遺言執行者は単独で相続登記ができる|法改正と手続きの流れを解説

遺言執行者は、遺言の内容を実現するための手続きをする人です。
2019年に相続法が改正されたことで、これまで以上に遺言執行者ができることや義務が明確になりました。
今回は、法改正によって遺言執行者が単独で相続登記ができるようになった点などについて解説します。
目次
遺言執行者とは?
ここでは、遺言執行者について解説します。
遺言執行者を指定・選任する意味は?
遺言書に相続人廃除や認知について記載がある場合は、遺言執行者を指定または選任しなければ、遺言を執行できません。これに該当しなければ、遺言執行者を指定または選任しなくても、相続人や受遺者自らが手続きを進められます。
遺言執行者を指定または選任すると、共同相続人による不当な相続財産の処分を防ぎやすくなります。日頃から相続人同士の仲が悪く、相続手続きを進めていく上でトラブルが発生する確率が高い場合は、遺言執行者を指定・選任するメリットがあるでしょう。
遺言執行者はどんな権限があるのか?
遺言執行者には、民法1012条により遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言執行に必要な一切の行為をする権限が認められています。
具体的には、遺言の内容を実現するために必要な範囲で、主に以下のような手続きを行います。
- 遺言書の検認
- 相続人調査
- 執行対象財産の調査・管理
- 預貯金の払い戻し、分配
- 貸金庫の開扉、解約、内容物の取り出し
- 株式、自動車などの名義変更手続き
- 不動産の登記申請手続き
- 遺言認知の届出
- 相続人の廃除と取り消し(審判の申立て、届出)
上記のうち、遺言認知の届出と相続人の廃除と取り消しにかかる手続きは、遺言執行者でなければできません。
遺言執行者は誰がなれるのか?
遺言執行者は、未成年者および破産者に該当しなければ誰でもなれます。推定相続人を含む親族や友人、弁護士などの第三者も指定できます。
個人だけでなく、法人も遺言執行者になれます。遺言執行者に個人を指定した場合、その人が遺言者よりも先に死亡することもあります。この場合、相続開始前に遺言書を書き換えて新たに遺言執行者を指定するか、相続開始後に相続人等が家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てをしない限り、遺言執行者が不在の状態は解消できません。
遺言執行者を法人に指定しておけば、法人が消滅しない限り、その法人に在籍している人が遺言を執行できるので、遺言者不在のリスクを軽減できます。
遺言執行者を複数人指定したり、指定遺言執行者が死亡した場合の二次的な遺言執行者を指定したりする方法もあります。

