審判離婚は、家庭裁判所が調停に代わって離婚を成立させる、例外的な手続きです。
通常、調停が不成立になった場合は、訴訟(裁判離婚)に進むのが一般的です。
しかし、夫婦が離婚に事実上合意しているにもかかわらず、形式的な理由で調停がまとまらなかったケースなどでは、裁判を経ずに審判によって離婚が成立することもあります。
ここでは、審判離婚の仕組みや成立の条件、通常の裁判離婚との違いについて詳しく解説します。
目次
審判離婚とは
調停不成立でも裁判せずに離婚できる制度
審判離婚とは、家庭裁判所の判断で、裁判をせずに、審判により離婚を成立させる制度です。
夫婦が離婚に合意しているのに、調停が形式的な理由で不成立になってしまったような場合に、裁判官の判断で離婚が認められることがあります。
訴訟に進まずに手続きを終えられるため、時間や費用の面でも負担が軽く済むのが特徴です。
審判書が当事者に送られてから2週間以内に異議がなければ、審判が確定し、正式に離婚が成立します。
調停に代わる審判とは
調停に代わる審判(審判のこと)とは、家庭裁判所の調停が不成立になった場合でも、裁判所が当事者の状況や意向をふまえて、自ら判断を下す仕組みです。
イメージしにくい人は、裁判の判決に近いものだと考えるといいでしょう。
離婚や親権などの家事事件で、話し合いがあと一歩でまとまりそうだったのに、形式的な理由で調停が成立しなかった、そんなときに使われることが多いです。
この審判は、当事者の合意が絶対条件というわけではありませんが、送達から2週間以内に異議申立てがなければ確定し、調停や判決と同じような法的効力を持ちます。
実務では、審判によって離婚が成立することは少なく、調停が成立するか、裁判に移行することが多いです。
「離婚調停の流れ・費用・弁護士に依頼するメリットを解説|Q&Aも紹介」の記事も参考にしてください。
審判離婚が用いられる条件
審判離婚は、家庭裁判所が「このケースには審判が適している」と判断したときにのみ使われます。
ここでは、審判離婚が用いられる条件を紹介します。
当事者に実質的に合意している
審判離婚は、夫婦のどちらかが強く離婚に反対しているようなケースでは使われません。
離婚に向けた話し合いの中で、当事者双方が離婚する意思を持っており、調停の中でもその意向が確認できている場合に限られます。
口頭での意思表明でも、裁判所が確認できれば、実質的な合意として扱われます。
離婚条件に大きな争いがない
離婚自体には合意していても、親権や財産分与、養育費などの条件について対立が激しい場合には、審判離婚は適しません。
調停で条件面がある程度整理されており、細かい点のすり合わせだけが残っているような場合であれば、裁判所は審判によって処理することを選ぶことがあります。
裁判に移行するより審判の方が合理的である
調停があと少しでまとまりそうだったのに、裁判へ進むのはあまり効率がよくありません。
そうした場合、家庭裁判所が「裁判に進むほどの対立ではない」と判断すれば、職権で審判を出すことがあります。
特に、形式的な理由で調停が成立しなかったような場面では、審判による処理の方が合理的とされます。
「離婚事件で争点になりやすいポイントと弁護士を立てるメリット」の記事も参考にしてください。
審判離婚の具体例
審判離婚がどのようなケースで利用されるのかイメージできるよう、具体例を3つ紹介します。
【ケース①】
双方離婚に同意していたが、夫婦の片方が最後の調停に来なかった。それにより調停不成立になるところだったが、裁判所が職権で審判を出す。
【ケース②】
離婚や離婚条件には合意しているが、妻が「なんとなく気に入らない」などの理由で署名などを一時的に拒否した。調停不成立となったが、実質的に争いがないため、裁判所が職権で審判を出す。
【ケース③】
離婚することやその条件にはすでに合意しているが、DV被害の影響で当事者同士のやりとりが難しく、調停がうまく進まない。家庭裁判所が事情を把握し、個別に意思確認を行ったうえで、審判によって離婚を成立させた。
審判離婚した人の数は?
