更新日:2026年7月22日 (水)
公開日:2026年7月22日 (水)
過失とは?故意との違い・成立する犯罪の種類・罰則を解説
サマリー
刑事上の「過失」とは、必要な注意を怠ったこと(注意義務違反)によって、法益侵害(人の生命・身体・財産など、法律で保護される利益への侵害)の結果を発生させることを指します。
刑法では、原則として故意犯が処罰対象とされており、過失犯は、法律に特別の規定がある場合に限って例外的に処罰されます。
意図的ではない「うっかり(不注意)」であっても、一定の注意義務違反が認められる場合には、犯罪として処罰対象となることがあります。
そのため、過失が成立する条件や、「故意」との違いを理解することが重要です。
この記事では、刑事上の過失の基本的な意味をはじめ、故意との違い、過失犯が成立する要件、代表的な犯罪類型や罰則について、具体例を交えながらわかりやすく解説します。
なお、個別具体的な事件における過失の有無や刑事責任の見通しについては、事案の細部や客観的証拠によって異なるため、刑事事件の弁護実務に精通した弁護士などの専門家に直接相談し、判断を仰ぐことが推奨されます。
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刑事事件における「過失」とは?|基本的な意味を解説
刑事事件における「過失」とは、一定の危険な結果が発生することを予測できたにもかかわらず、必要な注意を怠ったために、実際に法益侵害の結果を発生させることを指します。
実務上は、「予見可能性」と「結果回避義務違反」が重要な判断要素となります。
つまり、法的に要求される注意義務を怠ったこと(注意義務違反)が、刑事責任を問われる根拠となります。
単なる不注意であっても、その結果として人の生命・身体などの重要な法益を侵害した場合には、刑事責任を問われる可能性があります。
「うっかり」が罪になる?|過失犯が成立する2つの法的条件

単なる「うっかり」が法的な過失と評価され、過失犯として刑事責任を問われるには、裁判実務上、主に2つの条件を満たす必要があります。
一つ目は、「結果の予見可能性」が認められることです。
これは、行為当時の具体的な状況下で、その行為によって危険な結果が発生する可能性について、社会通念上の一般人(あるいは同種の業務に従事する標準的な人)を基準として客観的に予測できたことを意味します。
二つ目は「結果回避義務違反」です。
これは、上記のように予測可能だった結果を防止するために、必要な措置を講じる義務があったにもかかわらず、それを怠った状態を指します。
これらの要件が認められる場合には、過失の程度や具体的事情に応じて、刑事上の責任が生じる可能性があります。
なぜ故意がなくても犯罪になるのか?過失犯を処罰する理由
故意がなくても例外的に過失犯が処罰されるのは、社会生活において他人の生命・身体などを危険にさらさないよう注意して行動すべき法的義務があるためです。
この注意義務に違反し、重大な結果を発生させたこと自体が、法的非難の対象になると考えられています。
刑法では、原則として故意犯を処罰対象としていますが、交通事故や業務上の事故など社会的影響が大きい行為については、過失犯処罰規定を設けることで、過失による行為についても処罰対象としています。
「過失」と「故意」はどう違う?具体例で見る判断基準

「過失」と「故意」は、行為当時の認識や意思といった主観的要素によって明確に区別されます。
特に、犯罪結果が発生することを認識していたかどうか、そしてそれを認容していたかどうかが、両者を区別する重要な判断基準となります。
故意とは、自らの行為が犯罪に該当することや、結果の発生を認識している状態を指し、その心理的強度の違いによって「確定的故意」と「未必の故意(みしつのこい)」に分類されます。
ここでは、それぞれの違いや判断基準について具体例を交えながら解説します。
故意|結果の発生を認識・認容していた
「故意(確定的故意)」とは、自らの行為によって一定の犯罪結果が発生することを認識・認容している状態を指します。
例えば、「相手にケガを負わせるつもりで殴り、実際に傷害を負わせた」というケースは、傷害罪(刑法第204条)の典型的な故意犯にあたります。
