更新日:2026年8月14日 (金)

公開日:2026年8月7日 (金)

遺言書が無効になるケースと対処法を解説

遺言書が無効になるケースと対処法を解説 遺言書が無効になるケースと対処法を解説

サマリー

遺言書が無効になるケースと対処法を解説をテーマに、無効となる条件や対処法、具体的な対処・対応方法を解説。相続手続きを進める前に確認しておきたいポイントを整理します。

遺言書が法的に無効と判断されるケースには、形式不備や作成時の遺言能力の欠如など、民法で定められた要件を満たしていない場合が含まれます。手元の遺言書の有効性に疑問がある場合には、遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟など、法的手続きを通じて無効を主張できる可能性があります。
本記事では、遺言書が無効になる具体例をはじめ、無効を主張する際の手続きの流れや、将来の相続トラブルを防ぐための予防策について、実務上の観点も踏まえて解説します。

遺言書が無効と判断される主なケース

遺言書が無効となる理由には、民法上の形式要件を満たしていないケースだけでなく、遺言内容の不明確さや、作成時の遺言能力・真意性に関する問題など、実質的な争点も含まれます。実務では、過去の裁判例や裁判所の判断をもとに、有効性が個別具体的に判断されます。ここでは、遺言書が無効と判断される代表的なケースについて解説します。

【形式不備】民法で定められた方式を満たしていない

自筆証書遺言は、民法で厳格な方式が定められており、これらの要件を満たしていない場合、原則として無効と判断されます。具体的には、以下の4点を満たす必要があります。
全文が自筆であること
作成した日付が明記されていること
氏名が自署されていること
押印があること
例えば、本文をパソコンで作成している場合や、日付の記載漏れ、署名・押印の欠落などがある場合には、法定の形式要件を満たしていないとして、遺言書が無効と判断される可能性があります。

【内容の不明確】財産や相続人を特定できない

遺言書の内容が曖昧で、誰にどの財産を相続させるのかを客観的に特定できない場合、その部分は無効となる可能性があります。例えば、「私の土地を長男に相続させる」と記載されていても、複数の土地を所有している場合はどの土地を指すのか不明確です。
また、「預貯金の一部を妻に相続させる」といった記載も、金融機関名や口座、金額などが特定できない場合には、遺言執行が困難となり、その部分が無効と判断される可能性があります。

【共同遺言】夫婦など複数人で1通の遺言書を作成している

民法では、2人以上が同一の証書で遺言をすることを禁止しており、これを共同遺言の禁止といいます。
例えば、夫婦が連名で1枚の遺言書を作成した場合、その遺言書は全体が無効です。
この規定は、遺言者一人ひとりの意思を明確に保護し、また、各人が自由に遺言を撤回できる権利を保障するために設けられています。
たとえ仲の良い夫婦であっても、遺言書は必ず各自が単独で作成しなければなりません。

【訂正方法の誤り】法定方式どおりに修正されていない

自筆証書遺言の内容を訂正する場合、法律で定められた方式に従う必要があります。具体的には、変更箇所を二重線などで示し、変更した旨を遺言書の余白などに書き加えて署名し、変更箇所に押印するという手順を踏まなければなりません。修正液や修正テープを使用したり、単に二重線を引いて加筆しただけの訂正は、法定方式に反する訂正と判断される可能性があります。その場合、訂正部分が無効となり、原則として訂正前の内容が有効なものとして扱われます。

【遺言能力の欠如】認知症などにより判断能力が不十分な状態で作成

遺言書を作成するには、遺言の内容やその結果を理解し、判断できる能力(遺言能力)が必要です。認知症や精神的な障害などにより、作成当時にこの遺言能力が欠けていたと判断された場合、その遺言書は無効になります。たとえ形式面に問題がなくても、遺言者が自らの意思で内容を理解・判断できる状態ではなかったことが、医師の診断書や介護記録、要介護認定資料、周囲の証言などの客観的証拠によって認定された場合には、裁判所の心証形成に影響し、遺言の効力が否定される可能性があります。

【証人欠格】公正証書遺言の証人になれない人が立ち会った

公正証書遺言を作成する際には、2人以上の証人の立会いが必要です。しかし、法律では証人になれない人が定められており、推定相続人や受遺者、その配偶者や直系血族、未成年者などは証人になることができません。これらの欠格事由に該当する人物が証人として関与した場合には、公正証書遺言の有効性が争われ、無効と判断される可能性があります。

【公序良俗違反】社会通念に著しく反する内容

遺言の内容が、社会の一般的な道徳観念や秩序(公序良俗)に反すると判断された場合、その遺言は無効となることがあります。典型的な例として、不倫関係にある愛人に全財産を遺贈する内容の遺言が挙げられます。ただし、愛人への遺贈がすべて無効になるわけではなく、遺言が不倫関係の維持を目的としていたり、残された家族の生活を著しく脅かしたりするなど、その内容が社会的に許容できないと判断された場合に無効となる可能性があります。