厚生労働省の、“令和4年度 離婚に関する統計の概況”によると、令和2年(2020年)に離婚した夫婦はおよそ19万3千件ほどとされています。
その中で、審判離婚によって、離婚が成立した夫婦は全体の1.2%(約2300件)です。
このことから、審判離婚はまれな手続きであることがわかります。
審判離婚が成立するまでの流れ
審判離婚は、いきなり選べる手続きではありません。ここでは、実際にどのようなステップを踏んで審判離婚が成立するのかを解説します。
一方が離婚を決意し、配偶者に意思を伝える
まずは夫婦のどちらかが「離婚したい」と思い、配偶者にその意思を伝えることから始まります。
話し合いがスムーズにまとまれば協議離婚で済みますが、相手が応じない、条件が折り合わないといった理由で、次の段階に進むことも少なくありません。
「協議離婚とは|協議離婚の進め方や流れ・決めること」も参考にしてください。
家庭裁判所に「離婚調停」を申し立てる
協議での解決が難しい場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。
調停では、調停委員が夫婦の間に入り、離婚に関する話し合いを進めていきます。数回の期日を経て、離婚や条件面での合意を目指します。
調停が不成立となる
調停を何度か行っても合意に至らなかった場合、調停不成立として終了します。
本来ならここで手続きは終わり、離婚を進めるにはあらためて離婚裁判を起こす必要があります。
ここまででも時間と労力は相当かかります。
「離婚調停が不成立になる割合とその後の流れ」の記事も参考にしてください。
家庭裁判所が職権で審判を出す
調停不成立でも、夫婦双方が離婚に前向きな姿勢を示していたなど、実質的な合意がある場合には、家庭裁判所が訴訟に進まず、調停に代わる審判を出すことがあります。
無駄な裁判を避け、手続きを簡略化するための特別な判断です。
審判が当事者双方に送達される
審判が出されると、その内容を記載した審判書が夫婦それぞれに送達されます。
これにより、裁判所がどのような内容で離婚を認めたのかを当事者が正式に確認できます。
送達日から2週間が、次の手続きにおける起算点となります。
異議申立てがなければ確定
審判書が届いてから2週間以内に、夫婦のどちらからも異議申立てがなければ、その審判は自動的に確定します。確定した日が法律上の離婚成立日となり、審判離婚が完了します。
異議が出された場合は、裁判に進むことになります。
審判離婚と裁判離婚の違い
調停では審判が出されることがありますし、離婚裁判では判決が下されます。
これらは、家庭裁判所が結果を決めるという点で似ていますが、細かい点で違いがあります。
審判離婚 | 裁判離婚 | |
離婚の同意 | 実質的に同意している必要がある | 同意がなくても離婚が成立する |
時間と費用の負担 | 比較的軽い(調停の延長線上にある) | 時間や費用の負担が重い |
異議申し立て | あり | 異議申し立てはなく、控訴をする |
利用のしやすさ | 家庭裁判所が職権で出すため極めて限定的 | 調停不成立後であれば誰でも裁判はできる |
主張・争点の有無 | 基本的に争いはない | 離婚原因や条件で激しく争うことが多い |
それぞれの違いについて説明していきます。
離婚の同意の有無
審判離婚では、夫婦のどちらかが強く離婚に反対している場合は原則として使えません。
表向きに調停が不成立となったとしても、実際には夫婦のあいだで離婚に向けた合意があるケースでのみ、家庭裁判所が職権で審判を出すことがあります。
一方、裁判離婚は、たとえ一方が強く反対していたとしても、法定の離婚原因(不貞行為など)があれば、裁判所の判断で離婚を認めることができます。
時間と費用の負担
審判離婚は、基本的に調停手続の延長線上で出されるため、裁判に進むよりも手間や費用は抑えられます。弁護士に依頼せずに済むケースもあります。