このように、行為者が結果発生を積極的に望んでいる場合や、結果発生が確実であると認識している場合は、典型的な故意(確定的故意)にあたります。
未必の故意|結果発生の可能性を認識しつつ容認した
「未必の故意(みしつのこい)」とは、自分の行為によって犯罪結果が発生する確定的な確信まではなくとも、その可能性を認識しながらも、「仮にそのような結果が発生してもやむを得ない(構わない)」と結果を認容して行為に及ぶ心理状態を指します。
例えば、「このスピードでカーブに進入すれば事故を起こして人を死亡させるかもしれないが、それでも構わない」と考えて運転し、実際に死亡事故を発生させた場合には、未必の故意が認定される可能性があります。
結果発生を積極的に望んでいなくても、その結果を容認している点で、単なる過失とは区別されます。
過失|不注意により結果発生を予見できなかった
「過失」とは、社会通念上求められる注意義務を尽していれば、法益侵害という危険な結果を予見・回避できたにもかかわらず、それを怠った状態を指します。
例えば、運転中にスマートフォンを操作して前方確認を怠り(ながら運転)、歩行者に気づかず衝突したケースなどが典型例です。
故意とは異なり、犯罪結果の発生を積極的に望んだり、発生しても構わないと容認したりする意思がない点に特徴があります。
なお、すべての犯罪に過失犯処罰規定が存在するわけではありません。
例えば、器物損壊罪(刑法第261条)は故意犯として規定されているため、過失によって物を壊しただけでは、刑法上の犯罪は成立しません。
なお、通常の過失より重大な注意義務違反が認められる場合には、「重過失」と評価されることもあります。
過失によって成立する代表的な犯罪と罰則一覧
過失による行為が犯罪として処罰されるのは、刑法第38条第1項ただし書に基づき、刑法典や特別法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷処罰法)など)に「過失犯処罰規定」があらかじめ設けられている場合に限定されます。
代表的なものには、過失運転致死傷罪、業務上過失致死傷罪、重過失致死傷罪、失火罪などがあります。
| 犯罪の種類 | 主な該当ケース・具体例 | 法定刑(罰則の重さ) |
|---|---|---|
| 過失運転致死傷罪 (自動車運転死傷処罰法5条) |
・自動車運転中の脇見運転 ・スマートフォンのながら運転 ・速度超過 など |
7年以下の拘禁刑、または100万円以下の罰金 |
| 業務上過失致死傷罪 (刑法第211条前段) |
・医療過誤 ・建設現場での安全管理義務違反 ・施設管理上の事故 など |
5年以下の拘禁刑、または100万円以下の罰金 |
| 重過失致死傷罪 (刑法第211条後段) |
・周囲確認を全くせず危険行為を行った ・スマートフォンを見ながらの自転車運転 など |
5年以下の拘禁刑、または100万円以下の罰金 |
| 失火罪 (刑法第116条第1項) |
・タバコの火の不始末 ・コンロの消し忘れによる建物火災 など |
50万円以下の罰金 |
【交通事故】過失運転致死傷罪の刑罰
自動車の運転に必要な注意義務を怠り、その結果として人を死傷させた場合に成立する犯罪です。
自動車運転処罰法に規定されています。
法定刑は、7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金と定められています。
脇見運転やスマートフォンのながら運転、速度超過など、不注意による交通事故の多くがこの罪に該当する可能性があります。
【業務中の事故】業務上過失致死傷罪の刑罰
医師や看護師といった医療従事者、建設工事現場の安全管理監督者、飲食店の衛生管理責任者など、その社会的地位に基づき業務上必要な注意義務を負う者が、その義務に違反して人を死傷させた場合に成立する犯罪です。
法定刑は、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。
業務上過失致死傷罪については、以下の記事で詳しく解説しています。
業務上過失致死傷罪はどんな罪?判例とともに詳しく解説
