小さなお子様がいる夫婦が離婚した場合には、一般的に母親が親権を獲得するケースが多く、父親の親権獲得は不利であると言われています。

その背景には、父親が子どもと触れ合う時間が少ないという日本の家庭事情が強く影響しています。母親は専業主婦、もしくは時短などの働き方で子育てに専念し、父親がフルタイムの働き方をしているケースが多いため、子どもと触れ合う時間が父親の方が圧倒的に短いです。

普段の子育てを母親メインで進めている以上、離婚調停でも「母親に親権を」と考える調停委員も多くいます。しかし、それでも母親が親権争いに負けるケースもあります。では一体、どんな事情があると母親が不利になってしまうのでしょうか。この記事では親権争いで母親が負ける理由などをご紹介します。

ネクスパート法律事務所が
問題解決に向けて全力でサポートいたします

母親が親権を取れないケースや負ける理由

母親に監護実績がない

親権を争う場面では「監護実績の有無」が重要です。監護実績とは、わかりやすく言うと「子育て全般」と言っても良いでしょう。

子どもに食事を作ること、一緒に遊ぶこと、習い事や学校、保育園などの行事に関わったり送迎をしたりすること…子育てに関して積極的に関わっているかどうかは、今後の子どもの生育に大きく影響するため重要なポイントです。

例えば、母親が単身赴任で不在にしており、父親が子育てを担っていた場合には、父親の方が監護実績は豊富であり、親権を持つべき親とみなされる可能性が高くなります。

子どもを過去に虐待していた

母親が子供に対して虐待していた事実がある場合には親権を得ることはできません。虐待とは、暴力行為だけを指すのではなく、暴言を吐くなどの行為や性的虐待、食事を与えなかったり入浴させなかったりなどのネグレクト(育児放棄)も含みます。調停や審判に至った場合も、子どもを虐待するような親に親権を与える判断は下されないでしょう。

精神疾患を患っている

監護の実績にも類似していますが、母親に精神疾患がある場合も親権を与えることが難しいとされます。うつ病などの疾患で寝込んでいる状態の場合、すでに父親が監護の実績を積み重ねているケースが多いためです。統合失調症などの症状も該当します。

子どもが父親と暮らすことを望んでいる

親権は子どもの意見を尊重することもあります。子ども自身が父親と暮らすことを望んでいる場合には親権が父親に委ねられるケースもあります。

特に子どもの年齢が判断能力を備えたと考えられる15歳ごろになると、子どもの意見が尊重されます。子どもが父親と暮らすことを望むケースとしては、日頃から父親との関係の方が良好であった場合や学校や部活などにより引っ越すことを望まないケースなどが挙げられます。

父親が親権を持つパターンは珍しい?男性が親権を獲得する確率

母親の方が親権を得ることが有利、と言われていますが、父親が親権を獲得する確率とは一体どのぐらいあるのでしょうか。厚生労働省の離婚に関する統計資料(人口動態統計 確定数 離婚)を参考にすると、子どもが一人の夫婦で父親が親権を獲得している割合は約13%です。

子どもの人数によっても割合が変わり、全体で見ても父親が親権を獲得しているのは1割に留まっており、決して多い数字とは言えないでしょう。

離婚で父親が親権を獲得できる割合と不利な理由

1割は父親が獲得している、とも考えられる

上記の統計では父親の方が親権の獲得としては不利、と考えるのも無理はありません。しかし、それでも1割程度は父親が親権を獲得しているとも言えます。親権は母親が獲得してしまうもの、とは限らないのです。

例えば、妻のネグレクトとも思えるような行為に納得ができない場合には、子どものために新たな生活の準備を進めることで親権の獲得が目指せます。

父親が親権を獲得することは決して容易な事ではありませんが、先に触れたように監護実績を積み重ね、子どもの健やかな成長を見守れる環境を作ることで父親が親権を獲得できるケースがあります。

