更新日:2026年9月13日 (日)
公開日:2026年7月15日 (水)
不貞行為の慰謝料相場はいくら?裁判所の判断基準や判例を解説
サマリー
配偶者の不貞行為(不倫)が発覚した際、「慰謝料はどのくらい請求できるのか」「裁判ではどのように金額が認定されるのか」と疑問や不安を抱く方は少なくありません。
不貞慰謝料には一律の明確な算定基準が定められているわけではなく、一般的な相場を目安としつつも、婚姻期間の長さや不貞の態様、離婚に至ったか否かなど、個別の事情を総合的に考慮して判断されます。
この記事では、不貞行為の法的な定義や慰謝料相場、裁判所が考慮する主な判断要素や請求時の注意点について詳しく解説します。
不貞行為とは何か|慰謝料請求の法的な前提

法律上における「不貞行為」の定義
一般的に「浮気」や「不倫」と呼ばれる行為であっても、法律上において慰謝料請求の根拠となる「不貞行為」には明確な定義が存在します。
判例(最高裁第三小法廷判決昭和48年11月15日)では、不貞行為とは「配偶者が自由な意思に基づいて配偶者以外の異性と肉体関係を持つこと」と判示されています。
したがって、配偶者以外の者と単に食事やデートに出かけたり、親密なメッセージをやり取りしたりする行為だけでは、原則として法律上の不貞行為とは認められません。
法的な不貞行為として慰謝料請求の対象となるためには、自由な意思に基づく肉体関係が存在することが基本的な前提となります。
慰謝料請求の法的根拠と貞操義務違反
婚姻関係にある夫婦は、互いに配偶者以外と性的な関係を持たない「貞操義務」を負っています。
配偶者の不貞行為はこの貞操義務に違反し、平穏な婚姻共同生活を維持する権利や法的に保護された利益を違法に侵害する行為です。
そのため、不貞行為を行った配偶者に対しては民法第709条の不法行為に基づき、被った精神的苦痛に対する損害賠償として慰謝料を請求できます。
また、不倫相手に対しても、他人の婚姻関係を違法に侵害した共同不法行為者として同様に慰謝料請求が可能です。
慰謝料請求が認められない可能性のあるケース
不倫の事実が存在する場合であっても、法律上の要件を満たさない場合には慰謝料請求が認められないケースがあります。
裁判実務において主に問題となるのは次のような状況です。
- 不倫相手が相手方の既婚の事実を知らず、かつ知らなかったことに過失がない場合
- 不貞行為が行われるより前に、すでに夫婦の婚姻関係が客観的に破綻していた場合
- 自由な意思に基づかず、暴行や脅迫などによって肉体関係を強要された場合
特に、すでに長期の別居等により婚姻関係が修復不可能なほど破綻していた場合は、侵害されるべき婚姻共同生活の利益がすでに失われていたと判断され、請求が否定されることがあります。
このように、不貞行為に基づく慰謝料請求を検討する際には、肉体関係の有無だけでなく、当時の夫婦関係の実態や相手方の主観的認識といった事情を法的に整理することが重要となります。
不貞行為の慰謝料相場と判例における認定傾向
不貞行為に対する慰謝料の金額について、実務上一般的にいわれる相場の目安はおおむね50万円から300万円程度とされています。
ただし、この金額はあくまで目安であり、実際の裁判では個々の事案における具体的な事情を総合的に考慮して判断されます。
夫婦関係への影響による金額の差
慰謝料の算定において特に重視される要素の一つが、不貞行為によって夫婦関係がどの程度の影響を受けたかという点です。
不貞行為が直接の原因となって夫婦が離婚に至った場合には、精神的苦痛が大きいと評価され、慰謝料が高額になる傾向が見られます。
一方で、離婚には至らず婚姻関係を継続する場合には、比較的低額にとどまるケースが多いとされています。
配偶者と不倫相手における法的責任の違い
不貞行為の責任は、配偶者と不倫相手の双方に生じ得ますが、両者の法的義務の性質には違いがあります。
