遺言作成後に取得した財産の扱いは?相続トラブルを防ぐ対策を徹底解説

遺言作成後に取得した財産の扱いは?相続トラブルを防ぐ対策を徹底解説 遺言作成後に取得した財産の扱いは?相続トラブルを防ぐ対策を徹底解説

サマリー

遺言書を作成してから実際に相続が開始されるまでには、多くの場合、数年から数十年という長い年月が経過します。遺言書作成から相続開始(民法上は被相続人の「死亡」をいいます)までの間に、銀行口座の開設、不動産の買い替え、親族からの相続、金融商品の取得などにより、相続財産の内容や評価額が変動することは、実務上も珍しくありません。
相続財産は、被相続人の死亡時(民法882条)に相続が開始することにより、その時点の財産状態で確定すると解されています。そのため、作成時と死亡時の財産状況に差異が生じる点は、遺言実務において重要な検討ポイントとなります。
しかし、多くの遺言書は作成時点の財産目録に基づいて作成されるため、遺言作成後に取得した財産について明示的な記載がないケースも少なくありません。その結果、「後から取得した財産はどうなるのか」「新しく購入した不動産は誰が相続するのか」といった疑問が生じやすくなります。
その結果、遺言の効力がどこまで及ぶのか(包括性の有無)、すなわち「相続開始時に有する一切の財産」といった包括条項に将来取得財産が含まれるかどうかが、解釈上の争点となることがあります。これは、遺言の文言解釈における立証責任や裁判所の心証形成にも影響し得る重要な論点です。
では、遺言作成後に取得した財産の行方はどうなるのでしょうか。
実務上は、遺言書に記載された文言の解釈(包括遺贈か特定遺贈か、残余財産条項の有無など)によって結論が分かれるのが一般的です。
文言のわずかな違いが、遺言の一部無効の主張や解釈を巡る紛争につながり、場合によっては遺産分割協議が整わず、家庭裁判所における家事調停・審判(家事事件手続法に基づく手続)へ発展する可能性もあります。
本記事では、遺言作成後に取得した財産の取扱いについて、遺言書の典型的な記載パターン(包括遺贈・特定遺贈・残余財産条項の有無)別に整理します。
あわせて、漏れを防ぐ条項(いわゆるバスケット条項)、遺言の更新方法、将来取得財産の具体的な記載方法、見直しの適切なタイミング、2024年4月1日施行の相続登記義務化(不動産登記法改正)との関係、さらに受遺者が遺言者より先に死亡した場合の予備的遺言の重要性まで、民法および実務運用を踏まえて解説します。
個別事情により結論が異なる場合があるため、実際の遺言設計にあたっては専門家への相談も重要です。

遺言作成後に取得した財産はどうなる?

遺言作成後に取得した財産に遺言の効力が及ぶかどうかは、遺言書の文言解釈(包括性の有無)によって左右されます。
すなわち、「相続開始時に有する一切の財産」など死亡時点の全財産を包括的にカバーする書き方か、特定の財産のみを個別に指定する書き方かによって、法的な結論が異なるのが実務上の一般的な取扱いです。
遺言の解釈は、遺言者の合理的意思を探求する観点から、文言のみならず作成経緯や当時の事情等も考慮される場合がありますが、実務上はまず文言が重視される傾向にあります。
実務上、遺言書に明示的な記載のない財産が判明した場合には、文言解釈上包括的に含まれると評価できる場合を除き、その財産については遺言による指定がないものとして扱われるのが原則です。
その結果、当該財産については法定相続人全員による遺産分割協議(民法907条)が必要となります。
協議が整わختی、預貯金の払戻しや不動産の名義変更(相続登記)などの手続を進めることができず、相続手続全体が長期化する傾向があります。特に不動産が含まれる場合には、不動産登記法上の申請義務との関係でも注意が必要です。
このようなトラブルを避けるためには、誰にどの財産を承継させるかという点だけでなく、記載しきれなかった財産や作成後に取得した財産の帰属まで見据えて、包括的に設計された遺言書を作成することが重要です。
とりわけ、残余財産条項の有無や遺言執行者の指定は、実務上の円滑な承継に大きく影響します。
ここでは、代表的な以下の4つの記載パターン別に、法的帰結と実務上の注意点を整理します。

