子どもの独立や配偶者の定年退職を機に、今後の人生を考え直して熟年離婚を検討される方もいらっしゃる傾向にあります。そのような熟年離婚の大きな特徴として、婚姻関係の清算に伴う財産分与の複雑さが挙げられます。
この記事では、熟年離婚ならではの財産分与における3つの特徴や、実務上でトラブルに発展しやすい事例について詳しく解説します。
熟年離婚における財産分与の特徴
熟年離婚における財産分与の主な特徴は、以下の3点に集約されます。
財産が多岐にわたるため調査が難航しやすい
熟年離婚では、夫婦で形成した資産が多岐にわたるケースが多く、財産調査が難航しやすい傾向があります。財産分与の対象となるのは、原則として婚姻期間中に夫婦が共同で築き上げた財産(共有財産)です。熟年夫婦のように同居・婚姻期間が長期に及ぶほど、蓄積された共有財産も多額かつ複雑になる傾向が見られます。そのため、分与対象となるすべての財産(預貯金、不動産、保険解約返戻金、有価証券など)を漏れなく特定・調査するのに時間がかかり、当事者間の協議が難航する可能性が高くなります。
長年連れ添ったからこそ見えていない隠し財産が意外とある
長年連れ添った夫婦であっても、互いに把握しきれていない財産(いわゆる隠し財産など)が存在することは珍しくありません。結婚当初は家計や資産の情報を共有していた夫婦でも、年月が経つにつれて互いの金銭管理に干渉しなくなり、配偶者が知らない預貯金や投資信託などの財産が形成されているケースが実務上もよく見受けられます。
また、老後の生活資金への不安から、離婚時の財産分与で自身の資産が目減りすることを恐れ、意図的に分与対象となる財産を隠匿するケースも存在します。
時間の経過によって共有財産と特有財産の判別が難しくなる
長期にわたる婚姻生活を経ることで、夫婦で分けるべき共有財産と、分与対象外となる特有財産の線引き・判別が困難になるケースがあります。
特有財産とは、結婚前から各自が所有していた財産や、婚姻中であっても自身の親からの相続・贈与によって取得した、夫婦の協力とは無関係な財産を指します(民法762条1項)。こうした特有財産は、長い婚姻生活の中で家計と混同されやすく、共有財産との見分けがつきにくくなることが一般的です。
例えば、親族の死亡により相続した現金を夫婦の生活用口座に入金して混同管理していた場合、その後に引き出した現金の原資が共有財産なのか特有財産なのか立証が難しくなり、正確な財産の区別が困難になる事案が多数あります。夫婦のどちらに属するか明らかでない財産については、法律上、夫婦の共有財産であると推定されるため(民法762条2項)、原則として財産分与の対象として扱われます。
熟年離婚の財産分与でトラブル・争点になりやすい財産
熟年離婚における財産分与において、特に話し合いが難航し、法的なトラブルに発展しやすい代表的な財産は以下の3つです。
持ち家(マイホーム)の取り扱い
夫婦で購入した持ち家(不動産)をどのように分割するかは、熟年離婚において最も協議が難航しやすい争点の一つです。持ち家の財産分与は、実務上、主に以下の2つの方法のいずれかで行われるのが一般的です。
売却して得た現金を2人で分ける(換価分割)
持ち家を第三者に売却し、諸経費を差し引いて残った売却代金(現金)を夫婦間で分割する方法(換価分割)です。現金化することで物理的に平等な分割が可能になるため、離婚後の金銭的なトラブルや後日の紛争を防ぎやすいというメリットがあります。住宅ローン(債務)が残っている場合は、売却代金でローンを一括返済する、あるいは金融機関の承諾を得て任意売却を行うなど、ローン残高と家の査定評価額(アンダーローンかオーバーローンか)に応じた適切な手続きを進めるのが実務上の基本です。
ただし、築年数が経過した物件や立地条件によっては買い手がつくまでに長期間を要するケースも多く、不動産売却が完了するまで財産分与の手続きが片付かない可能性があります。
どちらか一方が家を取得する(代償分割)