遺言執行者は相続登記を単独申請できる
ここでは、遺言執行者は相続登記を単独申請できることについて解説します。
2019年の相続法改正で変更になった点は?
相続法改正までの扱い
遺産分割方法の指定として、遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人または数人に承継させる旨の遺言(特定財産承継遺言)がある場合、遺言者の死亡により直ちに相続人が当該遺産を確定的に取得するものとされ、相続人による単独の登記申請が認められています(最判平成3年4月19日)。
従来、判例では、遺言執行者には、不動産の登記手続きについて権利も義務もないと判断されていました(最判平成11年12月6日)。そのため、遺産に属する不動産について特定財産承継遺言がある場合、遺言執行者は、相続を原因とする所有権移転登記(以下、相続登記)を単独で申請できませんでした。
例えば、遺言書で「〇〇の土地と建物を長男Aに相続させる。遺言執行者はBとする。」と記載があったとします。従来は、相続人Aのみが土地と建物の相続登記の申請ができ、遺言執行者Bは申請ができませんでした。
相続法改正による変更点
2019年の相続法改正により、特定財産承継遺言がある場合も、遺言執行者が単独で相続登記を申請できるようになりました。従来通り、相続人による単独の登記申請も可能です。
このほか、遺贈を原因とする所有権移転登記の扱いも変わりました。遺贈とは、遺言により遺産の全部または一部を無償で又は負担を付して、他に譲与することです。
改正前は、遺言執行者がいる場合でも、遺贈を原因とする所有権移転登記は、受遺者(譲与を受ける人)と相続人全員による共同申請ができました。
2019年の法改正では、遺言執行者がいる場合の遺贈を原因とする所有権移転登記手続は、受遺者を登記権利者、遺言執行者を登記義務者とする共同申請(事実上、遺言執行者の単独申請)で行うものとされました。
遺言執行者がいるのに、受遺者と相続人が所有権移転登記を共同申請した場合には、当該登記は無効となります。
なお、不動産登記法の改正により、2023年4月1日からは、相続人に対する遺贈による所有権移転登記については、共同申請ではなく、受遺者である相続人の単独申請が可能となりました。
遺言執行者が相続登記を単独申請する流れは?
遺言執行者が相続登記を単独申請する流れは、通常の相続登記の申請と大きく変わるところはありません。通常の相続登記では、被相続人が出生から死亡までの繋がりが分かる戸籍謄本等が必要ですが、特定財産承継遺言に基づく相続登記では、被相続人の死亡の事実の記載がある戸籍謄本で足りるところが特徴です。
相続登記は、不動産の所在地を管轄する法務局へ所有権移転登記申請書(規定の書式あり)を提出して申請しますが、その際に下記のような添付書類が必要です。
- 遺言書
- (自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合は)家庭裁判所の検認済証明書
- (遺言書保管制度を利用していた場合は)遺言書情報証明書
- 被相続人の死亡の事実の記載がある戸籍謄本等
- 不動産を取得する相続人の戸籍謄本と住民票の写し
- 不動産の固定資産評価証明書(登記申請をする年度のもの)
- (遺言の効力発生後、遺言執行者が選任・指定された場合は)選任審判書または第三者の指定書
- 相続関係説明図(必須ではないが、戸籍謄本などの原本還付がスムーズにできる)
登記申請書に上記の書類を添付して、法務局の窓口へ提出するか郵送します。郵送申請をする場合は、登記完了後に戸籍謄本などの返却用の返信用封筒をつけましょう。
法務局の窓口で登記申請の受付を済ませると、その場で登記完了予定日が分かるので、それ以降に法務局の窓口へ行き、書類を受け取れば手続き完了です。ただし、書類に不備があった場合は修正する必要があるので、登記完了日があとにずれる場合もあります。
念のため、所有権移転登記ができているか、登記事項証明書を取得して確認するとよいでしょう。登記が無事に完了したことが確認できたら、その旨を相続人に報告します。
弁護士を遺言執行者に指定するメリットは?
ここでは、弁護士を遺言執行者に指定するメリットについて解説します。
遺言の内容が複雑な場合、スムーズに手続きができる
相続財産が多岐にわたる場合や相続人以外の人への遺贈が含まれるなど遺言の内容が複雑な場合、遺言執行者には相応の負担がかかります。
弁護士を遺言執行者に指定すれば、知識や経験に基づきスムーズに手続きを進められるので、相続人に負担をかけずに済みます。
専門的かつ中立的な立場の弁護士であれば、相続人間のトラブルが避けられる
遺言執行者は、未成年者や破産者でなければ誰でもなれるので、推定相続人も遺言執行者に指定できますが、将来のトラブルの火種になることもあります。
弁護士を遺言執行者に指定すれば、専門的かつ中立的な立場で遺言執行を進められるので、相続人間の対立や紛争のリスクを軽減できます。

まとめ
2019年の相続法改正に伴い、これまで曖昧だった遺言執行者の立場や権限が明確になりました。相続登記を遺言執行者が単独でできるようになったのは、とても大きなポイントです。
被相続人が遺言書を作成していたけれど、遺言執行者が指定されていなくてどうしたらいいのか悩んでいるなら、弁護士にご相談ください。
ネクスパート法律事務所には、多くの相続案件を手掛けてきた弁護士が所属しているので、スムーズに手続きを進められます。
遺言執行者は、弁護士個人だけでなく法人そのものを指定することもできます。弁護士法人ネクスパートを遺言執行者にしておけば、安心です。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。