【偽造・変造】第三者による作成や書き換えの疑いがある

他人から騙されたり(詐欺)、脅されたり(強迫)して、本心ではない内容の遺言書を作成させられた場合、その遺言は取り消すことができます。取り消された遺言は初めから無効であったものとして扱われます。詐欺や強迫があったことを証明する必要がありますが、遺言者の自由な意思に基づいて作成されていない遺言は、法的に保護されません。詐欺や強迫があったかどうかが争点となる場合には、利害関係人が遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟などを通じて、その有効性を争うことになります。

【偽造・変造】相続人が勝手に作成・書き換えた疑いがある

遺言書が遺言者本人ではなく、相続人などの第三者によって勝手に作成(偽造)されたり、内容を書き換えられたり(変造)した場合、その遺言書は無効となります。遺言の有効性が争われる裁判では、筆跡鑑定や押印された印影の照合などが行われ、偽造や変造の事実が明らかになれば効力は認められません。また、遺言書を偽造した相続人は、相続権を失う(相続欠格)可能性があります。

【後の遺言による撤回】新しい日付の遺言書が存在する

有効な遺言書が複数見つかった場合、原則として最も日付の新しい遺言が優先されます。
民法では、前の遺言と後の遺言で内容が矛盾・抵触する部分については、後の遺言によって前の遺言が撤回されたものとみなすと定めています。
例えば、古い遺言で「長男に全財産を相続させる」とあっても、新しい遺言で「次男に全財産を相続させる」と書かれていれば、古い遺言は効力を失い、結果として無効と同じ扱いになります。

遺言書の無効を主張する際の3つのステップ

遺言書の内容に納得できず、その無効を主張する場合、法的な手続きに沿って進める必要があります。まずは当事者間での話し合いから始め、合意に至らなければ家庭裁判所での調停、最終的には地方裁判所での訴訟へと移行するのが一般的な流れです。これらの手続きでは、法的主張や証拠収集、立証責任に関する専門知識が必要になるため、実務上は早い段階で弁護士へ相談することも検討されます。遺言書の無効を主張する手続きは、一般的に段階的に進められます。

ステップ1:まずは相続人全員での話し合い(遺産分割協議)を試みる

遺言書の無効を主張する最初のステップは、裁判所の手続きを経ずに、相続人全員で話し合うことです。話し合いの場で、特定の相続人が遺言書の有効性に疑問を呈し、その根拠を示します。そして、相続人全員がその遺言書を無効とすることで合意できれば、その遺言書は効力を持たないものとして扱われます。その場合、改めて遺産分割協議を行い、合意した内容に従って遺産相続を進めることが可能です。

ステップ2:話がまとまらなければ家庭裁判所で調停を申し立てる

相続人全員での話し合いで合意に至らない場合は、家庭裁判所に遺言無効確認調停を申し立てます。調停は、裁判官と民間の有識者からなる調停委員が間に入り、当事者双方の主張を聞きながら、話し合いによる解決を目指す手続きです。調停委員が中立的な立場で助言や解決案を提示してくれるため、当事者だけの話し合いよりも冷静に交渉を進められる可能性があります。ここで合意が成立すれば、調停調書が作成され、法的な効力を持ちます。

ステップ3:最終的に地方裁判所へ遺言無効確認訴訟を提起する

調停でも話がまとまらない、あるいは相手方が調停に出席しないなど、調停が不成立に終わった場合、最終的な手段として地方裁判所に遺言無効確認訴訟を提起します。訴訟では、遺言の無効を主張する側(原告)が、無効である理由を法的な主張と証拠に基づいて立証しなければなりません。裁判所は双方の主張や証拠を審理し、最終的に判決によって遺言が有効か無効かを法的に確定させます。

遺言書が有効と判断された場合の対処法

遺言書の無効を主張しても、裁判などで法的に有効であると判断されるケースもあります。
しかし、遺言が有効と確定した場合でも、相続人が取り得る対抗策が残されています。遺言の内容が相続人にとって不利益な場合でも、法律は相続人の権利を一定程度保護しています。諦めずに、残された手段を検討することが重要です。

受遺者を含めた遺産分割協議で改めて合意を目指す

遺言書が法的に有効であっても、相続人全員と受遺者の全員が合意すれば、遺言の内容とは異なる遺産分割が可能です。
例えば、遺言で特定の相続人に多くの財産が渡る内容になっていても、その相続人を含む全員が納得の上で別の分け方を決めることができます。
ただし、この方法はあくまで関係者全員の合意が絶対条件であり、一人でも反対すれば遺言書通りの相続が行われます。

最低限の取り分を主張する遺留分侵害額請求を行う

遺言書が有効な場合でも、兄弟姉妹以外の法定相続人には、法律で保障された最低限の遺産の取り分である遺留分があります。もし遺言によって自身の遺留分が侵害されている場合、財産を多く受け取った相続人や受遺者に対して、侵害された分に相当する金銭の支払いを請求できます。これを遺留分侵害額請求といい、遺言の効力そのものを争うことなく、金銭的な補償を求めることができる権利です。

