NFTと商標権侵害|メタバーキン事件

2021年以降、NFTへの関心が強くなり、LOUIS VUITTONやGUCCIといったラグジュアリーブランドもNFTに進出するようになってきています。

このようなラグジュアリーブランドは、リアルの世界では模倣品が摘発され、よく話題となっていますが、模倣品がNFTやメタバースで出品された場合、いかなる法的な問題があるでしょうか。

目次

メタバーキン事件と商標権侵害

米国での著名な事件で、メタバーキン事件というものがあります。

言わずと知れた、高級ブランドの代名詞である高級ブランドHermes(エルメス)が、同ブランドの代表作ともいえるバッグ「バーキン」をモコモコの毛で覆ったNFTコレクションをオープンシーというプラットフォーム上で販売し、「MetaBirkin」(メタバーキン)と称して販売等をした者に対し、商標権侵害等を理由として、その差止め等を求めて訴えを提起しました。

MetaBirkin

エルメスは、「BIRKIN」の文字商標及び「バーキン」の立体デザインについて、米国で登録商標を有しています。

エルメスは、被告が、メタバーキンNFTの販売等において、「BIRKIN」、「METABIRKINS」及び「HERMÈS」の文字商標、さらにバーキンのトレード・ドレス(消費者にその製品の出所を表示する、製品あるいはその包装等の視覚的な外観の特徴、コカ・コーラの瓶など)を使用していることなどにつき、商標権侵害等を主張しました。

商標権侵害となる2つの要件

米国の商標法上、商標権侵害が成立するためには、

  1. 原告が有効な商標を保有し、
  2. 被告の標章の使用により、その商品又はサービスの出所、後援関係又は承認関係について、消費者に混同を生じさせるおそれがあること

を満たすことが必要となります。

エルメスは、「BIRKIN」という文字及びバーキンのトレード・ドレスにつき、米国において登録商標を保有しているので、①は問題ありません。

問題となるのは、②「消費者に混同のおそれがある」か否かという点でした。

「消費者に混同のおそれがある」とは、商品の出所(当該商品を製造・提供するのは誰か)について、消費者に誤った認識を生じさせる可能性があることをいいます。

ニューヨーク州の連邦裁判所では、以下の事情を考慮して、「消費者に混同のおそれがある」か否かを判断します。

  • 原告の商標の強さ
  • 原告と被告の商標類似の程度
  • 商品の近接性
  • 原告が市場を拡大する可能性
  • 混同が実際に生じていること
  • 被告がその商標を選択する際の誠実性
  • 被告の商品の品質
  • 購入者の洗練性

リアルな商品の商標の効力は、バーチャル商品に及ぶか

エルメスは、これまで、自社でNFTを発行及び販売していませんでした。

そうすると、用途も市場も全く異なる仮想空間メタバースで、バーキンと同じ文字やトレード・ドレスが使用されていたとしても、リアルのバッグであるバーキンとメタバース上のバッグの形をしたNFT画像のバーキンがともにエルメスによって製造・販売されていると消費者に理解されるのか?という問題が生じます。

もし、そのように理解されない場合には、②の要件を欠き、商標権侵害とはなりません。

2022年6月時点では、まだ本訴訟の判決は出ていませんが、同様の訴訟は恐らく増加してくるため、注目の判決となります。

まとめ

NFTと商標権侵害については、日本における先例が乏しく、個別具体的な検討が必要です。

自社商標が他社のNFTによって侵害されている場合、あるいは、自社商品が他社の商標権を侵害している可能性がある場合には、弁護士にご相談ください。

日本での商標権侵害については、こちらのコラムをご参照ください。

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