配偶者は婚姻関係に基づき互いに貞操義務を負っているため、不貞行為は夫婦間の信頼関係を直接的に裏切る重大な義務違反と評価されます。
これに対し、不倫相手は婚姻の当事者ではないため、他人の婚姻関係を侵害した第三者としての責任にとどまります。
こうした責任の性質の違いから、事案によっては不倫相手に対する認定額が配偶者への請求よりやや低くなるケースもあります。
判例にみる認定額の幅と増減傾向
過去の裁判例を確認すると、認められる金額には個別事情に応じて一定の幅が存在します。
例えば、長年築き上げた婚姻関係があり不貞関係が長期間に及んだ事案では、200万円以上の慰謝料が認められた例や、態様が悪質と判断されて500万円程度が認められた例もあります。
一方で、関係を持った期間が短く破綻に至らなかった場合は100万円以下にとどまる例や、不貞以前から夫婦関係が冷え込んでいたり長期の別居状態にあったりした場合には、数十万円程度への減額や請求自体が認められないケースも見られます。
裁判所が慰謝料額を判断する際に重視する主な要素
不貞行為に対する慰謝料の算定において、裁判所は画一的な基準ではなく、当事者双方の様々な事情を総合的に考慮して金額を決定します。
具体的にどのような要素が重視されるのかを把握しておくことが重要です。
婚姻期間の長さと夫婦関係の信頼度
裁判所が重視する大きな要素の一つが、婚姻期間の長さです。一般的に婚姻期間が長期に及ぶほど、夫婦の間で築かれてきた信頼関係や共同生活の実態が深いと評価されます。
長年の婚姻関係を侵害されたことによる精神的苦痛は大きいと判断されやすく、慰謝料額が増額される傾向にあります。
不貞関係の期間・回数と主導性
不貞行為そのものの態様も重要な判断基準となります。一時的または一度限りの関係にとどまる場合と、数年単位など長期間にわたって頻繁に関係が継続していた場合とでは、精神的損害の程度が異なります。
また、配偶者と不倫相手のどちらが関係を主導したのか、関係解消を求めたのに対抗して継続させたのかといった主導性の有無や悪質性も、責任の度合いを測る要素として斟酌されます。
未成年の子どもの有無と家庭環境への影響
夫婦の間に未成年の子どもがいるかどうかも、判断に影響を与える要素です。幼い子どもがいる家庭において不貞行為が行われ、家庭環境が脅かされたり監護養育に支障が生じたりした場合は、精神的苦痛が重いと評価されやすい傾向があります。
離婚への至頭性・謝罪や社会的影響などの個別事情
不貞行為が直接の原因となって夫婦関係が破綻し、別居や離婚に至ったか否かは、損害額を大きく左右します。不貞行為が直接離婚につながった場合には、より高額の慰謝料が認定される傾向が見られます。
さらに、発覚後の真摯な謝罪の有無、職場や親族・地域社会への影響など、事案ごとの個別具体的な背景事情も加味されて最終的な金額が算定されます。
| 主な考慮要素 | 慰謝料が増額傾向となる事情の例 |
|---|---|
| 婚姻期間 | 婚姻期間が長く、長年共同生活を継続していた |
| 不貞の態様 | 不貞期間が長期に及ぶ、頻度が高い、関係を主導していた |
| 子どもの有無 | 未成年の子どもがおり、家庭生活に大きな影響が生じた |
| 結果・影響 | 不貞行為が決定打となって離婚に至った、社会的影響が大きい |
不倫相手への請求における注意点と客観的証拠の重要性
不倫相手に対する故意・過失の要件
不貞行為の慰謝料を配偶者の不倫相手に対して請求する場合、相手方に「故意または過失」が存在することが法律上の重要な要件となります。
具体的には、相手方が「既婚者であることを知っていた」(故意)、または「通常の注意を払っていれば既婚者であると知り得た」(過失)という事情が必要です。
もし配偶者が独身であると偽っており、相手方がそれを信じたことについて落ち度(過失)がないと判断された場合には、不法行為責任が成立せず、請求が認められない可能性もあります。
