更新日:2026年8月6日 (木)
公開日:2026年8月6日 (木)
遺言執行者になるには資格が必要?法律上の要件と実務の落とし穴を徹底解説
サマリー
遺言書作成時や相続手続きを目前に控えた場面で、「遺言執行者に指定したい人がいるが、弁護士や司法書士のような特別な資格が必要なのだろうか」と疑問を持つ方は少なくありません。実際に、「遺言執行者にはどのような資格が必要なのか」「家族や友人を指定しても法的に問題ないのか」といった不安や疑問を抱える方は多くいらっしゃいます。
結論からいえば、遺言執行者になるために弁護士資格などの特別な資格は原則として必要ありません(ただし、民法第1009条で定められている未成年者や破産者など、一定の欠格事由に該当する場合を除きます)。法律上は、配偶者や子どもといった家族、あるいは信頼できる友人などから自由に選任することが可能です。
もっとも、「誰でもなれる」からこそ、財産目録の作成といった実務上の負担や、相続人間のトラブル(遺留分を巡る利害対立・感情的対立など)のリスクを見落とすと、結果として残された家族に多大な負担を生じさせる傾向があります。
この記事では、遺言執行者を選任するメリットや法律上の要件(民法上の位置付け)、選任方法、権限・義務、報酬の目安、辞任・解任・復任といった実務上の論点に加え、2024年4月1日から施行された相続登記の義務化(改正不動産登記法)への対応も踏まえ、失敗しない選び方を弁護士実務の視点から分かりやすく解説します。
遺言執行者とは|定義・選任するメリットと必要なケース
遺言執行者は、亡くなった方(被相続人)の最終意思である遺言内容を、民法に基づく権限により法的に実現する重要な役割を担います。
ここでは、遺言執行者の定義と選任するメリットに加え、「どのような場合に遺言執行者が必要になるのか」という実務上の判断基準についても詳しく解説します。
遺言執行者とは|遺言書の内容を具体的に実現する人
遺言執行者とは、遺言書の内容を具体的に実現するために、相続財産の管理や必要な執行行為(民法第1012条に基づく管理・処分に関する権限行使)を行う者をいいます。
具体的には、実務上、一般的に以下のような手続きを行います。
- 相続人や受遺者への就任通知
- 財産や相続人の調査
- 財産目録の作成
- 預貯金の解約や払戻し
- 不動産の名義変更(相続登記)
- 遺贈の履行
遺言の文言が抽象的な場合、金融機関や法務局で求められる必要書類の収集方法や手続の進め方について法的な解釈や実務判断が求められるため、遺言内容を正確に理解する力も重要になります。
一部の相続人が非協力的で、相続人全員の協力が得にくい場面でも、遺言執行者はその権限の範囲内において、一定の相続手続きを単独で進めることが法律上可能とされています。その結果、遺産分割等を巡る相続人間の感情的対立と実際の手続の進行を切り分けやすくなり、紛争の予防や相続手続の円滑化につながる点が、遺言執行者を選任する実務上の大きな価値といえます。
遺言執行者を選任する3つのメリット|相続手続の円滑化・トラブル防止
遺言執行者を選任する主なメリットとして、一般的に以下の3つが挙げられます。
手続の一本化(相続手続の一元管理)
通常の相続手続は、遺産分割協議や名義変更などの場面で法定相続人全員の同意や署名・実印の捺印(印鑑証明書の添付)が必要になることが多く、実務上、誰か一人でも手続に応じない場合には手続全体が停滞する可能性があります。
遺言執行者を選任し、遺言書に適切な記載をしておくことで、遺言執行者の権限の範囲内においては、相続人全員の署名・捺印を都度集めることなく、一定の相続手続を単独で進めることが可能とされています。
また、銀行・証券会社などの金融機関や法務局(相続登記)、役所への窓口対応を遺言執行者一人に集約できるため、相続人がそれぞれ別々に動くことで生じる重複作業や情報の不一致を防ぎやすくなります。
