未成年の子どもがいる夫婦が離婚する際は、どちらか一方を親権者に決める必要があります。
基本は夫婦の話し合いで決めますが、決まらない場合は調停や裁判で判断されることもあります。
日本では母親が親権を得る例が多い一方で、父親が選ばれるケースもあります。
ここでは、親権の決め方や裁判所の判断基準、子どもの意思が影響するのかなどを解説します。
【参考:親権者とは|親権者になれる人や意味をわかりやすく解説】
目次
離婚時の親権の決め方は?
離婚時の親権の決め方について説明します。基本は夫婦での話し合いですが、それだけで決まらない場合は、調停や裁判を利用することもあります。
夫婦の話し合いで自由に決められる
離婚時の親権者は、基本的に夫婦の話し合いで自由に決めることができます。
誰が親権を持つかは、家庭内の状況や子どもの養育環境を踏まえて、双方が納得できるよう話し合うことが重要です。
協議離婚の場合は、離婚届に親権者を記載しないと受理されないため、必ず合意が必要です。
親権者だけでなく、養育費や面会交流もセットで話し合いましょう。
話し合いで決まらない場合は調停・裁判へ
夫婦での話し合いで親権を決められなかった場合には、調停や裁判を行います。
【調停】
話し合いで親権者が決まらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
調停は、裁判官や調停委員が間に入り、解決を目指す話し合いの場です。
親権に関する調停では、子どもの福祉や養育環境、経済状況などを考慮して助言が行われます。
あくまでも合意が前提なので、双方が納得すれば調停成立となります。
【裁判】
調停でも合意に至らなければ、最終的に裁判(審判・訴訟)で決着をつけることになります。
裁判所は、子の利益を最優先に、どちらが適切に養育できるかを判断します。
育児実績、生活環境、親の精神的・経済的安定性などが重要な要素です。兄弟姉妹がいる場合は、できるだけ一緒に育てるべきという考え方も重視されます。
【参考:離婚調停の流れ・費用・弁護士に依頼するメリットを解説|Q&Aも紹介】
共同親権は不可(2025年現在)
2025年現在、日本では離婚後に父母が共同で親権を持つ共同親権は認められておらず、必ず父または母のどちらか一方が親権を持つ単独親権となります。
共同親権であれば、進学や医療手続きなど子どもに関する重要な判断を両親で行うことができますが、離婚後は親権者でない親にその権限がありません。
今後、法改正により共同親権の導入も検討されていますが、現時点では単独親権が原則です。
【参考:離婚後の共同親権の導入で何が変わる?制度の概要をわかりやすく解説】
離婚時の親権はどっちが有利?
一般的に有利とされやすいのは母親
離婚時の親権については、一般的に母親が有利とされる傾向があります。
特に子どもがまだ小さい場合、母親が主に育児を担っていたと見なされやすく、子の福祉の観点からも継続的な環境の維持が重視されます。
加えて、乳幼児期は母親との精神的結びつきが強いとされ、親権を母親に与える判断がされやすい傾向にあります。
もちろん、これは絶対ではなく、父親が主に養育していた場合などには、父親が親権を獲得するケースもあります。
2020年に父・母が親権を獲得できた割合
人口動態統計を見ながら、2020年に離婚した夫婦で、母親が親権を取れた件数と、父親が取れた件数を表で紹介します。
2020年に離婚した夫婦の親権について
子どもの人数 | 1人 | 2人 | 3人 |
離婚件数 | 51406 | 41883 | 18046 |
妻が親権 | 44690(86.9%) | 35171(84%) | 14430(80%) |
夫が親権 | 6716(13.1%) | 4618(11%) | 1792(9.9%) |
その他 | 2094(5%) | 1824(10.1%) |
太字になっている部分は、子ども2人、もしくは3人全員の親権を獲得したケースを表しています。
母親が親権を取れない事例
母親が親権を取れないケースも一定数存在します。たとえば、以下のケースです。
- 母親が育児を放棄していた
- 子どもへの虐待が疑われる
- 精神的に不安定である
- 収入が極端に不安定で生活基盤が脆弱である など
上記のようなケースでは、父親に親権が認められる可能性があります。
加えて、子どもがある程度の年齢に達していて、父親との生活を強く望んでいるような場合も考慮されます。
前提として、親権は、親の権利ではなく、子の利益を守るためのものであることを忘れてはなりません。
【参考:母親が親権争いで負ける理由|父親が親権を持つパターンとは】
裁判所が親権者を決める際のポイントは?
