更新日:2026年8月27日 (木)

公開日:2026年8月27日 (木)

代表取締役の住所非表示措置とは?要件や手続を弁護士が解説

代表取締役の住所非表示措置とは?要件や手続を弁護士が解説 代表取締役の住所非表示措置とは?要件や手続を弁護士が解説

サマリー

令和6年10月から、登記事項証明書に代表取締役の住所のうち行政区画以外を記載しない「代表取締役等住所非表示措置」が導入されました。申出には株式会社の実在性、代表取締役の住所、実質的支配者の本人特定事項を証する3つの書面が必要で、住所が登記される登記の申請と同時にしなければなりません。要件と実務上の注意点を解説します。

企業の経営において、商業登記簿は取引先や株主、債権者などの利害関係人に対して会社の重要事項を公示するための重要な仕組みです。しかし、これまでは代表取締役の個人住所が誰でも閲覧できる登記事項証明書にそのまま記載されていたため、プライバシーの保護や治安上の観点から懸念を抱く経営者が少なくありませんでした。

このような背景から、令和6年10月より代表取締役の住所の一部を非表示にできる「代表取締役等住所非表示措置」が導入されました(商業登記規則等の一部を改正する省令・令和6年法務省令第28号)。本記事では、この住所非表示措置の概要や具体的な要件、必要書類、実務上の手続について、非公開会社における代表取締役の住所変更手続と合わせて詳しく解説します。

代表取締役の住所変更に伴う社内・社外の手続

代表取締役が引っ越しなどによってその住所を変更した場合、会社としては社内および社外において一定の手続を進める必要があります。株式会社の代表取締役の住所は商業登記の登記事項であるため、単に個人の住所が変わったというだけでなく、法人としての登記情報の更新が法律上義務付けられています。ここでは、非公開会社において代表取締役の住所が変わった際の、社内手続の要否と社外で行うべき変更登記申請の基本的な流れについて解説します。

社内手続における決議の要否

役員の就任(重任含む)や解任といった重要な役員人事の決定には、通常、株主総会や取締役会による決議が必要となります。しかし、既に就任している代表取締役が個人の事情で住所を移転したというケースにおいては、社内の意思決定機関による新たな承認や決議を行う必要はありません。

これについて実務上の根拠を確認すると、非公開会社における代表取締役の住所移転については、特に株主総会決議や取締役会決議は必要ないとされています(山本飛翔ほか編著『スタートアップの法律相談』(最新青林法律相談46、青林書院、2023年)128頁)。

代表取締役の住所変更は純粋な個人の事実上の変化であり、会社の経営方針や役員の地位そのものに変更を加えるものではないため、社内での決議手続を挟むことなく、直接登記申請の手続へと進むことができます。

社外手続(変更登記申請)の期限と必要書類

社内決議が不要である一方で、社外に対する手続、すなわち法務局への変更登記申請は法律によって厳格に定められています。代表取締役の住所は登記事項であるため(会社法911条3項14号)、住所を移転した場合は、その住所の変更が生じたときから2週間以内に、その本店の所在地において変更の登記をしなければなりません(同法915条1項)。この2週間という期間は会社法で定められた法定期間であり、正当な理由なく期間を徒過した場合には、過料の対象となる可能性があるため、実務上注意が必要です(同法976条1号は、登記をすることを怠ったときは100万円以下の過料に処すると定めています)。

具体的な申請手続としては、変更後の新しい住所および実際に移転した日(移転日)を正確に記載した「株式会社変更登記申請書」を作成し、管轄の法務局に提出します。なお、通常の代表取締役の住所変更登記のみを申請する実務においては、代表取締役個人の住民票の写しなどの証明書を添付することは要求されていません。

この点についても、代表取締役の住所の更正や変更については証明書が要求されていませんから、表記の変更についても証明は不要であると解説されています(神﨑満治郎ほか編著『商業・法人登記500問』(テイハン)371頁)。

このように、通常の住所変更登記の段階では住民票などの添付は不要ですが、後述する「住所非表示措置」を合わせて希望する場合には、求められる添付書類の性質が大きく変わるため区別して理解する必要があります。

代表取締役等住所非表示措置の概要と要件

前述のとおり、代表取締役の住所は誰でも取得できる登記事項証明書に記載されるため、プライバシー保護の観点が長年議論されてきました。これに対応する形で、一定の申出を行うことによって、登記事項証明書等に代表取締役の住所のうち「行政区画以外のもの」を記載しないようにする措置が認められるようになりました。これが「代表取締役等住所非表示措置」と呼ばれる制度です。

