更新日:2026年7月8日 (水)
公開日:2026年7月8日 (水)
離婚で貯金を渡したくないときの財産分与の基本と対策
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離婚に際して「自分が貯めた貯金を渡したくない」と感じる場合でも、財産分与には民法および実務上のルールがあり、感情論だけで結論が左右されることは一般的にありません。まずは、貯金が財産分与の対象となる範囲(共有財産か特有財産かの区別)と、分与割合の原則(いわゆる2分の1ルール)を理解することが出発点となります。
本記事では、財産分与の対象外となり得る貯金の判断基準、減額や放棄に関する交渉・手続きの進め方、さらに財産隠しに伴うリスクまで、貯金を守るための現実的な対応策を整理します。
離婚時の貯金は財産分与の対象になるのか
貯金を渡したくない場合でも、その貯金が共有財産に該当するのか、それとも特有財産として扱われるのかを判断する必要があります。財産分与の対象範囲と分与割合の基本ルールを理解することで、実務上取るべき対応方針や交渉戦略が明確になります。
離婚時に問題となるのは、その貯金が婚姻中に夫婦の協力によって形成された財産と評価されるかどうかです。名義が自分であっても、婚姻中の給与を原資として形成された預金は共有財産と評価され、財産分与の対象となる可能性が高く、単に渡したくないという意思のみで結論が変わることは一般的にはありません。原資や形成経過に関する立証が重要な判断要素となります。
一方で、婚姻前からの貯金や相続・贈与によって取得した財産は特有財産とされ、原則として財産分与の対象外となります。したがって、その貯金の原資が何であるか、いつ形成されたものかについて、客観的資料に基づいて説明(立証)することが重要になります。
なお実務上は、出どころ(原資)が不明確な財産については、共有財産と評価・推定されやすく、結果として特有財産であることの立証責任を果たせない場合には分与対象に含まれる可能性が高まる傾向があります。守りたい貯金がある場合には、まず共有財産か特有財産かの分類を行い、その裏付けとなる証拠資料(通帳履歴や入出金記録など)の準備から着手することが実務上有効です。
共有財産と特有財産の違い

通帳の名義が夫婦いずれであっても、実質的に婚姻中の収入や家計運営によって蓄積された資金であれば、共有財産と評価されます。
特有財産とは、夫婦の協力とは無関係に取得した固有の財産であり、典型例としては婚姻前からの貯金や相続、贈与による取得財産が挙げられます。特有財産は原則として財産分与の対象外とされるため、貯金を守りたい場合には重要な判断ポイントとなります。
注意すべきは、原資が不明確またはあいまいな場合です。同一口座で給与収入と相続金などを混在させて管理している場合、特有財産としての区別・説明(立証)が困難となり、区別できない部分については共有財産と評価されやすくなります。
財産分与の割合は原則として2分の1
共有財産は原則として2分の1ずつ分けるのが、判例および実務で定着している基本的な考え方です。これは「収入を多く得た側が多く取得する」という考え方ではなく、家事・育児を含めた夫婦の役割分担と協力関係を前提としたものです。例外的に分与割合が修正される余地はありますが、実務上そのハードルは高いとされています。
たとえば、婚姻期間が極端に短い場合や、特有財産の持ち出しが大きいケース、また浪費や使い込みによって共有財産が減少した事情がある場合など、具体的事情を客観的証拠によって示せる場合に限られるのが一般的です。そのため、実務上の戦略としては、当初から「折半が基本」と想定したうえで、特有財産の控除や、婚姻関係の破綻状況、有責配偶者の有無、浪費・使い込みといった減額要素(例外事情)を積み上げて主張していく発想が現実的といえます。
専業主婦(主夫)でも貢献度は考慮される
専業主婦(主夫)で収入がない場合でも、家事・育児・家庭運営は財産形成への重要な貢献として評価されます。収入の有無のみを理由として分与割合が直ちに下がることは、実務上は一般的とはいえません。「自分が稼いだ貯金だからすべて保持できる」という主張は認められにくく、かえって交渉を硬直化させる要因となる場合があります。紛争となる場合には、貢献度の主張に固執するのではなく、共有財産か特有財産かの区別や、例外的事情の有無といった論点に整理して主張する方が、実務上は結果につながりやすいと考えられます。
