夫と別居することになった場合、生活費や子どもの養育、財産の管理などについて、事前に取り決めておくことが重要です。
生活費を払ってもらえない、離婚を求められた、夫の気持ちが分からないなど、別居後に生じる問題は少なくありません。
一方的な別居には法的責任が伴う可能性があり、悪意の遺棄とみなされることもあります。
夫婦関係の修復を目指すのか、それとも離婚に向けて準備するのか、今後の選択によって取るべき行動は変わります。
ここでは、別居時の生活費の扱いや夫の心理、離婚を求められたときの対処法などを解説します。
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目次
別居で夫が出ていく際に決めるべきこと
夫が別居することになった場合、生活費の負担や子どもの養育、財産の管理などについて、事前に取り決めておくことが重要です。
ここでは、別居前に決めておくべきポイントについて解説します。
婚姻費用（生活費）の支払いについて
別居しても夫婦関係は継続しているため、収入の多い側が収入の少ない側に対して生活費（婚姻費用）を支払う義務があります。
これは、別居中であっても夫婦は互いに扶助し合う義務があるという法律（民法760条）に基づいたものです。
婚姻費用の主な内容には、住居費、食費、光熱費、医療費、子どもの教育費などが含まれます。
夫が出て行った後も、妻と子どもが経済的に困らないよう、どのように支払うかを事前に決めておくことが大切です。
婚姻費用の詳細は「婚姻費用とは｜別居中の生活費を分担する義務や養育費との違い」をご覧ください。
親権・養育費・面会交流について
子どもがいる場合、親権や養育費、面会交流についてもしっかり取り決める必要があります。
【親権】
別居中は夫婦双方が共同親権を持ちますが、離婚をする場合にはどちらか一方が親権を持ちます。
【養育費】
子どもの生活費や教育費の負担について、どれくらい支払うのかを決めます。支払い方法や金額についても明確にしましょう。
【面会交流】
夫が子どもと定期的に会う場合は、どのような頻度で会うのか、どこで面会するのか、オンライン面会は可能かなどのルールを決めます。
これらの取り決めをしっかり行っておかないと、後々トラブルの原因になる可能性があります。書面に残すことで、双方の合意を明確にし、トラブルを防ぐことができます。
別居中の面会交流については「面会交流の一般的な頻度はどのぐらいか？頻度を減らせるケースについて解説」を参考にしてください。
財産分与や支出のルールについて
別居中であっても、婚姻期間中に築いた財産は基本的に夫婦の共有財産とみなされます。
そのため、夫婦でどのように財産を管理し、分けるのかを決めておきましょう。
- 共有の預貯金や不動産をどのように管理するのか
- クレジットカードの利用ルール（どこまでを夫婦の支出とするか）
- 住宅ローンや家賃の支払いをどちらが負担するのか
こうしたお金の取り決めを明確にしておかないと、夫が勝手に財産を使い込んでしまったり、離婚時の財産分与で争いが生じたりする可能性があります。
別居合意書の作成について
別居に関して合意した内容を、別居合意書として文書に残しておくのがおすすめです。
別居合意書には、主に以下の内容を記載します。
- 別居の目的
- 婚姻費用の負担額と支払い方法
- 子どもの養育費や面会交流のルール
- 財産管理の方法 など
これらの内容をしっかりと決め、可能であれば公正証書として作成しておくことで、法的な効力を持たせることができます。
もし、夫が途中で支払いを怠った場合でも、公正証書があれば強制執行を行うことが可能になります。
離婚せず別居する際の生活費はどうなる？
夫が出て行き別居が始まると、生活費の負担がどうなるのか不安に感じる人も多いでしょう。
夫婦である限り、収入の多い側が婚姻費用（生活費）を支払う義務があります。
ここでは、婚姻費用の決め方や、支払われない場合の対処法について解説します。
収入の多い方が婚姻費用を支払う
婚姻費用とは、別居中も夫婦や子どもが生活するために必要な費用のことを指します。
夫婦にはお互いを扶助する義務（民法760条）があるため、収入の多い側が少ない側に対して生活費を負担しなければなりません。
婚姻費用には以下のような支出が含まれます。
- 住居費（家賃・住宅ローン）
- 食費・光熱費
- 医療費
- 子どもの教育費（学費・習い事など）
夫が別居する際に、「生活費を支払わなくてもいい」と思っている場合もありますが、これは誤りです。
夫婦関係が継続している限り、生活費の負担を逃れることはできません。
婚姻費用の金額の決め方
婚姻費用は、夫婦の収入によって決まります。一般的には、家庭裁判所が公表している婚姻費用算定表をもとに金額を決めることが多いです。
例えば、夫の年収が500万円、妻の年収が100万円の場合、妻と子ども1人の生活費として、月額4〜6万円程度の婚姻費用が相場となります。
これは目安であり、夫婦間で話し合いがまとまる場合は、自由に金額を決めることも可能です。