遺言書を無効にしないための4つの対策

遺言書を作成する側としては、自分の死後に遺言書が無効と判断され、相続人間で争いが生じる事態は避けたいものです。法的に有効で、誰からも疑義を呈されない確実な遺言書を作成するためには、いくつかの重要なポイントがあります。
特に、形式の不備を防ぐための確認や、確実性の高い公正証書遺言の活用を検討することが、将来のトラブル防止につながります。

自筆証書遺言は法務局の保管制度を利用して不備を防ぐ

自筆証書遺言を作成する場合、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用することが有効です。この制度を利用して遺言書を預ける際、法務局の職員が、日付や署名・押印の有無といった法律上の形式要件を満たしているかをチェックしてくれます。これにより、形式的な不備による無効のリスクを軽減できます。
また、原本が法務局で保管されるため、紛失や改ざんの心配がなく、相続開始後の家庭裁判所での検認手続きも不要になります。

財産目録をパソコンで作成する場合も署名・押印は忘れない

2019年の法改正により、自筆証書遺言に添付する財産目録については、パソコンでの作成や預金通帳のコピーなどを添付することが認められました。これにより作成の負担は軽減されましたが、注意点もあります。パソコンなどで作成した財産目録の全てのページに、遺言者本人が署名・押印をしなければなりません。この署名・押印を忘れてしまうと、財産目録部分が無効となってしまうため、忘れずに行う必要があります。

公正証書遺言を作成する

将来的な相続トラブルを避け、遺言内容をできる限り確実に実現したい場合には、公証役場で作成する公正証書遺言の利用が有力な選択肢となります。
法律の専門家である公証人が作成に関与するため、形式不備で無効になる可能性が低いです。また、作成時には証人2名が立ち会い、公証人が遺言者の意思能力や本人確認を慎重に行うため、後から遺言能力の有無や偽造が争われる可能性も極めて低くなります。原本は公証役場に保管されるため、紛失や改ざんのリスクが避けられます。

判断能力に不安があるなら医師の診断書を取得しておく

高齢であったり、病気を患っていたりするなど、将来的に遺言能力の有無が争われる可能性が少しでもある場合には、予防策を講じておくことが重要です。遺言書を作成するのと同じ時期に、医師、特に精神科や心療内科の専門医に判断能力に関する診断をしてもらい、遺言能力に問題なしという内容の診断書を取得しておきましょう。この診断書を遺言書と一緒に保管しておくことで、遺言能力を証明する強力な客観的証拠となり、紛争の抑止力となります。

遺言書の無効に関するよくある質問

遺言書の無効に関して、多くの人が抱く疑問点があります。ここでは、多く寄せられる質問について解説します。

Q.遺言書を勝手に開封してしまった場合、その遺言書は無効になりますか?

A.遺言書を勝手に開封した場合でも、その事実のみを理由として遺言書が無効になるわけではありません。ただし、法務局で保管されていない自筆証書遺言は、家庭裁判所で検認という手続きを経る必要があり、検認前に開封すると5万円以下の過料に処される可能性があります。開封の事実が遺言書の効力自体に影響を与えることはありませんが、法律上の手続きは遵守するべきです。

Q.認知症と診断されている場合、遺言書は無効になりますか?

A.必ずしも無効になるとは限りません。重要なのは、遺言書を作成した時点で、遺言の内容を理解し判断する能力(遺言能力)があったかどうかです。認知症の診断を受けていても、症状が軽度で作成時に遺言能力が認められれば、その遺言書は有効と判断される可能性があります。診断名だけでなく、作成時の具体的な状況が総合的に考慮されます。

Q.遺言書の無効を主張する手続きに期限(時効)はありますか?

A.遺言の無効を主張する遺言無効確認訴訟には、法律上の時効や期限はありません。そのため、遺言者の死後何年経っても訴訟を起こすこと自体は可能です。
ただし、遺留分が侵害された場合に金銭を請求する遺留分侵害額請求には、相続の開始と遺留分侵害を知った時から1年という時効があるため、注意が必要です。

まとめ

遺言書が無効になるケースは、日付や署名の欠落といった形式的な不備から、作成時の遺言者の判断能力の欠如といった実質的な問題まで多岐にわたります。
もし無効を主張する場合は、まず相続人間での協議を行い、まとまらなければ調停や訴訟といった法的手続きに進みます。
一方で、遺言書を作成する側は、後々の紛争を避けるため、法務局の保管制度や、最も確実な公正証書遺言の利用を検討することが賢明です。
ネクスパート法律事務所には、相続全般を手掛ける弁護士が在籍しています。遺言書が無効なのではとお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

コラム監修者

RUI SATO

RUI SATO

所属:代表(東京オフィス)

明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。

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