更新日:2026年10月16日 (金)

公開日:2026年10月16日 (金)

不倫の慰謝料は請求できない?「婚姻関係の破綻」が争点となった最高裁判断を弁護士が解説

不倫の慰謝料は請求できない?「婚姻関係の破綻」が争点となった最高裁判断を弁護士が解説 不倫の慰謝料は請求できない?「婚姻関係の破綻」が争点となった最高裁判断を弁護士が解説

サマリー

不倫の慰謝料請求は「婚姻関係が破綻」していると認められない。最高裁初判断と差し戻し審の香川のケースから、不貞慰謝料と婚姻破綻の判断基準を弁護士が解説します。

不倫をされた配偶者が不貞相手に慰謝料を求めても、裁判所が「すでに夫婦関係は破綻していた」と判断すれば請求が認められないことがあります。2026年10月15日、朝日新聞は香川県が関係する不貞慰謝料請求訴訟の差し戻し審について、次のように報じました。

「婚姻関係は破綻」不倫の慰謝料認めず 最高裁初判断後の差し戻し審 [香川県]
出典:朝日新聞

最高裁が不貞慰謝料をめぐる判断基準を示した後の差し戻し審において、改めて「婚姻関係は破綻していた」として慰謝料請求が退けられたと報じられています。本コラムでは、この報道を手がかりに、不貞慰謝料請求において「婚姻関係の破綻」がなぜ重要な争点になるのか、法律上の要件や判断基準を解説します。

不貞慰謝料請求の法的根拠

配偶者以外の第三者と性的関係を持つ不貞行為は、民法709条の不法行為に該当し得る行為とされています。最高裁判例(最判昭和54年3月30日)により、不貞相手に対しても、配偶者の有する「婚姻共同生活の平和の維持という権利ないし法的保護に値する利益」を侵害したものとして、損害賠償責任(慰謝料)が認められてきました。

不貞慰謝料が認められるためには、一般的に次の要件を満たす必要があります。

①不貞相手が、相手に配偶者がいることを知っていた、または知り得たこと(故意・過失)
②性的関係を伴う不貞行為が存在したこと
③不貞行為によって婚姻共同生活の平和が侵害されたこと
④損害(精神的苦痛)が発生していること

このうち③の「婚姻共同生活の平和の侵害」が認められるためには、不貞行為の時点で夫婦の婚姻関係が実質的に継続していたことが前提となります。すでに夫婦関係が破綻していた場合には、そもそも保護すべき「婚姻共同生活の平和」が存在しないため、慰謝料請求権の発生自体が否定されることになるのです。

最高裁が示した「婚姻関係破綻」の判断基準

不貞行為時に婚姻関係がすでに破綻していたと認められる場合、不貞相手は不法行為責任を負わないとする考え方は、最高裁平成8年3月26日判決でも示されています。同判決は、不貞行為の時点で夫婦の婚姻関係がすでに破綻していたときは、第三者は特段の事情がない限り、他方配偶者に対して不法行為責任を負わないと判断しました。

今回報じられた香川県のケースは、この「婚姻関係の破綻」の有無・判断枠組みについて最高裁が初めての判断を示した後、審理が高等裁判所に差し戻された事案とされています。差し戻し審でも改めて「婚姻関係は破綻していた」と認定され、慰謝料請求が認められなかったと報じられており、婚姻関係の破綻の有無は、個別の事実関係を丁寧に積み上げて判断される、極めて事実認定的な争点であることがうかがえます。

婚姻関係が「破綻していた」と判断される際には、一般に次のような事情が総合的に考慮されます。

・長期間の別居の有無とその期間
・夫婦間の性交渉や会話など実質的な交流の有無
・離婚協議の進行状況(離婚調停・離婚訴訟の係属など)
・生計の独立性(家計が完全に分離されているか)
・同居していても夫婦としての実態が失われていたか

これらの事情から、形式的には婚姻届が出されたままでも、実質的に夫婦関係が修復不可能な状態に至っていたと認められれば、不貞行為があったとしても慰謝料請求は認められない可能性が高くなります。

請求する側・された側が注意すべきポイント

不貞慰謝料を請求する立場の方は、不貞行為の事実だけでなく、不貞行為時点で婚姻関係が破綻していなかったことも立証する必要がある点に注意が必要です。長期間の別居中に不貞行為があったようなケースでは、相手方から「当時すでに破綻していた」との反論(抗弁)がなされ、争点化することが少なくありません。

逆に、不貞を指摘され慰謝料を請求された側(不貞相手やその配偶者)にとっては、不貞行為当時の夫婦の別居状況や離婚協議の有無などの客観的資料(メール・LINEの履歴、別居を示す住民票、調停の記録など)を整理しておくことが、反論の材料として重要になります。

また、不貞慰謝料請求権には消滅時効の問題もあります。民法724条により、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効により請求できなくなるため、請求を検討している場合は時効の起算点にも注意し、早めに対応することが重要です。

まとめ

不貞慰謝料請求は「不貞行為があったかどうか」だけでなく、「その時点で婚姻関係が実質的に継続していたかどうか」が重要な争点となります。今回報じられた香川県の事案のように、最高裁判断を経てもなお事実認定が分かれるほど、この判断は専門的かつ繊細な領域です。

婚姻関係の破綻の有無は、別居期間や生活実態など個別の事情を丹念に主張・立証する必要があり、ご自身だけで的確に対応するのは容易ではありません。不倫による慰謝料請求をお考えの方、逆に請求を受けてお困りの方は、弁護士法人ネクスパート法律事務所までご相談ください。

コラム監修者

RUI SATO

RUI SATO

所属:代表(東京オフィス)

明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。

弁護士詳細を見る

関連記事を見る

托卵の意味とは?人間関係における問題や法律上のリスクを解説

2024.12.17

慰謝料

不倫

托卵の意味とは?人間関係における問題や法律上のリスクを解説

自宅不倫がバレる5つのきっかけと5つのリスク|慰謝料への影響

2024.09.24

慰謝料

不倫

自宅不倫がバレる5つのきっかけと5つのリスク|慰謝料への影響

不倫慰謝料の支払い方法と双方のメリット・デメリットを解説

2026.09.14

不倫慰謝料の支払い方法と双方のメリット・デメリットを解説

不倫相手からのリベンジポルノが招く深刻な影響と対処法を解説

2025.07.02

不倫相手からのリベンジポルノが招く深刻な影響と対処法を解説

慰謝料請求を弁護士なしで対応するのが難しい2つの理由

2024.03.08

慰謝料請求を弁護士なしで対応するのが難しい2つの理由

PREV
NEXT