子どもがいる夫婦では、離婚時に親権争いになるケースは少なくありません。2010年の流行語大賞では「イクメン」という言葉が選ばれ、父親が積極的に育児に参加することが多くなっているように感じます。

しかし、離婚時に親権を決める際は、母親が親権者になるケースが圧倒的に多いです。本記事では父親が親権を獲得するのが難しい理由や親権を獲得できる確率(割合)をご紹介します。

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父親が親権を獲得するのが不利な理由

離婚や親権という言葉が身近にない方でも「離婚すれば親権は母親が持つ」というイメージはあると思います。これは、男は外で仕事を行い、子供は母親が育てるもの、という考えが根付いているからだと考えられます。

一般的には子どもの面倒を見るのは母親であることが多いため、親権を決める際も「これまで通り母親が子どもの面倒を見る」というケースは多いでしょう。また、親権を決める際は、子どもの意見も尊重されます。そのため、子どもと一緒に過ごした時間が多い母親が選ばれやすい傾向にあるというのも父親が親権を獲得しにくい理由のひとつです。

離婚で父親が親権を獲得する割合

実際父親が親権を獲得できる割合はどのくらいあるのでしょうか?厚生労働省の離婚に関する統計資料では、子どもが一人の夫婦で父親が親権を獲得している割合は約13%です。子どもの人数によっても割合が変わり、全体で見ても父親が親権を獲得しているのは1割程度となっています。

子どもが一人の場合

父親の親権獲得割合(子ども一人)
離婚件数 夫が親権 妻が親権
2016 58029 7516(13%) 50513(87%)
2017 57166 7307(12.8%) 49859(87.2%)
2018 55682 7218(13%) 48464(87%)
2019 55251 7283(13.2%) 47968(86.8%)
2020 51406 6716(13.1%) 44690(86.9%)

子どもが二人の場合

父親の親権獲得割合(子ども二人)
総数 夫が2児 妻が2児 その他
2016 48281 5438(11.3%) 40348(83.6%) 2495(5.2%)
2017 47173 5339(11.3%) 39497(83.7%) 2337(5%)
2018 45644 5255(11.5%) 38097(83.5%) 2292(5%)
2019 44566 4962(11.1%) 37347(83.8%) 2257(5.1%)
2020 41883 4618(11%) 35171(84%) 2094(5%)

子どもが三人以上の場合

父親の親権獲得割合(子ども三人以上)
総数 夫が全児 妻が全児 その他
2016 19673 2081(10.6%) 15486(78.7%) 2106(10.7%)
2017 19079 1912(10%) 15084(79.1%) 2083(10.9%)
2018 19171 1857(9.7%) 15301(79.8%) 2013(10.5%)
2019 18847 1911(10.1%) 14927(79.2%) 2009(10.7%)
2020 18046 1792(9.9%) 14430(80%) 1824(10.1%)

参照:人口動態統計|親権を行う子の数・親権者(夫-妻)別にみた年次別離婚件数及び百分率|政府統計の総合窓口

父親が親権を持つ事のメリット・デメリット

メリット

父親が親権を持つメリットは、男性の方が経済力があるということが挙げられます。実際に厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果」では、母子家庭の平均年間収入は243万円、父子家庭の平均年間収入は420万円という結果になっています。

しかし、親権者を決めるにあたっては、収入が多いから有利になるという訳ではありません。離婚後にまったく生活ができない程困窮してしまうのは問題ですが、養育費や公的な支援制度もあるため、親権においては収入の差はそれほど考慮されません。

デメリット

子供の世話が難しい

父子家庭では、父親は朝から晩までフルタイムで働いているケースが多く、子どもとの接点が少なくなりがちです。これも父親が親権を獲得しにくい理由のひとつです。また、子どもと過ごす時間が少なければ、子どもが抱える悩みにも気づきにくいでしょう。逆に母親が子どもの世話をまったくしていないというような家庭では、父親が親権を獲得できる可能性は高くなります。

受け取れる養育費が少ない

養育費は父親が母親に支払うようなイメージもありますが、養育費はあくまでも親権を持った方が受け取れるものです。親権を父親が持った場合は、母親が養育費を支払います。しかし、養育費は双方の収入状況によって金額が大きく異なるため、母親の収入が少なければ受け取れる養育費も少なくなります。

実際に「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果」では、父子家庭で「養育費を受け取ったことがない」と回答した割合は86%にもなります。

養育費の相場は月いくら?養育費の計算方法や平均受給金額

離婚で父親が親権を獲得できるケース

子どもが父親との生活を望んでいる

親権を決める際、子どもが一定の年齢に至っている場合(10歳前後が目安)は、子供の意見を尊重させる傾向にあります。10歳前後という年齢はあくまでも目安となります。また、子どもが15歳以上の場合は、家庭裁判所は子どもの意見を聞くことが法律上定められています。

第百五十二条
家庭裁判所は、子の監護に関する処分の審判(子の監護に要する費用の分担に関する処分の審判を除く。)をする場合には、第六十八条の規定により当事者の陳述を聴くほか、子(十五歳以上のものに限る。)の陳述を聴かなければならない。

引用元:家事事件手続法 | e-Gov法令検索

子どもが父親との生活を望んでいる場合は、当然父親が親権を獲得できる可能性は高くなります。しかし、子どもの年齢が低く、とくに乳幼児の場合は「母性優先の原則」という考え方により母親が親権を持つことが優先されます。

継続した監護・養育実績があるか

親権を父親が取得した後も離婚する前と変わらない生活を送ることが出来るのかが重要です。下記のような実績があると優位になります。

  • 日常的な食事を作ってきたのは誰か?
  • 保育園から学校及び塾等の送り迎えを行ってきたか
  • 子供の健康管理(病院への同行及び予防接種の付き添い)をしてきたか
  • 授業参観等のイベントに参加していたか

こちらがすべてではありませんが、日頃より子供に対する監護意欲があるという姿勢が重要です。

母親が子供を監護する能力に欠如している

母親がDVを行う場合や、精神的な疾患を患っているなど子どもを監護する能力がない場合は、父親が親権を獲得できる可能性が高くなります。親権を決めるにあたっては、親の身体的な健康状態や精神状態も考慮されます。

「兄弟姉妹不分離の原則」をクリアできる

親権において「兄弟姉妹不分離の原則」という考え方があります。簡単に言うと「兄弟姉妹は離れることなく一緒に生活するべき」というものです。子どもが二人いる夫婦では、1人ずつ引き取ろうとする場合がありますが、これは子供の精神面に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため親権の決定にあたり、兄弟姉妹が離れる事のない環境を維持できるかが重要なポイントのひとつになります。

まとめ

最後に父親が親権を獲得できる事項をまとめてみました。

  • 子供が自らの意思で父親との生活を望む
  • 子供に対して継続した監護・養育実績がある
  • 母親が子供を監護できない
  • 離婚後も安定した収入がある
  • 子育てに伴い親族などの積極的フォローが見込める

父親が親権を獲得するのは、母親が親権を獲得する事と比べ容易な事ではありません。父親が親権を獲得するためには、根拠をもって主張していく必要があります。ただし、あくまでも親権は「子どもの幸せ」を最優先し、夫婦でよく話し合い、どの選択肢が子どもにとって一番良いのかを考える事が大切です。