この記事では、ドバイの税制メリットと課税リスクについて弁護士が解説します。

ドバイにおける税制上のメリットと留意点
ドバイにおいて法人を設立することで節税をすることはできるのでしょうか。答えはYESです。ドバイでは、個人所得税は無税であり、また法人税についても一定の条件を満たす場合には非課税となります。そのため、タックスプランニング次第では、ドバイ法人を活用することで税負担を低減させ税制上の恩恵を享受することが可能です。
ただし、課税リスクが一切ないというわけではなく、ドバイ法人税が適用される場合や日本の外国子会社合算税制との関係で日本において課税されるリスクなど留意すべき税務リスクが存在します。ドバイで法人を設立する場合には、これらの税務リスクを踏まえた上で、スキーム検討を行う必要があります。
以下、ドバイにおける課税リスクと日本における課税リスクに分けて解説します。
ドバイにおける課税リスクについて
ドバイにおける税制概要は以下のとおりです。
(1)個人所得税
ドバイでは個人所得税制度が設けられておらず、個人の所得に対する税金は無税となります。
(2)法人税
ドバイにおいては原則として法人税は課されていませんでしたが、法人税が2023年6月より導入され、法人の課税所得に対して税率9%の課税がされるようになりました。AED 375,000(約1,500万円)以下の小規模事業者は対象外であり、また、フリーゾーン企業については、施行規則が指定するすべての条件を満たす場合には免税とされます。
(3)付加価値税(Value Added Tax/VAT)
ドバイでは、消費税に相当する税金は存在しておりませんでしたが、2018年1月より、日本の消費税に相当する付加価値税(VAT)が導入されました。付加価値税の税率は5%とされています。
2023年6月に施行された法人税の対応が特に重要であり、フリーゾーン企業であっても法人税の適用を受ける場合があるため、法人税の適用を受けないようにするための体制構築が重要となります。
日本における課税リスクについて
ドバイにおいて法人を設立した場合の日本における課税リスクの概要は以下のとおりです。
(1)外国子会社合算税制
外国会社合算税制とは、低税率国にペーパーカンパニーなど事業実態の乏しい法人を設立することで日本での課税を潜脱することを防止するために、低税率国で設立された法人の利益について日本で課税する税制度です。例えば、ドバイにおいて法人を設立したとしても、当該法人がペーパーカンパニーなど事業実態に乏しい場合にはドバイ法人の利益について日本において課税されることになります。外国子会社合算税制では、「経済活動基準」という基準を元に日本での課税の可否が判断されますが、例えば以下のような基準が問題になります。
- 事業基準:主たる事業が株式の保有等、一定の事業でないこと
- 実体基準:本店所在地国に主たる事業に必要な事務所等を有すること
- 管理支配基準:本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること
- 所在地国基準:主として本店所在地国で主たる事業を行っていること
ペーパーカンパニーを設立だけする、駐在員の派遣や従業員の雇用を行わないなど、ドバイ法人の事業実態に乏しい場合、結局のところ日本において課税されることになるため、ドバイ法人を設立するにあたっては外国子会社合算税制に留意することが必須と言えます。
(2)起業家のドバイ移住が伴う場合の国外転出時課税
起業家がドバイに移住して事業を行う場合、国外転出時課税について留意する必要があります。国外転出時課税とは、平成27年7月1日以後に国外転出をする一定の居住者が1億円以上の対象資産(※いわゆる金融資産が主に対象となります)を所有等している場合には、その対象資産の含み益に所得税及び復興特別所得税が課税される制度です。起業家が日本で事業を既に立ち上げており、その保有する株式の含み益が多額である場合、株式を処分しキャッシュを手にしていないにも関わらず国外転出時課税によってその含み益に対して課税される恐れがあるため、注意する必要があります。なお、国外転出時課税制度には、納税猶予制度が存在するため、保有金融資産が多額である≠ドバイ移住不可というわけではありません。
(3) 日本税法上の居住者認定リスク
ドバイにおける個人所得税は無税ですが、ドバイと日本を行き来しながらビジネスを行う場合、日本税法上の「居住者」として取り扱われる結果、日本で個人所得税を課税される可能性がある点に留意する必要があります。
日本税法では、問題となる個人が、日本の「居住者」かそれとも「非居住者」かという点を基準に所得税の課税可否を判断する考え方を採用しています。
ドバイに移住してビジネスを行う場合、日本の居住者に該当すると判断されてしまうと、日本で所得税が課されるため予期せず税コストを負担することになりかねないため注意する必要があります。
では、どのような場合に起業家個人が日本税法上の非居住者に該当するのでしょうか。この点について日本の税法は、例えば日本国外滞在日数のみで判断するといった一律的な基準を採用しておらず、総合判断に基づき認定されるため、一概に説明することは難しいのですが、重要な点について絞って説明するとすれば、「個人の生活の本拠」及び「その人が現実に居住している場所」が外国にあると国税に説明できる必要があるため、少なくとも1年のうち半分以上はドバイに滞在すること、配偶者等がいる場合は配偶者等と共に移住すること等が強く推奨されます。
結語
ドバイの税制メリットに魅力を感じてドバイ法人設立やドバイ移住を決意する場合も多いかと思われますが、その場合であっても税務リスクは存在しています。ドバイ法人設立やドバイ移住については、適切なタックスプランニングが必須であり、専門家の支援を受けることが推奨されます。