トラブルの防止(相続人間の紛争予防)
中立的な立場の遺言執行者を選任することで、遺言執行者の権限が専属し、他の相続人による財産の使い込みや勝手な無断処分(不正処分)を法的に防止しやすくなります(民法第1013条の処分制限)。
相続財産や相続人が多いほど、戸籍謄本や残高証明書の収集、申告書類の期限管理、相続人への説明対応が増加し、遺言執行の実務は複雑化しやすくなります。遺言執行者が中立的な立場で手続を進め、説明や記録を適切に行うことで、「聞いていない」「不公平だ」といった不満の発生も抑制しやすくなります。
遺言内容の実現可能性の向上
遺言執行者を選任することで、特定の第三者への遺贈(特定遺贈)や、婚姻外の子の認知といった身分行為を含む内容など、相続人だけでは対応が難しい事項についても法的に実行しやすくなります。
特に、遺言による子の認知の届出を行うことができるのは遺言執行者に限られます(戸籍法64条)。また、遺留分を有する推定相続人の廃除(またはその取消し)を行う場合には、家庭裁判所への申立てが必要となるため(民法第893条等)、これらの家事事件手続法に基づく実務手続を担う遺言執行者の存在が不可欠になります。
手続の迅速化と予期せぬトラブル防止を図る観点から、遺言執行者の指定は相続対策において極めて重要な要素の一つといえます。
遺言執行者を選任すべきケース(必要性が高い場面)
遺言執行者の選任は法律上の必須要件ではありませんが、遺言内容や相続人間の関係性によっては、選任していない場合に相続手続が円滑に進まず、手続が停滞する可能性が実務上少なくありません。
特に、以下のようなケースでは、遺言執行者を選任することで相続手続の円滑化が期待されます。

実務上、遺言執行者の関与が強く求められる傾向にあるのは、子の認知や相続人の廃除といった身分行為を含むケースです。遺言による子の認知や相続人廃除(またはその取消し)は、家事事件手続法に基づき家庭裁判所での手続が必要となります。法定相続人の範囲が変動する可能性もあるため、相続人同士の混乱を抑える観点からも、遺言執行者が中心となって手続を進める体制を整えておくことが重要です。
また、特定の財産を特定の人に渡す「特定遺贈」がある場合も、遺言執行者を置くことで履行が円滑になりやすくなります。受遺者(遺言により財産を取得する者)への財産の引渡しや、不動産の所有権移転登記について責任主体が明確になるため、他の相続人側の抵抗や放置による手続の遅延を法的に防止しやすくなります。
さらに、遺留分を巡る相続人間の対立が予想される場合や、不動産・預貯金口座・有価証券などの金融資産が多く事務が煩雑な場合にも、遺言執行者の選任は有効と考えられます。
相続は感情と手続が密接に関係するため、紛争が顕在化した後に遺言執行者を選任しようとすると、候補者の選定自体が新たな争点となるおそれがあります。
将来の紛争リスクを見据え、遺言執行者の選任を前提とした遺言設計(遺言内容の構成)をあらかじめ検討しておくことが重要です。
遺言執行者の資格|なれる人・なれない人(欠格事由・民法上の条件)

法律上(民法上)、遺言執行者に特定の資格は不要で、原則として誰でもなることができます。
ただし、いかなる制限もないわけではなく、法律上(民法第1009条)、未成年者と破産者は遺言執行者になることができません。
ここでは、「遺言執行者は誰がなれるのか」「どのような場合に就任できないのか」といった検索ニーズを踏まえ、法律で明確に定められている欠格事由について詳しく解説します。
遺言執行者に特別な資格は不要|相続人や受遺者も就任可能
遺言執行者は、弁護士や司法書士などの特別な資格がなくても、原則として誰でも就任することが可能です。