支払い日や支払い方法も事前に明確に決めておくといいでしょう。
参考：養育費・婚姻費用算定表
生活費を払わない場合の対処法
もし夫が別居後に生活費を支払わない場合、次のような対処法があります。
【話し合いをする】
まずは支払いの義務があることを伝え、話し合いで解決を試みます。夫が法律上の義務を理解していない場合もあるため、婚姻費用について説明を行います。
【婚姻費用分担請求を申し立てる】
話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所に「婚姻費用分担請求」を申し立てることで、支払いを法的に求めることができます。裁判所が決定を下せば、夫は必ず婚姻費用を支払わなければなりません。
【給与差し押さえを検討する】
それでも支払いが滞る場合、裁判所の命令に基づき、夫の給与を差し押さえることができます。これは、強制的に支払いを実行させる方法です。
婚姻費用は、請求した時点から支払われるのが原則です。
婚姻費用に関する取り決めもなく、請求もしていなかった時期の分は請求できない可能性が高いです。
そのため、別居が始まる前に取り決めをしておくことが大切です。
「婚姻費用の分担請求調停とは｜調停で聞かれることや申立ての流れ」の記事も参考にしてください。
別居時の取り決めは公正証書作成がおすすめ
別居する際に、公正証書を作成しておくことをおすすめします。
公正証書とは、公証役場で作成する書類で、強制執行力を持つため、支払いが滞った場合に給与や財産の差し押さえが可能になります。
公正証書には、以下のような内容を記載するとよいでしょう。
- 夫が負担する婚姻費用の金額と支払い方法
- 生活費の支払いが滞った場合の対応（遅延損害金の有無など）
- 養育費の金額と支払い期限
- その他、別居中の生活費に関する取り決め など
公正証書を作成することで、夫が支払いを怠った場合でも、裁判をせずに財産を差し押さえることができるため、未払いリスクを回避できます。
公正証書については「離婚の公正証書とは｜公正証書の効力や決めること必要なことや作り方とは」も参考にしてください。
一方的に別居をはじめた夫の法的責任は？
夫が話し合いもせずに勝手に出て行ってしまうケースも少なからずあります。
一方的に別居を始めた場合、法的な責任を伴う場合がありますので、以下で具体的に説明します。
有責配偶者となり離婚のリスクが発生する
正当な理由なく別居をすると、夫が有責配偶者とみなされることがあります。
有責配偶者とは、夫婦関係を破綻させた原因がある側のことを指します。
有責配偶者になると、離婚を求めても裁判で認められにくくなったり、配偶者からの離婚請求を拒否できなくなったりします。
悪意の遺棄を理由に慰謝料を請求される
夫が生活費を支払わずに別居を続けた場合、悪意の遺棄（民法770条） に該当し、慰謝料を請求されることがあります。
悪意の遺棄とは、正当な理由なく配偶者を見捨て、生活に困らせる行為を指します。
特に、夫が収入を得ているにもかかわらず、生活費の負担を怠っている場合、悪意の遺棄に該当しやすくなります。
「悪意の遺棄とは｜該当する行為や慰謝料の相場」の記事も参考にしてください。
別居で夫が出ていく際に離婚するメリットデメリット
夫が出ていく際に離婚する場合、メリットとデメリットの両方があります。離婚後の生活のことを考えながら慎重に判断しましょう。
メリット
離婚するメリットは以下の通りです。
【精神的な負担が軽減される】
別居状態が続くと、関係の悪化や将来への不安がストレスになりますが、離婚をすれば気持ちを切り替えて新しい生活を始めることができます。
【新しい人生をスタートしやすい】
離婚すれば戸籍が分かれ、名字の変更や再婚の自由が得られます。また、気持ちを整理しやすくなり、次の人生に向けた一歩を踏み出せます。
【トラブルを避けやすい】
別居中は婚姻関係が続くため、生活費や財産分与、連絡の頻度などで揉めることがあります。離婚すれば、法的な関係が完全に解消され、金銭的なトラブルを避けやすくなります。
デメリット
離婚するデメリットは以下の通りです。
【経済的な負担が増える】
離婚後は、自分の収入のみをメインに生活することになるので、経済的な負担が増えます。特に子どもがいる場合、養育費を受け取る側も支払う側も負担が大きくなります。
【子どもへの影響が大きい】
親の離婚は、子どもの心理に大きな影響を与える可能性があります。親権をどちらが持つか、面会交流をどうするかなど、子どもの生活環境を考慮しながら決める必要があります。
【社会的な変化が生じる】
職場や親族からの理解を得にくい場合があり、周囲の対応によっては精神的な負担を感じます。離婚による名字の変更が仕事や手続きに影響を及ぼすことも考えられます。
【財産分与や慰謝料で揉める可能性がある】
離婚時には、財産分与や慰謝料の交渉が必要になります。合意が取れない場合は調停や裁判に発展することもあり、長期化するリスクがあります。
