ドバイでは、従来より、メインランド法人については監査済財務諸表の作成が義務付けられておりましたが、フリーゾーン法人については、財務諸表の作成が義務付けられるか否かは所在するフリーゾーンの規則や運用次第であり、財務諸表を作成しないフリーゾーン法人も数多く存在するというのが実情でした。しかし、2023年6月より導入された法人税を契機にフリーゾーン法人関する財務諸表の作成に関する実務上の対応が大きく変化しております。本稿では、ドバイにおける会計帳簿/財務諸表の作成義務について解説します。なお、以下は2023年12月時点の情報である点についてご留意ください。

法人税導入前の状況
従前、ドバイでは、全ての法人において財務諸表が作成されているわけではありませんでした。すなわち、メインランド法人については監査済み財務諸表の作成が義務付けられていたのに対して、フリーゾーン法人に関しては、法人が設立されたフリーゾーンごとの規制の内容や必要な対応が異なっており、フリーゾーンによっては財務諸表の作成が要求されませんでした。日本法人の子会社としてフリーゾーン法人が設立される場合、連結決算の対象となるため財務諸表の作成が必要となるケースも少なくありませんが、ドバイに移住し起業するようなケースでは、財務諸表を作成する必要性に乏しいケースが大半であり、財務諸表を作成していないフリーゾーン法人も数多く存在していました。
法人税導入後の状況
ところが、法人税が2023年6月に導入されてから、フリーゾーンに設立された法人についても会計帳簿及び財務諸表の作成が事実上必要となっております。ドバイに移住し起業するようなケースでも例外ではありません。その理由は主に以下の2点となります。
(1) ライセンス更新条件として財務諸表の提出
これまで財務諸表の作成を義務付けていなかったフリーゾーンが、財務諸表の提出をライセンス更新の条件とするよう運用を変更しております(IFZAなど)。ライセンスを更新できない場合、VISAについても失効してしまうため、ドバイで居住し続けるためには財務諸表の作成が必須となります。
(2) 中小企業救済の申請
法人税制度は2023年6月より施行されておりますが、中小企業救済制度(Small Business Relief)が存在しており、本会計年度及び前会計年度の売上がAED3百万以下の法人については、2026年12月31日前までに終了する会計年度の法人税が免除されます。
中小企業救済制度の申請は法人税申告と共に実施されるため、法人税申告の前提として財務諸表の作成が必須となります。
ドバイに移住し起業するようなケースでは中小企業救済制度の申請を行うことが通常であるため、財務諸表の作成が要求されることとなります。
財務諸表に対する監査の必要性
年間の売上がAED 50百万を超える法人又は適格フリーゾーン法人(Qualified Free Zone Person)に該当する場合を除いて、財務諸表の監査は必須ではありません。適格フリーゾーン法人に該当する場合、適格所得(Qualifying Income)については法人税が課されないこととなり、税務上有利に取り扱われる可能性がありますが、2023年12月現時点で公表されている条件のハードルは高く、ドバイに移住して起業するようなケースでは適格フリーゾーン法人に該当することを選択して税務上の恩恵を受けることは現実的ではありません。また、ドバイに移住して起業するようなケースでは年間売上がAED 50百万を超えるようなケースは稀です。そのため、ドバイに移住して起業するようなケースでは、通常、財務諸表の監査は要求されません。