  • 「すべての財産を相続させる」などの包括的な文言がある場合
  • 全財産を割合で指定している場合(包括遺贈)
  • 財産を個別に指定している場合(特定遺贈)
  • 包括的な文言がない場合

「すべての財産を相続させる」などの包括的な文言がある場合

特定の相続人に対し、「遺言者の有する一切の財産を相続させる」といった包括的な指定をしている場合には、原則として、遺言作成後に取得した財産も含めて、相続開始時に有していた全財産が当該相続人に承継されると解されるのが一般的です。
これは、目的物を個別に限定せず、死亡時点の財産全体を対象としているため、将来の財産変動も包括的にカバーする趣旨と理解されるためです。
遺言の内容が特定の物(例えば特定の不動産や特定の預金口座)に限定されず、死亡時に保有している全財産を対象としている場合には、将来の増減分もその射程に含まれると解釈されるのが通常です。
もっとも、主要財産を列挙した上で包括的文言を付している場合には、「列挙した財産のみを対象とする趣旨」なのか、それとも「列挙した財産を含む全部を対象とする趣旨」なのかが問題となり、解釈を巡る争いが生じる可能性があります。
列挙の方法や接続詞の使い方が、裁判所の心証形成に影響を与えることもあるため、文言設計は慎重に行う必要があります。
また、特定の相続人に財産が集中する内容となっている場合には、他の相続人から遺留分侵害額請求(民法1046条以下)を受ける可能性があります。遺留分は一定の法定相続人に保障された最低限の取り分であり、その有無や割合は相続関係によって異なるため、事前の検討が重要です。
もっとも、包括的に記載すれば常に紛争を回避できるというわけではなく、遺留分制度の存在を踏まえた分配バランスの検討が実務上重要です。

全財産を割合で指定している場合(包括遺贈)

「全財産の2分の1を妻に、残りを子供たちに相続させる」といった割合指定(包括遺贈または包括的な相続分指定)の場合には、原則として、遺言作成後に財産が増減したとしても、相続開始時の総財産を基準に、指定割合に従って承継されます。
割合指定は、財産の変動を比率で吸収できる点に特徴があります。
遺言作成後に増えた財産も相続開始時の総財産の一部として評価されるため、財産の増減があっても割合によって自動的に調整される仕組みとなります。
包括遺贈(割合指定)は、個別の財産を一つひとつ特定する必要がないため、預金口座の変更や不動産の買い替えがあっても、その都度遺言書を書き直さずに済む点が実務上のメリットといえます。もっとも、具体的にどの財産を誰が取得するかは、原則として遺産分割協議を通じて確定させる必要があります。
一方で、割合のみを指定している場合、具体的にどの財産を誰が取得するかについては、相続人間での協議が必要となるのが通常です。
そのため、相続人が複数いる場合には遺産分割協議(民法907条)が必要となり、預貯金の払戻し、株式の換価、複数不動産の売却・共有解消などの実務作業が発生します。協議が不調に終わった場合には、家庭裁判所における遺産分割調停・審判(家事事件手続法)へ移行する可能性があります。
協議が円滑に進まない場合には、感情的対立や家庭裁判所での調停手続へ発展する可能性も否定できません。
包括遺贈や割合指定を採用する場合には、遺言執行者を指定しておくことが実務上有効です。
遺言執行者は、遺言内容を実現するために必要な行為を行う権限を有するため、預金の解約、財産の換価、分配手続などを主導できます。これにより、相続人全員の個別同意を都度取り付ける負担が軽減され、割合指定の利点を活かしやすくなります。

財産を個別に指定している場合(特定遺贈)