親権は育児のサポート体制も重要視される

母親が親権の獲得に不利になるケースには「育児のサポート体制」に関しても挙げられます。離婚後、母親側だと子どもの養育に関しての環境整備が難しいと考えられる場合には、サポート体制が充実している父親に親権が委ねられるケースもあります。

父親が仕事で忙しい状況であっても、父親側の祖父母と同居する、衣・食・住についてサポートをする親族がいる場合には、父親の方が有利になることがあるのです。

近年はイクメンという言葉もあるように、積極的に育児に関わる父親も増加しています。子どもの健やかな成長に必要な環境を整備できる父親側に親権が決定されるケースもあるのです。母親だから必ずしも親権を獲得できる、と思うのではなく子どものために出来るベストを尽くさないと、調停や審判で負けることも考えられます。

親権を決める際に考慮されるポイント

では、実際に親権を決める場合にはどのような点が考慮されているのでしょうか。ここからは親権の獲得で重要視される項目を解説します。

母性優先の原則

母性優先の原則とは、乳幼児期など子どもが小さい間は「母親と一緒にいる方が望ましい」とする考え方です。乳幼児期は母乳を与える時期でもあります。

また、母親にとっては産後の回復期でもあるため産休を獲得している、あるいは退職をして子育てに専念していることが多く、母親の方が子どもと過ごす時間が長い傾向にあります。

そのため、調停委員や裁判所から見ても母親に有利に働くことが多いのですが、先に触れたように虐待などの事情がある場合は必ずしも優先されるものではありません。

きょうだい不分離の原則

子どもが複数名いる場合、基本的には兄妹姉妹が離ればなれにならないように親権を決めます。一緒に育ってきた兄弟姉妹が、両親の離婚をきっかけに離散して暮らすことは「精神的に大きな負担となる」と考えるためです。そのため兄弟姉妹は分離させず同一の親権者が指定されることが一般的ですが、以下のようなケースでは分離することもあります。

協議離婚で同意を得ているケース

きょうだい不分離の原則は調停や審判では導入されていますが、協議離婚の場合にはこの限りではありません。両親が納得しているケースでは分離して親権者を決める場合があります。

兄弟姉妹の意思が尊重されるケース

年齢の離れた乳幼児は母、15歳程度の子は進学の関係上父へ、など兄弟姉妹においても年齢などによっては子ども自身の意見を尊重することにより分離に至るケースもあります。

すでに兄弟姉妹が分離した状態で長年別居をしているケース

離婚に至る方の中には、すでに長年別居をしているケースもあります。この場合、兄弟姉妹がすでに分離した状態で別居をしていることもあり、そのまま親権者が別々に指定されることもあります。

監護の継続性

離婚によって生活環境が激変することは、子どもに大きなストレスをもたらすと考えられます。苗字が変わる、学校が変わる、友人関係や部活動なども変わる…生活が突然変わることは大人にとっても本来は大きなストレスです。

そのため、子どもの生活状況が変わり過ぎないように「監護を継続させる」ことを調停委員や裁判所は重視しています。継続した子育て環境の維持ができる方が親権獲得に有利なのです。母親が親権を獲得すると極端に環境が変化する場合は、父親側に有利に働くこともあります。

子どもの意思

子どもの意思も尊重されます。子どもが15歳以上の場合は家庭裁判所が子どもの意思確認を行っています。また、大人との意思疎通に不便さのない10歳程度以上から家庭裁判所の調査官は意見を徴収する場合があります。

離婚調停や審判時には、もっと小さい年齢の子であっても親への思いなどを弁護士がヒアリングし、意見を家庭裁判所へ証拠として提出するケースもあります。

まとめ

この記事では母親が親権争いに負けるケースをご紹介しました。母親に有利であると考えられる親権争いですが、ケースによっては父親が獲得するケースもあります。協議で親権がまとまらない場合には、父母いずれの立場であっても子どもにとってベストな環境を整備し、調停や審判に臨むことが重要です。母親も父親も、子どもの心を第一に親権について真剣に考える必要があります。