【特に重大な不注意】重過失致死傷罪の刑罰
業務としての行為ではない(あるいは日常の一般的な行為である)ものの、結果発生の危険性が極めて高く、通常人として求められる基本的な注意義務に著しく違反し、その重大な不注意によって人を死傷させた場合に成立します。
例えば、自転車でスマートフォンを操作しながら高速走行する「ながら運転」により、歩行者に衝突して重大な傷害を負わせた場合などが該当する可能性があります。
法定刑は、業務上過失致死傷罪と同様に、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。
【火災事故】失火罪の刑罰
自己の過失によって火災を発生させ、不特定多数に対する公共の危険を生じさせた場合に成立する犯罪です。
例えば、タバコの火の不始末やコンロの消し忘れなどによって建物火災を発生させたケースなどが該当します。
失火罪の法定刑は、50万円以下の罰金と定められています。
過失事件における刑事責任と民事責任の違い

不注意によって事故などを発生させた場合、加害者には「刑事責任」と「民事責任」という性質の異なる2つの法的責任が生じる可能性があります。
これらは制度の目的や法的な趣旨が異なり、実務上も、刑事手続き(刑事裁判)と民事手続き(民事裁判)という別個の手続きによって判断されます。
刑事罰と損害賠償は別個の責任
刑事責任とは、国の法秩序を維持するために科される制裁であり、過失の程度や被害の大きさに応じて、刑法などに基づき拘禁刑(従来の懲役・禁錮を一元化したもの)や罰金などの刑罰が科されます。
刑事裁判によって命じられる「罰金」は、国家に対する刑罰として国庫に納付するものであり、被害者側へ直接支払われる賠償金とは性質が異なる点に留意が必要です。
一方、民事責任とは、民法第709条などの不法行為責任に基づき、過失によって他人に与えた損害(治療費、入通院慰謝料、休業損害、逸失利益など)を金銭に換算して賠償・補填することを目的とします。
したがって、刑事手続きにおいて罰金刑や拘禁刑などの刑事罰を受けたとしても、それによって被害者に対する民事上の損害賠償責任(賠償金の支払義務)が当然に免除・消滅するわけではありません。
被害者との示談成立は刑事処分に大きく影響する重要な要素
刑事事件の実務において、被害者側との間で「示談」が成立しているかどうかは、検察官による起訴・不起訴の処分判断や、裁判所による量刑判断(執行猶予の有無など)において、加害者に有利な事情として考慮される傾向にあります。
示談とは、加害者が被害者に対して真摯に謝罪し、合意した示談金(民事上の損害賠償金)を支払うなどして、当事者間で民事上の紛争を解決するための合意を指します。
弁護士などを通じて早期に示談が成立し、示談書の中に「加害者の刑事処罰を望まない」という被害者側の意思(いわゆる宥恕(ゆうじょ)文言)が含まれている場合には、検察官が刑事追訴の必要性がないと判断して不起訴処分(起訴猶予)としたり、刑事裁判において量刑上有利に考慮されたりする可能性があります。
ただし、示談によって民事上の責任を果たした場合でも、刑事責任そのものが当然に消滅するわけではありません。
刑事事件の示談交渉については、以下の記事で詳しく解説しています。
示談交渉とは?刑事事件の示談の流れや注意点・示談金相場を徹底解説
過失で刑事事件になった場合の流れと早期解決のポイント
過失によって刑事事件の被疑者となった場合、警察や検察による捜査が開始されます。
捜査には、被疑者の強制的な身柄拘束を伴う「逮捕・勾留(身柄事件)」の手続きと、身柄の拘束を行わない「在宅捜査(在宅事件)」の2つのルートが存在します。
事件を早期かつ有利に解決するためには、逮捕から起訴・不起訴の決定に至る刑事手続きの流れを正しく理解したうえで、捜査初期における適切な取調べ対応や、迅速な示談交渉を行うことが重要です。
逮捕されるケースと在宅捜査になるケースの違い
実務上、警察や裁判所が逮捕・勾留による身柄拘束の必要性を判断するにあたっては、刑事訴訟法の規定に基づき、主に被疑者に「逃亡のおそれ」や「罪証(証拠)隠滅のおそれ」が客観的に存在するかどうかが基準となります。
