離婚を決意しても、相手との話し合いがスムーズに進むとは限りません。
夫婦間の協議(協議離婚)や家庭裁判所での調停(調停離婚)を試みても、どうしても合意に至らない場合、最終手段として選ばれるのが離婚裁判です。
この記事では、離婚裁判とは何か、流れや費用、メリットデメリット、調停離婚との違いなどを解説します。
目次
離婚裁判とは
離婚裁判とは、夫婦間で離婚条件や離婚そのものについて話し合いや調停を重ねても合意に至らない場合に、最終的な決着をつけるために家庭裁判所へ訴訟を起こす手続きです。
離婚裁判は裁判離婚とも呼ばれ、判決によって強制的に結論が出されるのが特徴です。
協議離婚や調停離婚では、当事者双方が合意しなければ離婚は成立しません。
しかし、裁判では、提出された証拠や証言をもとに客観的な判断を下し、合意がなくても離婚の可否が決まります。
なお、離婚裁判は突然始められるものではなく、原則として調停を経てからでなければ訴訟を提起できません。それを調停前置主義と呼びます。
つまり、協議離婚 → 調停離婚 → 裁判離婚という順序を踏むのが基本です。
裁判離婚と調停離婚の違い
離婚の裁判も調停も、ともに家庭裁判所で行われるものです。両者の違いは下記の表をご覧ください。
項目 | 裁判離婚 | 調停離婚 |
行われる場所 | 家庭裁判所・公開の法廷 | 家庭裁判所・非公開の調停室 |
離婚の成立方法 | 裁判官の判決による強制的決定 | 調停委員の仲介で双方が合意して成立 |
離婚の条件 | 民法上の法定離婚原因が必要 | 双方の合意があれば理由を問わない |
所要期間の目安 | 約1〜2年 | 数か月〜1年程度 |
おおよその費用 | 弁護士費用・裁判費用で数十万円〜100万円以上 | 数万円〜十数万円(弁護士なしなら安価) |
離婚不成立時にどうなるか | 判決が出る(控訴可能) | 不成立の場合、訴訟へ移行 |
調停は家庭裁判所で行われる話し合い、裁判は、裁判を起こした者(原告)の主張に対して判決を下すものだと考えるとわかりやすいでしょう。
離婚裁判の流れ
離婚裁判の流れは、調停が不成立になった後に始まります。
話し合いや調停で合意できなかった場合、裁判所に訴えを起こし、最終的には裁判官が判決を下すことで決着がつきます。以下に、具体的なステップを解説します。
調停の不成立
離婚裁判を起こすためには、事前に家庭裁判所で調停を行い、それでも話し合いがまとまらなかったことが前提条件となります。
調停は第三者である調停委員を交えて進められますが、当事者間の歩み寄りが難しい場合は調停不成立となります。
【参考:離婚調停が不成立になる割合とその後の流れ】
家庭裁判所に訴状の提出
調停が不成立になると、原告側(離婚を求める側)は家庭裁判所に訴状を提出します。
訴状には離婚を求める内容や理由、必要な証拠などを添付します。提出後、裁判所は訴状を受理し、被告(相手方)に送達します。
第1回口頭弁論期日の調整
裁判所は訴状の受理後、第1回口頭弁論の日程を調整します。被告側から訴状に対する答弁書が提出され、これを基に争点が整理されます。
期日は通常、訴状提出から1〜2か月後に設定されることが多いです。
口頭弁論
口頭弁論では、双方が主張を述べ、証拠を提出し、裁判所が争点を整理します。
離婚裁判は通常、1回では終わらず、複数回の期日が設けられ、双方の主張や証拠のやり取りが繰り返されます。
証人尋問
必要に応じて証人尋問が行われます。証人は親族や知人、専門家などで、夫婦の生活実態や離婚原因に関する証言を求められることがあります。
当事者本人が証言台に立つ、本人尋問も行われることがあります。
和解勧告
裁判所は判決前に、和解による解決をすすめることがあります。
これは双方が裁判所の提案を受け入れれば、判決を待たずに裁判が終了する仕組み(和解離婚)です。
ただし、合意できない場合は引き続き審理が行われます。
判決