法定相続人や受遺者も遺言執行者に就任できるため、妻や子ども、兄弟姉妹といった親族はもちろん、財産を受け取る本人である受遺者自身が執行者となることも可能です。また、個人だけでなく、弁護士法人や信託銀行などの法人を遺言執行者として指定することも法律上認められています。
また、遺言執行者は一人に限られず、複数人を選任すること(共同執行)も可能です。ただし複数人とした場合、意思決定の方法や連絡体制が不十分だと、かえって手続処理が遅延する原因となることがあります。そのため、役割分担や最終判断のルールを事前に設計しておくことが重要です。
なお実務上、就任者の負担が想像以上に大きくなることが少なくありません。戸籍謄本の収集、平日の日中に行う金融機関での手続、法務局での不動産の相続登記、関係者への正確な説明や記録作成など、一定の時間と正確な事務処理能力が求められます。そのため、就任予定者の了承(内諾)を事前に得ておくことが、相続開始後の手続の停滞を防ぐ観点から極めて重要です。
遺言執行者になれない人(民法1009条|欠格事由の内容)
法律上、未成年者および破産者は遺言執行者になることができません。
民法第1009条において、遺言執行者の欠格事由として未成年者および破産者が明確に規定されています。これは、遺言執行者という他人の財産を管理・処分する重要な役割に照らし、一定の判断能力や財産管理に関する適格性が求められるためと解されています。
実務上注意すべき点として、欠格事由に該当するかどうかの判断は、遺言書の作成時ではなく、遺言者が死亡して相続が開始した時点(相続開始時)で行われます。したがって、遺言作成時に未成年であっても、相続開始時に成人していれば就任可能です。一方で、作成時には問題がなくても、相続開始時に破産手続き中などで破産者となっている場合には就任することはできません。
欠格事由に該当する場合、たとえ遺言で明確に指定されていても遺言執行者としての法的な効力は生じません。その場合、利害関係人が家庭裁判所に対して新たに遺言執行者の選任申立てを行う必要が生じます。結果として手続が大幅に遅延し、相続人間の不信感が生じる可能性もあるため、万が一に備えた予備的な指定(予備的遺言)や、候補者の定期的な状況確認を行っておくといった実務上の対策が重要です。
相続人・受遺者が遺言執行者になる場合の注意点とリスク|トラブル・公平性の問題
法定相続人や受遺者も遺言執行者になることができる一方で、利害関係の近さ(利益相反の可能性)が相続トラブルの火種となることがあるため、慎重な判断が必要です。
最大のリスクは、手続の公平性や中立性に対する疑念が生じやすい点にあります。相続人や受遺者が遺言執行者となる場合、本人は適正に処理しているつもりでも、他の相続人から「自分に有利に遺産分割を進めているのではないか」「財産を隠しているのではないか」といった疑念を持たれやすく、少しの説明不足がそのまま対立に直結し、他の相続人の心証を著しく悪化させる可能性があります。
また、遺言執行者自身が相続の当事者であることから、無意識に感情的な判断に傾きやすい点もリスクといえます。
相続手続では過去の家族関係が顕在化しやすく、書類手続の優先順位や連絡の順番といった些細な点でも不信感が生じ、遺留分侵害額請求などの本格的な法的紛争に発展する可能性があります。そのため遺言執行者は、遺言の実現に必要な情報を関係者全体に等しく共有し、手続の経過を客観的な記録として残す(証拠化する)など、高い説明責任を意識した運用が求められます。
さらに、実務負担を過小評価してしまう点も問題となり得ます。
遺言執行者には民法上の「善管注意義務」が課せられます。仕事や育児がある中で、戸籍謄本や残高証明書、不動産の評価資料の収集に加え、平日の金融機関対応や法務局での相続登記手続をミスのないよう進めることは容易ではありません。途中で手続が停滞した場合、他の相続人から「対応が不十分ではないか」と責任を追及され、後述する辞任や解任の法的問題に発展する可能性もあります。
