店舗開店に投じた額の約2倍の立退料770万円を勝ち取った事例

東京都中央区、中高層のビルが立ち並ぶ地域にある鉄筋コンクリート造5階建てビル。約80㎡の1階部分の半分弱を利用し、年間1000万円を超える売上のマッサージ店。しかし、ビルには倒壊の危険があるとして、貸主から立退きを求められてしまいます。裁判所が770万円の立退料を認めたポイントとは?
裁判所が考慮した事実(東京地判平成24年8月27日)
① 倒壊の危険があり、建替え費用も高額だった…
本件建物は、築50年を超えるビルで、震度5強以上の地震が発生した場合中破(基礎のひび割れ等)する危険があり、場合によっては倒壊の危険もありました。また、耐震等の補修工事は建替費用に匹敵する費用が必要になる状況でした。老朽化は、多くの裁判例で検討されており、立退きの可否の判断では、非常に重視されているポイントの1つです。
② 貸主の再開発計画が具体的だった…
貸主は、本件建物の購入後すぐに借主に対して立退きを求めました。それなら、貸主は本件建物を買わなければよかったのに…という意見もあるかもしれません。
しかし、いずれにせよ、本件建物は建て替えの必要がある状況でした。貸主は、本件建物周辺の再開発計画を具体的に進めており、この計画を実現するためには、本件建物の取り壊しが必要でした。
このように、建替えの必要性と、貸主の利益は完全に一致する状況だったことも重視されました。逆に、再開発計画が具体的でなければ、立退きすら認められない場合もあります(東京地判平成25年1月25日など)。
③ 契約期間は短く、代替物件を見つけることも容易だった…
借主は、本件建物を約5年しか使っていませんでした。逆に、長年生活の基盤にしていた場合などには、立退料を高額にする事情として使うことができます(東京地判平成20年4月23日など)。
また、土地柄や業態的に、代替物件を見つけることも容易でした。逆に、代替困難な事情があれば、立退料を高額にするような事情として使うことができます(東京地判平成23年3月10日など)
④ でも、たくさん設備投資をしたし、休業損害も多額!
借主は、店舗を開店するにあたり、約400万円程度の内装費用を投じていました。このうち、移転後も使用可な物の費用を除いた約250万円が立退料に計上されました。
また、移転のために、営業ができなくなる期間があるとして、約140万円の休業補償が計上されました。これらに、借地権価額約350万円などを加えて、770万円の立退料が認められました。
弁護士が解説する立退料算定のポイント
本件において、立退料の算定にあたり、重視されたのは、設備投資と休業損害でした。このことから、内装等にたくさん費用を投じ、売り上げが大きく、移転に時間がかかる店舗ほど立退料が高額になりうることがわかります。立退料の算定においては、立退きによりどの程度損するのか、ということがポイントになってきます。