また、相手が専業主婦(主夫)であっても、浪費や不自然な出金といった事情が認められる場合には、別途検討すべき問題となります。これらは夫婦の協力関係を損ねた事情として評価され、分与割合の減額要素となり得るため、家計簿や通帳履歴、クレジットカード明細などの記録を確保しておくことが重要になります。
離婚時に渡さなくてよい貯金を判断するポイント
貯金を守るためのカギは、「特有財産として客観的資料に基づき説明(立証)できるかどうか」です。どの貯金が財産分与の対象外となり得るのか、混在している場合の見分け方や証拠資料の整え方を押さえることが重要です。
渡さなくてよい可能性があるのは、特有財産に該当すると評価される貯金です。ただし、特有財産は自動的に認められるものではなく、これを主張する側が資料に基づいて説明・立証できて初めて防御として機能します。特に多い失敗は、独身時代から利用していた口座を、結婚後も給与振込や生活費の引落し口座として使い続けてしまうケースです。口座内で資金が混在すると、どこまでが特有財産かを切り分けることが困難となり、結果として守れる範囲が狭まる傾向があります。実務上は、結婚前の残高や入金の出どころ、残高推移を時系列で整理し、説明(立証)可能な部分のみを特有財産として確保するという発想が重要になります。
特有財産にあたる貯金の典型例
結婚前から貯めていた貯金は、原則として特有財産に該当します。結婚日以前の残高が通帳や取引明細などの資料で示せれば、その部分は財産分与の対象外であると主張しやすくなります。婚姻中に相続によって取得した預貯金や、親族からの贈与金についても、特有財産と評価される可能性があります。住宅購入資金の援助などは他の資金と混在しやすいため、入金経路や資金の使途(流れ)を記録として残しておくことが重要です。
また、特有財産を原資とした運用益や、その資金を頭金として購入した資産についても、資金の流れを追跡できる場合には特有財産性を主張できる可能性があります。ポイントは、「原資が特有財産であること」と「途中で共有資金が混在していないこと」を客観的に説明できるかどうかにあります。
共有財産と混在した貯金の見分け方
同一口座に給与収入が入り、生活費が支出される形になっている場合、その口座全体が家計口座として扱われやすく、特有財産の主張は難しくなる傾向があります。混在口座で特有財産性を主張する場合には、感覚ではなく、入出金の時系列に基づく客観的整理が必要です。具体的には、婚姻前の残高を起点として、特有財産の入金日(相続・贈与など)やその後の残高推移、さらに大きな支出内容を追跡して整理します。説明可能な入金がそのまま残存していると評価できる範囲を切り分けるイメージです。
ただし、入金と支出が頻繁に繰り返され残高が大きく変動している場合には、厳密な切り分けは困難となります。紛争性が高い場合には、早い段階で弁護士に相談し、「どの範囲まで立証可能か」について見立てを得ることが実務上は合理的です。
特有財産と認めさせるための証拠
特有財産であることの立証責任は、原則として特有財産であると主張する側にあるとされています。相手方に説明して納得を得るだけでなく、家庭裁判所の調停や訴訟(裁判)においても通用する形で整理しておくことが重要です。
代表的な証拠としては、通帳の写しや取引明細、金融機関が発行する残高証明書などが挙げられます。特に結婚日時点の残高が確認できる資料は重要性が高く、これがあるかどうかによって防御できる範囲に差が生じる可能性があります。
相続による取得であれば、遺産分割協議書や遺言書、戸籍関係書類、入金記録などを一体として準備することが重要です。
贈与の場合には、振込記録や贈与契約書などが有効であり、資金移動の履歴が一連の流れとして追跡できるように整理しておくことが重要なポイントとなります。
財産分与をしない・減らすためにできる具体的な方法
共有財産に該当する貯金であっても、合意形成や条件調整の内容によっては、分与額を抑えられる可能性があります。交渉、書面化、調停といった選択肢に加え、主張可能な減額要素について整理します。
共有財産であっても、常に機械的に折半(いわゆる2分の1ルール)で決着するとは限らず、裁判所の裁量や個別事情により分与割合が修正される余地があります。実務上は、離婚条件全体の合意の中で、財産分与額を減額したり、場合によっては放棄に合意したりするケースもあります。