したがって、親族を指定する場合は、実際に運用可能な体制かどうかを事前に現実的に見積もることが重要です。
遺言執行者の指定・選任方法|遺言による指定と家庭裁判所での選任手続
遺言執行者の指定・選任方法には、一般的に以下の2つのルートがあります。
- 遺言者が遺言書の中で遺言執行者を指定する
- 遺言執行者の指定がない、または指定が無効な場合に、利害関係人が家庭裁判所へ選任申立てを行う
それぞれの具体的な方法について確認していきましょう。
遺言者が遺言書で遺言執行者を指定する方法
実務上は、遺言書を作成する際にあらかじめ信頼できる人物を遺言執行者として指定しておく方法が最も有効とされています。あらかじめ指定しておくことで、相続開始後に空白期間を作らず、速やかに相続手続へ着手しやすくなるためです。
遺言で遺言執行者を指定する際は、同姓同名による混同や本人特定の遅れを避けるため、氏名だけでなく住所や生年月日など、個人を客観的に特定できる情報を併せて記載しておくことが実務上望ましいとされています。
複数人を指定する場合(共同執行)は、意思決定が停滞しない運用を意識することが重要です。
例えば、代表者を定める、緊急時の連絡体制を整える、不動産(相続登記)・預貯金・遺贈といった業務ごとに担当を分けるなど、実務を想定した設計を行うことで、遺言書の実効性を高めやすくなります。
なお、遺言書で遺言執行者に指定された場合でも、本人が必ず就任しなければならないわけではありません。そのため、指定予定者には事前に相談し、就任の了承(内諾)を得ておくことで、相続開始後に就任を拒否されるリスクを低減できると考えられます。
また、遺言執行者に報酬(遺言執行報酬)を支払う場合は、具体的な金額や算定方法、支払時期を遺言書に明記しておくことで、「誰がいくら払うのか」という相続人側の不満やトラブルを未然に抑制しやすくなります。
遺言執行者の指定がない・無効な場合|家庭裁判所への選任申立て
遺言書に遺言執行者の指定がない場合や、指定された人がすでに他界している・欠格事由に該当するなどで指定が無効な場合には、利害関係人が家庭裁判所に対して遺言執行者の選任申立てを行うことができます。
申立てができるのは、相続人や受遺者、遺言者の債権者などの利害関係人であり、申立先は原則として亡くなった方(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
手続には、遺言書の写し、被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本、候補者の住民票など、必要書類の準備事項が多く、準備不足の場合には裁判所から補正(追加提出)を求められることもあるため、実際に選任されるまでに一定の期間を要する傾向があります。
また、自筆証書遺言を自宅等で保管していた場合には、選任申立ての前提として、原則として家庭裁判所における「検認手続」が必要となる点に注意が必要です(法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している場合や公正証書遺言の場合を除きます)。
遺言執行者選任申立ての具体的な手続方法については、「遺言執行者選任申立ての手続き方法についてわかりやすく解説」で詳しく解説しています。
遺言執行者の実務|義務・権限と具体的な業務内容(民法上の位置付け)
遺言執行者には、遺言執行に必要な一切の行為を行う強い権限が認められる一方で、相続人等への就任通知義務や、財産目録の作成・交付義務など、民法上の厳格な義務(善管注意義務など)も課されています。
これは、遺言執行者が単なる「相続人の代表者」ではなく、遺言者の最終意思を実現するための独立した法的地位にあるためであり、特定の相続人に偏らない中立性と迅速性を意識した執行が求められるためです。