全ての審理が終わると、裁判官が判決を言い渡します。
この判決により、離婚が認められるかどうかが最終決定されます。判決に不服がある場合、控訴(上訴)することも可能です。
控訴が認められた場合、高等裁判所で、一審の判決の見直しが行われます。
【参考:離婚裁判(離婚訴訟)の流れと平均期間】
離婚裁判のメリットとデメリット
離婚裁判には、他の手段にはないメリットがありますが、同時にデメリットも存在します。以下でそれぞれ整理していきます。
メリット
【相手の意思に関係なく離婚が成立する可能性がある】
協議離婚や調停離婚では相手の合意が必須ですが、裁判離婚では民法上の法定離婚原因が認められれば、相手が拒否していても離婚が認められる可能性があります。
【明確な証拠があれば優位に立てる】
不貞行為や悪意の遺棄など、法定離婚原因を立証できる証拠を提出できれば、原告側に有利な判断が下されることがあります。
【判決には法的拘束力がある】
裁判所の判決には法的拘束力があります。これは、判決が出れば、当事者が納得していなくても、その内容に従わなければならないという意味です。
裁判所が離婚を認めたり、慰謝料の支払いを命じたりした場合には、それを拒否することはできません。
特に、金銭の未払いに関しては強制執行も可能です。つまり、裁判所の判決には強い効力があるのです。
デメリット
【離婚までに期間を要する】
離婚裁判は複数回の審理が行われるため、一般的に1年から2年程度の時間がかかります。
【弁護士費用・裁判費用がかかる】
裁判を進めるには訴訟費用のほか、専門的な手続きのために弁護士費用が必要になる場合があります。
【第三者に判断を委ねることになる】
最終的な判断は裁判所が下します。当事者間の意向がすべて反映されるわけではなく、望まない結果になることもあります。
【精神的負担が大きい】
長期の裁判手続は、当事者にとって精神的な負担となります。証人尋問や本人尋問を伴う場合は特に緊張を強いられる場面もあります。
【必ずしも離婚が成立するわけではない】
裁判を起こせば必ず離婚が認められるわけではありません。法定離婚原因が認められない場合、請求は棄却される可能性があります。
離婚裁判にかかる費用
離婚裁判を進める際には、主に弁護士費用と裁判所に支払う費用が発生します。以下で、それぞれの費用について説明します。
弁護士費用
項目 | 相場の目安 |
相談料 | 無料〜1時間あたり1万1,000円程度 |
着手金 | 20万円〜40万円程度 |
成功報酬 | 経済的利益の10〜20%程度 |
合計の目安 | 40万〜80万円程度(相談・着手・報酬を含む) |
※経済的利益とは、慰謝料・財産分与・養育費などによって得られる金銭的成果を指します。
離婚裁判にかかる弁護士費用は、事務所や事案の内容によって異なります。
収入等の条件を満たす場合、法テラスの費用立替制度を利用することで、経済的負担を軽減することが可能です。詳細は、各事務所の公式サイトや法テラスのウェブサイトでご確認ください。
【参考:離婚の弁護士費用は誰が払うの?相手に請求することはできる?】
裁判所の費用
離婚裁判にかかる裁判所への費用は、次のとおりです。
項目 | 金額の目安 | 補足説明 |
収入印紙代 | 約1万〜2万円程度(※) | 離婚請求の内容(財産分与・養育費・慰謝料等)により増減。請求額に応じて段階的に加算される。 |
郵便切手代 | 数千円程度 | 裁判所からの書類送付に使用。金額は裁判所によって異なるため、事前確認が必要。 |
戸籍謄本取得費 | 1通あたり450円程度 | 離婚請求に必要な戸籍謄本の発行手数料。通常は1〜2通程度を準備。 |
※詳細な計算は裁判所の【手数料額早見表】で確認できます。
これらの裁判所費用は弁護士費用とは別途必要になるため、事前に総額を把握して準備しておくことが重要です。
【参考:離婚裁判にかかる費用と弁護士費用の相場】
離婚裁判で負ける理由は?