例えば、死亡事故や重大事故を伴う交通事件、ひき逃げや危険運転が疑われるケースでは、逮捕される可能性が高くなる傾向があります。
一方、定まった住居や職業があり身元が明白で、捜査機関の呼出しや取調べにも誠実に協力しており、逃亡や証拠隠滅を行うおそれが低いと客観的に判断された場合には、身柄拘束を受けない「在宅事件」として手続きが進められる傾向にあります(※ただし、在宅捜査であっても犯罪が不成立になるわけではなく、検察官による刑事処分の判断は同様に行われます)。
逮捕後の流れや在宅事件については、以下の記事で詳しく解説しています。
逮捕とは|逮捕されたらどうなる?意味や種類をわかりやすく解説
在宅事件になるとどうなる?捜査の流れや身柄事件との違いを解説
前科を回避するために弁護士へ相談するメリット
前科を回避するためには、検察官による起訴を避け、不起訴処分(起訴猶予を含む)を獲得することが重要です。
弁護士へ早期に相談することで、被害者との示談交渉を適切かつ円滑に進めやすくなります。
被害感情に配慮した示談交渉は、当事者間では難航するケースも多いため、刑事事件に詳しい弁護士へ相談することが有効とされています。
また、弁護士は、示談成立や反省状況などの情状事情を整理した意見書を捜査機関へ提出し、不起訴処分や量刑上有利な判断を求める弁護活動を行います。
過失に関するよくある質問(FAQ)
刑事事件における過失については、多くの方が疑問や不安を抱えています。
ここでは、過失犯の成立要件や前科、不起訴処分に関するよくある質問とその回答をまとめています。
Q. 被害者にケガがなくても過失犯として処罰されますか?
原則として、他人の「負傷(傷害)」や「死亡」という客観的な結果が現実にもたらされなければ、過失運転致死傷罪や業務上過失致死傷罪などの過失犯は成立しません。
過失犯の多くは、人の生命や身体といった法益侵害の結果発生を処罰要件としています。
ただし、自動車等の運転において人身被害が生じなかった場合であっても、道路交通法第70条が定める安全運転義務違反など、危険な不注意行為や義務違反そのものが別途の処罰・摘発の対象となるケースはあります。
Q. 民事裁判で決まった過失割合は、刑事事件に影響しますか?
民事裁判で認定された過失割合が、直ちに刑事事件の判断を拘束するわけではありません。
ただし、注意義務違反の有無を検察官や裁判所が判断するにあたり、客観的な参考事情として間接的に考慮される余地はあります。
民事上の過失割合は、発生した金銭的損害を当事者間でどのように公平に分担するかを判断するための基準です。
一方、刑事事件においては、加害者側に法的な「注意義務違反(過失)の成立要件」が認められるか、その非難可能性の程度はどのくらいかを検討するための、間接的な事情として精査されるにとどまります。
Q. 過失で前科をつけないためには、何をすべきですか?
前科を避けるためには、検察官に起訴されず、不起訴処分を得ることが重要です。
そのためには、被害者との早期示談や誠実な謝罪対応が重要な事情となります。
真摯な謝罪や適切な被害弁償を行うことで、不起訴処分や量刑上有利な判断につながる可能性があります。
早い段階で刑事事件に詳しい弁護士へ相談し、適切な弁護活動を受けることが望ましいでしょう。
まとめ
刑事上の過失とは、不注意によって人の生命や身体などに重大な結果を発生させた場合に問われる法的責任を指します。
故意がなくても、社会生活上求められる注意義務に違反したと判断された場合には、過失運転致死傷罪や業務上過失致死傷罪などが成立し、刑事処分の対象となる可能性があります。
過失によって刑事事件の当事者となった場合には、被害者との示談交渉や初期対応が、その後の不起訴処分や量刑判断に大きく影響します。
不安がある場合は、一人で判断せず、刑事事件に詳しい弁護士へ早めに相談することが重要です。
ネクスパート法律事務所では、刑事事件に強い弁護士が多数在籍しています。
初回相談は、30分無料です。
ぜひ一度ご相談ください。
コラム監修者
Shunsuke Teragaki
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。