更新日:2026年2月26日 (木)
公開日:2023年12月25日 (月)
不倫慰謝料請求を無視し続けたらどうなる?リスクと裁判例を解説
サマリー
不倫相手の配偶者から慰謝料を請求されたものの、突然のことでどう対応すべきか分からず放置してしまったり、無視を検討していたりする方もいるのではないでしょうか。しかし、慰謝料請求への対応を放置し続けると、内容証明郵便の送付や裁判手続きへの移行、さらには給与や預貯金の差押えといった事態に発展するリスクがあります。この記事では、不倫慰謝料の請求を無視し続けた場合に想定される法的な流れや裁判上のリスク、過去の裁判例、そして適切な対処法について分かりやすく解説します。
不倫の慰謝料請求を無視し続けた場合に想定される法的な流れ
不倫相手の配偶者から慰謝料を請求された際、どのように対応すべきか迷って連絡を放置してしまうケースが見受けられます。しかし、請求を無視し続けると、相手方の対応は段階的に法的な手続きへと移行していくのが一般的です。
1. 連絡の放置から内容証明郵便の送付へ
初期段階では、メールやメッセージアプリ、普通郵便などで慰謝料の支払いや話し合いを求められることが多くあります。これらの連絡に対して返答をせず放置していると、相手方は「いつ、誰が、どのような内容の手紙を送ったか」を郵便局が証明する「内容証明郵便」を用いて請求書を送付してくる可能性が高まります。
内容証明郵便には、請求金額とともに「本書面到達後〇日以内に支払うこと」や「期限までに回答がない場合は法的措置へ移行する」といった回答期限が記載されていることが一般的です。
2. 協議困難と判断された場合の民事訴訟提起
内容証明郵便に記載された期日を過ぎても返答をしない場合、相手方は当事者同士の協議による解決は困難であると判断します。その結果、慰謝料請求を求める民事訴訟(裁判)を裁判所へ提起する手続きに進むケースが考えられます。
訴訟が提起されると、裁判所から訴状や呼出状といった公的な書類が自宅へ送達されます。この段階に至ると、単に相手方からの連絡を避けるだけでは解決できなくなります。
3. 判決確定後の強制執行(財産の差押え)
裁判手続きにおいて判決が下され、それが確定すると、法的な支払い義務が確定します。判決が確定した後も慰謝料の支払いに応じないでいると、相手方は債権を回収するために裁判所へ「強制執行(差押え)」の申立てを行うことが可能になります。
強制執行の手続きが取られると、銀行の預貯金口座や勤務先から支給される給与などが差押えの対象となります。このように、請求を無視し続けることで事態はより厳格な法的手続きへと進んでいきます。
- メールや手紙などによる任意の慰謝料請求
- 回答期限を定めた内容証明郵便の送付
- 裁判所への民事訴訟(裁判)の提起と訴状の送達
- 判決の確定と強制執行(給与や預貯金の差押え)の申立て
裁判所からの訴状を無視・放置した場合のリスク
相手方が裁判所へ訴訟を提起すると、被告となる側の自宅宛てに訴状や口頭弁論期日呼出状などの書類が送達されます。これらの書類には、原告の主張内容とともに、第1回口頭弁論期日の日時や答弁書の提出期限が記載されています。
訴状を受け取ったにもかかわらず開封しなかったり、対応を放置して答弁書を提出せず期日にも出頭しなかったりした場合、民事訴訟法上の重大な不利益を被るリスクが生じます。
相手方の主張を認めたと扱われる「擬制自白」
民事訴訟においては、被告が答弁書その他の準備書面を提出せず、第1回口頭弁論期日にも出頭しない場合、原告が主張した事実を被告が争わないものとされ、相手方の主張をすべて認めたとみなされる仕組みがあります。これを法的に「擬制自白」と呼びます。
擬制自白が成立すると、裁判所は相手方の主張する事実を前提として審理を進めるため、反論の機会を失ったまま敗訴判決が下される可能性が高くなります。
たとえ不倫の事実に誤解があったり請求額が過大であったりしても、期日に出頭せず答弁書も出さなければ、自らの言い分を審理に反映させることができなくなります。
判決確定と控訴期間の制限
被告側の欠席によって弁論が終結した場合、裁判所から請求を認容する判決が言い渡され、その後に判決正本が送達されます。判決内容に不服がある場合は、判決正本が送達された日の翌日から起算して2週間以内に控訴を提起しなければなりません。
この2週間の控訴期間を徒過して放置してしまうと、判決は確定し、それ以降は裁判での判断を争うことが原則としてできなくなります。
判決が確定すると相手方は強制執行の手続きへ進むことが可能となるため、訴状が届いた段階で放置せず、期限内に適切な対応をとることが重要です。
訴訟を欠席・放置したことによる過去の裁判例
期日不出頭・答弁書不提出に対する裁判所の判断傾向
不貞行為に基づく慰謝料請求訴訟において、被告側が訴状を受け取ったにもかかわらず答弁書を提出せず、口頭弁論期日にも出頭しない場合、裁判所は原告側の主張する事実関係をそのまま判決の基礎とする傾向があります。
不倫による損害賠償は精神的苦痛に対するものであるため、最終的な慰謝料額の算定には裁判所の裁量が働きます。しかし、被告側からの反論や減額事由の主張が一切提出されない状態では、原告側の主張内容のみをもとに審理が進められます。
欠席や公示送達により請求が認容された裁判例