権限の強さのみを強調すると誤解を招きやすいため、実務上は相続人に対して適切な説明責任を果たすことや、手続の経過を正確な記録として残すこと(証拠化)があわせて極めて重要とされています。
遺言執行者の主な業務内容の流れは以下の通りです。

- 就任通知と遺言内容の開示:遅滞なくすべての法定相続人に就任通知を行い、遺言執行者に就任した事実および遺言の内容を通知します。
- 財産調査と財産目録の交付:相続財産を調査した上で「財産目録」を作成し、相続人へ交付します。
- 具体的な執行手続の実施:金融機関での預金解約・払戻し手続、法務局での不動産の相続登記、受遺者への財産の引渡しなど、遺言内容に沿った手続を行います。
- 業務完了の報告:全ての手続が完了した後、収支を含めた業務報告書を作成し、相続人へ報告して一連の遺言執行業務は終了となります。
遺言執行者の報酬の決め方・支払い方法(相場と実務上のポイント)
遺言執行者の報酬は法律上必ずしも発生するものではありませんが、発生する場合には「誰が負担するのか」「いつ支払うのか」「いくら支払うのか(算定方法)」が曖昧だと、相続人同士の紛争になりやすい典型的な論点です。
特に親族が遺言執行者となる場合、当初は「家族だから」と無報酬を想定していても、いざ手続きが始まると想像以上の事務負担が顕在化し、後から報酬を巡る紛争に発展する可能性があります。そのため、遺言書であらかじめ遺言執行報酬の有無や金額を定めておくことで、相続開始後の交渉コストを低減しやすくなります。
報酬の定め方としては、一定額を定める定額方式、遺産総額に対する数パーセントとする割合方式などが考えられます。また、活動にかかる実費(戸籍取得費、郵送費、登記事項証明書取得費など)の負担方法や精算時期についても遺言書に併せて明確にしておくことで、立替負担による実務の停滞を防ぎやすくなります。
なお、遺言書に記載がない場合や、家庭裁判所が選任した遺言執行者の報酬については、相続財産の状況や手続の難易度など個別事情を踏まえ、最終的に家庭裁判所の裁量により適正な額が定められるのが一般的です。
遺言執行報酬および手続費用の支払いは、一般的に遺留分を侵害しない範囲において、相続財産(遺産)の中から経費として控除・支払いされる形が実務上多く採られています。
遺言執行者は就任拒否・辞任・解任できる?|民法上のルールと実務対応
遺言書で遺言執行者に指定されたとしても、必ず就任しなければならないわけではありません。遺言執行者の就任はあくまで任意であり、本人の意思により承諾しない(就任を拒否する)ことが法律上可能です。
なお、就任前(承諾前)であれば本人の意思で自由に拒否できますが、一度就任を承諾した後に辞任する場合には、家庭裁判所の許可が必要とされています。任務を開始した後に無責任に辞任してしまうと、相続手続が突然停滞し、相続人や受遺者に損害を与えるおそれがあるため、この点は民法第1019条により厳格な制限が設けられています。
例えば、遺言執行者に指定された場合でも、「自分には実務負担が重い」と判断すれば、就任を承諾しないことで拒否できます。他方で、一度引き受けた後に辞任する場合には、重い病気や長期の海外赴任といった「正当な事由」が必要とされ、その事情を証明したうえで家庭裁判所に許可される必要があります。
一方で、就任した遺言執行者が長期間放置するなど任務を怠っている場合や、特定の相続人に便宜を図るなど適格性を欠く場合には、利害関係人(相続人など)は家庭裁判所に対して解任を請求(解任申立て)することも可能です。
遺言執行者は、一度就任すると自己都合で簡単には辞任できない責任ある立場であり、その法的義務や責任の重さを事前に十分理解しておくことが重要です。
遺言執行者は代理・専門家への委任(復任)はできる?
