更新日:2026年10月20日 (火)
公開日:2026年10月20日 (火)
建設アスベスト給付金とは?対象者や金額・請求の流れを解説
サマリー
過去に建設現場で作業を行い、アスベスト(石綿)による健康被害に苦しまれている方や、ご家族を亡くされたご遺族の中には、公的な補償制度について詳しく知りたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
「建設アスベスト給付金」は、国の責任に基づく被害救済を目的として創設された制度であり、労働者だけでなく一人親方なども対象に含まれます。
この記事では、建設アスベスト給付金の制度概要や対象となる要件、支給金額の目安、請求手続きの流れを分かりやすく解説します。
建設アスベスト給付金制度の概要と創設の背景
建設アスベスト給付金法が成立した経緯
建設現場では長年にわたり建材などにアスベスト(石綿)が使用され、多くの作業従事者が粉じんを吸入したことで重篤な健康被害を受けました。
これに対し、国や建材メーカーの責任を問う集団訴訟が全国で提起されてきました。
2021年5月、最高裁判所は国の規制権限不行使を違法とし、労働者だけでなく一人親方に対しても国の賠償責任を認める統一的な判断を下しました。
この判決を受けて、訴訟を継続している被害者のみならず、同様の被害に遭った方々を幅広く早期に救済するための立法化が進められました。
こうして2021年6月に「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(建設アスベスト給付金法)」が成立し、2022年1月から完全施行されました。
裁判を起こさなくても、所定の要件を満たすことが確認されれば国から給付金が支給される制度として運用されています。
労災保険や石綿健康被害救済法との位置づけの違い
石綿による健康被害を補償・救済する制度には、従前から労働基準監督署が所管する「労災保険制度」や、環境再生保全機構が所管する「石綿健康被害救済法」が存在しています。
労災保険は主として雇用されていた労働者の業務災害を補償する制度であり、石綿健康被害救済法は労災対象外となった周辺住民や家族なども含めた医療費等を幅広く支援する枠組みです。
これらに対し、建設アスベスト給付金は「国の国家賠償法上の責任」に基づき、建設現場特有の被害に対して慰謝料的な性質を含む金銭給付を行う制度として位置づけられています。
労災保険や救済法の認定を受けている場合であっても、要件を満たせば併せて給付金の支給を請求することが可能です。
| 制度名 | 主な法的性質・目的 | 主な対象者 | 国に対する賠償責任の有無 |
|---|---|---|---|
| 建設アスベスト給付金 | 国の責任に基づく損害賠償・慰謝料的性質の給付 | 指定期間内に屋内建設作業に従事した労働者・一人親方等 | 国の責任を前提として支給 |
| 労災保険
(石綿関連給付) |
雇用関係に基づく労働災害の損失補填・生活保障 | 事業主に雇用されていた労働者(特別加入者を含む) | 過失の有無を問わない社会保険給付 |
| 石綿健康被害救済法 | 迅速な医療費等の補填を目的とした公的救済 | 労災補償を受けられない周辺住民・遺族・労働者など | 国の過失責任を直接根拠としない救済措置 |
給付金の支給対象となる主な要件
建設アスベスト給付金を受給するためには、法律で定められた「就労期間および作業内容」「指定疾病」「就労形態・請求者」の各要件を満たす必要があります。
対象となるかどうかは、当時の従事記録や医学的な診断内容に照らし合わせて個別に判断されます。
対象となる就労期間と屋内建設作業の職種
本制度では、国が石綿含有建材等の使用規制を十分に行っていなかったとされる期間に、石綿粉じんに曝露する危険性の高い屋内作業に従事していたことが求められます。作業形態によって対象とされる就労期間が分かれています。
| 作業形態 | 対象となる就労期間 | 主な職種・作業例 |
|---|---|---|
| 石綿吹付作業 | 1972年10月1日〜1975年9月30日 | 吹付工、耐火被覆工など |
| 吹付作業以外の一定の屋内建設作業 | 1975年10月1日〜2004年9月30日 | 大工、内装工、左官工、電工、配管工、塗装工、解体工など |
直接石綿を吹き付ける作業に従事していなかった場合でも、同一の作業現場内で間接的に粉じんを吸い込む環境にあった周辺職種の方についても、対象となり得る枠組みが設けられています。
対象となる指定疾病