ただし、減額や放棄に関する合意は「言った言わない」の争いになりやすく、後から蒸し返されると結果的に紛争コストが増大するおそれがあります。交渉は書面化までを一体として設計し、履行確保(強制執行の可否など)まで見据えておくことが重要です。
また、浪費や使い込みといった不利事情がある場合には、感情的な主張ではなく、金額や取引履歴などの客観的記録に基づいて示す方が有効とされます。相手の反発を過度に招かずに合意点(落とし所)を見出すためには、主張の強さと交換条件のバランスを取ることが重要になります。
離婚協議で財産分与の放棄に合意する
財産分与は請求できる権利であり、当事者間の合意があれば「請求しない」「放棄する」といった取り決めを行うことも可能とされています。つまり、渡したくない場合の現実的な選択肢の一つとして、放棄合意を目指すという考え方があります。
相手が離婚成立を急いでいる場合や、他の条件を重視している状況では、有効な交渉材料となり得ます。ただし、放棄の見返りとして提示する条件を誤ると、他の条件面で不利になる可能性があるため注意が必要です。放棄合意を目指す場合には、対象範囲を明確にしたうえで、後日の請求を行わない旨や清算が完了した旨(清算条項)を明記することが基本となります。
離婚協議書・公正証書で取り決める
口約束のみでは、離婚後に合意内容が争われるリスクがあり、証拠としての裏付けや法的効力が不十分となる可能性があります。財産分与を行わない、または減額する合意をした場合には、離婚協議書として書面化しておくことが最低限の防御策となります。
さらに支払い義務が伴う場合には、公正証書として作成しておくことで、将来的な強制執行を見据えた担保となります。強制執行を可能にするためには、強制執行認諾文言を付すなど、形式面の要件を満たすことも重要です。書面には、対象財産(口座名・金融機関・金額)、支払方法、支払期限、清算条項などを具体的に記載します。抽象的な表現は解釈の余地を残し、将来的な紛争の原因となりやすいため、可能な限り避ける必要があります。
調停で財産分与の放棄を決める
協議による解決が難しい場合には、家庭裁判所の調停手続を利用して合意形成を図る方法があります。調停で成立した内容は調停調書として記録され、その記載は確定判決と同一の効力を有します。そのため、後から争われにくく、金銭の支払条項などについては執行場面も見据えやすいという実務上のメリットがあります。
調停で放棄が成立しやすいのは、相手にとっても合理的といえる交換条件が提示されている場合とされています。たとえば、早期離婚の実現や、他の条件(退去時期、面会交流、住宅ローン負担など)の調整と組み合わせて提案することで、合意に至りやすくなる傾向があります。放棄を求める側は、単に請求を拒むのではなく、特有財産の根拠資料や全体的な解決案を準備し、調停委員に対して合理性のある説明を行うことが重要です。
夫婦財産契約(婚前契約・プレナップ)を検討する
将来の離婚に備え、婚姻前に財産の帰属や分与方法を定めておく考え方が、夫婦財産契約(いわゆる婚前契約・プレナップ)です。もっとも、法定財産制と異なる内容を定めた場合には、民法上、対抗要件として登記が問題となるため、契約内容や手続の適法性を含めて事前に確認することが重要です。結婚後に紛争が生じる可能性がある場合には、あらかじめ合意内容を明確な形で残しておく意義が高まります。ただし、この契約は原則として婚姻前に締結するものであり、内容が不明確であったり一方に著しく不利であったりする場合には、その有効性が問題となる可能性があります。内容については何でも自由に定められるわけではなく、公序良俗や実質的な公平性の観点が考慮されます。すでに離婚局面にある場合には、婚前契約の締結ではなく、離婚協議書の作成や調停手続による合意形成が中心となります。
浪費や使い込みによる共有財産の減少を主張する
一方当事者の浪費や使い込みが、夫婦財産の維持という観点から見て重大である場合には、分与額の算定において考慮される可能性があります。典型例としては、高額なギャンブル、説明困難な多額の出金、交際費の過度な支出などが挙げられます。重要なのは、道徳的な非難ではなく、財産がどの程度減少したのかを客観的資料で示すことです。通帳履歴、クレジットカード明細、電子マネーの利用履歴などで、時期・金額・内容を具体化します。
別居直前の不自然な引き出しは特に争点となりやすく、相手方の使い込みだけでなく、自身の出金についても問題視される可能性があります。記録を適切に保存し、説明可能な状態に整理しておくことが、結果的に有効な防御となります。
