サマリー
家族が突然逮捕された、あるいは自身が不同意性交等罪の疑いをかけられているという状況では、何が起きているのか、この先どうなるのかが分からず不安を感じる方が多いのではないでしょうか。この罪は刑法改正により新設された比較的新しい規定であり、以前の強制性交等罪とは要件や考え方が異なる部分があります。この記事では、不同意性交等罪の成立要件や法定刑、逮捕から起訴までの手続きの流れ、身柄解放や示談といった対応の選択肢、旧罪との違いについて解説します。
不同意性交等罪とは
不同意性交等罪は、令和5年の刑法改正によって従来の強制性交等罪が名称・要件ともに見直され、新たに設けられた罪です。改正前は暴行または脅迫の存在が要件の中心とされていましたが、実際の被害場面では暴行や脅迫がなくても被害者が抵抗できない状況が生じることが指摘され、その点を踏まえた見直しが行われました。
改正後の条文では、暴行・脅迫に限らず、心身の状態や関係性など複数の事由により「同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態」にさせて性交等を行った場合に成立するという考え方が採用されています。この「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」とは、単に拒否の言葉がなかったかどうかではなく、その場の状況全体から意思決定や意思表示、意思の実現が難しかったかどうかを見る考え方とされています。
旧強制性交等罪では暴行・脅迫の有無が争点になりやすかったのに対し、不同意性交等罪では被害者が置かれていた状況や心理状態がより広く考慮される点が異なります。
対象となる行為の範囲、いわゆる性交等の定義についても、旧法から大きな枠組みは維持されつつ、膣性交・肛門性交・口腔性交に加え、これらに類する行為で性的な意味を持つ身体への侵入行為などが含まれるとされています。行為の態様や対象となる身体部位によって成否の判断に影響が生じる場合があるため、条文上の定義を正確に把握しておくことが手続きの理解につながります。
不同意性交等罪の成立要件
不同意性交等罪が成立するかどうかは、被害者が同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にあったかどうかを、具体的な原因事由に照らして判断する仕組みになっています。条文には、そのような状態を生じさせる原因として複数の事由が列挙されており、代表的なものとして暴行・脅迫を用いた場合や、心身に障害がある状態に乗じた場合が挙げられます。
このほかにも、アルコールや薬物を摂取させて正常な判断ができない状態にした場合、睡眠その他の意識不明瞭な状態にさせた場合、拒絶する意思を示す時間的余裕がないほど急に行為に及んだ場合など、さまざまな類型が想定されています。これらの事由に該当し、かつその状態に乗じて、または生じさせて性交等が行われたと認められる場合に、犯罪の成立が問題となります。
捜査や裁判の場面では、行為当時に被害者がどのような心身の状態にあったか、加害者とされる側がその状態をどの程度認識していたかが重要な判断要素になります。
同意の有無は、行為時の言動だけでなく、関係性や状況全体を踏まえて総合的に評価される点に留意が必要です。
また、事後的に「合意があった」と主張しても、それだけで犯罪の成立が否定されるわけではないと考えられています。行為の際に明確な拒絶の言葉がなかったとしても、恐怖や困惑などにより意思を表明できない状態であったと評価される場合には、同意があったとは扱われない可能性があります。
このように、外形的なやり取りの有無だけでなく、被害者が置かれていた具体的な状況を踏まえて同意の実質性が検討される点が、この罪の成立要件を考えるうえで重要なポイントとなります。
逮捕から起訴までの流れ
不同意性交等罪の捜査は、被害を受けたとする人からの被害届の提出や告訴、あるいは第三者からの通報などをきっかけに始まるのが一般的です。捜査機関が事件性ありと判断すると、関係者への聞き取りや証拠の収集が進められ、その過程で被疑者として逮捕に至ることがあります。
逮捕には、捜査機関が裁判官の発する令状に基づいて行う通常逮捕のほか、犯行直後の状況で令状なく行われる現行犯逮捕などの形態があります。逮捕後は、まず警察段階での身柄拘束と取調べが行われ、一定時間内に事件が検察官へ送致されるかどうかが判断されます。
逮捕後の身柄拘束の時間的な流れ
刑事手続きにおける身柄拘束の期間には目安となる時間制限が設けられています。警察は逮捕から48時間以内に事件を検察官に送致するかどうかを判断し、送致を受けた検察官はさらに24時間以内に勾留請求などの判断を行うとされています。
| 段階 | 時間・期間の目安 |
|---|---|
| 逮捕後の警察の手続き | 48時間以内に送致の要否を判断 |
| 検察官への送致後 | 24時間以内に勾留請求などを判断 |
| 勾留 | 原則10日間、延長で最大10日間程度の追加が可能とされる |
| 勾留期間満了時 | 起訴・不起訴の判断 |
勾留が認められると、原則として10日間の身柄拘束が続き、捜査の必要性がある場合にはさらに最大10日間程度の延長がなされることがあるとされています。この間、取調べが繰り返し行われ、供述内容や客観的な証拠との整合性が確認されていきます。
勾留期間の満了までに、検察官は収集された証拠や供述内容をふまえて起訴するか不起訴とするかを判断します。
起訴された場合は刑事裁判の手続きに移行し、不起訴となれば身柄が釈放され、前科は付かないことになります。ただし、不起訴の理由には嫌疑不十分のほか、起訴猶予など複数の類型があり、事案ごとに事情は異なります。
