離婚に関する手続きの中には、弁護士ではなく行政書士に依頼できるものもあります。
対応範囲は限定されるものの、弁護士に比べて費用を抑えやすいのが特徴です。
依頼したい内容が行政書士の対応範囲に含まれるのであれば、選択肢の一つとして検討する価値があります。
ここでは、離婚問題において行政書士が対応できる業務内容や、費用相場についてわかりやすく解説します。
目次
離婚問題で行政書士ができること
離婚問題において、行政書士が対応できる業務について紹介します。主に、書類作成に関わる業務です。
離婚協議書の作成
夫婦間で合意した離婚条件を文書にまとめるのが離婚協議書です。
親権や養育費、財産分与など、口約束で済ませると後のトラブルにつながる恐れがあります。
行政書士は、当事者の合意内容を法的に有効な形式で整理し、離婚協議書を作成します。
離婚協議書については「離婚協議書とは|離婚協議書の書き方や記載すべき内容」も参考にしてください。
内容証明郵便の作成
離婚に関連して、養育費の支払いや別居後の婚姻費用を正式に請求したい場合は、内容証明郵便を利用するのが有効です。
内容証明郵便は、文書の内容と送付日時が郵便局に記録されるため、将来的に、言った・言わないの争いを避けるための法的証拠として使える特徴があります。
請求の趣旨や支払期限を明記した文面の作成から郵送手続きまで、行政書士がサポートします。
自分で文面を用意するのが難しい場合でも安心です。
公正証書の作成のサポート
離婚協議書の内容に強制力を持たせたい場合は、公正証書にしておくことが有効です。
たとえば、養育費の支払いが滞ったときでも、公正証書にしておけば、裁判を経ずに差し押さえなどの強制執行が可能になります。
行政書士は、公正証書の原案作成や必要書類の準備をサポートします。
公正証書は公証人が作成しますが、行政書士のサポートにより手続きをスムーズに進められます。
「離婚の公正証書とは|公正証書の効力や決めること必要なことや作り方とは」の記事も参考にしてください。
離婚後の各種手続きに関する書類作成
離婚後には、氏の変更や子どもの戸籍変更、財産分与に関する契約書など、多くの手続きが必要です。
行政書士はこうした各種申立書や届出書を的確に作成することができます。
提出先が役所や家庭裁判所であっても、本人が手続きをしやすいよう整えてくれます。
「離婚後に必要な6つの手続きをリストアップ|チェックリストあり」の記事も参考にしてください。
書類作成に関する相談
行政書士は、法律相談自体は行えませんが、書類作成の前提となる事実確認や内容整理に関する助言は可能です。
どのような書式が必要か、どのような点を記載すべきかなど、実務的な範囲で相談に応じてもらえます。
あくまで書類作成を前提としたサポートが中心です。
離婚問題で行政書士ができないこと
次に、行政書士が対応できない業務を紹介します。これらは、弁護士に依頼する必要があります。
相手方との交渉代理
行政書士は、離婚条件に関する交渉を代理することはできません。
たとえば、養育費の金額や財産分与の割合などをめぐって相手と話し合いをしたい場合、行政書士が当事者の代理人として交渉することは法律上認められていません。
これは、非弁行為と呼ばれ、弁護士以外が行うと違法になります。
行政書士はあくまで、当事者同士で合意した内容を文書化する役割に限られます。
調停や裁判の代理・付き添い
離婚に関する調停や裁判などの法的手続きにおいて、行政書士が代理人として出席することはできません。
調停に付き添ったり、発言したりすることも認められていません。
調停や裁判は、当事者自身が出席するか、弁護士を代理人として選任する必要があります。
行政書士が支援できるのは、裁判所に提出する書類の作成までであり、手続きの場に立ち会うことはできない点に注意が必要です。
「家事調停を弁護士に依頼するメリットは何か」の記事も参考にしてください。
離婚に関する法的なアドバイス
行政書士は法律知識を持っていますが、離婚に関する法的な判断やアドバイスは提供できません。
たとえば、「慰謝料はいくら請求すべき?」などの、法的評価を伴う相談は、弁護士の独占業務とされており、行政書士が対応することはできません。
行政書士にできるのは、あくまで書類作成に必要な範囲の一般的な説明や手続き案内にとどまります。
離婚問題における弁護士と行政書士の違い
離婚に関する専門家として、弁護士と行政書士の名前を目にすることがありますが、対応できる業務の範囲には明確な違いがあります。
どちらに依頼すべきかは、あなたの状況やニーズによって異なります。
以下では、それぞれの特徴と役割を比較して解説します。
行政書士|書類作成に関わる業務がメイン
行政書士は、法律に基づいた文書作成の専門家として、離婚に関する各種書類の整備を担います。