この住所非表示措置が適用された場合、登記簿上の代表取締役の住所は、市区町村(東京都の場合は特別区、政令指定都市の場合は区)までの記載にとどまり、それ以降の町名や番地、マンションの部屋番号などの詳細な情報は公開されなくなります。これにより、経営者個人のプライバシーを守りつつ、会社としての登記制度を維持することができるようになりました。

ただし、この措置は単に「非表示にしてほしい」という希望を伝えるだけで無条件に適用されるものではありません。法務省の定める規定に基づき、一定の要件を満たした上で、住所変更登記等の申請と同時に必要な書面を揃えて申し出る必要があります。

住所非表示措置の申出に必要な3つの添付書面

代表取締役等住所非表示措置の適用を申し出る場合、通常の住所変更登記では不要であった複数の証明書類を添付することが義務付けられています。非公開会社において、この措置を利用するために必要となる添付書面は、大きく分けて以下の3点です。それぞれ異なる目的から提出を求められるため、その内容と具体的な書類の例について詳しく確認していきます。

株式会社の実在性を証明する書面

住所を非表示にすることによる悪用や、実態のないペーパーカンパニーが制度を不当に利用することを防ぐため、当該株式会社が記載された本店所在地において実際に活動しているという「実在性」を証明しなければなりません。

具体的には、株式会社が受取人として記載され、その本店所在地宛てに配送されたことが分かる書面を提出します。例えば、配達証明郵便により送付されたことを証する書面などがこれに該当します。実務上は、日本郵便株式会社が提供するレターパックなどを利用して本店所在地宛てに送達された記録が残る方法などにより、実在性を証明する書面として取り扱うことができます。

代表取締役の住所等を証する書面

登記上は市区町村までしか表示されなくなるものの、法務局側においては代表取締役の正確な個人住所を把握し、管理し続ける必要があります。そのため、申出に係る代表取締役の実際の住所および本人特定事項を公的に証明する書類の提出が求められます。

この要件を満たすための具体的な書類としては、市町村長等が発行する「住民票の写し」などが該当します。通常の住所変更登記では不要とされる住民票ですが、住所非表示措置を併せて申し出る場合には必須の添付書類となります。

株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面

法人の透明性を確保し、マネーロンダリングの防止や違法な活動への利用を抑制する観点から、その会社を実質的に支配している人物の情報を公的に証明する書面が必要です。この要件を満たすための具体的な提出方法としては、主に以下の3つの選択肢が挙げられます。

1つ目は、公証役場で認証を受けた宣誓供述書を提出する方法です。これは、法人の実質的支配者であることやその本人特定事項を記載した供述書を自ら作成し、公証役場においてその内容が真実であることを宣誓した上で、公証人による認証を受けるという手続です。

2つ目は、会社設立時に公証役場で定款認証を受けた際に発行される「申告受理及び認証証明書」を提出する方法です。ただし、この証明書を提出する方法が採用できるのは、住所非表示措置の申出と併せて行う登記の申請が、当該株式会社の設立の日の属する年度またはその翌年度に行われる場合に限られるという厳格な期間制限が存在します。

例えば、設立日が2023年5月1日の会社であれば2025年3月31日までに登記の申請をする場合、また設立日が2025年2月3日の会社であれば2026年3月31日までに登記の申請(住所非表示措置の申出)をする場合に限り、この「申告受理及び認証証明書」を実質的支配者の証明書面として提出することができます。この期間を過ぎてしまった場合は、他の方法を選択しなければなりません。

3つ目は、管轄の法務局に対して「実質的支配者リストの保管の申出」を行う方法です。前述した「申告受理及び認証証明書」を利用できる期間制限を既に経過している多くの会社においては、実際上、この「実質的支配者リストの保管の申出」の手続を行う必要があります。実質的支配者リストの保管の申出を法務局に対して行う際には、所定の申出書とともに、実質的支配者リストおよびその内容の根拠となる株主名簿などの書類を添付して提出することが求められます。

法務局にこのリストが保管されることで、実質的支配者の本人特定事項を証する書面としての要件を満たすことができます。

住所非表示措置を申請する際の実務上の注意点

代表取締役等住所非表示措置を利用するにあたっては、実務上、重要な運用のルールが存在します。それは、この住所非表示措置の申請単独で手続を行うことはできないという点です。