法定刑と量刑を左右する事情
不同意性交等罪が成立すると法定刑として定められているのは、5年以上の有期懲役です。罰金刑は定められておらず、成立が認められた場合には懲役刑が科されることになります。
実際の量刑は法定刑の範囲内で、行為態様の悪質性や被害の程度、被害者との関係性など様々な事情を考慮して裁判所が判断します。同じ罪名であっても、事案によって言い渡される刑には幅があります。
取調べや裁判における供述の一貫性は、量刑を考えるうえで重視される要素の一つとされています。捜査段階と公判段階で説明が大きく食い違うと、供述の信用性が問題にされることがあります。
被害者との間で示談が成立しているかどうかも、量刑に影響しうる事情として一般的に挙げられます。示談の有無や内容がそのまま結果を左右すると断定はできませんが、考慮要素の一つとされています。
執行猶予が付くかどうかは、犯情の重さや被告人の前科の有無、反省の状況など個別の事情を総合して判断されます。一律に付くか付かないかを言えるものではなく、事案ごとに結論が異なります。
法定刑の下限が5年以上の懲役とされていることから、実刑となった場合の身柄拘束期間は長期に及ぶ可能性があります。この点は今後の生活設計にも関わるため、軽視できない事情といえます。
逮捕後に考えられる対応
逮捕後、身柄が拘束された状態が続くと、仕事や生活への影響が大きくなることが懸念されます。そのため、可能な限り早期の身柄解放に向けた対応が検討されることがあります。
具体的には、勾留段階では、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがないことなどを示す資料を提出し、勾留に対する準抗告や勾留の取消しを求める手続きがとられる場合があります。起訴後の段階では、保釈の請求を行い、保釈金の納付などを条件に身柄を解放してもらうよう働きかける方法も考えられます。
示談交渉が進められることもあります。被害を受けたとされる方との間で、謝罪や被害弁償について話し合いが行われ、示談が成立した場合には、それが不起訴や量刑判断において考慮される事情の一つとなり得るとされています。もっとも、示談交渉は当事者同士で直接行うことが難しい性質のものであり、被害者側の心情にも十分配慮した進め方が求められます。
取調べへの対応も重要な場面です。取調べにおいては、黙秘権が保障されており、話したくないことについては話さないという選択をすることが認められています。
供述調書は捜査機関が作成するものであり、その内容が後の手続きで重要な証拠として扱われることがあります。署名・押印の前には、記載内容が実際の供述と食い違っていないかを確認することが大切であるとされています。
取調べに対する対応を誤ると、後の手続きにおいて不利な状況を招く可能性があります。
このように、逮捕後の対応にはいくつかの選択肢や注意点があり、状況に応じて適切な手続きを選んでいくことが求められます。
まとめ
不同意性交等罪は、暴行・脅迫がなくとも同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態であったかどうかが問われる犯罪であり、逮捕されると身柄拘束が長期化する可能性があります。取調べへの対応や示談交渉など、その後の手続きの進み方によって結果が左右される場合があります。
成立要件の当てはめや量刑の見通しは、事案ごとの事情によって大きく異なります。
早期の身柄解放や適切な取調べ対応を検討するためには、個別の状況を踏まえた法的な判断が必要になることが少なくありません。今後の見通しや取り得る対応について整理したい場合は、弁護士法人ネクスパート法律事務所への相談を選択肢の一つとして検討してみてください。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
東京都杉並区出身。明治大学付属中野高校、明治大学法学部を経て、明治大学法科大学院を修了。2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2012年12月に弁護士登録(東京弁護士会)し、都内の法律事務所での勤務を経て、2016年1月に寺垣俊介とともにネクスパート法律事務所を創業。代表弁護士として一般民事から企業法務まで幅広い分野を手がけるとともに、全国に拠点を持つ事務所の経営にあたる。
早くからテクノロジーと法務の融合に取り組み、2021年にはAIを利用した法律文書作成サービスを開発するLegal AI株式会社の代表取締役に就任(現在は退任)。当時はAI技術が発展途上で技術的な壁に直面したが、この挑戦を通じて「法務業務こそAIの力を借りれば飛躍的に変わる」という確信を得る。以来そのビジョンを持ち続け、生成AIが広く普及した現在は事務所の業務全体でAIの活用を進めている。2026年には日本弁護士連合会「弁護士業務改革シンポジウム」にパネリストとして登壇した。ブロックチェーン・Web3分野の法務や海外法人の設立支援にも取り組み、公益法人主催のセミナー等で講師を務める。
公正取引委員会・中小企業庁「適正取引推進講習会」講師、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員を歴任。弁護士業務のかたわら、2014年に東京青年会議所に入会して以来、10年以上にわたりボランティア活動に取り組む。2017年からは国際的な社会奉仕団体であるライオンズクラブに所属し、2022年には東京数寄屋橋ライオンズクラブ第57代会長を務めた。献血の呼びかけ、障がい者スポーツ大会の支援、保護犬活動のほか、弁護士として小中学生への法教育や薬物乱用防止教育にも携わっている。