離婚にはメリットとデメリットの両方があるため、経済面や子どもの将来などを総合的に考えて判断することが大切です。
別居で出て行った夫から離婚を求められたときの対処法
夫が別居後に離婚を求めてきた場合、対応を冷静に考えることが重要です。
離婚に応じる場合も拒否する場合も、将来の生活を見据えて判断することが大切です。
離婚に応じる場合
離婚に応じる場合には、必要な取り決めをきちんとすることが大切です。
- 財産分与や慰謝料の条件を整理する
- 親権や養育費について話し合いをする
- 公正証書を作成する
取り決め忘れがあったり、相場がわからず相手の提示した条件を鵜呑みにしてしまったりすると、損をする可能性があります。
離婚を拒否したい場合
離婚に応じるケースより、離婚を拒否したいケースの方が、法的知識を求められます。
具体的には、以下の点を主張します。
【婚姻関係が破綻していないことを主張する】
日本の法律では、婚姻関係が完全に破綻していない限り、一方的な離婚請求は認められにくいです。夫婦関係の修復の意思があることを伝えることで、離婚を回避できる可能性があります。
【別居期間が短い場合は拒否しやすい】
一般的に、長期間の別居（5年以上）が続くと婚姻関係の破綻とみなされやすくなります。逆に、別居期間が短い場合は、離婚を拒否しやすいです。
困ったときは弁護士に相談する
離婚に関する交渉が難しい場合や、夫の態度が強硬な場合は、弁護士に相談することで適切な対応ができます。
弁護士を通じて条件交渉を行うことで、不利な状況を回避できるだけでなく、精神的な負担も軽減されます。
「離婚の弁護士費用の相場はいくら？費用を安く抑えるには」の記事も参考にしてください。
別居中の夫の心理
別居をした夫は、離れて生活する中でどのようなことを感じ、どんな心境で過ごしているのでしょうか。
人の気持ちは千差万別ですが、今後の関係をどうするかを考えるヒントになります。
冷却期間として別居した場合
最初のうちは一人の時間を心地よく感じることもあるでしょう。
ですが次第に「妻や子どもがいない生活に寂しさを感じる」などと感じることがあります。
ただし、夫婦関係の答えを急かされると、かえって距離を取りたくなることもあります。
過度な連絡はしないように注意しましょう。
自由を求めて別居した場合
家庭から解放され、「好きなことができる」「自由に時間を使える」 という気持ちで過ごしていることが多いです。
特に、家庭での役割や責任にストレスを感じていた場合、「結婚生活に戻りたくない」 と感じるかもしれせん。
しかし、病気になったときや疲れて帰宅したときなどに、心細さや寂しさを感じることもあります。
仕事や環境変化で別居した場合
「一人のほうが気楽に過ごせる」 という前向きな気持ちと、「家族と過ごす時間が減って寂しい」 という孤独感の両方を抱えながら生活していることが多いです。
特に、単身赴任や転勤などでの別居の場合、家族のありがたみを再認識することが多いですが、別居生活に慣れ、家庭への関心が薄れてしまうケースもあります。
離婚を考えて別居した場合
すでに離婚を決意している夫は、「今後の生活をどうするか考えたい」「できるだけ円満に離婚を進めたい」 という気持ちで過ごしていることが多いです。
別居中に離婚後の住居や生活費の準備を進めたり、弁護士に相談して具体的な手続きを検討したりするケースもあります。
しかし、いざ一人で生活を始めると、「本当に離婚して大丈夫なのか？」と不安を感じることも少なくありません。
別居で夫が出ていく際のよくある質問
出て行った夫が戻ることはある？
夫が別居後に戻るかどうかは、別居の理由や夫の気持ちの変化によります。
冷却期間を経て、家族の大切さを再認識し、自ら戻ってくるケースもあります。
しかし、夫婦関係が修復されていない場合、戻らずに離婚に進む可能性もあります。
別居で旦那が実家に帰ることはある？
夫が実家に戻るケースはよくあります。
実家で家族のサポートを受けながら、精神的に落ち着きたいと考えることが多いです。経済的な理由で実家に頼る場合もあります。
夫が実家にいることで、家族の意見を聞き、関係修復のきっかけになることもあります。
逆に、家族の影響で離婚を決意するケースもあるため注意が必要です。
旦那が出て行ったら後悔する？
夫が別居後に後悔するかどうかは、その後の生活の質によって変わります。
別居後に生活の変化を感じ、家族の大切さを再認識するケースもあれば、そのまま独立した生活に慣れるケースもあります。
まとめ
夫と別居する際は、生活費の負担や子どもの養育、財産の管理などを事前にしっかり決めておくことが重要です。
別居後に離婚を求められた場合、応じるか拒否するかによって取るべき対策が変わります。 夫の心理を理解しながら、冷静に対応することが大切です。
もし、離婚の条件に納得できない、話し合いが進まないといった悩みがある場合は、弁護士に相談しましょう。 適切なアドバイスを受けることで、より良い条件で離婚を進めることができます。