法務省の「代表取締役等住所非表示措置について」に示されている通り、住所非表示措置の申出は、設立の登記や代表取締役等の就任(重任含む)の登記、代表取締役等の住所移転による変更の登記など、代表取締役等の住所が登記されることとなる登記の申請と同時にする場合に限りすることができます。したがって、既存の登記簿に既に記載されている住所を、何らの変更登記の必要がないタイミングで「住所非表示措置だけを単体で適用してほしい」と法務局に申し出ることは認められません。

住所非表示措置を講じることのデメリット

住所非表示措置は、経営者個人のプライバシー保護に資する制度である一方、登記事項証明書から代表取締役の正確な住所が確認できなくなることに伴い、実務上いくつかの不都合が生じ得ます。措置の利用を検討する際には、以下のようなデメリットも踏まえて判断することが望ましいと考えられます。

金融機関の融資・与信審査への影響

まず、金融機関からの融資や与信審査に影響が及ぶ可能性が挙げられます。金融機関は、融資審査の過程で登記事項証明書により代表者の住所を確認することがありますが、住所非表示措置を講じた場合には市区町村までしか表示されないため、別途住民票の写し等による住所の証明を求められたり、審査手続に時間を要したりする可能性があります。

本店所在地と代表者の住所が同一の場合の実益の低下

次に、本店所在地が代表取締役の自宅と同一である場合には、措置の実益が乏しくなる点に留意が必要です。本店所在地は住所非表示措置の対象ではなく、登記事項証明書に引き続き完全な形で記載されるため、本店所在地と代表者の住所が一致している場合には、結果として代表者の住所が判明してしまい、非表示とする意味が薄れることとなります。

住所移転の都度生じる再申出・添付書類準備の負担

また、措置を講じた後も、代表取締役が住所を移転した場合には、その都度、変更登記の申請と併せて改めて住所非表示措置の申出を行う必要があり、株式会社の実在性を証する書面などの添付書類を再度準備しなければならない点も、事務的な負担となり得ます。

取引先による住所確認ができないことの影響

さらに、取引先が登記事項証明書を通じて代表者の住所を確認できなくなるため、新規取引の与信判断や契約締結の場面において、相手方から追加の説明や資料の提出を求められる可能性も否定できません。

過去の住所には措置が反映されない

加えて、住所非表示措置は、その申出と同時に申請する登記によって新たに登記される住所について効力を有するものであり、既に登記されている過去の住所には反映されない点にも留意が必要です。そのため、既存の登記簿に記載済みの従前の住所は、住所非表示措置を講じた後も閲覧可能な状態で残ることとなります。したがって、住所の変更を伴わない時点で住所非表示措置を申し出ても、既に開示されている住所が非表示となるものではなく、実益を伴わないと考えられます。

まとめ・ご相談はネクスパート法律事務所へ

代表取締役の住所非表示措置は、経営者のプライバシー保護において大きなメリットをもたらす制度です。手続を円滑に進めるためには、代表取締役の住所変更の発生から2週間以内という法定の登記期限を厳守すること、そして実質的支配者リストの保管申出をはじめとする3つの特殊な添付書類を過不足なく準備することが求められます。これらは通常の変更登記よりも複雑な実務を伴うため、事前の正確な準備が欠かせません。

ネクスパート法律事務所では、代表取締役の住所非表示措置に関する登記対応のほか、企業の法律問題に関する様々なご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。
⇒登記対応の料金一覧表はこちら

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

関連記事を見る

同一労働同一賃金の省令・告示改正~2026年10月施行の実務対応~

2026.09.10

NEW

企業法務

同一労働同一賃金の省令・告示改正~2026年10月施行の実務対応~

会社法改正の中間試案を解説|株主総会と株式発行の見直し8項目

2026.09.10

NEW

企業法務

会社法改正の中間試案を解説|株主総会と株式発行の見直し8項目

【弁護士解説】AI生成イラストの商品化で問題となる著作権以外の知財リスクとは?~AIと権利シリーズ~

2026.09.07

NEW

企業法務

【弁護士解説】AI生成イラストの商品化で問題となる著作権以外の知財リスクとは?~AIと権利シリーズ~

【弁護士解説】生成AI利用時の情報管理・証拠保存等の実務対応について~AIと権利シリーズ~

2026.09.07

NEW

【弁護士解説】生成AI利用時の情報管理・証拠保存等の実務対応について~AIと権利シリーズ~

【弁護士解説】AI生成物の著作権帰属と契約書の権利処理・人格権不行使について~AIと権利シリーズ~

2026.09.07

NEW

企業法務

【弁護士解説】AI生成物の著作権帰属と契約書の権利処理・人格権不行使について~AIと権利シリーズ~

PREV
NEXT