慰謝料・養育費・住宅ローンなど他の条件と調整する
財産分与のみを個別に争う場合、相手方も同様に利益の最大化を図るため、対立が深まりやすくなります。実務上は、慰謝料、養育費、面会交流、退去時期、住宅ローン負担などを含めたパッケージ全体で合意点を見出すのが一般的な手法とされています。
たとえば、慰謝料の支払いと引き換えに財産分与額を調整する、あるいは住宅ローン負担を引き受ける代わりに預金分与を調整するといった設計も考えられます。ただし、慰謝料・財産分与・養育費はそれぞれ法的性質が異なるため、相殺や充当を行う場合には、条項を明確にして誤解や紛争を防ぐ必要があります。調整にあたっては、「総額の損得」だけでなく、確実に履行可能な内容となっているかを重視する必要があります。支払い能力、期限、担保の有無まで含めて設計します。
財産分与の請求期限(原則5年。2026年3月31日以前の離婚は2年)
財産分与の請求期限については、2026年4月1日以後に離婚する場合は原則として離婚後5年、2026年3月31日以前に離婚した場合は従前どおり離婚後2年とされています。したがって、いつ離婚が成立したかによって適用される期間が異なる点に注意が必要です。2年を経過すると、財産分与に関する請求が認められにくくなるため、蒸し返しが生じる可能性は低下するといえます。
ただし、この期間があるからといって「時間の経過を待てば有利になる」とは限りません。離婚自体が成立しなければ期間の進行は開始せず、また離婚前の準備が不十分なまま急いで離婚した場合には、2年以内に請求を受けて対応に追われる可能性があります。紛争化が見込まれる場合には、除斥期間を意識しつつ早期に資料を整備し、必要に応じて期限内に調停申立てを行い、権利関係を整理しておくことが実務上は安全と考えられます。
貯金を隠すのは危険:財産隠しの法的・実務的リスク
渡したくないという理由で貯金を隠した場合、発覚した際には結果的に不利な扱いを受ける可能性があります。裁判所手続や弁護士会照会などによる発覚ルートと、それに伴う法的・実務的なデメリットについて具体的に確認します。
貯金を渡したくないという思いから、口座を隠す、現金化する、親族名義に移転するといった行動を取るケースがあります。しかし、これは短期的には有利に見えても、長期的には不利となる可能性が高い選択といえます。その理由は、手続に入ると複数の発覚ルートが存在し、さらに隠していた事実自体が交渉上の信用を損なう要因となるためです。その結果、より広範な財産開示を求められるほか、裁判所や調停委員の心証形成にも影響し、交渉条件が硬直化する可能性があります。貯金を守りたい場合には、隠すのではなく、特有財産としての立証や合理的な条件調整といった正攻法で対応する方が、結果的に手元に残る金額が有利となる可能性が高いのが実務上の傾向です。
隠し口座が調査嘱託・弁護士会照会で発覚する仕組み
調停や裁判に移行した場合には、裁判所を通じて金融機関等に情報提供を求める調査嘱託などの手続が利用されることがあります。これにより、取引履歴や口座情報が明らかとなり、隠していた口座が発覚する可能性があります。
また、弁護士が代理人として関与している場合には、弁護士会照会により金融機関等へ情報照会が行われることがあります。任意交渉の段階では問題が表面化しなかった場合でも、正式な手続に移行すると状況が大きく変わることがあります。親族名義に移転した場合であっても、実質的に誰に帰属する財産であるかが問題となります。不自然な資金移動は追跡されやすく、合理的な説明ができない場合には疑念を強める要因となります。
財産開示を拒む・虚偽申告するデメリット
財産の開示を拒んだり、説明を曖昧にしたり、虚偽の申告を行った場合には、調停委員や裁判所から不誠実と評価される可能性があります。心証が悪化すると、その後の主張全体の信用性が低下し、細部に至るまで厳しく検討される傾向があります。その結果、より広範な資料提出を求められるほか、説明が不十分な部分について不利な推認が働く可能性があります。つまり、財産を隠すほど手続上の負担が増加し、結果として不利な条件となる可能性が高まります。
さらに、相手方の感情が硬化し、交渉が長期化する要因となることもあります。手続が長期化するほど、弁護士費用や精神的負担が増加するため、結果的に不利益となる可能性があります。
損害賠償や強制執行(差し押さえ)の可能性
