケースを取り上げ、慰謝料請求の可否について触れられています。
20年も続いた夫の不倫、慰謝料も「20年分」請求できる? 弁護士が「気づいたら早めの対処を」と勧めるワケ
出典:Yahoo!ニュース
記事では、不倫が長期間続いていたとしても、法律上は「気づいたときから早めに対処すること」が重要だと弁護士が助言している点が紹介されています。本コラムでは、この報道を手がかりに、不貞慰謝料の請求における消滅時効の仕組みと、長期間の不倫が発覚した場合の注意点を、条文を踏まえて詳しく解説します。
不貞慰謝料請求の法的根拠
配偶者の不貞行為に対する慰謝料請求は、民法709条(不法行為による損害賠償)および民法710条(財産以外の損害の賠償)を根拠とします。不貞行為は婚姻共同生活の平和の維持という配偶者の権利ないし法的保護に値する利益を侵害する行為であるとされ、最高裁判例(最判昭和54年3月30日など)でも、不貞相手に対する慰謝料請求権が認められています。ただし、請求が認められるには、不貞相手が請求者の婚姻の事実を認識していたこと、あるいは認識し得たことが要件となる点にも注意が必要です。
「20年分」請求できるのかという疑問への回答
不貞行為が長期間継続していた場合、被害者としては「20年分の苦痛に見合う金額を請求したい」と考えるのは自然な感情です。しかし、法的に評価される慰謝料額は、単純に不貞が続いた年数に比例して増額されるわけではありません。裁判実務では、不貞の期間の長さに加え、婚姻関係への影響の程度、離婚に至ったか否か、子の有無、不貞相手の悪質性(主導的立場にあったか等)といった諸事情を総合的に考慮して金額が算定されます。長期間の不倫であっても、慰謝料額が期間に単純比例して跳ね上がるわけではなく、個別事情の総合評価によって決まるという理解が重要です。一般的な相場としては、離婚に至った事案で100万円から300万円程度、離婚に至らない事案ではそれより低額となる傾向がありますが、期間の長さや悪質性が高いと評価されれば増額要素となり得ます。
消滅時効の起算点と期間
長期間の不倫において最も注意すべきなのが消滅時効です。不法行為に基づく損害賠償請求権は、民法724条により、①被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき、または②不法行為の時から20年間行使しないときに時効によって消滅するとされています。
不貞行為が継続的な不法行為である場合、判例上、時効の起算点は「不貞行為が終了した時」あるいは「個々の不貞行為を知った時」から個別に進行すると考えられています。つまり、20年前から始まった不貞行為であっても、それが現在まで継続していれば、少なくとも直近の行為については時効が完成していない可能性が高い一方、被害者が不貞の事実とその相手を知った時点から3年が経過してしまうと、原則としてその部分の請求権は時効消滅してしまいます。したがって「20年分すべて」を機械的に請求できるわけではなく、いつ、何を知ったかによって請求できる範囲が変わってくるのです。
早期対処が推奨される理由
報道で弁護士が「気づいたら早めの対処を」と勧めているのは、まさにこの時効の問題が背景にあると考えられます。不貞の事実に気づきながら証拠収集や請求の準備に時間をかけすぎると、民法724条1号の3年の時効期間が経過し、請求権を失うリスクが高まります。また、時効の完成が迫っている場合でも、民法150条の「催告」を行うことで時効の完成を6か月間猶予させることができ、その間に内容証明郵便での請求や訴訟提起の準備を進めることが可能です。時効の完成が疑われる場合は、まず内容証明郵便による催告を行い、時効の完成を止めた上で本格的な請求手続きに移行することが実務上のセオリーです。
さらに、長期間が経過した不貞行為ほど、メッセージのやり取りや宿泊記録といった証拠が散逸しやすくなる点も見逃せません。不貞の証拠が乏しいと、裁判上「不貞の事実」自体の立証が困難になり、時効以前の問題として請求そのものが認められないリスクも生じます。証拠保全の観点からも、早期の対応が強く推奨されます。
まとめ
長期間続いた配偶者の不倫であっても、慰謝料請求が単純に「年数分」認められるわけではなく、民法724条に基づく消滅時効の制約や、証拠の有無、婚姻関係への影響度合いなど複数の要素によって、実際に請求できる範囲と金額が決まります。不貞の事実に気づいた時点から3年という時効期間は決して長くはなく、証拠が失われる前に速やかに対応することが、適正な慰謝料を確保するための鍵となります。
配偶者の不貞に気づいたものの対応に迷っている、あるいは時効が心配だという方は、時間の経過とともに請求できる権利が失われる可能性があります。不貞慰謝料の請求や時効の問題でお困りの場合は、弁護士法人ネクスパート法律事務所までご相談ください。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。