夫婦のどちらか一方が持ち家の所有権を取得し、離婚後もそのまま住み続ける方法です。この場合、不動産を取得する側が、もう一方の配偶者に対して持ち家の評価額の2分の1に相当する現金(代償金)を支払うか、他の共有財産(預貯金など)を多く譲渡して清算する「代償分割」という手法が取られます。しかし、持ち家の資産価値・評価額が高い場合には、支払うべき代償金が高額となり、一括での準備が困難になるケースも少なくありません。夫婦の共有財産の大半が持ち家であり、それ以外にめぼしい流動資産(預金など)がない場合、代償金の代わりに渡せる財産がないため協議が行き詰まることがあります。
特に熟年離婚においては、「老後の住環境を変えたくない」「住み慣れた家から離れたくない」と双方が希望する場合も多く、どちらが持ち家に居住し続けるかで対立が深まり、当事者間の話し合いだけでは解決しないケースも十分に考えられます。
持ち家の財産分与については、『離婚時の家の財産分与で確認すべきことは?手続きの流れを解説』の記事もご参照ください。
退職金の取り扱い
配偶者が受け取る予定、あるいはすでに受け取った退職金をどのように財産分与に組み込むかも、熟年離婚において話し合いが難航しやすいポイントです。定年退職等によりすでに退職金を受け取り、それが預貯金等として手元に残っている場合、その支給額のうち「婚姻期間」に対応する部分が共有財産として分与の対象と見なされます。結婚前から同じ勤務先で働いていた場合には、全勤続年数のうち婚姻期間が占める割合(按分)を計算し、特有財産分を控除して分与額を調整するのが実務上の一般的な算定方法です。
まだ退職金が支給されていない(将来受け取る予定の)場合、その将来の退職金が財産分与の対象として認められるかどうかが最大の争点となります。将来の退職金が分与対象となるためには、支給の蓋然性(確実性)が高いと認められる必要があり、一般的に以下の点を確認する必要があります。
- 就業規則に退職金の規定が存在するか
- 退職金の算定方法・計算式が明確になっているか
- 対象者のこれまでの勤務実績が良好か
- 勤務先企業の経営状況が安定し、倒産リスクが低いか
- 定年退職までの残り期間が概ね10年以下など、支給時期が近いか
これらの条件を満たし、将来的に退職金が支払われる蓋然性が高いと裁判所等に判断されれば、未支給の退職金であっても財産分与の対象となる可能性が高まります。未支給退職金の算出方法としては、離婚時または別居時を基準時とし、自己都合退職したと仮定した場合に支払われる退職金見込額をベースに計算する手法が実務上よく用いられます。算出された退職金見込額のうち、婚姻期間に相当する部分を原則として夫婦で2分の1ずつ(1/2ルール)分割することになります。
退職金の分与については、『退職金は財産分与の対象になる?期間や計算方法とは? 』の記事で詳しく解説しています。
確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)などの私的年金
公的年金の年金分割とは別に、確定拠出年金(DC)などの私的年金についても、財産分与の対象となる場合があります。確定拠出年金には企業型と個人型(iDeCo)が存在し、企業型の場合は「退職金の前払い」という性質を有することが多いため、原則として共有財産とみなされ財産分与の対象となる傾向があります。
ただし、勤務先企業が確定拠出年金制度を導入してからの期間が著しく短かったり、定年退職までの期間が長く支給の確実性が不透明であったりする場合は、財産分与の対象とならないと判断された裁判例(名古屋高裁判決平成21年5月28日)もあるため、分与対象に含めるかどうかで当事者間に争いが生じる余地は十分にあります。
一方、個人型(iDeCo)の場合は企業からの退職金の前払いという性質を持たないため、財産分与の対象となるか否かについて、個別具体的な事情によって判断が分かれる傾向にあります。個人型の場合、婚姻期間中に夫婦の共有財産(家計の口座など)から掛金を拠出していたかどうかが実務上の重要なポイントとなりますが、特有財産からの拠出か否かの立証をめぐり、当事者間で深刻なトラブルに発展する可能性が高いと言えます。
熟年離婚の財産分与を弁護士に相談・依頼すべき理由
熟年離婚に関する財産分与の協議を、ご自身だけで進めずに法律の専門家である弁護士に相談・依頼すべき主な理由は以下の3点です。
分与額が高額になりやすく、当事者間の協議(話し合い)では合意が得られにくい
