離婚時に取り決めを行った養育費が支払われなかったり、遅延が続いていたりと悩まされている方もいます。離婚後もお金をめぐる問題が続くことにストレスを感じ、再度弁護士へご相談に来られる方も少なくありません。そこで、今回は養育費の「強制執行」をテーマにメリット・デメリットも踏まえながら解説していきます。養育費に悩んでいる方はぜひお役立てください。
離婚や不倫問題にお悩みの方は、おひとりで抱え込まず、ネクスパート法律事務所にご相談ください。ご相談者様の問題解決に向けて、当事務所の弁護士が全力でサポートいたします。
目次
養育費の強制執行とは
養育費の問題に悩まされている方は、強制執行にご関心がある人も多いでしょう。本来は離婚時に協議や調停を行い、きちんと養育費に関しても合意を得たはずなのに、督促を重ねても支払われないケースは後を絶ちません。
督促を行っても養育費が一向に支払われない場合には強制執行を検討してみましょう。養育費の強制執行とは、離婚時の協議・調停・審判において公正証書や審判書によって定めた養育費が支払われなかった場合に「支払う義務のある人の財産を差し押さえて、強制的に支払いをしてもらうこと」を言います。
養育費以外にも婚姻費用の支払を受けるために強制執行が行われることもあります。離婚の調停や審判は家庭裁判所で手続きを行いますが、強制執行は地方裁判所へ申立てをします。
強制執行と差し押さえの違い
支払われない養育費を回収するためには、強制執行の他に差し押さえという用語が使われることもあります。使われ方が類似している用語ですが、強制執行は「強制的に財産を回収する」、差し押さえは「財産の勝手な処分を禁ずる」ものです。
強制執行は以下の三段階で行われます。
- 差し押さえ(財産を確保し、勝手に処分されないようにする)
- 換価(金銭に換える)
- 満足(債権者に金銭を渡す)
差し押さえは強制執行の最初の段階ということになります。例えば財産とみなせるような不動産、車、貴金属などがあれば、差し押さえをするとまずは勝手な売却が禁じられることになります。
養育費の未払いを回収するケースでは、すぐに現金を回収したい方が多いので給与や預貯金を強制執行することが多くなっています。
強制執行でできること
養育費の回収のために強制執行を行う場合には、どんなことができるのでしょうか。養育費の強制執行では次の2つのメリットがあります。
①給与や預貯金を差し押さえることができる
養育費の回収のために強制執行を行う場合、元パートナーの給与や預貯金を差し押さえることができます。ただし、未払いの養育費が多額の場合であっても給料の全額は差し押さえできません。
未払いに苦しんでいる側としては一刻も早く回収したいですが、給与生活者にとって給与がすべて差し押さえられてしまうと困窮してしまうため、回収には限度額が法的に設定されているのです。
原則として給料から税金と社会保険料と通勤手当を引いた金額の2分の1、もしくは金額の2分の1が33万円を超えたら、上限は33万円までしか回収できません。
②将来の養育費も差し押さえできる
強制執行を行う場合未納の養育費に加えて、今後支払ってもらう予定の養育費も併せて差し押さえをすることが可能です。
すでに督促を行っても養育費を支払ってもらえない状態が続いているので、併せてお子様の未来のための手続きも行っておくことがおすすめです。
養育費の強制執行をするために必要な書類
督促を重ねても一向に養育費の支払い状況が改善されない場合には、強制執行の準備を始めましょう。この項では強制執行に必要な書類について解説します。
債務名義
強制執行を裁判所に申立てをする場合には、債務名義を準備する必要があります。債務名義とは養育費を請求できる権利がある、と裁判所に証明を行うために必要です。離婚時に作られた下記の書類をまずはご用意ください。
- 公正証書(執行認諾文言が必要です)
- 離婚調停の際に作られる調停調書
- 離婚の審判の際に作られる審判書
- 判決にまで至った場合には和解調書もしくは判決正本