「家族を遺言執行者に指定したいが、複雑な実務は専門家に任せたい」という場合に関係するのが、いわゆる「復任(復任権)」の問題です。
現在の民法では、遺言執行者は自己の責任において、第三者(弁護士や司法書士などの専門家等)に任務を行わせること(復任)が原則として認められています。
例えば、不動産の相続登記は司法書士、相続税申告は税理士、相続人間の調整や法的手続は弁護士にそれぞれ依頼するといった役割分担により、手続の正確性や進行の円滑化が期待できます。
ただし、第三者への委任が認められるといっても、遺言書の中で「第三者への復任を禁ずる」といった明確な意思表示がされている場合には、遺言者の意思に従う必要があります。
ここで最も重要なのは、実務を第三者(専門家)に委任した場合であっても、遺言執行者自身の最終的な責任や監督義務が消滅するわけではないという点です。依頼する専門家の選定や指示、業務の進捗確認、他の相続人への最終的な報告・説明といった対応は、引き続き遺言執行者の法的な役割として残り、実務上も重い責任を伴います。
専門家を活用する場合、委任する業務の範囲やその費用負担(誰が専門家費用を払うか)、報告ルートをあらかじめ明確にしておくことで、相続人間での事後的なトラブルを防止しやすくなります。
2024年からの新ルール!相続登記の義務化への対応
2024年(令和6年)4月1日より、改正不動産登記法に基づく相続登記の義務化が施行されました。この新制度により、相続人などが不動産を取得したことを知った日から原則として3年以内に相続登記(名義変更)を申請しない場合、正当な理由がない限り10万円以下の過料(行政上のペナルティ)が科される可能性があります。
これまでは手続の煩雑さなどを理由に名義変更が長期間放置されるケースも見られましたが、今後は期限内に対応しない場合、過料の対象となるリスクがあるため、早期の手続着手が極めて重要となります。
遺言執行者には、遺言の内容(特定財産承継遺言など)に基づき、一定の要件下で単独で登記申請を行う権限が認められる場面があり、こうした法定の期限内に滞りなく相続登記を完了させる実務対応力がより一層求められています。
過料のリスクを回避し、不動産を円滑かつ確実に次世代へ承継するためには、法改正の内容に精通した専門家(司法書士・弁護士等)の関与が、従来以上に重要となる場面が多いと考えられます。
相続登記の義務化や具体的な手続については、「相続登記とは|義務化はいつから?登記のやり方や必要書類一覧」で詳しく解説しています。
遺言執行者(資格)で迷ったときの整理ポイント
「親族を遺言執行者にして本当に問題ないか」「費用をかけても最初から専門家に任せるべきか」といった判断にあたっては、法律上の要件を満たしているかだけでなく、各家庭における「相続の難易度」「対立可能性」「手続のボリューム」といった複数の要素を総合的に考慮することが重要です。
まず絶対的な法律要件として、候補者が遺言執行者の欠格事由(未成年者や破産者)に該当しないかを確認します。これを見落とすと、どれだけ適任に思える人物であっても就任できず、家庭裁判所での選任やり直し等により手続が大幅に遅れる可能性があります。
次に、相続手続の難易度とボリュームの検討が必要です。不動産が複数ある、預貯金口座が多数にのぼる、事業用資産や特定の第三者への遺贈が含まれる場合など、手続量が多い相続ほど、正確な事務処理能力と日中の対応時間の確保が不可欠になります。親族が担う場合には、戸籍の収集や金融機関対応、不動産の相続登記といった役割分担を具体化し、現実的にこなせるかをシミュレーションしておくことが推奨されます。
さらに、相続人間における対立可能性の見積もりも重要です。遺留分侵害額請求が想定される場合や、長年疎遠な相続人がいる場合、前婚の子と後婚の配偶者がいる場合など、争点が生じやすい状況においては、第三者として中立性を確保できる体制の重要性が高まる傾向にあります。
判断に迷う場合には、「親族を遺言執行者としつつ一部の実務を専門家へ委任する方法」と、「当初から弁護士などの専門家を遺言執行者に指定する方法」のいずれが各家庭の実情に適しているかを比較し、何よりも手続が滞らない体制を優先して検討すると判断しやすくなります。「自分たちの家族に限って揉めることはない」といった先入観にとらわれず、客観的に状況を整理することが重要です。