給付金の対象となる疾病は、石綿の吸入との因果関係が認められている特定の病態に限られます。
現行法上、対象として指定されている主な疾病は以下のとおりです。
- 中皮腫(胸膜、腹膜、心膜、精巣鞘膜など)
- 石綿に起因する肺がん
- 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
- 石綿肺(一定のじん肺管理区分に該当するもの)
- 良性石綿胸水
これらの疾病について、労災認定や石綿救済法に基づく認定をすでに受けている場合は、給付金請求時の医学的な審査が一部簡素化される仕組みになっています。
一人親方や中小事業主、ご遺族への適用
従来の労災保険制度では救済が難しかった「一人親方」や「中小事業主」なども、本制度の支給対象に含まれる点が大きな特徴です。
雇用関係の有無にかかわらず、所定の期間内に現場で作業に従事していた実態があれば、一人親方や家族従事者であっても請求が可能です。
また、対象となる被災者本人がすでにお亡くなりになっている場合でも、所定の順位(配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹など)に該当するご遺族からの請求が認められています。
病態に応じた給付金額の目安
建設アスベスト給付金で支給される金額は、発症した疾病の種類や進行度、呼吸機能障害の程度、ならびに死亡の有無などに応じて法律で一律に定められています。
個別の被害状況や労災認定における等級・管理区分などに基づいて区分されており、被害者ご本人またはご遺族に対して所定の額が支給される仕組みです。
疾病区分ごとの給付金額一覧
中皮腫や肺がんなどの主要な指定疾病について、法律で定められている主な給付金額の目安は次の表のとおりです。
| 対象疾病・病態区分 | 主な要件・状態 | 給付金額(法定額) |
|---|---|---|
| 中皮腫 | 療養中または死亡 | 死亡の場合:1,300万円 療養中の場合:1,150万円 |
| 肺がん | 療養中または死亡 | 死亡の場合:1,300万円 療養中の場合:1,150万円 |
| びまん性胸膜肥厚 | 著しい呼吸機能障害を伴う療養または死亡 | 死亡の場合:1,300万円 療養中の場合:1,150万円 |
| 良性石綿胸水 | 著しい呼吸機能障害を伴う療養または死亡 | 死亡の場合:1,300万円 療養中の場合:1,150万円 |
| 石綿肺(管理4) | 療養中(生存) | 1,150万円 |
| 石綿肺(管理3) | 指定合併症あり / なし | 指定合併症あり:950万円 指定合併症なし:800万円 |
| 石綿肺(管理2) | 指定合併症あり / なし | 指定合併症あり:700万円 指定合併症なし:550万円 |
※石綿肺により死亡した場合や、所定の合併症により死亡した場合などは1,300万円となる規定が設けられています。
喫煙歴による減額の取り扱い
肺がんを原因として給付金を請求する場合、喫煙習慣の有無によって給付金額に差が設けられています。
これは、肺がんの発症要因において喫煙が及ぼす医学的影響が考慮されているためです。
具体的には、喫煙習慣が認められるケースでは、非喫煙者の基準額に100分の90を乗じた金額が適用されます。
喫煙歴の有無は医師の診断書や問診記録など客観的な医療記録に基づいて判断されるため、事前の記録確認が重要となります。
ご遺族が請求する場合の受給順位と分配
被災者ご本人が亡くなられている場合、一定の範囲のご遺族が給付金を請求することができます。
受給権者には法律上の順位が定められており、先順位の方がいる場合は後順位の方は受給できません。
受給の優先順位は、配偶者(事実婚関係を含む)が最優先となり、次いで子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順となります。
同順位の遺族が複数人いる場合(たとえば複数の子どもがいる場合など)は、給付金の総額を人数で均等に分割して支給を受けることになります。
給付金請求の手続き手順と注意点
建設アスベスト給付金の支給を受けるためには、所定の書類を揃えて指定の審査機関へ請求書を提出し、認定を受ける必要があります。
手続き全体の流れを把握した上で、計画的に準備を進めることが大切です。
認定審査の窓口と請求の流れ
給付金の認定審査および支給を行う主体は厚生労働大臣です(支払事務等は労働者健康安全機構に委託可能)。同窓口へ直接郵送などで請求書類を提出します。
請求書が提出されると、医学的知見や就労状況に関する専門的な調査・審査が行われます。