以上の書類が債務名義としてご利用できます。ここで問題なのが、「こうした書類を離婚時に作成していない」場合です。離婚の際に弁護士に依頼をしておらず、養育費に関して口約束の状態で離婚している方は公正証書もないケースがあります。
また、公正証書があっても執行認諾文言が無い、離婚の際に行政書士などが作った離婚協議書しかない場合には債務名義にすることはできません。債務名義に使える書類がお手元にない場合には、「まずは債務名義を作る」必要があるのです。
送達証明書
送達証明書とは、上記で解説した債務名義に使える書面が元パートナー側に「正本」が届けられたことを証明するものです。謄本ではなく、正本ですので注意しましょう。
この証明書は公正証書なら公証役場、その他は家庭裁判所に申請をすれば受け取ることができます。送達証明書は元パートナーが養育費を本来は支払う義務があることを知っている、という証明になります。
その他
強制執行の申立てにはこの他に、戸籍謄本や住民票(戸籍の附票でも可)、給与の差し押さえを目指す場合には勤務先の法人の資格証明書(登記事項証明書や代表者事項証明書の原本)が必要です。
養育費を強制執行するデメリット
養育費を回収したいとお考えの場合には強制執行にメリットを大きく感じるはずです。では、養育費の強制執行にはデメリットは無いのでしょうか。デメリットには次の2つが挙げられます。
手続きが複雑で自力だと難しい
養育費の強制執行の手続きは、ご自身で行うことも可能です。地方裁判所では申立てに関する窓口もあり、書記官に相談を重ねながらご自身で申立てを行うことができます。しかし、強制執行に関する手続きは複雑で、先に触れたように必要書類も多く自力で行うのは大変難しい手続きです。
強制執行で元パートナーの給与を差し押さえたい場合には、勤務先を把握して法人の資格証明書も用意しなければなりません。離婚後年月が経ち、勤務先や住所が変わってしまっている場合には調査期間も要するため、大変困難な手続きでしょう。
相手と対立しやすい
強制執行は、大変効力のあるものです。特に給与や預貯金を差し押さえる場合には、相手の生活を一変させてしまう可能性があります。もちろん養育費の未払いはお子様のために必要な資金ですが、元パートナーと別の問題が勃発する可能性があります。
面会交流などの在り方にも影響するというデメリットも踏まえたほうが良いでしょう。強制執行は強制的に財産を没収するような仕組みのため、火に油を注ぐような事態も想定されます。元パートナーの性格や現在の生活状況なども踏まえて行うことが望ましいでしょう。
養育費の強制執行でお金がとれない場合
養育費の強制執行は効力のあるものですが、必ずしも回収が成功するとは限りません。回収ができないようなケースもありますので紹介します。強制執行でも養育費の回収ができないケースには次のような2つの場合が考えられます。
①お金がない、困窮しているケース
養育費の支払い義務は自己破産をしても免責にはなりませんが、支払う義務が残されていても自己破産や病気などを理由に収入が途絶えてしまっていたら事実上回収ができません。
②再婚に伴う養育費の軽減を求められるケース
すでに再婚され、お子様を新たなパートナーと養子縁組をした場合、親権者と新しい親が扶養をする義務が発生します。すると、養育費を支払うべき元パートナーは養育費支払の軽減を求めてくる可能性があります。
・養育費は再婚したら貰えない?相手が再婚した場合や減額になるケース
お金が取れなかった場合の対処
養育費の回収ができなかった場合、まずは弁護士に相談をしましょう。自己破産や病気などが原因にある場合には、一定期間をあけて再度強制執行を行うことも考えられます。
また、元パートナーのご身内に相談をし、子どものための養育費を支払ってほしいと相談をすることも対処法の1つです。お子様のために粘り強く解決方法を探っていきましょう。
まとめ
この記事では養育費の強制執行についてメリット・デメリットの視点も踏まえながら解説しました。現在養育費でお悩みの方に参考になれば幸いです。養育費や強制執行に関するご質問やご依頼は、お気軽に当事務所までご相談ください。