実際に被告が訴訟手続きを放置したり欠席したりしたことで、原告側の主張に沿った判決が下された裁判例として以下のような事案があります。
| 裁判例 | 請求内容・被告の対応 | 判決内容 |
|---|---|---|
| 東京地裁 平成27年1月9日判決 | 約7か月間の不貞関係に対し500万円を請求。被告は連絡を絶ち公示送達で呼び出されるも、期日欠席・答弁書不提出。 | 原告が主張した事実を基礎とし、被告に対し300万円の支払いを命じた。 |
| 東京地裁 平成27年1月13日判決 | 既婚者と知りながらの不貞行為に対し500万円を請求。被告は期日不出頭・答弁書不提出。 | 被告が主張を認めたとみなし、諸般の事情を考慮して200万円の支払いを命じた。 |
| 東京地裁 平成27年2月12日判決 | 3年以上にわたる不貞関係に対し2,000万円を請求。被告は期日不出頭・答弁書不提出。 | 原告が主張した事実を基礎とし、被告に対し300万円の支払いを命じた。 |
訴訟を放置することによる実質的な不利益
上記の裁判例からも分かるとおり、裁判所が諸般の事情を考慮して算定するため、原告の請求額が全額そのまま認容されるとは限りません。しかし、被告が一切対応しない場合、不貞行為の経緯や期間、主導権の所在といった減額に向けた反論の機会は完全に失われます。
本来であれば主張できたはずの正当な反論を行わないまま確定判決が下されると、結果として高額な慰謝料の支払い義務を負うリスクが生じます。
強制執行(財産差押え)による私生活や職場への影響
確定判決や仮執行宣言付判決が出ているにもかかわらず慰謝料の支払いに応じない場合、相手方は裁判所に強制執行(債権差押命令)の申立てを行うことがあります。
差押えの対象となる代表的な財産には、金融機関の預貯金口座や勤務先から支給される給与などが挙げられます。
給与や預貯金が差押え対象となった場合の流れ
預貯金が差し押さえられた場合、裁判所から対象の金融機関に差押命令が送達され、預金残高から請求認容額の範囲内で直接回収されます。
一方、給与が差押えの対象となった場合は、生活保障の観点から差押え可能な金額に一定の上限が設けられているものの、完済に至るまで毎月の給与から継続して差し引かれることになります。
勤務先への通知に伴う職場環境への影響
給与の差押え手続きが進むと、裁判所から勤務先に対して「債権差押命令正本」が送達されます。これにより、会社の人事や経理部門に慰謝料トラブルや裁判の事実が知られることになります。
給与差押えの手続きにより、勤務先へ裁判所から公的な通知が届くリスクが生じます。
私生活上の問題である不倫や慰謝料未払いを直接の理由として解雇されることは一般的ではありませんが、社内での信用面や人事評価、業務上の立場に影響が及ぶ懸念は否定できません。
私生活や社会生活上の信用への影響
強制執行に至ると、金銭的な負担だけでなく、職場への連絡や生活基盤の制約による精神的なストレスが極めて大きくなります。
裁判や請求を無視し続けた結果として財産が差し押さえられると、社会的な信用を失うなど生活全体に深刻な影響をもたらす可能性があります。
慰謝料請求を受けた際の適切な対処法と弁護士への相談
相手方から慰謝料請求の連絡や内容証明郵便が届いた場合、まずは感情的にならず、相手の主張内容や請求金額、記載された回答期日などを冷静に確認することが大切です。
突然の通知に驚いて放置したり、逆に焦りから相手の提示条件をそのまま受け入れて安易に示談書へ署名・押印したりすると、後から内容を覆すことが極めて困難になります。
届いた請求内容を正しく精査し、期日内に法的な観点を踏まえた適切な対応をとることが重要です。
法的な反論や減額交渉の余地を検討する
慰謝料請求を受けたからといって、相手方の請求額や主張を無条件にすべて認めなければならないわけではありません。事案の経緯によっては、法的な反論や減額の交渉を行う余地があります。
例えば、相手方が既婚者であることを知らず過失もなかった場合や、肉体関係を持つ以前から既に婚姻関係が破綻していたと客観的に認められる場合などは、不法行為が成立せず支払義務自体が発生しない可能性もあります。
また、不貞行為の事実自体に争いがない場合であっても、相手方が請求している金額が過去の裁判例に基づく相場と比べて過大であるときは、交際期間や婚姻生活への影響などの諸事情を考慮した適正な金額への減額を求めて交渉することが可能です。
早期に弁護士へ相談する意義
慰謝料請求への対応を当事者間だけで進めようとすると、感情的な対立が生じて協議が難航したり、不利な条件で合意を結んでしまったりする懸念があります。
法的手続きが進む前の早い段階で弁護士に相談することで、請求内容の法的妥当性や見通しについて客観的な助言を得ることができます。代理人を通じた交渉を選択すれば、相手方と直接やり取りを行う精神的な負担を軽減することにもつながります。
コラム監修者
SHIZU ISHIDA
所属:東京オフィス
広島県広島市出身。青山学院大学心理学科、東海大学法科大学院卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、刑事、民事、法人案件等幅広い分野の専門知識を習得。弁護士登録10年目にしてネクスパート法律事務所に入所し、現在は主に離婚事件に注力している。