双方へ請求する場合の損害賠償の考え方(二重取得の制限)
不貞行為は、配偶者と不倫相手の双方が共同して他方の配偶者の権利を侵害する行為(共同不法行為)と位置づけられます。
そのため、両者は連帯して損害賠償義務を負う関係になります。
もっとも、これによって生じた精神的苦痛という一つの損害に対して、双方から二重に満額の支払いを受け取ることはできません。
例えば、裁判実務上で損害額が200万円と評価された事案において、すでに配偶者から200万円の慰謝料全額が支払われた場合、損害は補填されたものとみなされ、不倫相手に対して重ねて請求することは原則として認められなくなります。
裁判実務で求められる客観的証拠の種類
不倫相手や配偶者が不貞行為を否認している場合、裁判や示談交渉において事実を認めてもらうためには、客観的な証拠の確保が不可欠です。
単なる親密な会話や疑わしい行動だけでは肉体関係の証明として不十分とされるケースがあるため、実務上は以下のような証拠が重視されます。
| 証拠の種類 | 具体例と実務上の位置づけ |
|---|---|
| 宿泊施設の利用記録 | ラブホテルへの出入りの写真や映像、宿泊予約の確認メール、クレジットカードの明細書など(肉体関係を強く推認させる有力な証拠) |
| メッセージ等の通信履歴 | SNSやメッセージアプリ、電子メール等で、肉体関係の存在が客観的にうかがえるやりとりの記録 |
| 写真・動画・音声データ | 密会時の様子や旅行先での同室宿泊を示す画像、当事者同士の会話録音など |
| 第三者の報告書 | 探偵や調査会社による行動調査報告書など、日時や場所が明確に記録された資料 |
これらの証拠は、違法な手段を用いて収集されたものでないかどうかも実務上留意すべき点となります。
証拠収集を進める際には、どのような資料が法的に有効と評価されるかをあらかじめ見極めることが重要です。
不貞慰謝料を検討する際のポイントと弁護士への相談

相場にとらわれない個別事情の精査
不貞行為の慰謝料には一般的な相場が存在するものの、裁判実務においては一律の計算式があるわけではありません。
事案ごとに婚姻期間の長さ、不貞関係の期間や頻度、夫婦関係への影響度合いなどが総合的に考慮されます。
そのため、相場の金額だけを基準にして請求額や支払い額を判断するのではなく、手元にある客観的な証拠の内容や、相手方から主張される可能性のある反論(婚姻関係の破綻など)を踏まえて検討する必要があります。
相場の目安にとらわれず、個別の事実関係や客観的証拠に基づいた現実的な見通しを立てることが重要です。
冷静な解決に向けた弁護士への相談
不貞行為に関する問題は当事者の感情的な対立が生じやすく、直接の話し合いでは互いに譲らずに交渉が長期化したり、さらなるトラブルに発展したりすることも少なくありません。
法的な観点から状況を整理し、過去の裁判例に照らして妥当な落としどころを見極めるためには、法律の知識に基づく客観的な判断が求められます。
弁護士に相談することで、どのような証拠が必要か、法的にどの程度の請求が認められ得るかといった見通しを立てたうえで、交渉や法的手続きを進めることが可能になります。
配偶者の不貞行為に対する慰謝料請求を検討している方や、相手方から請求を受けて対応に悩んでいる方は、感情的な対立を深める前に弁護士へ相談し、適切な解決方針を検討することをおすすめします。
コラム監修者
SHIZU ISHIDA
所属:東京オフィス
広島県広島市出身。青山学院大学心理学科、東海大学法科大学院卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、刑事、民事、法人案件等幅広い分野の専門知識を習得。弁護士登録10年目にしてネクスパート法律事務所に入所し、現在は主に離婚事件に注力している。