「この不動産は妻に、この口座は長男に相続させる」といったように財産を具体的に特定して指定している(特定遺贈または特定財産承継型の相続させる遺言)の場合には、原則として、遺言書に記載されていない財産は遺言の対象外となります。
したがって、作成後に取得した財産や記載漏れの財産は、自動的に当該受遺者へ承継されるわけではありません。
記載のない財産については、その部分に限って遺言が存在しないものとして扱われるのが原則です。
そのため、当該財産については法定相続人全員による遺産分割協議を行う必要があります。
特定遺贈(民法964条)は、特定の財産を個別に指定して承継させられる点がメリットです。なお、「相続させる」旨の遺言は、判例上、特定財産承継型の相続分指定と解される場合があり、単なる遺贈とは法的構成が異なる点にも留意が必要です。
もっとも、対象財産の特定が不十分な場合には無効や解釈争いの原因となる可能性があるため、表示方法には注意が必要です。
一方で、財産が増減するたびに遺言書を更新しなければ記載漏れが生じやすいというデメリットもあります。口座間の資金移動や証券会社の変更など、本人にとっては実質的に同一の資産と考えていても、法的には別個の財産として扱われる可能性があるため注意が必要です。
遺産分割協議が整わなければ、預貯金の払戻しや不動産の相続登記などの手続が進まず、相続実務が停滞する可能性があります。
その結果、遺言書を作成した本来の目的である円滑な承継が実現できなくなるおそれも否定できません。
特定遺贈を選択する場合には、残余財産条項(いわゆるバスケット条項)を併用するなどの設計を検討すると有効です。具体的な財産指定と包括的文言を組み合わせることで、記載漏れや将来取得財産に関する紛争リスクを抑えやすくなります。
具体的な財産指定に加えて、「その他一切の財産は○○に相続させる」といった包括的文言を置くことで、遺言作成後に取得した財産の帰属を明確にできます。これにより、相続人間の解釈の相違や紛争の発生を抑えやすくなります。

包括的な文言がない場合

遺言書に特定の財産のみが記載され、「その他一切の財産」などの包括的条項(いわゆる残余財産条項・バスケット条項)が設けられていない場合、記載のない財産については遺言による処分の指定がないものとして扱われるのが実務上の原則です。
その結果、当該財産は民法の定める法定相続分(民法900条)を基準として、相続人全員による遺産分割協議(民法907条)を通じて分配されるのが一般的です。もっとも、相続人全員の合意があれば、法定相続分と異なる分配も可能です。
法定相続分とは、民法900条等に定められた法定相続人が取得する相続割合を指し、遺産分割協議において各相続人の取得割合を決める際の基本的な目安となる基準です。
もっとも、実際の分配内容は、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議によって法定相続分と異なる割合に変更することも可能です。
法定相続人となるのは、民法上定められた以下の者です(民法887条民法889条民法890条参照)。相続順位と法定相続分の組み合わせにより、具体的な取得割合が決まります。
相続人の順位(第1順位・第2順位・第3順位)の法定相続人の関係図
法律上の配偶者は常に相続人となります(民法890条)。
配偶者以外の相続人には民法上の相続順位があり(第1順位:子〔民法887条〕、第2順位:直系尊属〔民法889条1項1号〕、第3順位:兄弟姉妹〔同項2号〕)、どの順位の者が相続人となるかによって法定相続分の割合も異なります。
例えば、相続人の状況別の配偶者の法定相続分は、以下のようになります。

相続人の状況 配偶者の法定相続分
配偶者のみ すべて
配偶者+子 (子が死亡している場合は孫) 半分
配偶者+被相続人の父母 (両親が死亡している場合は祖父母) 3分の2
配偶者+被相続人の兄弟姉妹 (兄弟姉妹が死亡している場合は甥・姪) 4分の3

たとえ遺言者が「この財産は妻に残したい」と考えていても、当該財産について具体的な記載がなければ、未記載財産として扱われ、法定相続分を基準に分配される可能性があります。
仲が悪い、または疎遠な親族がいる場合には、連絡が取れず遺産分割協議が進まない、あるいは対立が激化する可能性があります。その結果、家庭裁判所での遺産分割調停・審判(家事事件手続法)へ移行し、場合によっては訴訟手続に発展するリスクもあります。相続手続が長期化すると、預貯金の凍結や不動産の処分制限など実務上の支障が生じる点にも注意が必要です。

遺言作成後に財産を取得したときの具体的対応

遺言作成後に財産を取得するなどして財産状況に大きな変動があった場合、実務上は以下のいずれかの方法で対応するのが一般的です。

  • 将来取得予定の財産も含める文言(バスケット条項)を入れる
  • 遺言書を書き直す・追記する(遺言の更新)