一方で、裁判離婚は訴訟となるため、訴状の提出から証拠のやりとり、複数回の期日など時間も長く、弁護士費用などの経済的負担も大きくなります。
早期に離婚を成立させたいなら、できる限り裁判に進まず、合意を目指す方がおすすめです。
「離婚裁判にかかる費用と弁護士費用の相場」の記事も参考にしてください。
異議申立てのリスク
審判離婚では、裁判所から審判書が送達された後、どちらか一方でも2週間以内に異議を申し立てれば、審判は効力を失い無効になります。
そのため、確実に離婚を成立させたい場合には不安が残ります。
これに対して、裁判離婚では判決確定後に離婚が成立します。
異議申立てという仕組みはなく、判決に不服がある場合は控訴審へ進むことになりますが、手続きとしてはより確定性が高いといえます。
利用のしやすさ
審判離婚は、家庭裁判所が必要と判断したときにしか出されないため、当事者が自ら選んで申し立てることはできません。
あくまで調停の進行状況を見たうえで、裁判所が「これは審判で処理するのが適切」と判断した場合に限って使われる制度です。
一方、裁判離婚は、調停が不成立になれば、誰でも訴訟を提起できます。明確な対立があるなら、裁判に進むことが現実的な選択肢となります。
主張・争点があるか
審判離婚が使われるのは、夫婦間に大きな争いがないときに限られます。離婚すること自体に合意していて、条件についても大筋で一致しているような場合です。
一方、裁判離婚では、離婚原因が争われたり、親権や財産分与、慰謝料などで対立があることが前提となります。
お互いに納得できる形を探る話し合いではなく、裁判所の判断に委ねる形で決着をつける手続きです。
審判離婚の離婚成立日は?
審判の確定日が離婚成立日
審判離婚の場合、法律上の離婚成立日は、家庭裁判所の審判が確定した日となります。
審判が出された時点では、まだ効力は発生していません。
審判が出された後、審判書が当事者に送達されてから2週間が経過し、異議申し立てがなかった場合に審判が確定します。
確定日から10日以内に離婚届を提出
審判離婚が確定しても、自動的に戸籍が変更されるわけではありません。
戸籍上の離婚を反映させるには、市区町村に離婚届を提出する必要があります。
戸籍法第76条により、審判が確定した日から10日以内に届け出を行うことが義務付けられています。
審判が確定すると、家庭裁判所から、審判書の謄本と確定証明書が交付されるので、それらを添えて離婚届と一緒に提出します。
審判離婚に関するよくある質問
審判離婚成立から離婚届の提出が10日過ぎたらどうなる?
10日を過ぎても離婚そのものが無効になるわけではありません。
しかし、正当な理由を説明する、届出遅延理由書の提出を求められる場合があります。できるだけ早めに届け出ましょう。
審判離婚の確定証明書とは?
審判が正式に確定したことを証明する書類で、家庭裁判所から発行されます。
離婚届を提出する際に必要で、審判書の謄本とあわせて市区町村に提出します。
離婚調停における審判とは?
調停が不成立となった場合でも、実質的に合意があると家庭裁判所が判断すれば、調停に代わる審判(審判のこと)が出されることがあります。これがいわゆる審判離婚です。
まとめ
審判離婚とは、離婚調停が不成立となった場合でも、家庭裁判所が職権で、調停に代わる審判を出すことで成立する、例外的な離婚手続きです。
夫婦間で実質的な離婚の合意があるものの、形式的な理由で調停が成立しなかったときに使われることがあります。
ただし、審判離婚が認められるのは非常に限られたケースのみで、実際の件数も全体の約1%程度とごくわずかです。
多くの場合は、調停がまとまらなければ、最終的には裁判離婚に進むことになります。
審判離婚は、家庭裁判所が必要と判断したときにだけ行われるもので、当事者が自分の意思で選ぶことはできません。
スムーズに離婚したいと考えているなら、協議離婚や調停離婚で合意を目指すためにも、早めに弁護士に相談するのがおすすめです。