財産隠しは、財産分与に関する協議・調停・審判・訴訟において不利な事情として評価され得るほか、個別事情によっては別途の法的紛争に発展する可能性があります。発覚した時点で問題が終わるわけではなく、新たな紛争を生じさせる可能性がある点がリスクとなります。
また、合意書、公正証書、調停調書、判決などによって支払い義務が確定した場合には、預金や給与が差し押さえられる可能性があります。このように回収手段が現実に行使され得るため、逃げ切りを前提とした対応は現実的とはいえません。総合的に見ると、財産を隠すのではなく、対象外となる貯金を証拠に基づいて守りつつ、共有財産部分については条件調整により減額を図る方が、長期的には安全かつ有利となる可能性が高いといえます。
預貯金の分け方の手続き(協議・調停・裁判の流れ)
貯金の財産分与は、協議で決める場合と、調停・裁判手続で決める場合とで進め方が異なります。どの時点の残高を基準時とし、どのような計算方法で分けるのかを押さえておくと、紛争を防ぎやすくなります。
預貯金の分け方は、まず夫婦間で話し合う協議によって決めるのが基本です。協議でまとまらない場合は家庭裁判所の調停に進み、それでも折り合わなければ裁判所が判断する手続へ移行します。どの段階でも重要なのは、口座の洗い出し、残高の把握に加え、特有財産を控除するための立証資料・証拠を整備することです。この点が曖昧なままだと、相手方の主張が採用されやすくなり、結果として紛争が長期化する可能性があります。早い段階で財産目録を作成し、基準時点の残高資料を確保しておくことで、感情的な対立を客観的な数値ベースの議論に転換しやすくなります。
協議離婚・調停・裁判の流れ
一般的には、協議で合意できた場合は離婚協議書に内容を反映し、合意できない場合には家庭裁判所の調停に進みます。調停でも合意に至らない場合には、審判や訴訟などを通じて裁判所の判断が示されることになります。手続の段階が進むほど、資料提出の重要性は高まります。通帳の写し、取引明細、残高証明、財産目録といった基本的な証拠資料が揃っているほど、主張の一貫性が保たれやすくなります。
合意内容の残り方(法的効力の持ち方)も手続ごとに異なります。協議は当事者間の書面(離婚協議書)、調停は調停調書、裁判は判決などの形で残り、それぞれ後から覆しにくさや強制執行力の有無に差が生じます。
財産の基準時と計算方法
実務上、財産を評価する基準時は別居時点とされることが多いとされています。同居が続いている場合は家計の収支が混在しやすく基準を設定しにくいため、別居を境に「財産形成が一旦区切られる」と考える実務上の発想です。計算方法としては、対象となる口座を洗い出し、基準時点の残高を集計したうえで、特有財産として立証可能な部分を控除し、残額を共有財産として分配するのが基本となります。
別居後の残高の増減については、給与収入による増加なのか、運用益によるものか、生活費支出による減少なのかといった原因が重要な検討ポイントとなります。給与による増加なのか、共有財産の運用益によるものか、あるいは生活費支出による減少なのかを説明できるよう、別居後も取引明細を保存しておくことで紛争を防ぎやすくなります。
共働きで口座を分けている場合の注意点
共働きで夫婦別口座であっても、夫婦の収入(婚姻中の給与等)を原資として形成した貯金は、実務上、共有財産と評価される可能性があります。名義や口座の分離だけで判断せず、原資や運用実態、家計の一体性を踏まえて確認することが重要です。共働きで口座を分けている場合、「自分名義の口座は自分の財産」と認識しがちです。しかし、財産分与においては名義よりも原資や形成時期が重視され、婚姻中の収入によって形成された部分は、一般的に共有財産と評価されやすい傾向があります。特に積立や投資を各自で行っている家庭では、「家計の一体性」が主要な争点となります。生活費の負担割合や支出管理の実態、どの口座が家計口座として機能していたかといった事情が、裁判所の判断や心証形成に影響し、評価が分かれる可能性があります。財産を守る観点では、収入の流れや家計分担を客観的資料に基づいて説明できる状態にしておくことが重要です。感情的な不公平感を、証拠に基づく論点として整理できるかどうかが、裁判所や調停委員の心証形成にも影響し、交渉戦略や結果に大きく影響します。
別口座でも共有財産になるケース