遺言執行者を弁護士にするメリットとは?選ばれる理由
弁護士を遺言執行者に指定する価値は、単に面倒な書類作業を代行できるという点にとどまりません。相続実務においては、遺言の法的な解釈や遺留分侵害額請求、相続人間の感情的対立などが複雑に絡むため、手続が途中で停滞するリスクをいかに法的に管理し、予防するかが極めて重要なポイントとなります。
ここでは、遺言執行者を弁護士に指定する主なメリットを4つの視点から整理します。
紛争への対応力
遺留分侵害額請求や遺言の文言解釈をめぐる争いが生じると、当事者である相続人同士の話し合いだけでは手続が進みにくくなる傾向があります。
弁護士が遺言執行者であれば、事実関係の整理や争点の特定、客観的な説明資料の作成を通じて、交渉の土台を整えやすくなります。また、一部の相続人が非協力的な場合でも、法的にどの範囲まで遺言執行者の権限で単独進行できるかを正確に見極め、手続の停滞を回避することが可能です。
万一、家庭裁判所での遺産分割調停などの手続が必要となった場合でも、あらかじめ訴訟・調停手続を見据えた証拠保全と進行が可能となる点は、他の専門家にはない実務上の大きなメリットといえます。
身分上の手続きへの確実な対応
遺言による子の認知や相続人の廃除といった身分関係に関する手続は、複雑な戸籍対応や家事事件手続法に基づく家庭裁判所の関与、厳密な期限管理が必要となります。段取りを誤ると遺言者の目的が達成されない可能性があり、やり直しが利かないケースも少なくありません。
弁護士が遺言執行者となることで、手続の分岐点を的確に把握し、期限管理を含めた全体的な手続設計を安全に行うことが可能となります。
結果的なトータルコストの低減
弁護士の遺言執行報酬は一見高額に感じられることがありますが、相続において最もコスト(費用・時間・精神的負担)が増加するのは、手続の停滞ややり直し、そして紛争化による長期戦に発展した場合です。
初期段階から弁護士が法的な論点を整理し、手続を滞らせないことで、結果的にトータルの負担が抑えられるケースが多く見られます。
また、弁護士が総合窓口となり、必要に応じて司法書士(登記)や税理士(相続税申告)と連携して進行することで、相続人側のコミュニケーション負担を大幅に軽減できます。
第三者としての公平性の担保
相続人の一人が遺言執行者となる場合、どうしても利害関係の存在から中立性に疑問が持たれやすく、「財産を隠しているのではないか」といった疑念が残ることがあります。
完全な第三者であり、法律の専門家である弁護士が遺言執行者となることで、手続の透明性や説明責任が客観的に担保され、他の相続人の納得感につながりやすくなります。
全ての相続人に同一の情報を同時に共有し、判断の根拠を文書化して残すことで、無用な猜疑心によるトラブルを防ぐことが可能です。
まとめ
遺言執行者になるために、弁護士や司法書士などの特別な資格は必要ありません。民法1009条で定められる欠格事由(未成年者や破産者)に該当しない限り、原則として家族や友人を含め誰でもその任に就くことができます。
しかし、ここまで解説してきたとおり、財産目録の作成や金融機関への対応といった遺言執行の実務負担は決して小さくありません。加えて、2024年4月からの相続登記の義務化への適法な対応や、遺留分を巡る相続人間の感情的対立など、法律の専門知識がない一般の方のみでは対応や判断が難しい場面が生じる可能性も十分にあります。
「残される家族に手続の負担をかけたくない」「最後の自分の意思を、争いなく確実に実現したい」と考える場合には、中立性と高度な法的知識を備えた弁護士をあらかじめ遺言執行者に指定しておくことも、有力な選択肢の一つとして検討する価値があります。
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コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。