以下で、詳しく解説します。

将来取得予定の財産も含める文言(バスケット条項)を入れる

遺言書の末尾に「本遺言に記載のない、遺言者が有するその他一切の財産を〇〇に相続させる」などという、将来取得予定の財産も含める文言を入れる方法があります。
具体的に、遺言書の最後に以下のような文言を入れます。

  • 本遺言に記載のない財産
  • その他一切の財産
  • 残余財産

この受け皿(バスケット条項)を用意しておくことで、遺言作成後に新たに口座を開設したり、株式や投資信託を取得したりしても、その都度遺言書を書き直す必要がなくなる可能性があります。財産変動を包括的に吸収できる点が実務上の利点です。
なお、解釈の齟齬を減らすには、条項の中で含まれる財産の例を示すとよいでしょう。
例えば、預貯金や有価証券、投資信託など、後から取得すると思われる財産を想定して具体的な文言にしておくことで、相続人の納得感も上がりやすくなります。
ただし、価値が大きい資産をすべて「その他」に押し込んでしまうと、受益の偏りが見えにくくなるため、遺留分や感情面で揉める原因となり得ます。高額な不動産や事業用資産などは可能な限り個別化し、その他の変動が出やすい資産をバスケットで拾う、という使い分けが現実的でしょう。

遺言書を書き直す・追記する(遺言の更新)

主要な財産が入れ替わった場合や、特定の財産を別の人に渡したくなった場合は、全面的に書き直す方法もあります。
部分的に修正・追記するよりも、全文を書き直し、形式と内容を整理したうえで新たに作成した方が、争点を減らしやすい場合があります。
新しい遺言書を作成すると、以前の遺言書と内容が抵触(矛盾)する部分については、原則として後に作成された遺言の内容が優先し、古い遺言はその限度で撤回されたものとみなされます(民法1023条1項)。したがって、解釈上の混乱を避けるためには、明示的な全部撤回条項を記載しておくことが実務上望ましいとされています。これは、遺言の撤回が明示的でなくても、後遺言による黙示の撤回が認められる場合があるという実務上の運用に基づくものです。
もっとも、後日の解釈上の混乱を防ぐためには、新しい遺言書の中で「従前の遺言をすべて撤回する」などの全部撤回条項を明記し、あわせて古い遺言書の原本を破棄するなど、撤回の意思を明確にしておくことが実務上は推奨されます。
自筆証書遺言を更新する際は、訂正方法の誤りや日付・署名の欠落など、方式違反(民法968条)による無効リスクに注意が必要です。なお、2019年の法改正により財産目録は自書でなくてもよいとされましたが(同条2項)、署名押印の要否など形式面の確認は不可欠です。
公正証書遺言民法969条)により遺言を更新すれば、公証人が関与して作成されるため、方式違反による無効リスクを相対的に低減できます。また、原本が公証役場で保管されるため、紛失や改ざんの可能性も実務上は抑えやすくなります。
ただし、公正証書遺言は公証人手数料が発生し、証人2名の立会いが必要となるなど、作成に一定の手間や時間、費用がかかります。
公正証書遺言については、以下関連記事で詳しく解説しています。
https://nexpert-law.com/souzoku/2340

将来取得する予定の財産はあらかじめ遺言書に書ける?

将来取得する予定の財産についても、包括条項や停止条件付遺言(民法127条以下の条件に関する規定が、遺言にも準用されると通説上解されています)など適切な書き方を用いることで、遺言の内容に含めることは可能と考えられています。もっとも、具体的な文言設計によっては解釈上の争点となる余地があるため、慎重な検討が必要です。
ただし、将来取得する財産は遺言作成時点では存在しないため具体的に特定することが難しく、記載方法を誤ると特定性を巡る解釈争いや無効主張の原因となる可能性があります。
ここでは、実務上使われることが多い以下の2つの書き方について解説します。

  • 将来取得予定の財産を特定しない書き方
  • 将来取得予定の財産を特定する書き方

重要なのは、将来財産の記載が形式的に公平かどうかではなく、遺言者の真意が明確に読み取れ、裁判所における意思解釈や心証形成に耐え得る内容になっているかどうかです。特に、文言の特定性や条件成就の時期が明確であることは、無効主張や解釈争いを回避する観点から重要です。
以下で、詳しく解説します。