離婚裁判で「負ける」というのは、原告側の離婚請求が認められず、離婚が成立しないことを意味します。
裁判で離婚が認められるかどうかは、民法第770条に基づく法定離婚事由の有無が重要な判断基準になります。以下では、離婚裁判で負ける代表的な理由を整理します。
【有責配偶者からの請求】
民法上、有責配偶者からの離婚請求は、原則として認められません。有責配偶者とは、不貞行為やDVなど離婚の原因を作った側のことをいいます。
【法定離婚事由がない場合】
裁判上の離婚は、民法第770条で定められた以下の事由がないと原則認められません。
- 配偶者の不貞行為
- 配偶者からの悪意の遺棄(生活費を渡さない、一方的な別居など)
- 配偶者の生死が3年以上不明
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
- その他婚姻を継続し難い重大な事由(例:DV、深刻な金銭問題など)
※精神病については法改正により2025年中に削除予定
なお、性格の不一致は離婚理由として最も多く挙げられますが、それだけでは重大な事由と認められないことが多く、証拠や具体的な事情が必要になります。
【参考:離婚裁判で負ける理由と離婚できる確率|負けた場合離婚できない?】
離婚裁判中にやってはいけないこと
ここでは、裁判中に避けるべき行為を整理します。
これらの行為を行うと、裁判で不利になったり、逆に相手から損害賠償や慰謝料を請求される可能性があります。
【嘘をつく・証拠をねつ造する】
裁判では証言や提出書類の信用性が非常に重視されます。
事実と異なる内容を述べたり、証拠を偽造すると、裁判官の心証が著しく悪化するだけでなく、偽証罪(刑法第169条)や私文書偽造罪などの刑事責任を問われる可能性があります。
【配偶者を侮辱・誹謗中傷する】
感情的になって相手の悪口をSNSやインターネット上に書き込んだり、周囲に言いふらすことは名誉毀損(民法第709条、不法行為)やプライバシー侵害に該当する可能性があります。
相手から慰謝料を請求されることもありますので、発言・投稿には細心の注意が必要です。
【無断で子どもを連れ去る】
裁判中は親権や監護権が確定していません。相手に無断で子どもを連れ去ったり、勝手に面会を妨害すると、親権の判断において不利になる場合があります。
さらに、行為の内容によっては未成年者略取誘拐罪(刑法第224条)に問われるリスクもあります。
【財産を使い込む・隠す】
財産分与の対象となる預貯金や不動産、株式などを勝手に処分したり、名義を変えて隠す行為は、裁判で不利な材料となります。
不正な財産隠しが発覚すれば、損害賠償や不利益な分与判断が下されることもあります。
【裁判所からの連絡を無視する】
期日の通知や書類提出の要請を放置すると、欠席裁判扱いになり、不利な判決が出されるおそれがあります。裁判所からの連絡には迅速かつ適切に対応することが重要です。
【離婚成立前に他の異性と関係を持つ】
法律上、離婚成立までは婚姻関係が続いています。別居中であっても他の異性と肉体関係を持つと不貞行為とみなされ、慰謝料を請求される可能性があります。
また、裁判全体の流れに悪影響を及ぼすリスクもあります。
離婚裁判に関するよくある質問
離婚裁判の現実とは?
離婚裁判では、原告の主張だけでは足りず、それを裏付ける明確な証拠が厳格に求められます。
個々の感情や思いの強さは考慮されず、法的な要件や証拠に基づいてのみ判断される現実があります。
離婚裁判では顔を合わせる?
原則として、離婚裁判では裁判所に両者が出廷することがあります。
ただし、証人尋問や弁論など重要な場面を除き、弁護士が代理するため、常に当事者同士が顔を合わせるわけではありません。
離婚裁判は弁護士なしでできる?
法的には弁護士なしでも本人が訴訟を行うことは可能です。
ただし、裁判手続きは複雑で専門的知識が求められ、法的主張や証拠の提出などを自力で行うのは非常に困難です。そのため弁護士のサポートを受けるのが一般的です。
【参考:離婚に強い弁護士の探し方のコツは?チェックポイントを解説】
まとめ
離婚裁判は、協議や調停を経ても離婚合意に至らない場合の最終手段です。裁判では法的要件や証拠をもとに裁判官が判断を下し、感情や個人的事情は考慮されません。
メリットとしては、相手の意思に関係なく離婚成立が可能で、判決には法的拘束力があります。
しかし一方で期間や費用の負担、精神的負担も大きく、必ずしも勝訴できるとは限らない現実があります。
裁判を検討する際は、費用感や流れ、リスクを正しく理解し、可能であれば弁護士の助言を得ながら慎重に進めることが重要です。