個人名義の給与口座や積立口座であっても、婚姻中の給与等を原資として形成された貯金は、実務上、共有財産に該当する可能性があります。単に口座を分けているという事情のみでは、財産分与の対象外(特有財産)とは評価されにくい点に注意が必要です。判断材料としては、生活費負担の分担状況、貯蓄の目的、家計の一体性が見られます。たとえば共通口座がある、家族カードで支出している、どちらかが生活費の大半を負担し他方が貯蓄していたなど、実態が重要です。
一方で、婚姻前から保有していた資金や相続・贈与により取得した財産を、専用口座で分別管理し家計と混在させていない場合には、特有財産として主張・立証しやすくなります。
収入差が大きい場合の争点
収入差が大きい場合、「自分の稼ぎを分けたくない」という対立が生じやすいものの、財産分与は実務上、原則として2分の1(いわゆる2分の1ルール)を基準に判断される傾向があります。これを全面的に否定すると、交渉が感情的対立に発展しやすく、実務上は得策といえない場合があります。例外的修正が問題になるのは、特殊な技能や事業の才覚など個人要素が非常に強い場合、特有財産の持ち出しが大きい場合、浪費で財産が減った場合などです。ただし、修正を勝ち取るには具体的な立証が必要で、見通しは事案ごとに大きく変わります。実務的には、収入差そのものを争うよりも、特有財産の控除、混在財産の切り分け、浪費の有無に関する立証、さらに他の条件とのパッケージ調整を通じて、最終的な支払総額を調整する方が、現実的な解決につながりやすい傾向があります。
弁護士に相談すべきケース
貯金を守るには、証拠設計・財産評価・交渉戦略が重要で、自己判断だと不利になりやすい局面があります。時間や心理的負担も含め、弁護士を使うべき場面を見極めます。
貯金を渡したくないと考えるほど、論点は複雑になりやすく、必要資料も増えます。自己流で進めると、言うべきことを言えない、出すべき資料が出せない、結果として立証不足となる、逆に不利な発言をしてしまうといったリスクがあります。
弁護士に相談する価値が出るのは、特有財産の立証や混在口座の整理など、証拠とロジックが結果に直結する局面です。早めに見立てを得るほど、準備の質が上がります。
また相手が強硬、DV・モラハラの懸念がある、相手が弁護士を立てたといった場合は、交渉の安全性と対等性のためにも専門家の関与が有効です。
証拠整理と財産目録の作成を依頼できる
特有財産の立証や混在口座の切り分けは、資料の選び方と並べ方で説得力が大きく変わります。弁護士に依頼すれば、どの資料が核心で、何が足りないかを整理できます。
具体的には、必要資料の収集リスト化、取引履歴の時系列整理、財産目録の作成などを任せられます。自分でやると漏れや誤記が起きやすい部分を、実務目線で整える意味があります。
結果として「守れる貯金の範囲」と「争うと損をする範囲」の線引きができ、無駄な争いを減らしやすくなります。
交渉・調停対応を任せて不利を避ける
相手が感情的・高圧的だと、本人同士の話し合いは不利条件を飲まされやすく、記録も残りにくいです。弁護士が入ることで窓口が一本化され、不要な衝突を減らせます。
調停では、主張の組み立て、必要資料の提出、期日での説明など、手続対応の質が結果に影響します。弁護士がいると、論点が拡散しにくく、条件調整もパッケージで進めやすくなります。
相手が弁護士を立てた場合、情報と交渉力の差が出やすいので、少なくとも一度は相談して見通しと方針を固めるのが安全です。
まとめ
貯金を渡したくないと考える場合、まず共有財産と特有財産を区別して整理することが重要です。一般的に守りやすいのは特有財産であり、その該当性は証拠資料や立証内容によって左右されます。
次に、共有財産部分はゼロにできると決めつけず、放棄合意や他条件との調整など、全体最適で減らす発想を持つことが重要です。折半が原則である以上、勝ち筋は例外の積み上げと合意設計にあります。
また、財産を隠匿する行為は避けるべきです。発覚した場合、裁判所における評価(心証形成)で不利に働く可能性があり、結果として本来守れる可能性のあった財産についても不利益を受けるおそれがあります。通帳・明細の確保、基準時の整理、書面化までを一連の作業として進め、難しい局面では弁護士に見立てを取ることが、合法的に貯金を守る最短ルートです。
ネクスパート法律事務所には、離婚・財産分与・預貯金分与の問題を取り扱う弁護士が在籍しています。共有財産か特有財産かの判断、証拠整理、調停対応は個別事情によって見通しが変わるため、財産分与に関してお困りの方は、早い段階で一度相談することが重要です。