将来取得予定の財産を特定しない書き方

「遺言者が相続開始時に有する一切の不動産」といった、将来の状態を想定した包括的な表現を用いるとよいでしょう。
将来財産を特定せずに、「相続開始時に有する一切の財産」などと包括的な表現を用いることで財産変動を広く吸収しやすくなります。
預貯金口座の増減や不動産の買い替えなどを一つずつ追いかけなくてよいのがメリットといえます。
一方で、遺言作成後に高額資産を取得した場合は、個別で指定されていないことで不満が生じ、遺言書の無効や解釈争いにつながる可能性も否定できません。特に、相続人間の関係が良好でない場合には、バスケット条項だけで大きな資産を動かすのはリスクになり得ます。
実務では、主要財産は個別に指定しつつ、増減が起きやすい財産を包括条項で拾う方法が用いられることが多いです。これにより、遺言の意思を見える化しながら、漏れも防ぎやすくなるでしょう。

将来取得予定の財産を特定する書き方

将来取得する可能性が高い財産がある場合は、停止条件付で特定して記載する方法もあります。
例えば、親族から相続する予定の家など取得するルートが明確に予測できる場合は、「遺言者が父○○から下記不動産の所有権を取得していたときは、当該不動産を長男に相続させる」といった、いわゆる停止条件付の形式です。
この場合は、条件と対象の特定が重要です。不動産であれば所在・地番などを明記するなど財産を特定できる形で表示し、どの時点で条件が成就したと扱うかも明示するとよいでしょう。
さらに、条件が成就しなかった場合の扱いも書いておくことをおすすめします。
例えば、「条件が成就しないときは残余財産として妻に相続させる」のように明記しておくと、取得予定の財産を取得しなかった場合も安心です。

遺言書に記載した財産を取得しなかったら遺言はどうなる?

「取得予定の財産を記載したが実際には取得できなかった」「遺言書に記載した後に当該財産を売却した」など、遺言の目的物が存在しなくなった場合でも、遺言書全体が直ちに無効になるわけではありません。一般には、目的物の不存在による当該部分の失効として処理されると解されています。いわゆる目的物の不存在による一部失効の問題として扱われます。
取得できなかった、あるいは手放した財産に関する記述のみが失効(目的物の不存在による一部失効)または撤回されたものとみなされ、それ以外の有効な記載は原則として維持されると解されています。ただし、遺言全体の趣旨との関係で例外的判断がなされる可能性も否定できません。
もっとも、取得予定だった財産が実際には存在しなかったことにより全体の分配バランスが大きく崩れると、相続人間で不公平感が生じ、遺留分侵害額請求や紛争に発展する可能性があります。
分配のバランスが大きく崩れる場合は、遺言の更新も検討するとよいでしょう。

遺言書のメンテナンスを検討すべき5つのタイミング

遺言は一度作成して終わりではなく、生活環境や財産状況、家族関係の変化に応じて定期的に見直し(更新)を行うことで、相続手続きの停滞や将来的な紛争を予防しやすくなります。
ここでは、見直しの代表的な5つのタイミングを紹介します。

多額の財産を取得したとき

相続・贈与・退職金・保険金の受領などにより多額の財産を取得したときは、遺言書の見直しを検討することが重要です。相続税の負担や納税資金対策の観点からも再設計が必要になることがあります。
相続・贈与・退職金・保険金・資産売却益などで財産が大幅に増えると作成時に考慮した分配比率が崩れるため、相続人間で不公平が生じたり、遺留分争いが発生したりしやすくなるためです。
また、分配比率が崩れると、遺留分侵害のリスクも現実化しやすくなります。
例えば、遺言どおりに不動産を相続した後に遺留分侵害額請求権を行使された場合、現金を用意できなければ、相続した不動産を売却しなければならないことになりかねません。
多額の財産を取得したら、配分の再設計に加えて納税資金の確保や換価しやすい財産の配置も見直すと、相続人の実務負担を減らしやすくなります。
遺留分侵害額請求については、以下関連記事で詳しく解説しています。
https://nexpert-law.com/souzoku/2079