夫婦の話し合いで親権者が決まらなかった場合、最終的には裁判所が親権者を決めることになります。
ここでは、裁判所が親権者を決める際の判断ポイントを紹介します。
どちらが主体となって子育てをしてきたか
裁判所は、これまで実際にどちらが主に子育てを担っていたかを重視します。
たとえば、食事の準備や送り迎え、病院への付き添いなど、日常の育児をどちらが行っていたかが判断材料になります。
形式的な収入の多さよりも、子どもの生活にどれだけ関わっていたかが重要です。
子どもと結びつきが強いのはどちらか
裁判所は、親と子どもの間にある精神的な絆の強さも考慮します。
日頃からの信頼関係や安心感の度合い、子どもが自然に甘えられる相手はどちらかといった点が見られます。
親子の信頼関係が強いほうが、子どもの成長にとって好ましいとされます。
子育て環境がより安定している方
住居や収入の状況、教育環境、実家や親戚からの支援体制などを総合的に見て、子どもにとってより安心して暮らせる環境を整えられる親が有利です。
単に収入が多いだけではなく、継続的に安定した養育が可能かが問われます。
兄弟姉妹が離ればなれにならない方
兄弟姉妹がいる場合、裁判所はできるだけ同じ家庭で育てることが望ましいと考えます。
きょうだいの絆や精神的な安定のためには、一緒に暮らす方が良いという考え方が基本です。特別な事情がない限り、同じ親のもとでの生活が優先されます。
子ども本人の希望も考慮される
子どもが10歳以上であれば、その意思も一定程度尊重されます。
特に12歳以上になると、本人の意向が親権者の判断に大きく影響することもあります。
ただし、子どもの意見が必ず通るわけではなく、環境や親の状況も含めて総合的に判断されます。
離婚時の親権を子供自身が決めることはある?
子ども自身に親権の決定権はない
先ほども説明した通り、子どもの希望が親権者の決定に影響を及ぼすことはありますが、子ども自身に決定権があるわけではありません。
親権を誰が持つかは、基本的に親の話し合い、または家庭裁判所の判断によって決められます。
未成年の子どもに、法的な決定権は与えられていないのです。
年齢により子どもの意見が重視されることもある
子どもがある程度の年齢に達していれば、その意見が親権者を判断する際の重要な材料になることがあります。
特に10歳以上、なかでも12歳以上になると、家庭裁判所は子どもの意思を尊重する傾向が強くなります。
裁判所調査官が子どもと面談し、希望や感情を丁寧に確認することもあります。
子どもに選択を迫るような事はしてはいけない
たとえ家庭裁判所が子どもの意思を参考にするとしても、親が「どっちと住むか決めなさい」などと選択を迫ることは避けるべきです。
親に気を使って本心を言えなくなったり、精神的に強い負担を感じたりするおそれがあるためです。
子どもの気持ちを尊重しながらも、判断は大人が責任を持って行うべきです。
【参考:離婚前にやってはいけないこと|不利になる言葉・やることリストを紹介】
離婚時の親権は何歳まで続く?
親権は子が18歳を超えたら終了する
親権は、子どもが18歳に達した時点で自動的に終了します(民法818条2項)。
2022年の民法改正により、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたため、現在は18歳で親権は終了します。
親権が終了すると、子どもは完全な大人として法律上の権利を持ち、自分自身で契約や進学、就職の決定を行えるようになります。
親権が持つ具体的な権利とは
親権には、未成年の子どもを適切に育て、保護するために必要な権限が含まれています。主に以下の2つの権利に分けられます。
- 身上監護権:子どもの居所の決定、進学や医療など日常生活に関わる判断・管理を行う権利。
- 財産管理権:未成年の子どもが持つ財産を親が代わって管理し、必要な契約や手続きを行う権利。
これらは、子どもが成人するまでの間、親が代わって生活や財産を守るためのものです。
戸籍・血縁上の親子関係は継続する
戸籍や血縁による親子関係は、親権終了後も継続します。
ただし、親権がない状態では、子どもの居所を指定したり、進路を決めたり、財産管理を行ったりすることはできません。
たとえば、進学先を強制することも、通帳を取り上げて管理することも、法的には認められません。
子が18歳を過ぎたら、親は管理者ではなく、支援者として関わることになります。
離婚時の親権と養育費の関係について
離婚時に親権者とならなかった方の親は、親権者に対し、養育費を支払わなければなりません。
ここでは、親権と養育費の関係を解説します。
親権者でない方は養育費を払う
親権を持たない親であっても、子どもの生活費を分担する責任があります。これが養育費といいます。
養育費の内訳は、食費・衣服費・教育費・医療費・住居費など、子どもが成長するために必要な費用です。
養育費は子どもに対する権利であり、親権とは別問題です。
よって、親権者が「養育費はいらない」などと主張しても、基本的には認められません。
養育費は子どもの権利に基づくものであり、原則として親の合意のみで放棄することは望ましくないのです。
【参考:養育費の取り決めについて弁護士相談をお勧めする理由】
養育費の金額は養育費算定表を参考にする
養育費の金額は夫婦で自由に決めることができますが、家庭裁判所が公表している養育費算定表をもとに算出するのが一般的です。
この算定表では、支払う側と受け取る側の収入や子どもの人数・年齢などを基準に目安となる金額が示されています。
気になる人は一度算定表を確認してみてください。
【参考:養育費算定表 – 裁判所 】
養育費は子が成人するまで払うのが基本
養育費の支払い期間は、通常は子が18歳になるまでが基本です。
これは2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられたことによります。
ただし、実務上は高校卒業の年(18歳の3月末)までとされることもあります。
子どもが大学などに進学する場合、当事者の合意により22歳の3月まで養育費を支払うケースもあります。
進路や経済状況を踏まえて柔軟に決定されます。
まとめ
離婚時には、未成年の子どもの親権者を父母のどちらか一方に決める必要があります。
基本は夫婦の話し合いですが、決まらなければ家庭裁判所が判断します。裁判所は子育て実績や生活環境の安定性などを総合的に見て親権者を決めます。
しかし、実際には母親が親権を得るケースが多く、特に子どもが10歳以上になると本人の意向も重視されます。
親権を巡って悩む場合は、早めに弁護士へ相談しましょう。