審査を経て支給決定がなされた場合、指定した口座へ給付金が振り込まれる仕組みとなっています。
| 手順 | 手続き内容 | 留意事項 |
|---|---|---|
| ステップ1
書類収集 |
医療記録、就労証明書類、戸籍謄本(遺族請求時)などを集める | 過去の就労先が廃業している場合は年金記録等の確認が必要 |
| ステップ2
請求書作成・提出 |
請求書に必要事項を記入し、添付書類とともに機構へ送付 | 送付先は独立行政法人労働者健康安全機構の給付金担当窓口 |
| ステップ3
機構による審査 |
専門委員会等で医学的要件や就労要件の該当性を確認 | 事案によっては追加資料の提出を求められることがある |
| ステップ4
支給決定・受取 |
認定通知書が送付され、指定口座へ給付金が振り込まれる | 不支給決定となった場合は不服申立て手続きの検討も可能 |
請求に必要となる主な書類と収集のポイント
請求に必要な書類は、請求者本人がすでに労災認定を受けているかどうかによって大きく異なります。
過去に労災補償や石綿救済法による給付決定を受けている場合は、その認定通知書を提出することで医学的審査の一部を簡略化できます。
一方で、労災認定を受けていない場合や一人親方として従事していたケースでは、指定の診断書、X線写真(レントゲン)やCT画像などの医証を医療機関から取り寄せる必要があります。
加えて、対象期間内に石綿に曝露する作業を行っていたことを裏付ける就労歴の証明書類が求められます。
具体的には、雇用保険や厚生年金の加入記録、建退共手帳、同僚や元請業者による証明書などが該当します。
請求期限(消滅時効)に関する規定
建設アスベスト給付金には法律上の請求期限(消滅時効)が定められており、期限を過ぎると請求権が消滅してしまうため十分な注意が求められます。
請求期限は原則として、石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断日やじん肺管理区分の決定日、死亡の日などから進行します。
起算日や対象となる状況によって期間の計算が異なるため、早めに確認を進めることが重要です。
過去の就労記録の探索や医療機関からのカルテ開示には数カ月単位の時間を要することもあるため、給付金の該当可能性がある場合は速やかに資料収集に着手することが推奨されます。
まとめ
建設アスベスト給付金は、過去に石綿を取り扱う建設業務に従事し、指定の疾病を発症された方やそのご遺族を救済するための公的な制度です。
所定の就労期間や対象疾病などの支給要件を満たしている場合、所定の手続きを行うことで給付金を受給できる可能性があります。
請求にあたっては、当時の就労実態を証明する客観的な資料や医師の診断書など、正確な書類をそろえることが重要となります。
過去の就労記録が手元に残っていない場合や、ご自身が対象に該当するか判断に迷う場合は、弁護士への相談を検討してみるのも選択肢の一つです。
弁護士法人ネクスパート法律事務所でも、建設アスベスト給付金の請求に関するご相談を受け付けておりますので、手続きに不安がある際はお気軽にお問い合わせください。
コラム監修者
Shunsuke Teragaki
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道中学・高校を経て、慶應義塾大学商学部で経営・会計・商取引を学ぶ。その後、青山学院大学法科大学院を修了して2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2013年1月に第二東京弁護士会に弁護士登録し、都内法律事務所で個人・法人を問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。
2016年1月に佐藤塁と共にネクスパート法律事務所を創業し、共同代表として、東京オフィスを拠点に、企業のコーポレート法務、M&A・事業承継、薬事・医事法務を中心に取り扱う。商学部で培った経営の視点を生かし、法的な可否にとどまらず、事業への影響や実行可能性まで含めた選択肢を示すことを重視している。
また、一般社団法人薬機法医療法規格協会の代表理事、一般社団法人日本美容サロン協議会の監事、一般社団法人睡眠ヘルスケア協議会の外部有識者(認証評価委員)を務め、医療・美容・ヘルスケア分野の広告規制や業界の自主的なルールづくりにも関わっている。依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。