特定の不動産を売却・建て替えしたとき

特定の不動産を売却・建て替えしたときも遺言書の見直しを検討しましょう。
不動産を売却すれば遺言で指定した目的物は存在しなくなりますし、建て替えた場合も法律上は別個の建物として扱われるため、旧建物のみを特定している遺言のままでは新建物は遺言の対象外となり、結果として法定相続人全員の共有状態になる可能性があります。
また、売却代金や買い替え後の新物件を誰が取得するのかは、遺言書に明記されていないと揉めるポイントになり得ます。本人の感覚では同じ価値のものに変えただけかもしれませんが、法的には別の財産です。
不動産が動いたときは、登記情報や評価、ローンの残債の有無も含めて見直し、代替財産の帰属や残余財産条項との関係を整理しておくことをおすすめします。

家族構成に変化があったとき

家族構成に変化があったときも遺言書の見直しを検討しましょう。
結婚・離婚・再婚・子の出生や養子縁組、相続人の死亡などがあると、相続関係そのものが変わります。そのため、遺言書が古いままだと、相続人となり得ない人が関与したり、逆に相続すべき人が相続できなくなったりするおそれがあります。
特に再婚家庭では、新しい配偶者と前婚の子の利害がぶつかりやすく、遺言の設計ミスがそのまま紛争に直結しやすいです。誰にどの財産を渡すのかが明確に読み取れる遺言書を作成することが大切です。

判断能力の低下が懸念されたとき

判断能力の低下が懸念されたときも遺言書の見直しを検討しましょう。
判断能力が低下すると、遺言能力(民法963条)の有無が争点となり、死後に遺言無効を主張されるリスクが高まるためです。遺言能力は遺言作成時点における意思能力の有無を基準に判断されると解されています。
たとえ遺言書の内容に不備がなくても、判断能力の有無で争いになりかねません。意識がしっかりしているうちに、将来の変動まで見据えた最終版に仕上げることが重要です。
判断能力の低下が懸念される場合は、公正証書遺言(民法969条)で作成・更新することにより、公証人の関与を通じて手続の適正性や証拠力を高められるとされています。もっとも、遺言能力の有無は最終的には個別事情に基づき判断されます。後日の争いを見据えるなら、医師の診断書や面談記録など、意思の明確さを裏付ける資料の入手を検討してもよいでしょう。
先送りにしていると、更新したくてもできない状態になるかもしれません。少しでも不安があるなら、なるべく早期に遺言書を見直すことをおすすめします。

作成から時間が経過し現在の意向とズレがあるとき

作成から時間が経過し現在の意向とズレがあるときも遺言書の見直しを検討しましょう。
資産状況や親族との関係、自身の死生観は数年で変わるのが一般的です。遺言が古いと、現在の感覚では納得しにくい配分になっていることがあり、それ自体が争いの原因になり得ます。
更新の際は、古い遺言との整合性を意識し、抵触を残さない形に整理することが重要です。
実務上は、5年に一度を目安に見直すことで、常に今の遺志が反映された状態を保ちやすくなります。

2024年4月開始!相続登記の義務化と遺言の関係

2024年4月1日施行の不動産登記法改正により、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内相続登記(名義変更)を申請することが義務化されました(不動産登記法76条の2)。正当な理由なくこれを怠った場合には、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
遺言書に記載のない不動産が見つかり、包括的な条項(バスケット条項)もない場合、遺産分割協議が整うまで登記手続きが進まず、期限に間に合わなくなるリスクが生じます。
不動産が絡む遺言では、登記に耐える表示で特定すること、漏れを防ぐための残余財産条項を入れること、そして不動産の売却や買い替えがあったら更新することが、義務化後の実務では特に重要です。

受取人が先に亡くなるとどうなる?予備的遺言の重要性

遺言で指定した受遺者が遺言者より先に死亡した場合、その遺贈は原則として効力を生じません民法994条)。これは、法定相続における代襲相続(民法887条2項等)とは取扱いが異なる点に注意が必要です。
もっとも、「相続させる」旨の遺言については、判例(最高裁判所平成23年2月22日判決)により、特段の事情がない限り効力を生じないと解されています。
「長男にすべての財産を相続させる」と遺言を書いていたのに長男が遺言者より先に他界した事案で、裁判所は、「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当であると判断しています(最高裁判所平成23年2月22日判決)。
この場合、「もし指定の相続人が先に死亡した場合は、その子〇〇に相続させる」という予備的遺言を明確に記載しておくことで、不測の事態でも遺産分割協議に引き戻されることなく、希望通りの承継がしやすくなります。