熟年離婚特有の事情として、対象となる総資産額が高額になりやすく、夫婦間の直接協議(話し合い)だけでは条件面での合意が得られにくい傾向があります。特に熟年離婚の場合、離婚後の就労による収入増加が見込みづらく、双方がご自身の老後の生活資金に対して強い不安を抱えているケースがほとんどです。そのため、財産を分与する側(主に資産名義人)は自身の財産減少を恐れて消極的な態度を取りやすく、分与を請求する側は適正な取り分を主張して対立が激化し、離婚調停や裁判(家事事件)に発展するケースも少なくありません。
弁護士に依頼すれば、本人の正当な代理人として、配偶者との財産分与に関する一切の交渉を代行することが可能です。当事者同士ではこれまでの不満から感情的な対立が生じやすい場面でも、法的な専門知識を持つ第三者として冷静かつ客観的な判断ができる弁護士が介入することで、不毛な言い争いを避け、財産分与の協議をスムーズに進めやすくなります。
自分だけで配偶者の隠し財産を含めて漏れなく調査することはハードルが高い
夫婦の共有財産を、ご自身だけの力で一つ残らず漏れなく調査・特定することは、実務上極めてハードルが高い作業です。離婚時に本来受け取るべき適正額を確保し、公平な財産分与(清算的財産分与)を実現するためには、基準時における正確な財産調査が不可欠となります。
しかし、婚姻期間が数十年に及ぶ熟年離婚では、形成された財産の所在が複雑化しており、配偶者がどの金融機関にどの程度の隠し口座や有価証券を持っているか、全く把握できていないケースも散見されます。離婚問題に精通した弁護士であれば、法的な手段を用いて複雑な財産の調査をスムーズかつ正確に行うことができます。
例えば、所属する弁護士会を通じて金融機関等へ配偶者名義の財産開示を求める制度(弁護士会照会・23条照会)を利用したり、調停等の手続きの中で裁判所を通じて金融機関等に情報の開示を求める制度(調査嘱託)を活用して、過去の口座の取引履歴や残高を客観的に調査できる場合があります。弁護士に離婚協議や財産分与の手続きを依頼することで、個人では限界がある証拠収集や財産調査も円滑に進められ、正当な権利を守れる可能性が高まります。
財産の評価を誤ると離婚後の老後生活資金に深刻な影響が及ぶ
熟年離婚において最も重視すべきは、離婚成立後の自立した老後生活を支えるための確実な生活資金を確保することです。そのためには、対象となるすべての財産の価値を法律と実務に則って正しく算定・評価し、公平に分割する必要があります。
しかし、専門知識のない一般の方がご自身だけで進めようとすると、不動産の査定方法、未支給退職金の現在価値への引き直し、非上場株式や有価証券の時価評価などで計算を誤るおそれが十分にあります。
もし財産の評価額を不当に過少に見積もったまま合意してしまえば、本来なら受け取れたはずの分与額が大きく減少し、結果として老後の生活設計(子の福祉やご自身の将来)に深刻な支障をきたすリスクがあります。
弁護士に依頼すれば、不動産鑑定士や税理士などの他の専門家とも適宜連携を図りながら、実務上認められる適正な財産評価額に基づいた有利な条件で分与の交渉を進めることが可能です。法的な観点から弁護士の適切なサポートを受けることで、取り返しのつかない財産の見落としや評価の誤算を未然に防ぎ、ご自身の将来の生活に必要な正当な資産を確保できる可能性が高まります。
まとめ
熟年離婚においては、共有財産を漏れなく調査し、正確な評価に基づく適正な財産分与を行うことがいかに重要であるか、この記事を通じてご理解いただけたかと思います。熟年離婚では、未成年の子どもがすでに自立しており親権や養育費(子の福祉)をめぐる争いが生じにくい分、蓄積された財産分与や年金分割が最大の争点になりがちです。ご自身が損をしないためにも、手遅れになる前に早めに弁護士へ相談し、老後の生活設計もしっかりと見据えた有利な財産分与を実現しましょう。
ネクスパート法律事務所には、熟年離婚や複雑な財産分与の実務に精通した経験豊富な弁護士が多数在籍しております。個別事情に応じた最適な解決策をご提案いたしますので、一人で抱え込まず、まずは当事務所の無料相談などからお気軽にお問い合わせください。