たとえば、離婚協議書や財産分与契約書、公正証書の原案など、当事者間の取り決めを正確に書面に落とし込むスキルに長けています。
特に注意すべき文言や、将来トラブルになりやすい表現などに配慮しながら、形式的にも法的にも問題のない文書を作成することができます。
加えて、戸籍・氏名変更に関する行政手続きや申立書の作成など、離婚後の手続きにも幅広く対応できる点が強みです。
弁護士|全般的な業務を対応可能
弁護士は、離婚に関する交渉・調停・裁判までを一貫して対応できる唯一の専門家です。
相手方との条件交渉や、親権争い、面会交流、慰謝料請求など、紛争性のある複雑なケースでも法的に対応することができます。
加えて、代理人として家庭裁判所の手続きに出席することができるため、本人に代わって主張・立証を行うことが可能です。
感情的な対立や深刻なトラブルがある場合には、行政書士では対応できないため、弁護士への相談が適切です。
「離婚調停の流れ・費用・弁護士に依頼するメリットを解説|Q&Aも紹介」の記事も参考にしてください。
離婚問題を行政書士に依頼すべきケース
離婚条件で合意済みの場合
離婚に向けた話し合いが夫婦間ですでにまとまっており、親権や養育費、財産分与の内容も決定している場合は、行政書士に依頼するのが効果的です。
相手と交渉したり、調停に出席したりする必要がないため、弁護士を介さなくても問題ありません。
行政書士に依頼することで、合意内容を正確かつ形式的に適切な形で文書にまとめることができ、将来のトラブルを防ぐことにもつながります。
離婚協議書を安く作成したい場合
弁護士に比べて行政書士の報酬は比較的安価なため、費用を抑えつつ離婚協議書を作成したい場合に向いています。
特に、複雑な法的判断や紛争性のない協議離婚では、行政書士に依頼しても十分な対応が可能です。
書面の形式や表現に不安がある方でも、専門家によるチェックを受けられることで、安心して公的な書類を整えることができます。
離婚後の手続きを手伝って欲しい場合
離婚後には、氏の変更届、子どもの戸籍変更、年金分割の申立てなど、さまざまな行政手続きが必要になります。
行政書士は、こうした書類作成や役所提出に関するサポートを得意としています。
特に手続きが苦手な方や、どの窓口で何をすべきか分からないといった不安がある方にとって、行政書士は心強い存在です。
離婚問題を行政書士に依頼した場合の費用相場
離婚問題で行政書士に依頼できる内容と、費用相場を紹介します。
業務内容 | 詳細 | 費用相場(税込) |
離婚協議書の作成 | ・親権、養育費、財産分与などの合意内容を文書に整理 ・公正証書にする場合の下準備にも活用可 |
3万円〜7万円前後 (複雑な内容なら+数万円) |
公正証書作成の文案作成サポート | ・公証役場に提出する原案を作成 ・必要書類の案内・相談など |
2万円〜5万円前後 ※別途、公証役場の手数料が必要 |
公正証書化のサポート一式 | ・離婚協議書+公正証書文案作成+段取りサポートまで一括 | 5万円〜10万円前後 |
内容証明郵便の作成(養育費請求など) | ・証拠が残る形で相手に通知 ・強制力はないが心理的プレッシャーになる |
1万円〜3万円前後 |
婚姻費用分担請求書類の作成 | ・別居中の生活費請求などを家庭裁判所に出すための書類作成 | 2万円〜5万円前後 |
子の氏の変更申立書作成など | ・離婚後の子の戸籍変更手続きに必要 | 1万5千円〜3万円前後 |
相談料(単発) | ・内容に応じたアドバイス(書類作成を前提とする範囲で) | 30分〜1時間:3,000〜5,000円程度 |
すべての行政書士に上記の金額で依頼できるとは限らないため、気になる人は、実際に問い合わせてみることをおすすめします。
行政書士と離婚問題に関するよくある質問
離婚専門の行政書士はいる?
離婚協議書の作成や公正証書の文案作成など、離婚に関わる業務を多く手がけている行政書士はいます。
ただし、交渉や法的助言はできないため、離婚専門とは位置づけにくく、あくまで、離婚手続きに強い行政書士という表現が適切です。
行政書士が離婚相談に乗るのは違法?
行政書士が離婚に関する法的な相談に乗ることは、弁護士法に違反するおそれがあります。
法律判断が必要な相談は弁護士に依頼しましょう。
まとめ
離婚に関して行政書士に依頼できるのは、主に書類作成や行政手続きのサポートです。
弁護士のように相手との交渉や裁判への同行はできません。
しかし、条件に合意済みで、あとは文書を作成するだけといったケースでは、行政書士に依頼することで費用を抑えながらスムーズに進めることが可能です。
ただし、感情的な対立がある場合や、法的な判断が必要な状況では、弁護士への相談が適切です。
自分の状況やニーズに応じて、行政書士と弁護士を正しく使い分けることが、納得のいく離婚手続きを進めるための第一歩となります。