遺言書を見直すなら弁護士へ相談を

遺言は文言のわずかな違いによって効力や解釈、相続手続の進めやすさが大きく変わることがあります。紛争リスクを抑え、意思を適切に実現するためにも、遺言書を見直す際は弁護士に相談することが有益といえます。
弁護士に相談する主なメリットは、以下の4つです。

  • 形式不備による無効リスクを最小限に抑えられる
  • 将来の解釈の齟齬を防ぐ法的に正確な文言で作成できる
  • 複雑な相続財産調査や遺言執行者を一任できる
  • 遺留分侵害による死後の紛争を未然に防止しやすくなる

形式不備による無効リスクを最小限に抑えられる

自筆証書遺言は方式の要件を外すと無効になるリスクがあります。日付の欠落や押印の不備といった些細なミスで遺言が無効になることもあります。
弁護士に依頼すれば、民法所定の方式(自筆証書遺言であれば民法968条等)を満たしているか確認してもらえるため、方式違反による無効リスクを相対的に抑えやすくなります。
特に遺言を更新する際は、古い遺言との関係で撤回の範囲が問題になりやすいため、形式と内容をセットで整えることが重要です。
弁護士のサポートを受けることで、あなたの希望通りの承継が叶う可能性が高まります。

将来の解釈の齟齬を防ぐ法的に正確な文言で作成できる

遺言は一文字のミスで効力が揺らぐことがあります。
例えば、「相続させる」と「遺贈する」の使い分け、残余財産や一切の財産の範囲などは、実務上の解釈に差が出やすい部分です。また、不動産の表示や口座情報の書き方が曖昧だと、対象が特定できず手続きが止まるおそれもありますし、将来財産や条件付条項も、条件の書き方次第では争点になり得ます。
弁護士に依頼することで、誰が読んでも誤解しにくい文言で遺言書を作成してもらえるため、相続人間の解釈のズレを防ぎやすくなります。

複雑な相続財産調査や遺言執行者を一任できる

遺言があっても、財産目録が不十分だと、結局財産の内容で揉めることになりかねません。
預貯金や有価証券、不動産、負債、未収金などを整理して目録に反映させる作業は手間がかかりますが、とても大切な作業です。
弁護士に依頼すれば、自身でも把握しきれていない財産まで調査し、目録に反映してもらえます。
また、弁護士を遺言執行者に選任することで、相続人同士の対立の激化を避けやすくなりますし、預金の解約や名義変更などの煩雑な手続きも任せられます。遺族の負担を最小限に抑える体制を整えられるでしょう。

遺留分侵害による死後の紛争を未然に防止しやすくなる

遺言で特定の人に財産を集中させると、財産の分配バランスが崩れ、遺留分侵害額請求(民法1046条以下)が行使される可能性が高まります。請求の可否や金額は具体的な相続関係や財産内容によって異なるため、事前のシミュレーションが重要です。
請求自体は権利行使なので避けられないこともありますが、請求を想定して設計しておけば紛争を小さくできるかもしれません。
弁護士に依頼すれば、遺留分の構造を踏まえて、代償金の準備、保険の活用、分配調整、生前贈与の整理など、現実的な対策を提案してもらえます。
結果として遺言の実現可能性が上がり、相続人が金銭や不動産の処理で追い詰められる事態を減らせるでしょう。

まとめ

遺言作成後に財産が変動することは、人生において当然といえる出来事です。しかし、その変化を放置すれば、家族を守るために作った遺言書が、かえって家族を苦しめる火種になりかねません。
包括的条項(バスケット条項)の導入や予備的遺言の設計、そして定期的な見直しは、相続トラブルを予防し、残された家族が遺産分割協議(民法907条)で過度な負担を負わずに済むための重要な備えといえます。特に、相続登記義務化や遺留分制度との関係を踏まえた総合的な設計が、近年の実務では一層重要になっています。
「以前作った遺言書、今の財産でも大丈夫だろうか?」
「相続登記義務化に備えて、内容を見直したい」
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この記事を監修した弁護士

コラム監修者

Shunsuke Teragaki

Shunsuke Teragaki

所属:東京本店

広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。

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